異世界召喚された男子中学生、義理の妹は魔王ちゃま?
学ぶことに意味がある。
なら。
生きることそのものがそうだ。
「……」
行ったり来たりの学校。
勉強、授業、塾——。
何の変哲もないその日常。
「え」
帰宅途中。
気が付くと謎の神殿にいた。
「おお、勇者様」
と、偉い人たちが手を合わせて膝をついた。
勇者——。
創作物のキャラクター。
それが僕だと、彼等は口々にそう言ったのだ。
「ッ——」
歓喜した。
退屈な日々が色彩豊かに広がるのを感じた。
——そこからは訓練の日々だった。
走り込みから剣術、さらには魔法まで。
特殊なスキルのおかげで、僕はそれらをすぐに体得することができた。
「……」
ふと思うことがあった。
家族の事。
未練がないわけではない。
魔王を倒せば、魔法陣の契約が履行し元の世界へ帰れるという。
けれどそれは何時だろう。
一か月後か、一年後か、十年後か。
はたまた一生か。
「……」
考えを振り切り。
がむしゃらに訓練に励んだ。
そして——。
魔王を前に。
「……」
子供だった。
幼さの残る十歳前後の魔王。
威勢は良かった。けれど力は弱い。
どちらかと言えば、彼女を囲う魔族たちが強かったというか。
担がれたか。
「に、人間の分際でッ」
怯えた表情。身体を震わせていた。
闘気が失せた。
この魔王を倒せば世界が平和になる。
この世界を苦しめた魔族が滅びる。
——で?
この子は?
「——」
声をかける。
親は?
兄弟姉妹は?
友達は?
大事な人は?
だが。
「……無い」
軒並み、そんな返答だった。
傀儡。
『魔王』は王だ。
魔族の王だ。
形だけの王なんて。
作れるだけ作れる。
「……ッ」
訊く。
ならば形だけの家族を、と。
義理の兄。
憧れがあったわけではない。
一人っ子だ。兄弟姉妹も欲しいとは思わなかった。
けれど。
放っておけなかった。
『家族』なら。
繋がりが。
「ふ、ふざけるなっ」
憤慨する彼女。
けれど明確な拒絶はない。
ならば問う。
——……死ぬか?
と。
ビクリと震える彼女。
脅しみたいだ。
こんな、選択の余地なし、的な流れ。
「……い、痛くしない?」
伺う彼女。
それを聞いて。
迷いなく頷いた。
「……寂しくない?」
頷く。
「怒らない?」
頷く。
「……じゃあ」
と言って。
彼女は玉座を降り。
僕に近づいて。
抱き着いてきた。
おずおずとした感じではあったが。
その身体を撫でてやると。
彼女は頭を上げて、はたとそっぽを向いた。
「……お前、嫌い……」
撃ち抜かれた。
強烈なほどに。
「……」
魔族の寿命は人間を凌駕する。
彼女とずっとはいられない。
ならば。
「……魔族になる方法?」
彼女は考え。
「古い魔族が知ってるかも」
この魔王城から離反した昔の魔族。
何人とも存在しえない死の大地にいるらしい。
彼女を見ると。
心なしか嬉しそうな雰囲気をしていた。
決まった旅の目的地。
地球に、家に帰るのは当分延期。
この世界には魔法がある。
時間操作や異世界転移の魔法なんていくらでも出てくるだろう。
——そして。
僕は彼女の手を取り。
彼女の歩幅に合わせながら。
ゆっくりと進みだした。