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第1話

暗く狭い部屋に、齧歯国王族の男児が集まっている。

肩が触れ合うほど、ぎゅーぎゅーだが彼らに不服はなさそうだ。鼠から人へと進化した彼らは、今でも集まるのが大好きだ。


「霊獣国より書信が届いたのじゃ」

ぷるぷると震えながら、この中で一番年長者である国王が口を開いた。

彼の子供である王子達は、国の大事だと互いの目をパチクリと見合わせている。


「父上、霊獣族は高き雲の上におわす選ばれし方々。序列は最上位。そのような高貴な方が、我らのような底辺も底辺、地を這う一族に何の御用があると言うのでしょう」


次期族長である琥珀が口を開くと、兄弟達も首をこくこくと上下に振る。随分と自分達を卑下する言葉だが、異存はないようだ。


はるか昔、獣は創造神より力を与えられ、神となった。

始祖神と呼ばれる彼らは、眷属の一部に、獣ではあり得ない寿命と霊力を与えた。

その中に齧歯族がいる。今ここで話し合いをしている彼らがそうだ。


始祖神のお力により人となった彼らだが、所詮は鼠。

多種族に比べれば弱く、寿命の短い一族だ。故に彼らは群れをなす。子供をたくさん作り、儚く死んでいく。


今だってこの狭い部屋には20人いる。男児だけで20人。女児も同じくらいいる。全てが族長の子供だというから驚きだ。


「手紙の内容を要約すると、霊獣国王の見合い相手を寄こせとのことじゃ」


「なんと!!我らのような弱きものが、最上位である霊獣族に相まみえたが最後!儚く死んでしまうでしょうに!!」


「そうなんじゃよ。ただこの書信で思い出したんじゃが、儂の弟が霊獣国王と見合いをし、死んで帰ってきた」


「その話は聞いたことがあります。たしか宝石をちりばめた棺に納棺され、輝くばかりの衣装に身を包まれて還されたと」


「その通りじゃ。その姿は美しく、儂は嫉妬したくらいじゃ。まさか、たかが死体をあそこまで丁重に扱うとは……余裕のある部族はやはり違うと、皆で話したものじゃ。その時に20年前も同じことが起きたと、父が言っていた気がするんじゃよ」


「20年ごとにある儀式でしょうか?」


「そうかも知れんのう。なにせ我らが一族の寿命は長くて50年。40年前となると生きている者も耄碌したものばかりじゃしなぁ。いつからこの儀式が始まったのか、皆目見当もつかんのじゃ」


父と長兄の会話を聞きながら、兄弟達はそんなものだろうと会話をする。


齧歯族の素晴らしいところは、その能天気さだ。

深く考えないから我が身を嘆くこともない。

死相観が最たるもので、彼らは死ぬことをなんとも思っていない。輪廻転生を信じている彼らは、親が死ぬ時にすら、またねと言う。必ず自分の身内に生まれ変わってくると信じているのだ。


「霊獣族は龍が人へと進化した方々。その寿命は平民ですら500年は越えると言います。更にその本性は破壊を好み、世界を滅ぼさんとする龍のなれの果て。彼らの始祖神は創造神に戦いを挑んだとも言われています。20年ごと見合いをするなどおかしな話です。見合いと称して各部族の若者を集め、殺すことでそのうっ憤をはらしているのやもしれませんね」


「さすが次期族長。賢いものじゃ。儂はそのような考えに至りもせんかった。だが、あり得る事じゃな。族長の座を其方に渡すべきかも知れん」


父に褒められ悪い気はしないのだろう。琥珀はコホンと咳をすることで、空気を変え、弟達を見回す。


「そういうことだ。誰かが霊獣族の暇つぶしに行かねばならぬ。聞いての通り、死ににいく身だ。だが名目は見合い。妻や子、恋人がいる者はふさわしくないだろう。今、条件に該当するものは……5人か」


指定された5人は互いの視線を交わす。

死ぬのは怖くない。人はどうせ死ぬのだし、生まれ変わるのだから。


だがこの国を出て、他国にただひとり赴くのだ。それが怖い。

誰かが手をあげてくれないだろうか……と悩む4人を尻目に、白い髪と赤い目を持つ少年が天井につく勢いで、手を上げた


「パパン!にいに!僕が行く!」

「な――虹音(こうと)はまだ成人前じゃないか?!」


琥珀に虹音(こうと)と呼ばれた子供は、にこりと笑顔を向ける。


雪のように白く、ふわふわした髪は撫でがいがありそうだ。

極上の白磁のような肌には、ほくろひとつない。

赤い瞳は血のようで、同じ色をした唇を見れば、儚げな美少女にも見える。


「あと3か月で成人だよ。もうちょっと!」

少年ならではの高い声が部屋に響く。

小鳥のような可愛らしい声に、皆が一瞬聞き入ってしまう。


「いや――虹音(こうと)には早い!」

「そもそもなんで行こうとしてるの?!」

虹音(こうと)に不満があれば聞くぞ?」

「この間あげたお菓子を買ってくるからやめて」


口々に声をかけてくる兄弟達に、微笑むことで返事をしていると、父王が涙目で訴える。


虹音(こうと)……お前は儂の第3夫人であった白雪の一粒種。もう会えない白雪そっくりの美貌の持ち主じゃ。じゃから儂が死ぬ時には看取って欲しい」

「……パパン」


手を取り合う親子を横目に、長兄は深くため息をつく。


「そもそも虹音(こうと)は齧歯族のマナーもおぼつかない。そんな虹音(こうと)を霊獣国の王族に合わせることなどできない。失礼に当たる」


「それはあるなぁ」と兄弟たちが納得する中、虹音(こうと)は反撃ののろしをあげた。


「にいに、確かに僕はマナーの授業をさぼっているけど、それって本当に必要なもの?だって僕が微笑めば、みんながかわいいって言ってくれるよ?マナーなんか必要なくない?」


「確かに、マナーにうるさい叔母たちが虹音(こうと)だけには文句を言わないんだよな」と、兄弟のひとりが相づちを打つ。


「しかし、まだ成人まえだ」

琥珀は眉根を寄せるが、虹音(こうと)の決意は固い。


「成人は3か月後でしょ?霊獣国に呼ばれるのも3カ月後。生きていればそこで成人。死んじゃったら証拠隠滅。バレないよね?」


「確かにそうだ。問題ないかもしれないな。それにどうせ死ぬんだから、別に良いのか」


所詮琥珀も齧歯族。死に対する価値観は低い。

更に虹音(こうと)は続ける。


「僕はかわいいから、色々な人に求婚されているでしょ?僕を取り合う、醜い争いを見るのは、僕も辛いんだ」


虹音(こうと)が瞳に悲し気な色を宿すと、呼応するように兄弟たちが声を上げる。


「この間、宰相の娘と財務大臣の娘が、虹音(こうと)を取り合い、取っ組み合いのけんかをしていたな」


「それだけじゃないぞ?3日前には女性騎士たちが虹音(こうと)の護衛役をめぐり、決闘をしていた」


「俺が見たのはメイドが虹音(こうと)に食事を運ぶ役を争っている姿だ。服を引き裂き、髪まで引っ張って、地獄絵図とはあのことだな」


皆がうんうんと納得していく。


「僕はママンに似て、齧歯国で一番かわいいから、大変なんだ。そんな僕が成人した姿を想像して?きっとすごく美青年だよ?ママンが成人した時も、齧歯族で争いが起こったんでしょ?二の舞になってもいいの?」


虹音(こうと)の母の名前は白雪と言う。

白雪は齧歯族でかつていないほどの美少女で、あらゆる人々を魅了した。その中で勝利を勝ち取ったのが、齧歯国王だった。


その時の状況を知っている父と兄たちは、あの惨状は二度とごめんだと息を呑む。


「ほらね?そんな僕に相応しい相手はいないと思うの」

ナルシストな発言をする虹音(こうと)に反論する者はいない。皆がその通りだと相槌を打つ。


「だよね?僕がいても争いの元になるもの。それに、僕だって相応しい相手と結婚したいよね?でもここにはいない。となると霊獣国に行くのもありじゃないかな?霊獣国に行ける機会なんて、これから生きていてもないもの。美しいと言われる国のお城の中で、僕に相応しい死を迎えたいな。しかも死体を美しく飾ってくれるなんて、最高じゃない!でしょ?琥珀にいに?」


きゅるんとかわいい視線を送れば、長兄は諦めるように息を漏らした。

「そうだな。今後、虹音(こうと)ほどかわいく生まれる齧歯族がいるとは思えない。となれば霊獣国王へ捧げる生贄には相応しいかもしれないな」


「琥珀の言う事には一理あるようじゃ。以前見合いに行った儂の弟も、虹音(こうと)ほどではないが整った顔をしておった。霊獣国王ほど力のある御方に、醜い死に顔を見せるのは、失礼にあたるじゃろうて」


「パパんも納得してくれたの?じゃあ、行ってもいいのね?」


「そうじゃな、どうせ殺されるんじゃ。虹音(こうと)のマナーを含めた色々なことを、お目こぼし頂くよう手紙を書くとしよう」


「次に生まれるときは平凡な顔に生まれて来いよ。そうだな、兄弟の子供として生まれてくればいい」


「ありがと!ぱぱん、にいに」


こうして突っ込みが不在のまま、齧歯族の代表として虹音(こうと)が見合いに行くことが決まった。


これからどうなるか、それはこれからのお楽しみ。

10話完結。

毎日投稿します。

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