表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

春のパーティー

 国で一番のお金持ち、ランドー伯爵家から春のパーティーの招待を受けた。

 白い封筒に銀の薔薇の封蝋。宛名は、ルクシフェリア・ロウヴェル。

 間違いなくわたしに宛てられた招待状だ。


 ランドー伯爵家は元々商人の家系だったが、財を成して国軍へ貢献、その結果として爵位を授かった。

 権力や地位を除けば、国一番の財力を持つ家門。

 その陰では、『金稼ぎのためならどんな仕事もする』なんて黒い噂も流れている。


 現ランドー伯爵はわたしよりも二つ年上で、わたしの両親とは交流がなかった。お互い、前ランドー伯爵が生きていた頃に、王国主催のパーティーで挨拶をする程度。

 正直、招待状をもらう謂れはない。


 それでも、このパーティーはわたしにとっての大チャンスだ。

 ランドー伯爵が開く春のパーティーとならば大規模なものになるだろうし、わたしのような没落した一族出身の者を招待するぐらいだ。国中の貴族が参加するはず。

 その中から、信頼できる人物を探すんだ。


 わたしは気合を入れて、クローゼットの扉を開く。

 並んだドレスの中から取り出したのは、腰元から花弁のように薄い布が重なった紺色のドレス。落ち着きのある悪目立ちしない、それでいて野暮ったくも見えないシンプルなデザイン。


 原作のルクシフェリアは、いつも喪の意味を込めて黒のドレスを着ていた。

 今のわたしも毎日のように黒色のドレスを着ている。本当は原作へのリスペクトで黒色のドレスを着たいけど、さすがに春のパーティーで黒色のドレスを着ている人は他にいない。

 みんな、春というテーマに合わせた淡いグリーンやピンク、黄色、オレンジやパステルカラーのドレスを選ぶことが多い。そんな場所で全身真っ黒な恰好では、変に浮いてしまう。


 TPO大事。

 その代わり、流行のカチューシャと靴では黒色を選んだ。



 そうして挑んだ春のパーティー。

 会場には、すでにかなりの人が集まって談笑を楽しんでいた。


「見て…、光の一族の……」

「ルクシフェリア・ロウヴェルだ」

「彼女も来たのか……」


 わたしの姿を見つけた人々が、目を丸くさせた後でこそこそと囁き合う。

 噂をされることも、嫌な視線で見られることも慣れたけれど、注目を浴びることには慣れない。どきどきと心臓が速く脈打つし、今すぐ人目のつかない場所へ逃げたい。


 とにかく、とりあえずは主催者に挨拶を済ませないと。

 そう思いながら周囲を見渡せば、背後から声をかけられた。


「ルクシフェリア様……?」


 振り返れば、グラスを片手に持つ若い男性が経っていた。

 アッシュグレイといった表現がぴったりの髪に、整った顔立ちの色白な人。赤髪で派手目なクラウレオンとは違った方向の美男だ。

 白い上着に銀色の刺繍が美しく、細身で柔らかい印象の彼にぴったりと似合っている。


 ふと、その彼の上着の胸元に、銀の薔薇とライオンの刺繍を見つけて誰だかピンときた。


「ランドー伯爵ですね?」


 にっこり。

 できるだけ優雅に見えるように微笑みかける。


「この度は、お招きいただき、ありがとうございます」

「やはり、貴女でしたか! お久しい……! 昔、王国主催のパーティーに参加したとき、庭で一緒に遊んだのを覚えていますか?」

「ええ、もちろん」

 覚えていない。

「お互いにさまざまな苦労がありましたね。それでもこうして再会できたことを嬉しく思います。今日は、一緒に春の訪れを楽しみながら祝いましょう」

「ええ。楽しませていただきますわ」


 よし。これで主催者への挨拶は済んだし、早速前回の社交で目をつけた人たちに声をかけなくちゃ。

 わたしは微笑みを残して、その場を去ろうとする。

 ところが。


「では、早速、春の庭をご案内しますね。こちらです」


 にこりと笑うランドー伯爵。


 えぇえ。

 するりと腕を取られて、何故かエスコートされる形に。


「え、あの、え……」


 ずるずると半ば引きずられるようにして、庭への連行が決まってしまう。


 どうして???




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ