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『堕天使と聖女リアナ』

 『堕天使と聖女リアナ』。

  これは前世で大好きだった本のタイトルだ。

 ヤングアダルト向けの長編ファンタジーで、全十巻にも及ぶ大人気作品だった。


 物語は、天界のとある議論から始まる。

 議論のテーマは、人間の罪深さに対して「裁き」を下すかどうか。


 多くの高位天使たちは愛と許しによって人間を導くべきだと主張した。そんな中、「秩序と静寂」を司る高位天使ヴェリオスだけはこれに反発する。

 彼は人間を救済する唯一の方法は、完璧な無に帰す=人間を滅ぼすことだと主張。

 ヴェリオスは自らの理論を証明するため、天界の禁忌である術を解放して人類を滅ぼそうとして天界から追放されてしまう。


 こうして地上に堕とされた彼は「マルヴェリオス」と名を変え、暴虐の限りを尽くし、やがては地上世界で恐れられる闇の魔術師として君臨するようになってしまった。——黒幕の誕生だ。


 そして、そんな闇の魔術師から人々を救う使命を与えられたのが聖女で、この物語の主人公——リアナだった。


 主人公リアナは、幼馴染である影の守護者や仲間たちと共にマルヴェリオスと敵対することになる。


 一方で、悪役マルヴェリオスは何故かリアナに執着し、毎晩夢に現れては彼女を誘惑する。


 リアナはマルヴェリオスの言動が理解できず、戸惑いながらも彼を敵と認識するけど、物語の終盤にかけて衝撃の真実が明かされていく。


 リアナはマルヴェリオスのかつての恋人の転生体だった。これが衝撃の真実だ。


 こうしてリアナは記憶が蘇るにつれ、前世の自分がマルヴェリオスに抱いていた愛情と、今の聖女としての自分が抱く信念の間で葛藤することになる。


 しかも、主人公を想っているのはマルヴェリオスだけじゃない。この物語では、幼馴染の影の守護者も含めた三角関係も魅力的に描かれる。


 そしてもちろん、主人公たちの敵もマルヴェリオスだけじゃない。

 彼の配下である夜の魔女、毒使い、獣王、闇の騎士、灰色の錬金術師、不死身の暗殺者。


 ——そして、光の一族であるにも関わらず堕落の魔法を使う悪役令嬢ルクシフェリア・ロウヴェル。


 彼らの手によって仲間たちがどんどん傷ついていく中、マルヴェリオスの真の目的が〝世界に破壊をもたらす〟古代の王の封印を解くことであることが明かされる。こうして更なるピンチに陥る主人公たち。



 ——そうは言っても結局、最後はマルヴェリオスを救済して物語はハッピーエンド。

  聖女の浄化によって世界は救われました。

  めでたし、めでたし、となる。



  ところが。



 マルヴェリオスと協力(利用?)関係にあった悪役令嬢——ルクシフェリアだけは救済されなかった。




 もともと光の一族として人間界で高位の令嬢だったルクシフェリアは、一族を滅ぼした神々への復讐のために、マルヴェリオスの力を利用しようと近づく。その一方で、彼女はマルヴェリオスの本質やその孤独に惹かれ、やがて彼を愛するまでに。


 そして 物語の終盤で、ルクシフェリアは神々への復讐と主人公への嫉妬に囚われてしまう。


 その結果、古代の王の生贄として自らを滅ぼす道を選んでしまったのだ。





 そう。お気づきだろうか。

 このまま物語通りに進めば、ルクシフェリア・ロウヴェルの体に転生したであろうわたしは、古代の王の生贄になる。


 古代の王の触手で全身を突き刺されて生きながら養分を吸われ続け、カラカラに干からびた後に死ぬ。

 最も無残で悲しい死に様を晒すことになる。


  生ある者は必ず死ありとは言うが、こんな死に方は、絶対に嫌だ。







 本を読んだとき、ルクシフェリアの生い立ちに胸がぎゅっと苦しくなったことを覚えている。


 ある日、突然一族を失って、たった一人で復讐を誓って、闇に墜ちて手段を選べなくなってしまったルクシフェリア。たくさん傷ついて、追い込まれて、最終的に自らを生贄に世界を滅ぼそうとして。

 それすら叶わなくて、無残に死んで終わり。


 あくまでそれは物語だったけど、今は違う。

 この残酷な物語が、ルクシフェリアに転生したわたしの新しい人生になってしまった。


 悲惨な死の運命が、わたしの運命になってしまった。

 それにどんな意味があるんだろう。


 一つだけはっきりしていることは、あんな死に方だけは絶対に回避しないといけない。


 だって、養分吸われてミイラ化のジ・エンドなんて、ルクシフェリアもわたしも報われない。

 ルクシフェリアに転生した幼いわたしを守って死んだ光の一族も、前世の両親だって、あんな結末を望んでいたはずがない。


 だから、わたしは逃げないといけない。

 ルクシフェリアにとって残酷な物語から。悲惨な死の運命から。

 絶対に。



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