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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
8/99

8 疑義3

下でまだ青年が騒いでいるようだったが、スウガはかまわずに二階へ駆け上った。

育ちのよさそうな姿に拍子抜けしたが、見た目と違って犯罪に手をそめていないとも限らない。


ベーラに教えられた部屋のドアに手をやる。

鍵のかからないドアらしく、捻れば簡単にあいた。


中は暗い。

寝ている、といっていたのは本当のようだ。

用心しながら近くの明り取りに火を入れる。ぼんやりとした灯りの中、並んだ寝台の一つに子供が寝ているのが目に入った。

侵入者がいることにも気付かず、ぐっすりと寝入っているようだ。


近寄ってみてまた驚く。

下の青年に良く似た際立った美貌だ。こちらのほうが幼い分、いくらか線が細い。こちらも後ろ暗いところのない寝顔で、ほんの少し起こすのが忍びないと思った。

だが、職務は全うしなければならない。

夜の見回りの範疇外とはいえ、これは見逃して良い問題ではない。


「おい、起きろ。ききたいことがある」


スウガは上掛けを剥いで子供の肩をゆすった。そのあまりにも華奢なことに驚く。


「ん……んー、兄ぃ? 眠いよー」


寝ぼけているのか目を擦りながら、体を丸めた。

妙に可愛らしい声をしている。

背ばかり伸びて、声変わりを済ませてないらしい。


スウガは面倒になって子供の体を担ぎ上げようとした。


そこで初めて異変に気付いたのか、その子供は、ぱちり、と目を開けて、自分を抱き上げようとする男に抵抗した。


「だ、誰ですかあなた。あ、あ、兄ぃ!」


「お前たちが売りに出した古着のことで聞きたいことがある。お前の連れならもう下で捕まっている。おとなしくしろ」


体を捻って抵抗するため、スウガは仕方なしに力づくでその子供を羽交い絞めにし、寝台におしつけた。


しかし、なにかおかしい。

背は伸びきっているようなのに、体がふにゃふにゃと柔らかい。

華奢は華奢なのだが、全体に少年らしくない肉付きがある。


「…ひゃっ!」


抵抗したために、スウガの腕に相手の上半身が密着した。

うかつなことに、スウガはそこで、ようやく気付いた。


「おまえ…女か」


うめくように、スウガは半ば確信をもって、つぶやいた。


その言葉で、感触から、つまり触れられた箇所から、知られてしまったとわかったのだろう。

少女は羞恥と怒りで顔を赤くしてスウガを睨んでいった。


「一人で歩いていきますから離してもらえますか」


冷たい声音に思わず手を離す。自分よりも五つは年下であろう少女に気おされたのは癪に障るが、不可抗力とはいえべたべたと体を触ってしまったので強く出られなかった。


「わかった…。荷物はこれだけだな」


妙な素材でできた布袋を担いで、少女を階下へ促した。


「事情聴取のわけはなんですか」


不機嫌さを隠そうともせずに少女はとがった声で話しかけてきた。


「お前らが古着屋に売ったあの服…。あんな緑色は少なくともこの大陸にはありえない色だ。ましてこの国は選ばれた港以外で他国との貿易は行っていない。どういう経路で手に入れたのか、その辺りを詳しくききたい」


聞いているうちに表情の険しさがややほぐれ、少女はなるほど、とつぶやいた。


「江戸時代にレースたっぷりのドレスを持ち込んだって感じかなぁ…」


意味のわからない言葉にスウガは首をかしげたが、彼女はなんでもない、という風に首をふり、先を歩いて階段をおりた。


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