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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
34/99

34 風雲3

最後の山を下れば、王都への道はほぼまっすぐだった。


高くそびえる城壁と、中央に設けられた関所。

そこへ続く本街道の両脇には、びっしりと粗末な小屋が並び立っていた。

小屋といってもかき集めた木片やら古布やらを使った、今にも崩れそうなものがほとんどだった。


カサネはスウガに乗せられた馬上から、見るともなしにそれらを見ていた。

馬での移動になったのは、荷馬車はまっすぐにキトーの屋敷へ向かうが、スウガの乗る馬は、王都に入ってすぐに貸し馬屋へ返さなければならないからだ。

いまだ不安定なところがあるカサネは、オウタやスウガらから離れたがらないので、一緒に行動するつもりで、馬に乗り換えていた。

顔をわずかにそらして、スウガ尋ねた。


「この人たちは?」


「ああ、城壁の外に暮らす河原者かわらものだ」


川なんて近くにあっただろうか、と左右を見回すと、カサネの勘違いがわかったのか、スウガが訂正した。


「河原者っていうのは、ここの奴らのような戸籍のない奴らの通称でな。河原なんかのお上の管轄外の場所によく住んでいるからそう言うのさ」


なるほど、とまた眺めていると、一人の子供と目があった。

何色ともつかないぼろぼろの古着と、伸び放題の髪。

この男の子も河原者の一人だろうか、と思っているうちに、突然カサネたちの馬に駆け寄ってきた。

馬に蹴られるのでは、とひやりとしたが、そんな心配は無用のようで、駆け足で追いすがっては物乞いの言葉を繰り返している。


スウガは無言で速度をあげ、一気に子供を引き離した。

背後から甲高い罵声がきこえ、カサネは首をすくめた。


「あまり見るな。世間知らずとわかるとあいつらのカモになる」


「うん…」


釈然としないが、綺麗事をいう勇気もなかった。

ただ黙って前を見た。


あまり一点を見つめないよう注意しながら観察してみると、あちこちに物乞いの姿がある。

片腕を失った者。

乳飲み子を抱えた女。

病らしい老婆を後ろに寝かせた男。

さまざまで、どの姿もつらくて胸がつまる。


だが、スウガは冷静に言った。


「お前の感覚は分からないではないが、そんなに憐れむな。彼らはあれが仕事なんだ」


あれで家族を養っているんだからな、と淡々と説明した。


「仕事?」


「そうさ。物乞いもピンキリだ。

今日食えなきゃ家族が一人死ぬってのもいれば、城壁の中に立派な家を持った奴もいる」



それはカサネには意外な事実だった。

誰もがやむにやまれぬ事情で物乞いをしているのだと思っていたが、そうではないという。



ふと、あの晩のスウガの言葉を思い出した。

価値観の違いは、こうした些細な反応からも、きっと感じられてしまっているだろう。


うつむいて黙ってしまったカサネを見てどう思ったのか、スウガは軽くカサネの肩を叩いて注意をひき、街道の終点を指し示した。


「ほら、王都に入るぞ」


城壁の中からが王都。

それがスウガの価値観なのだ、と、わずかに顔をしかめ、黙って頷くだけだった。

















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