32 風雲1
透き通るような快晴。
まるで自分たちの王都入りを祝うようだ、と言ったのは商人のキトーだったか。
その時は、彼の自分中心の物事の見方を内心笑ったものだったが、今、王都を見下ろすオウタには、その感想こそ身に染みて実感できるものだった。
「これが、王都?…すごいな…」
十日あまりの旅を終え、ようやく王都に入ろうという時。
王都は本街道よりも、低地にあるため、山の開けた場所から見下ろすことができた。
その眺めといったら。
宿泊学習の登山なんて、目でもない。
と、比べる対象を思い出して、オウタは小さなため息が出そうになるのを我慢した。
「ずいぶんと統一されているんだな。屋根の色とか、建物の高さとか」
屋根の色はほとんどが緑青か、赤土色。
そんな中、そびえたつ城の白壁が目を引く。
「ん?おかしなことを言うね。…ああ、君らの世界はもっと多種多様なのかな」
「ああ、まあ。技術の上では可能、というか…。もっとも、あんまり自由ではないけどな」
建築基準法やら日照権やら、うろ覚えの知識で説明すると、ヨルキエは実に面白い、と目を輝かせている。
「その知識、惜しいなあ。どうだい?少しはこの間の話を考えてくれたかな」
「…」
オウタは即答できず、黙ってまた王都を眺めた。
隊商はそろそろ動きだす頃だろう。
辺りの人々はそわそわしつつも嬉しそうだ。皆、王都に無事戻ってこられた喜びが顔にも声にもあふれている。
待っている家族や恋人、しばらく離れていた間の流行りなど、話題は尽きないようだ。
そんな中、オウタとカサネはじわじわと湧き上がる不安を感じていた。
華やかな王都に入るといっても、先の予定は何も決まっていない。
ひとまず、ヨルキエの預かりになることは間違いないが、どういう扱いをうけるかもわからない。
あらためて、定まらない身の上を実感する。
そしてオウタは、数日前にヨルキエから出された提案を受けるかどうか、まだ悩んでいた。