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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
31/99

31 想い2

とくとくと、心臓が鳴る。いつもよりもずっと早い。

ショックをうけても、鼓動は早まるんだ、と妙に冷静な感想をもった自分に泣きたくなった。


カサネは荷馬車の影で、ずっと息をひそめていた。

そして、聞きたくもない話を聞いてしまった。


自分が誰にとっても、恋愛対象にならない、ということを。

そして、それを言ったのがスウガだということが、何よりも辛い、ということに気付いてしまった。

まだ、恋とも呼べない感情だった。

それでも、確かに芽生えていたのに。


あの夜以来、ずっと機会をうかがっていたのだ。

そういえば、血塗れで駄目になってしまった衣服の代わりも、スウガが買ってきてくれたのに、満足にお礼も言っていなかった。

この間は、嬉しくて抱きついたものの、なんだか恥ずかしくなって、逃げるように去ってしまったから、その礼もきちんとしなければ、なんて思っていたのだ。

皆が寝静まってから、スウガの元へ行こうとして、ヨルキエの姿もあることに躊躇した。

そのうちに、妙な話題になってしまった。


確かにカサネには知らないことばかりだった。

常識は教えられない、とは良く言うが、スウガから見ればまさにそういうことなのだろう。

この世界のこの人々の暮らしになじむには、常識とされる知識がない。

じゃあどうすればいいというのか。

やがてヨルキエとスウガは、他の男たちと交代して、見回りにいってしまった。

カサネも、のろのろと、自分の寝床がある荷馬車へ向かおうとする。


ふと、気配がして顔をあげると、オウタだった。

妙な顔をしている。

どうやら彼にも、カサネの評価を聞かれてしまったらしい。

そして、カサネの失恋も、察してしまったのだろう。


「…告白もしてないのに振られちゃった」


泣き笑いのような、カサネの表情に、ぐっとオウタは口を引き結んだ。

なにを言おうかためらうように、視線をうろうろさせた挙句、


「…妹と恋バナは勘弁してよ」


と、微妙なコメントを言い放った。

元気づけるのも妙だし、色々考えたんだろうな、とは思うが、あんまりだ。

だが、カサネはあえて乗ることにした。

口をとがらせて不服を言う。


「別に、好きってわけじゃなかったんだからね。…すごいかっこいいわけじゃないし、好みのタイプとは全然違うし」


こちらの人々は、頭が小さく、首が長い。目や口が大きく、鼻は小ぶりだ。

肌の色こそ、黄色人種に近いが、髪色はもう少し明るめだ。

造作は、アフリカ系民族のおうとつを減らしたような感じがした。

カサネは以前、ディズニーアニメの登場人物たちに似てない?とオウタに言ってみたことがあったが、あまり賛同してもらえなかった。


どちらかというとファニーフェイス。

愛嬌があって。

長い手足は俊敏そうで。

仕事に真摯で。

と、いつの間にか褒めてしまっていることに気づき、また一つため息をもらした。

何も始まっていなかった、とはとても言えそうになかった。


「とにかく、こっちが好きって言ったわけでもないのに、勝手に評価してさ。超失礼だよ。自意識過剰!」


本気で怒っているわけではないのは、オウタにだってわかったのだろう。

頭に軽く手を置かれ、そのぬくもりでわずかに癒された。

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