表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
23/99

23 夜の優しさ1

今後の更新は週一ペースを目標にします。

既に日は落ち、結局、4人はダダイの町まで戻った。


大幅な予定変更だが仕方ない。

生き残った盗賊を詰所に引き渡し、報告する義務がある。


なんといってもカサネが心身喪失状態である以上、山越えは不可能だった。



ダダイの町で宿をとり、スウガは一人酒場のフロアで飲んでいた。

ヨルキエは町に出て、野盗の出所を探っている。


奴らがカサネ狙いだったのは明らかで、現れるのも早すぎた。

山の二合目にもかかっていない程度で山賊が現れるのは考えにくい。


スウガとヨルキエは確信していた。

十中八九、貸馬屋で出くわした商人・モルガーが雇ったのだろう。


その裏付けと、必要ならば制裁を、とヨルキエは厳しい顔つきで出て行ったから、彼に任せておけば大丈夫だろう。

残念ながら、スウガには裏社会を知れても何とかする権力がない。

こんな時、しがない身の上が悔しくなる。


と、二階へと続く階段から、オウタが下りてきた。

冴えない顔をしているが、どことなくほっとしたようだった。

意識はあるものの、ほとんど口をきかないカサネを連れて寝かしつけにいっていたところだった。

酒を酌み交わしつつ、あごをしゃくって二階を示した。


「どんな様子だ」


そっけない口調だが、スウガの心配を本気と感じ取ったらしく、渋面で首を振った。


「うん。寝台に押し込んだけど、眠れないみたいだ。…当たり前だろうけどな」


オウタは神妙な表情をする。

これは、危ない目にあわせたことを責められるな、と思ったが、意外なことにオウタは頭をさげた。

まっすぐに背筋をのばし、ふかぶかと。


「カサネを助けてくれて、ありがとう」




それは真摯な感謝の言葉だった。


「…悪かったな。遅くなっちまって」


スウガは礼を言われたことなど無かったことのように、そっぽを向いてつぶやいた。

オウタは礼をいったのに、逆に謝られて怪訝な顔をしている。

その様をちらっと見て苦笑した。


「大事にはならなかったが…、カサネは、その…ひどく泣いていた」


山道で目覚めた途端、子供のように声をあげてオウタにしがみついていた姿が痛々しく、ようやく世慣れぬ娘なのだとわかった。


今までの旅程でも十分にわかってはいたが、心底信じてはいなかった。


ふるまいはどうとでもできる。


ただ、今日の野盗騒ぎでオウタとカサネがあまりに衝撃を受けすぎているように感じたのだ。

年頃の娘ならば、身分の上下にかかわらず、旅の危険を承知しているのが普通だ。

盗賊に遭遇しても、命があればまだましな方、という考え方をする。

言い方は悪いが、旅に出るという時点で半ば覚悟しているものだ。


カサネにはそうした意識がまるで無かった、というのがわかった。


あの娘は異質だ。


スウガは今はじめて二人の出自を真剣に考え始めていた。


「ああ、心配したけど。ひとまず生きて、大きな怪我がないならましなほうなんだろ、きっと」


本心から納得しているようではないが、オウタはこちらの事情を、身をもって知ったようだ。


「まあ、そうも言えるが。カサネはしばらく苦しむかもしれないな」


「それはしょうがない、とは言いたくないけど。逆に、危機意識をもてたのは良かったかもしれない。…ひどい目に会う前に」


暗に、女性としての暴力に晒されなかったことを言っていた。

それはスウガもまず確認したことだ。

そしてなにより安堵したこと。


「そうかもな。…そばにいてやれよ、まだ起きてるなら心細いだろ」


「ああ。ありがとう」


小さく笑って、オウタはまた二階へ戻って行った。

妹とよく似た笑み。

だが、カサネがまた笑えるまではしばらくかかりそうだ。


スウガはそれをひどく惜しい、と思っていることを自覚した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ