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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
21/99

21 自分の命とだれかの命

6人居た賊のうち、2人は弓矢で死んだ。

とはいえ、残りの4人に一斉にかかられてはひとたまりもない。


ヨルキエは決して茂みの脇から前に出ず、むしろ後退する姿勢を見せた。


数回切り結んだ後、さっと身を翻して山肌を駆け下りる。

案の定、血気盛んな若い賊が二人、後を追ってきた。

それを確認して、ヨルキエは駆ける速度を緩めた。


捕まえられそうと思わせる速さでなければならない。


元居た場所から少し離れたところで、街道に出た。

賊に襲われた箇所よりも前に通ったところだ。山中の方向感覚でやや予定とずれたが仕方ない。

ヨルキエは逃げるのをやめて振り返り、正面から賊を迎えた。


「さて、一度に二人とは大儀だが・・・」


一度は収めた短剣を再び構える。


刃は鈍く輝き、相対する賊の姿を映した。その顔がいぶかしげにゆがめられた。


「おめえ、さっきの弓矢はどこやった。・・・囮か!」


他の仲間が放ったということはまだ、かしら達に危険があるということだ。

一人が慌てて身を翻したが、それ以上進むことはできなかった。


「誰が囮だって? 聞き捨てなら無いね。私が主役と決まっているだろう」


ヨルキエはごく小さな、隠し刃を投げ、盗賊の脚を傷つけた。

軽い武器なので、大した外傷は与えられないが、運悪く腱に刺さったようだった。


残された賊は、怯みながらも、大刀を上段に構え、怒声と共に切りかかった。

山賊らしい、力任せの太刀筋。


ヨルキエは見苦しい、と一言つぶやいて、深々と相手の懐に短剣の刃を沈めた。

その剣は正確に心臓を貫いている。

即死だろう。

引き抜き様に、脚を抱えて転げまわる男の首筋を切った。

ふん、と不快げに息を漏らすと、懐紙で軽く刀身を拭い、また山道を進み始めた。



カサネが落馬してしばらくは、賊と並走しながら切りあいになったため、戻る事ができなかった。

肝心のところで逃げられてしまうと、致命傷をあたえられず戦いが長引くばかりだからだ。


元々武官のスウガと違って、ヨルキエは護身と一撃必殺の技が主であるため、

馬上で、しかもオウタをかばいながら戦うのは骨が折れた。


埒が明かない、と一計を案じたのは追手の賊が最後の二人になった頃だ。



半数はカサネの捕縛に向かってしまった。

こいつらに虚偽の報告をさせようと、まず、相手の一撃を受け損ねたように見せ、左腕をかすめさせた。

目測よりもやや深く切られ、ひやりとするが、

大げさに悲鳴をあげ、それまでずっと伏せていたオウタの首根っこをつかむと、一緒に馬から落ちた。


ヨルキエとしては非常に不本意だったが、自分よりも背の高いオウタを身体でかばって怪我を避けたため、あちこちを強打して、しばらくは身動きができなかった。

やがて、なんとか起き上った先に、人影はなかった。

オウタもうめいてはいるが、目立った怪我はない。


山道からはずれたほうに転がったせいか、賊も追ってはこず、そのまま頭たちに合流したようだ。

スウガの姿が見えないようだから、さらにそれを追っていったのだろう。


こちらも急がなければ。

幸い、二人が乗っていた馬は無事だ。


カサネが落馬した辺りまで戻ったが、人と馬の死体、そして賊とスウガのものらしい馬が数頭いるだけだった。

草木の荒らされ方からして、山肌を登っていったのだろう。

ヨルキエもあとを追うつもりだった。


― いいかい、オウタ。今からカサネを助け出すつもりだけど、君がいると邪魔になる。

 ここで身を潜めて待っていて欲しいんだ。


残り何人いるかわからないが、スウガとうまく合流できる保証はない。

先に山賊どもにみつかる危険もある。オウタを連れていくのは骨だった。


妹思いの彼は渋ったが、冷静にものをみる目はあるようだ。

仕方なし、という風ではあったが、ヨルキエの指示に従った。今頃は身を隠せそうな灌木の茂みで息をひそめているはずだ。


山賊はあと二人。

一番の大物、かしらも残っている。正直、真正面から切り結ぶ気にはなれなかった。


うまくスウガが彼らと出くわしてくれればいいのだが、と都合のいいことを考えながら先ほどとは違うところを登っていく。

人が通った跡ならスウガが行くだろう。

ヨルキエは卑怯でもなんでもできる限り楽な方法で奴らを仕留めたかった。


ふと、山賊たちに囲まれたカサネの姿を思い出した。

地面に転がっていたようだったが、殴られたのだろうか。

荒事にまったく慣れていない彼女のことだ。

ひどく怯えているだろう。


冷静に山賊を殺す算段をつける一方で、弱い者を気遣う思いも脳裏をよぎる。


両面がまったく矛盾しない心は、きっとあの兄妹にはわかってはもらえないだろう、と何故かそんなことが気になった。


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