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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
15/99

15 夜と酒と1

ダダイの町に、正確には町の外に着いたのは空が夕焼けに染まる頃だった。

スウガの言った通り、門の前から外壁にそって長蛇の列が並んでいた。それとは反対側にテントの群れがある。

旅人目当ての屋台や売り子もたくさんいた。この町はこうした商売でも儲けているようだ。


「俺はあそこに並んで明日の整理券を取ってくる。お前らはヨルキエと一緒にテントを借りて野宿の準備をしててくれ」


スウガの指示に従って、貸しテント屋に行った。値段のことはわからないが、二十五ハールだと店主は言う。ヨルキエが言い値で二セット借りようとするのをなんとなく面白くなくカサネは止めた。


「おじさん、あっちのテント屋さんは二十ハールで貸してたよ」


本当はそんな店見てもいないがここは交渉のためにしれっと嘘をついた。カサネの意図を察したのだろう、オウタはおとなしく成り行きを見守っている。


「坊主、他のテント屋は一つがちいせえんだよ。聞けばあんたら四人だっていうじゃねえか。そんならこっちで二セット借りたほうが向こうで三セット借りるより安いだろう」


予想通り、もっと安いテント屋があったらしい。カサネは内心ほくそえんだ。


「ふうん、そうなんだ。でもこっちの小さいのと普通のだったらもっと安くなるでしょ」


このテント屋は二人用のほかの単身用のテントも扱っていた。


「そりゃあそうだが、それじゃ三人しか入れないだろう」


「いいんだよ。一人は向こうの整理券に並んでなきゃならないからね」


スウガの並んだ整理券の列はとても一晩のうちに順番がまわってくるものではない。夜中発券しているわけでもないのだ。一晩のうちに四人で交代することになっていた。


「どう?おじさん。こっちの小さいのと普通のテント一つずつで三十ハール」


「無理言うな、坊主。こっちの単身用は十ハールだ」


「それならむこうのテント屋で一セット借りるよ。こっちの二人用一セット貸して」


ああ、この会話のやりとりはどこかで聞いたことがあるなあ、とオウタは思っていた。あの古着屋のやりとりそっくりだ。とすればカサネの狙いはただ一つ。値切りだ。


「待て待て。三十とまではまけられないが、四十でどうだ」


「それじゃ向こうのテント屋使ったほうが得じゃない」


「ぐ、それじゃあ三十五。これ以上は無理だぜ」


関西人でもないのにどこでこんな手腕を身につけたのか。オウタは妹の底知れない値切りの能力に戦慄していた。


「うーん、じゃあさ、そこの寝袋一つつけてくれない?こっちも毛布くらいなら持ってるけど夜通し並ぶのは結構厳しいからさ」


にっこりと笑いかけると、商魂たくましい店主も口をつぐんだ。その隙に狙っていた寝袋を持ち上げて小首をかしげる。


「うーん、わかった!坊主にはかなわねえなあ。ここいらじゃ滅多に見れない美形だし、サービスだ」


ありがとう、と駄目押しの笑顔を見せて、さっさと目的のものを手にした。もちろん重いテント一式はオウタの荷物だ。

それまで黙って成り行きを見守っていたヨルキエは心底感心したようにため息をもらした。


「やるなあカサネ。私には無理だ」


「ヨルキエさん、お金に頓着していなそうだもんね」


「そんなことはないが、面倒なんだよ」


旅慣れた風なのに、そういった些事に関心がないというのはよほど恵まれた人間なのだろう。

城壁近くはすでに他人のテントでうまっている。

やはり壁際によってしまうのは動物の性なのだろうか。

ヨルキエはここにしよう、とダダイの町から続く用水路に近い場所にテントをおろした。周りにも旅人がいたが、家族連れなどの多い比較的安全そうな場所を選んだようだ。


「単身用のテントは私が使ってもいい?」


そのつもりで借りてきた。どうせ三人なら問題ないだろう。着替えなどのことを考えるとできれば別がいい。


「そうだな。旅の荷物は二人用に入れよう。列に並ぶのはスウガ、私、オウタ、カサネの順でいいね」


ヨルキエの言葉に頷いて、黙々と野宿のしたくを始めた。初めてのことであったが、キャンプの経験なら多少はある。ようは寝床と食事の確保さえできればいいのだ。テントは慣れた現代のものとは大きく違い風除けの意味合いが強かった。どちらかというタ―プに近い。

あとでスウガに食事と、半ば強奪に近い寝袋を持っていこうとカサネは決めた。


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