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式の無い解答

本日2投目

 立ち上がったオーガの武威は今まで出会ったどの魔物よりも凄まじかった。


 「ラヴィ!そのまま他の魔物の対応を頼む!絶対に通すんじゃないぞ」


 俺はここにラヴィがここに来ないようにそう指示を飛ばした。


 自分の身勝手な感情で悪手を選んだんだ。


 それをラヴィに尻拭いさせるのだけは嫌だった。


 (勝手だよな)


 そんなことは分かっているが今の俺にはどうしようもなかった。


 大地を砕いて駆けるオーガが第三ラウンドの開幕を告げた。


 十分に魔力を回復させたオーガの体は一か所だけでなく複数個所の強化が施されている。


 それは大猿────アルボラクが見せた魔力による応急処置も含まれており、その動きに歪さはなかった。


 比べ物にならない程の動きを見せるオーガ。


 これでも本来の力には及ばないのだろうから末恐ろしい相手だ。


 速度も腕力も同時に強化されたオーガに隙など見つけられる訳もなく俺は再び防戦一方へと追いやられてしまう。


 「ぐ、はは。マジでこれ人生最大の判断ミスだろう!」


 さっきよりも尚も濃くなった死の気配に俺は歯を食い縛りながらも喉の奥から笑いが零れ落ちていく。


 自分でもびっくりだ。


 馬鹿な事をしているにも関わらず俺はそれを後悔するどころか、やって良かったとすら思っている。


 オーガの拳撃を受け流し切れずに腕に痺れを残してしまった俺にオーガのショルダータックルが襲う。


 ダンプのような衝撃に吹っ飛ばされるも、俺は内心でオーガに対してそんなこともできるのかと関心を抱いていた。


 ラヴィが俺を心配するように鳴いている。


 俺のことは良いからと目で訴えると、ラヴィは戦闘の勢いを増して雑多な魔物達を狩っていく。


 俺は立ち上がり、オーガを見据える。


 今の攻撃に手応えを感じていたのだろう。


 立ち上がる俺を見てオーガは首を傾げて自分の調子を確かめ始めた。


 「嫌味かよ、まったく」


 俺を息も絶え絶えな状態にしておきながら調子が悪いというようにジェスチャーして見せるのは流石に癇に障る。


 (いや、まぁ全力でないどころかあちらさんも満身創痍なんだけどさ」


 調子を確かめ終えたオーガが俺見て手招きをする。


 ──────かかってこい

 

 そう動きで挑発してくるオーガに俺は思わず吹き出して笑ってしまう。


 「舐めんな!」


 体の痛みなど不思議なほどに遠ざかり、足に想像以上の力が乗っかる。


 今までよりも尚も早い俺のスピードにオーガも目を見開いて驚く。


 いい顔してくれる。


 俺はその表情が痛く気に入った。


 ならもっかい驚かせてやるよ。


 ロングソードを振り下ろすように見せかけて地面へと突き刺した。


 打ち合わせようとしていたオーガの拳は空を切る。


 俺はロングソードの柄に体重を全て乗せて自分の体を持ち上げ、曲芸のように体を回転させると呆気に取られたオーガの顔面を俺つま先が捉えた。


 俺の脚に歪むオーガの顔が面白かった。


 しかしそんな攻撃なんてオーガ相手にはちょっとしたサプライズ程度にしかならない。


 僅かに体が揺らめくのみで空中にいる俺の方がずっとマズイ体勢だった。


 「──────やっべ」


 調子に乗った事を理解した時にはオーガが俺に凶悪な笑みを向けていた。


 俺が差し手を間違えたことなどオーガが気づかない訳がなかった。


 俺は空中で急いで剣を抜いて体の前に持ち、オーガの拳撃になんとか間に合わせることに成功した。


 それでも完全にエネルギーを受け止めきることは出来ずに俺はボールのように体を地面になんどもバウンドさせてようやく体勢を立て直すことが出来た。


 距離を保ち、視線が交差。


 この戦いが楽しいのはどうやら俺だけではない様子だ。


 僅かに笑みを浮かべるオーガに俺の中に火が付いた。


 「もっと楽しめよ!!」


 斜に構えていけ好かないオーガ相手にこちらから仕掛ける俺。


 それとも俺が弱いからあいつはあの程度しか笑っていないのだろうか。


 そう考えるとどこか寂しくなる気がして俺は体の力を今まで以上に振り絞る。


 ロングソードがオーガを襲う。


 俺の振るった中でも最高の一撃だ。


 受け止めようとしていたオーガも表情を変えて回避に切り替える。


 俺の振るったロングソードが空を切るも不思議と気分が良かった。


 オーガも俺に応えるように拳を振るう。


 俺はそれを正面から受けとめ拮抗が生まれた。


 「魔物も良い顔できるんだな」


 俺はさっきよりも楽しそうなオーガを見て気持ちが昂る。


 どんどん体の奥底から力が湧いてくるような気持ちにされる。


 足を踏み出してオーガの拳を押し返す。


 オーガの笑みが一瞬強張った。


 「あああああ!」


 勝負を決めるため全身全霊を己の拳剣に傾ける。


 オーガの拳撃を弾き、体勢を崩すとレイピアのように構えたロングソードを全ての力を持って突き出した。


 自分の体を庇うため突き出したオーガの腕を突き破り勢い収まらぬままに切っ先が突き進んでいく。


 オーガはたまらず絶叫を上げ腕の中にロングソードを収めた状態のまま大きく振り上げた。


 俺の剣はオーガの腕を一本使い物にならない状態にしかできずに俺の手元から離れて飛んで行ってしまう。


 俺の剣は遂にオーガの命には届かなかった。


 得物を失った俺にオーガは勝ち誇ったように無事な方の拳を振り上げた。


 「良かった。お前には見えてなかったか」


 半身になって突き出した剣のその逆手。


 オーガからは見えない俺の左手に魔力による光が宿り、漏れ出た光が円環を成す。


 円環の内に補助となる術式を入れていき、最後に要となる神源文字を記入し完成。


 俺は出来上がった魔方陣をオーガに向けるように腕を突き出す。


 (あぁ。へったくそな魔方陣。あ、項の順番間違えてる。やべっスペルすら間違えてんじゃん)


 ティアに見られれば補講とお小言間違いなしのお粗末な魔術の出来に思わず俺も苦笑いを浮かべる。


 これでは自爆どころか不発に終わるのが関の山。


 しかし、それでも俺は不思議とこの魔術の成功を確信してしていた。


 「楽しかったぜオーガ。次はハンデなしで頼むわ」


 ──────【フェル】


 唱えた魔術の名は神源文字の基本単語の一語のみ。


 魔術としては存在しないはずのそれは、俺の意志に逆らうことなく炎の顕現を許す。


 ──────ガァァァァァァアアアアアアアア!!!


 深紅の炎がオーガの全身を包み、身体の端から炭へと変えていく。


 俺が使おうとしていた【フェルズ】の魔術などとは一線を画したその威力は、相手がたとえこの森の中の上位者たるオーガであっても抵抗を許すことは無く、終にその体のすべてを炭化させ、姿を消した。


 「おわっ────た」


 俺は体から抜けきった魔力による大きな喪失感及び脱力感によって膝から崩れ落ちて地面に倒れた。


 「ピィウ!」


 ラヴィが俺に駆け寄り治療を行ってくれている。


 「あったけぇ」


 あの時を思い出すような感覚が蘇る。


 ラヴィも似たような感慨なのか、その表情に焦燥感が感じ取れる。


 俺は落ち着いた声色でラヴィを安心させるようにその頭を撫でた。


 「大丈夫だって。ただ力が抜けて眠いだけだから……心配、する……な……」


 睡魔に襲われ滲む俺の視界の中に死んだはずのオーガに似た魔物が森から出てくるのが見える。


 そいつは先ほどのオーガほどの強さでなくとも強さは今の俺達であっても簡単に勝てる相手ではない。


 まん丸に張った突き出た腹に、短くも太い手足。


 金属の鎧に身を包んだそいつは俺が知る通常種よりも強いことが見て取れる。


 「こんなのばっかかよ……」


 新たに現れたオークはその背後に複数のオークを従えている。


 どう見てもラヴィ一人には荷の重たい相手だった。


 俺は体を起き上がらせようと力を入れるが、そもそも体のどこからも僅かな力も湧いてこない。


 「くっそ」


 ティア質が聖地と敬い大切にしているこの場所に土足で入り込む奴らを俺は睨みつける事しかできないでいた。


 ラヴィが俺を庇う様にオーク達に威嚇を飛ばしている。


 「にげ、ろ……ラヴィ」


 こちらを見るラヴィの顔は俺に対して怒っているようにも見えた。


 俺の言った言葉がよっぽど気に入らないようだ。


 「ラヴィッ逃げろ……!」


 俺の必死な願いも虚しく、オーク共の手の届く範囲に入ってもラヴィは俺の前から消えてはくれなかった。


 オークがラヴィを見て、そして俺を見る。


 リーダー格のオークは部下と目を合わせて意思疎通を図っている。


 オーク共は全身の毛を逆立てたラヴィに視線を戻し、こん棒を振り上げる。


 俺を巻き込んだその一振りをラヴィは躱せない。


 せめてもと俺と自分を光に包んで衝撃に備えるラヴィ。


 しかし俺達に衝撃が襲う寸前、地面が揺れた。


 立っていられるかも怪しいほどの地震は倒れる俺と、四足歩行のラヴィよりも二足で図体もデカいオーク達の方が影響が大きく、後ろのオーク達がそろって倒れ、武器を振り上げたリーダー格のオークもそれどころではない様子だった。


 何が起きたのか頭が追いつかずにいると、俺の後ろから何かが歩いてくる音が聞こえた。


 それは俺の前に立ち、オーブのような光る玉を纏わせた横に広がる角を振るい、それと同時に生じた四大属性の超常現象に簡単に葬り去れていく。


 呆然と突っ立つリーダー格のオークはそれの登場に面を喰らい混乱したのか、勝てないと感じているにも関わらす、そいつに武器を振るった。


 自暴自棄な攻撃など通用するわけもなく、気付かぬうちに体を細かく解体されたオークはその場で文字通りに崩れ落ちた。


 俺は一度だけ目にしたことのあるそいつの力をが改めて超常のものだと肌で感じた。


 全く今までどこで何をしていたのやら。


 「……職務放棄だぞエレアルド」


 安心感に包まれた俺は、最後に愚痴を零して意識を手放した。

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