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オーガ

 全身が打ち鳴らされるほどの咆哮に俺の体が強張った。


 それはラヴィも同様のようで身を竦ませてその場から動けないでいる。


 俺の背丈よりも頭二つ分は高いオーガの威圧感と来たら向こうでは味わったことがないほどに圧倒的だ。


 スポーツの世界大会の時に日本に訪れたたくさんの外国人の中にだってこんな体格の人物はいなかった。


 本来ならこれだけ体格が違うとあまりの階級差に戦いにすらならないのが普通だ。


 しかし俺はもうこの世界に順応してきている。


 俺は体を強化する魔力を手に取るように感じながら昔の自分ではないことを確かめて自信へとつなげた。


 ロングソードを強く握る。


 いつ敵が迫ってきてもいい様に。


 遂にオーガが自分から仕掛けてくる。


 ドスンドスンと地面を鳴らしながらその巨体が俺へと迫る。


 オーガが怪腕を振るう。


 想定よりも遅い攻撃に俺は余裕を持って避けて剣を返す。


 「くっ───硬すぎだろ」


 太刀筋も込めた力の量も決して悪くなかった。


 しかしその鋼のように堅い皮膚が俺の剣を拒んで弾いてしまう。


 「ピィ!」


 ラヴィも果敢に攻撃を仕掛けるが俺よりも攻撃が軽く満足にダメージを与えられない。


 「くそ、まずはこいつの皮膚を貫くだけの手段が必要だ」


 オーガの攻撃を避けながらその方法を考える。


 しかしいい方法が思いつかない。


 俺はオーガの攻撃を問題なく避けれていることに少し疑問を抱いてオーガを観察すると、赤い肌に隠れるようにその全身の至る所に小さくない傷を作っていた。


 それはどう見ても古傷などではなく真新しい生傷だ。


 「ヴァルムンドだな」


 森の奥で戦うヴァルムンドからこいつは逃げて来たのだろう。


 どう見てもヴァルムンドの方が強い。


 数が多いため、取り逃した雑魚の一匹だと考えた。


 その強さの基準が当社比なのが厄介ではあるが、ヴァルムンドだって無茶ぶりはしないだろうと俺は考えた。


 勝てると判断して見逃したと思いたい。


 そうじゃなかったら泣きたい。


 「まぁ、これだけ弱点作ってくれてたら勝てないなんていえないよな。ラヴィ!傷を狙え!」


 俺の言葉に反応してラヴィがオーガの傷に目掛けて跳びかかる。


 オーガの生傷にラヴィの角が更なる深手を与える。


 オーガが痛みに悲鳴を上げた。


 「なんだ結構情けないのな。強そうなのは見掛け倒しか?」


 俺はオーガの隙を逃さず、生傷をなぞるように剣を振るう。


 硬い皮膚には俺達の攻撃は満足に通らないものの、既に裂けてしまって肉が晒されている部分なら俺達の攻撃でもダメージを与える事ができることが分かった。


 この様子なら問題はなさそうだ。


 俺とラヴィが次々にヴァルムンドのつけた生傷を抉り返していく。


 中々にえぐい攻撃なのは自覚しているがこれも戦いだ。


 そんな傷で俺達に戦いを挑んだオーガが悪い。


 オーガの立つ地面がオーガの夥しい血によって泥濘んでいく。


 これだけ血を流しているというのにまだまだ動きに陰りが見えない。


 ティアには教わっていたが、オーガの生命力は他の魔物を圧倒している。


 こいつが満身創痍でない状態だったら完膚なきまでに負けていたのは俺達の方だろう。


 それだけヴァルムンドの付けた傷の有無と消耗させた体力と魔力の存在が大きかった。


 (ん?魔力?)


 俺はそこでオーガが一切魔力を帯びてい居ないことに気付いた。


 (こいつまさか魔力なしでこの強さなのか!?)


 俺は気づいたその事実に心の中で驚愕の声を上げていた。


 今まで魔力を使わずに戦っていた魔物は皆無だ。


 それだけ戦闘では必須で強化は行わなければならないものの筆頭だった。


 俺は初めて素の肉体で戦う魔物を見た。


 背筋にぞくりと寒気が走る。


 これで少しでも魔力があれば。


 俺は最悪のパターンでの戦闘にならなかったことにヴァルムンドへと感謝の念を浮かべた。


 俺とラヴィの攻撃は今なおオーガに出血を強制し続けている。


 しかし、攻撃を諦め、防御に徹するオーガが俺達の攻撃に慣れ始めたのか、俺達の攻撃の度に僅かに体をずらして傷口への攻撃を逸らし始めていた。


 こちらとしては攻撃をしてこない敵など怖くないためむしろありがたいのだが、どこか不気味さを感じる。


 完全に避けることは叶わないオーガの出血量はオーガであっても無視できる量ではなくなってきたのか、その動きにようやく陰りが見え始めた。


 俺はスパートをかけるように剣速を上げる。


 ラヴィも角に宿す光を増してラッシュを駆ける。


 俺達の攻撃は確かにオーガの命を大きく削る。


 そこで俺は自身の真横へと剣を振るった。


 「ラヴィ!二度も同じ手を食らうかよ!」


 俺はラヴィに援護をもらい、突然横から攻撃を仕掛けてきたノールの一刀に伏す。


 そうしようとした瞬間、横から伸びた手がノールを鷲掴み奪いさってしまう。


 「は?」


 俺は見た。


 ノールの横っ腹を掴んで鎧の上から丸かじりにするオーガの姿を。


 そして感じた、強烈な危機感。


 全身の鳥肌が逆立ち、全力で警戒を促してくる。


 俺はそれに瞬の間も置かず従い防御すら捨てたオーガに止めを刺すためロングソードを突き出した。


 ────キィン


 あり得ない音が聞こえた。


 金属音のような音が俺に耳に届くと俺のロングソードは大きく弾かれ握る俺の手は打ち痺れてしまっていた。


 驚愕に目を剥くが呆けている暇は今無くなった。


 「ラヴィ!!」


 俺は脚に魔力を全力で回してその場から弾かれるように退いた。


 俺の掛け声の意図を察したのか、それとも俺と同じ直感が働いたのかラヴィもオーガの傍から大きく離れていた。


 「まさか魔力が────」


 危惧を口にしたその時、オーガの顔が目の前にあった。


 「──────え」


 ────ぐっ、ふ


 鈍い呻き声を上げてくの字に折れ曲がる俺の体。


 俺は俺の気付かぬうちにオーガの拳を腹に叩き込まれてしまっていた。


 後方へと吹き飛ぶ俺。


 ラヴィの悲鳴が聞こえた気がした。


 「がっ、はぁはぁ……」


 すぐに駆け寄ってくれたラヴィの回復によって俺は意識を繋ぎとめることが出来た。


 「サンキュ、ラヴィ」


 ラヴィがオーガを強く睨みつけている。


 そのオーガは魔力を回復して余裕が生まれたのか体の具合を確かめるように突っ立ている。


 「魔物食って魔力を補充したのか」


 そんな方法があるのかと叫びたくなる。


 知っていたらもっとやりようはあったのに。


 しかしそんなことを言ってももう後の祭りだ。


 俺は奴が採り戻した魔力の量を視る。


 そう大した量ではない。


 魔力量だけなら俺の方が多いまである。


 しかし逆に言うならたったそれだけの魔力で俺の視認を越えた身体能力を得たということになる。


 もしこれが魔力が万全な状態だったらと考えるとあまりに理不尽な展開になっていただろう。


 「ヴァルムンド、通す敵間違えてるって」


 俺は森の奥で戦うヴァルムンドへと愚痴を零した。


 確認を終えたオーガが改めて俺達を見る。


 にやりと笑い、脚に魔力を回すオーガ。


 一瞬で間を潰したオーガがラヴィに迫る。


 「まぁそう来ると思ったよっ」


 目に魔力を回していた俺はオーガの初動を捉え、そしてオーガの知能が高そうな事から考慮して回復役であるラヴィを最初に潰すと読んでいた。


 俺のロングソードがオーガの魔力が乗らない拳を防ぎきる。


 少ない魔力を足に回しているため腕にまでは回せない事が幸いしていた。


 これなら俺でも十分に対抗できる。


 「ピイッ!!」


 オーガの意図も俺の動きも読んで攻撃の体勢に入っていたラヴィが輝く角を横薙ぎに振るい一閃。


 斬性を帯びた光がオーガに僅かな傷を与えるも怯ませることはできず、俺はオーガの止まらない連撃を防ぎ続けるしかなかった。


 「ま、ずい」


 今のオーガに足に回す魔力は必要ない。


 オーガが脚の魔力を腕に移動させているのを見て汗が噴き出した。


 途端に重くなるオーガ拳。


 ラヴィが距離を取ったのを確認して俺は急いでその場から跳び去る。


 オーガが忌々しそうに俺を睨みつけてくる。


 腕を強化しているオーガに俺とラヴィに追随するほどの速力がないためだ。


 「ふぅ、あのまま攻撃され続けたらやばかったな」


 未だに痺れる握り手にぎゅっと力を籠める。


 オーガは他の魔物を捕食することによって魔力を補充。


 僅かではあるが力を取り戻してしまった。


 その僅かな魔力で力は均衡してしまい、魔力の回復がこの程度で良かったと俺は胸を撫でおろしたい気分だった。


 「ラヴィ、頼む」


 ラヴィが少し不安そうな表情で俺を見る。


 「ピィウ」


 しかし俺の言葉の意味を正しく理解するラヴィは俺から離れ、森からこちらに来ようとしている残党の殲滅へと向かった。


 オーガはそれを横目で素通りさせる。


 俺が睨みを利かせてその場から動かせない。


 もしこれ以上オーガが魔力を回復するようなことがあったら、それは俺達の敗北を意味する展開だといえる。


 その最悪な末路を避けるため、俺はラヴィに他の魔物の相手を頼んだ。


 魔力を僅かとは言え取り戻したオーガと俺の力はなんとか拮抗している。


 「ラウンド2ってか」


 脅威が増したオーガへと意識を集中させた。

 

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