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森の異変

本日6投目

 俺はヴァルムンドにボコボコにやられ、身の程というものを十分に分からされた後、ラヴィを伴って森の中へと入っていた。


 魔術の勉強や剣の稽古も大切ではあるが、俺としては実際に命のかかった実践を重視していきたいと思っている。


 なので朝は勉強、昼近くは稽古、日暮れまでは森の中での実践という毎日を送っている。


 「ラヴィそっちは任せた!」


 俺は片割れをラヴィに任せ、俺は懐かしい敵と対峙していた。


 俺が戦った時とは武装が違うそいつと刃を交える。


 ロングソードとダガーの衝突は当然重量に勝る俺のロングソードが競り勝つ。


 俺は前蹴りをお見舞いし、相手を押しのけた。


 「あの時とは逆だな。俺が剣でお前がダガー。このロングソードを持ったお前の仲間は厄介だったよ」


 俺はダガーを片手に腹を抑えて忌々し気に俺を睨む大ゴブリンに言葉を贈る。


 「ホブゴブリンって言うらしいな。あの時のお前のお仲間との戦いは結構楽しかったよ」


 ひりつくような命のやり取りを思い出して、ホブゴブリンへと笑いかける。


 ホブゴブリンは俺の笑顔が気に入らないらしく、唾を吐き散らしながら汚い声をまき散らす。


 どうやら魔物にも性格や個体差というものがあるらしく、それがホブゴブリン程度に知能があれば俺でもわかりやすくその違いを認識できた。


 あの時戦ったロングソードのゴブリンは戦士気質らしく俺との戦いにも真剣だったが、目の前のホブゴブリンはあいつとは違うらしい。


 奇襲を仕掛けてくる辺り勝てば官軍といったところか。


 弱肉強食なのだからそれも真っ当に正しい。


 個人的には前のホブゴブリンの方が好きなのは間違いないが。


 「しかし、武器はロングソードの方が強いと思うんだが、それで補ってるのか?」


 俺はホブゴブリンの着る革鎧も指して問いかけた。


 ホブゴブリンも役割というものを持っているのだろうか。


 俺の質問に応える様子のないホブゴブリンに首を傾げて考える。


 すると痺れを切らしたホブゴブリンが俺に攻撃を仕掛けてきた。


 目で追うのも余裕。


 間合いもこちらが断然優位。


 俺はダガーがこちらに届く前にホブゴブリンの首を切り落とした。


 戦いが終わり、ラヴィを見る。


 するともうとっくに勝負のついていたラヴィはじっとこちらを見ながら座って待っていた。


 「……ピイッ」


 「ごめん。時間かけすぎた」


 無駄に待たせるなと言いたげなラヴィに俺は謝ってさらに進む。


 テリトリーから少し離れた辺り、敵の強さもゴブリンばかりでなく、その上位種にあたるホブゴブリンや、聖獣と紛らわしい姿の猪が増え、元の拠点周辺では見かけなかった魔物も増えてきている。


 ラヴィと一緒に戦えば危険に陥ることも少ないが、油断はできない。


 アルボラクのような奴が現れればその限りではないが、本来はもう少し深いところにいるような強さの魔物のためここいらで遭遇することは滅多にないそうだ。


 ゴブリンやアルボアと言った雑魚をラヴィと二人で対処しながら進む。


 日も傾いてきたし、もうすぐ帰ろうかと考え始めた時に、俺達の前に丁度いい相手が現れた。


 「ノールだな。一体だと物足りないが、他の戦い慣れた魔物よりかはマシだな、ラヴィ行くぞ」


 「ピィウ!!」


 動き出しのタイミングを合わせた俺とラヴィはハイエナ頭の二足歩行の魔物へと攻める。


 ノールは先に飛び出したラヴィへと斧を振るうが、俊敏性の高いラヴィはそれを余裕で躱し、俺が速度を急激に上げ、攻撃後のノールの隙を突く。


 簡単に懐に入った俺はロングソードをノールの腹部へと突き刺す。


 寸のところでノールが反応し直撃は叶わずとも、横腹を裂くことには成功した。


 痛みに襲われるノールは危険から逃げたいあまりに斧を無茶苦茶に振り回す。


 速度と威力は十分だろうが、俺とラヴィは素直にそれに当たるほど馬鹿ではない。


 攻撃を見切って、比較的に受けやすい攻撃をロングソードで受け止めると分かりやすくノールは狼狽を見せた。


 その隙を見逃さずラヴィはノールの首元へと跳び角を一閃。


 見事に喉元を搔っ切られたノールは藻掻きながら地面に沈んだ。


 「やっぱりこのくらいの敵だと二体一は俺達に有利すぎるな」


 「ピ」


 ラヴィの短い返事。


 こういう時は大体淡々と返事をしている時だ。


 ラヴィも俺と同様に物足りなかったらしい。


 ラヴィの強さは正直、覚醒前と後ではかなり違う。


 浅い傷ならあっという間に自分で治すし、全体的な出力も上がっている。


 もし俺とラヴィが一対一でやりあったら正直勝てるか分からない。


 いやもしかしたら負けが濃厚かもしれない。


 少なくとも消耗戦になれば俺は絶対にラヴィには勝てないし、一撃で仕留めようとしても回避能力が高すぎてそれも望みが薄い。


 ふぅむ身近にこんなに良い対戦相手がいるとは。


 俺がそんなことを考えながらいると俺のそんな不穏な空気を察知したのかラヴィが俺にジト目を寄越してくる。


 安心してくれ、俺は絶対にラヴィには手を出さない。


 命を助けて貰ったんだ、当たり前の事だ。


 それに俺はラヴィ相手には本気には慣れそうにないしな。


 俺はもう仲間としてしか見れないラヴィとの戦闘を妄想の中だけにして意識を森へと戻し、現れた新手に剣を向けた。





 ◆





 俺とラヴィは森での実践を終えて地下神殿へと帰っていた。


 『ほぅ。ノール複数体との戦闘があったと。珍しいですね。坊ちゃま達が進んだ辺りですとノールは逸れの一匹が出る程度で複数体の群れを成して出てくることは滅多にないのですが』


 俺は返り際に現れたノールとの戦闘をティアに話すとティアは訝し気に髭を撫で始める。


 「別に嘘を吐いているわけではないぞ」


 『もちろんですとも。坊ちゃまが私に嘘を吐くなど……考えただけども胸が苦しく……っ』


 ティアは時々情緒不安定になってめんどくさい。


 前に主君に嘘でもつかれたことがあるのだろうか?


 かわいそうに。


 俺はそう思うも長く相手にするのは面倒なので流すことにした。


 ティアも半分ふざけてやっている事だ。


 大丈夫だろう。


 お化けだからってこれで憑りついたりしないよね?


 ただでさえジャパニーズホラーのような怪奇現象を起こせる魔術師だ。


 恨まれたら怖い。


 うん。優しくしよう。


 俺は固く誓った。


 『坊ちゃま。嘘がどうのは置きまして、魔物の分布に変化が現れたという事に注意が必要でございます』


 「テリトリーの主か?」


 テリトリーには聖獣同様にその縄張りを主張、実効支配する主がいる。


 そのどれもがアルボラクなどちり芥も同然とするほどの強さを誇っており、本気で暴れれば、まさに天変地異をも引き起こしかねないほどだという。


 それに動きがあるのならば警戒をしなければならないのは当然だ。


 『もちろん主自体も危険極まりないですが、主自身がそのテリトリーから大きく動くと言うのは少し考え難いですね』


 「ならなんだ?」


 『テリトリーの主たる魔物は同時に魔物の主でもあるのです。当然テリトリーの中の魔物はその主の配下と考えるのがよろしいでしょう』


 「つまり、その魔物の主が駒を何かの意図を持って動かしていると?」


 『その通りでございます。流石坊ちゃまご慧眼でございます』


 ティアといると無駄に自己肯定感が上がりそうで怖い。


 『おそらくはラヴィの覚醒が起因かと』


 「ラヴィが……」


 俺はラヴィを見る。


 当の本人はこちらの事など全く気にすることなく毛づくろいに夢中だ。


 『聖獣と魔物は昔から争いあう存在。未熟だった筈の聖獣の覚醒を感知した一部の主が調査を始めたのでしょう』


 どうやら魔物の主はかなり頭が回るようだ。


 どこかから俺とラヴィの存在を嗅ぎつけた一体が自分のテリトリーからノームを調査に送り、様子を伺ているようだ。


 「でも聖獣が厄介な存在ならもっと強い存在を送りこむんじゃ?ノームは正直俺達からしたら取ったら特訓に丁度いい相手だったぞ。強くなったラヴィを殺せるような敵じゃない」


 『倒すつもりはないのでしょう』


 「?」

 

 俺は温いなと率直に感じた。


 敵対勢力の拡大を防ぐなら脅威になる前に叩くのがセオリーだと思うからだ。


 『ここ地下神殿を守る聖獣エレアルドのテリトリーに比較的近い場所に強力な駒を送るのを嫌がったのではないかと』


 聖獣エレアルド。


 俺がここに来るまで名前を知らなかった鹿の聖獣の名前だ。


 聖獣の中でもリーダー的な立ち位置にいるらしく、戦闘力は聖獣の中でもトップクラスに高いらしい。


 デモンストレーションに見せてくれたあの四属性の超常を見せられているのだからそれも納得だ。


 「つくづく俺達は……いや俺は聖獣に守られてるんだな」


 それは狙われているはずのラヴィも同様だ。


 この森で弱い存在の俺を守ってくれるのだから感謝してもしきれない。


 『それだけでなく、聖獣たちがほぼ一枚岩に対して、魔物たちは互いに争う関係でございます。聖獣のテリトリーだけでなく他の魔物のテリトリーへの刺激も避けたのだと考えられます』


 魔物たちにも政治的な駆け引きがあるようだ。


 この森もなかなかに複雑だ。


 『森に行くなとは申しません。しかししばらくはあまり深くには足を踏み入れてはいけませんよ』


 「分かってるよティア」


 俺はティアや聖獣たちに迷惑をかけるつもりはないと告げ、みんなで食事を摂った後、俺は夜のルーティンを熟してベッドへと潜り、猪の毛皮を賭けて眠りにつくこととした。

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