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聖堂騎士ヴァルムンド

本日5投目

 食事休憩を済ませ、俺は聖堂騎士ヴァルムンドと対峙していた。


 ヴァルムンドは無口なのか、喋れないのかわからないが、一度も言葉を発していない。


 ただティアの言った通り、剣の稽古には付き合ってくれるのか、俺の持つロングソードよりも一回り大きな剣を構えている。


 ティアが言うにはあれはバスタードソードと呼ばれる剣に分類されるらしい。


 片手で扱える俺のロングソードと両手で扱うことを前提としたツーハンデッドソードの中間的な立ち位置せあるとここではそう思えば良いとティアは言っていた。


 俺はロングソードを構える。


 「体もでかいし、全身鎧だし、めちゃくちゃ強そうだし……手加減はいらないよな」


 俺の言葉にヴァルムンドはなにも返さない。


 ただ悠然と構えているだけだ。


 体に一本の真っすぐの線が通ったようにブレのない構え。


 全身がとんでもない重量に覆われているというのに見た目なんとも身軽そうだ。


 重さなど全く感じさせない。


 それだけこちらとしては脅威的だ。


 なんせそれだけ体重が違う上に、その重量を軽々しく扱うだけの十分な筋力を併せ持っているのだからフィジカルでは軽量級対重量級ほどの差が離れているだろう。


 俺はただそれだけで易々負けるつもりはなかった。


 曲がりなりにも訓練は続けていたし、自分よりも体躯と筋力に優れるアルボラクとの戦いにだって勝利した。


 俺は体の複数個所に魔力を集めて強化を施し、地面を蹴る。


 一瞬の内に加速を終えた俺の速度は人間の限界を超えている。


 その速度から生まれるロングソードによる質量攻撃は極めて暴力的だ。


 剣を振るう。


 真横からのスイング。


 まともに食らえばただでは済まないはずの攻撃はしかし、ヴァルムンドの剣によって軽々と受け止められてしまう。


 「────ッ」


 こちらが攻撃を仕掛けたというのに、反動を受けて持ち手に痺れを起こしているのは俺の方だ。


 対するヴァルムンドの剣は構えたところからびくともしていない。


 力の差がありすぎる。


 こちらが負けているなんてのは最初から分かっていたことだ。


 しかしこれほどの力の差が開いていると突き付けられると少しショックを受ける。


 ヴァルムンドからの反撃の意志がないことを感じた俺は少しだけ癪だった。


 舐めれている訳ではないだろう。


 それだけの力の差が開いていることは理解できる。


 しかし悔しいものは悔しいのだ。


 俺はならばと、ヴァルムンドの胸を借りるつもりで猛攻を仕掛けた。


 あらゆる角度からの攻撃を連続で仕掛ける。


 しかしヴァルムンドは最小限の動きで全て受け止めていく。


 それも全て岩のように堅く、殴りつけるこちらの手が痛みに襲われてしまうほどに。


 攻められる恐れがないのならと、俺はより攻撃に魔力を回して守りを捨てる。


 重さの増した俺の攻撃はそれでも痛痒を与えない。


 さらに攻め方を変更。


 せめて体に一撃を与えてやろうと目に魔力を移して隙を伺う。


 (あぁ、だめだなこりゃ)


 集中力が増し、僅かに時間を得た視界であってもヴァルムンドの繋ぐ動きに些細な綻びも見つけられない。


 (最後の手段だな)


 俺は剣を大上段に構えた。


 ヴァルムンドが反撃を仕掛けてこないことを良いことに時間をたっぷりと掛けて重要個所に魔力を回していく。


 視界の速度が元に戻り、視界への集中力を全て自分の体内に移す。


 ヴァルムンドはそれでもその場から動かない。


 「これが今の俺の全力だ」


 大地を踏みしめてエネルギーを剣へと伝える。


 俺の中に巡るエネルギーの量にヴァルムンドが目を見張るような気配を感じた。


 アルボラクの持つ異常な硬度を持つあの武器さえ真っ二つにした俺の放てる最大火力をヴァルムンドへと解き放つ。


 剣と剣の一瞬の衝突。


 俺の全力はヴァルムンドの剣から滑り、地面を割った。


 「……流された!?」


 剣がぶつかった瞬間角度をつけられ、俺の剣は満足に力をヴァルムンドに伝える事が出来なかった。


 (ほんとにこれはお手上げだな)


 胸を貸してくれるヴァルムンドに俺は防御も回避も捨てて全力でぶつかったというのに、ヴァルムンドは全くと言って良いほどに力を見せてはくれなかった。


 いや、俺が力を引き出せなかったのだ。


 俺は顔を上げるとヴァルムンドの様子が変わっている事に気付く。


 俺はヴァルムンドの攻撃の意志を感じ取った。


 攻守交替らしい。


 (やっば)


 俺は急激に吹き出す危機感に逆らうことなく直感で剣を構える。


 その瞬間、耳を劈く硬質な衝突音と手の痺れが唐突に俺を襲った。


 直感で構えたところにいつの間にかヴァルムンドの剣が差し込まれていたのだ。


 視認すらできなかったヴァルムンドの剣に俺は冷や汗を掻いた。


 勘が働かなければ死んでいた?


 そう思わされるほどの剣威だった。


 俺は自分が攻撃する側ではなくなったことを体で理解し、慌てて目に魔力を移す。


 そうしてようやくヴァルムンドの剣を視認。


 「────はっ、や!」


 動体視力を上昇させてもヴァルムンドの剣は霞んで見える。


 俺はヴァルムンドの剣に何とか合わせて身を守り続ける。


 一撃一撃が非常に重く、防ぐことが出来ても手が痺れるどころか腕が持っていかれそうになる。


 体勢が徐々に崩されていくも、立て直す余裕もない。


 剣に集中を続ける。


 もう他を見ている余裕もない。


 何度目かの攻撃を防いだその時、僅かに剣速が落ちた。


 (今の内に体勢を)


 できる事なら距離を置こうと意識が働いた瞬間、俺の腹を何かが貫いた。


 俺は車と衝突でもしたかと錯覚するほどの力に体を後方へと吹っ飛ばされた。


 「────がっ、は……う、ぐぅ」


 満足に息もできない俺が視界を開いた時、そこにはヴァルムンドの剣の切っ先が俺の首に添えられていた。


 「強すぎ……」


 俺はそのまま意識を失った。






 ◆





 『───────でしょう!───ちゃまはま───少しは』


 誰かが声を荒げているのが聞こえる。


 それは聞きなれた人物の声。


 どこか懐かしいような気さえする。


 「────はっ!」


 意識を取り戻した俺は、反射的に跳び起きた。


 最後の瞬間は覚えている。


 俺はどうやらあっさりと敗北したらしい。


 『坊ちゃま!!目が覚めましたか!!』


 慌てたようにティアが俺に駆け寄った。


 「あぁ、手も足も出なかったよ。流石に専門職の人間は強いな」


 『今はそんなことは良いのです!あぁ。坊ちゃまっどこか痛い所はございませんかっ』


 「心配し過ぎだっての。ヴァルムンドだって手加減してくれてるよ」


 ヴァルムンドがもう少し本気だったら俺の上半身と下半身は泣き別れしていただろう。


 あれ?意外とやばかった?


 『ヴァルムンドめ。初めてだと言うのにここまで坊ちゃんに』


 ティアは珍しく怖い顔をしている。


 「そ、そう怒ることじゃないだろ。俺は稽古をつけてもらっている身だし」


 『しかし、順序というものがございます!もしヴァルムンドの奴が坊ちゃまの力量を見誤ってしまった場合は怪我では済まないのですよ!それに騎士たる者が主君に対して稽古とは言え足蹴にするなど!』


 「戦いではいつ死んでもおかしくないんだし、ヴァルムンドほどの実力ならそう滅多に見誤るものでもないだろ。それに森の中の魔物はもっと乱暴だ。足蹴なんてかわいいもんだろ」


 『ですが……』


 ティアはそれ以上なにも言わないが、まだ腹に据えかねているようだ。


 ヴァルムンドを睨みつけて怒っている。


 過保護だなぁ。


 ヴァルムンドもやり過ぎた自覚があるのか頭に手を当ててぺこぺこしている。


 可哀そうだからもうやめてほしい。


 『私はなにも激しい稽古をなさるなとは申しておりません。剣以外の汚い手もまた必要でしょう。しかしなにも初めての稽古でここまでやらなくとも。私は事故が起きてしまった時が恐ろしいのです』


 まぁ。ティアのいう事ももっともだ。


 ヴァルムンドが力を誤ることはあまりなさそうだが、互いに実力を把握しきれていない段階で気絶するほどの攻撃をかませば外野が怒るのも無理なかった。


 「俺が弱いのが悪いんだ。ヴァルムンドを許してやってほしい。頼むよティア」


 『そう言われると私も弱いですね』


 そう言ってティアはヴァルムンドの近くに再び近寄って小言を言った後地下へと戻っていった。


 ヴァルムンドが俺に近づいて頭を垂れようとしたのを俺は制止した。


 「ティアはああ言っても俺はさっきの結果に満足してるから謝らないでほしい。できれば次もあのくらいできてくれ。俺は強くなりたいんだ」


 そう言うとヴァルムンドは首を縦に振り、立ち上がると口辺りに人差し指を立ててシーっいうジェスチャーをした。


 多分そうするけどティアには内緒にしてくれと言いたいらしい。


 俺はそれに笑って頷いた。

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