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聖獣導く尊き地2-1

 出来上がった焚火を前に猪の串肉を並べていく。


 夜の暗闇に包まれる中、焚火の灯りが周囲を照らす。


 俺はいつものように狩った獲物を速やかに解体後、食事の準備に取り掛かり、同居人の帰りを待つ。


 自分が食べるものばかりを準備していては周囲のパトロールに出ている同居人に角を向けられかねない。


 俺は甘味を持つ木の実をナイフの峰で数個割って準備を済ませておく。


 ここに来て一か月弱が経とうとしている。


 ここに一緒にもってきているスマートフォンはとっくに充電を切らせて使い物にならなくなっている。


 向こうの世界との繋がりのようなものはもうほとんどなくなってしまったが、なんとなく今の生活の方が充実している。


 初めは空腹と渇きで命の危機を感じ、その中で追い打ちのように意味の分からない生物の襲撃で本当に死ぬ思いをした。


 しかしその体験すらも可愛く感じるほどの死地を連続で体験し、その中で自分の未熟さを痛いほどに味わうはめになり、強くなることを決意した。


 俺はこの森の中で、決して強い存在ではない。


 一対一では敵わない大猿の存在はもちろん、天を見上げるほどに強い二体の獣の存在。


 それらには未だに一人で勝てるイメージが湧いてこない。


 俺は強くなろうと毎日のように訓練をしているが一朝一夕でどうにかなる問題でもなかった。


 だが幸いなことに今の俺は一人ではなくなった。


 それは人間ではなく、見た目以外は決して可愛くない存在ではあるが、今は一緒に狩りや食事を一緒にする仲になった。


 俺は意外に大喰らいな同居人でも十分な量の木の実を割り、あいつが初めて会った時に食べていた香草を木の器に並べて準備を終える。


 「ピィウ」


 ただいまと言うように帰ってきた同居人が鳴いて自分の帰るを伝えてきた。


 その背には猪の革でできた袋が担がれている。


 「おお、おかえり」


 俺は膝に置いてあった木の器をウサギの顔の前に置いてやる。


 こいつの見た目はどう見てもウサギでペットに見えるかもしれないが、これでエサだぞっとペット扱いすれば手痛い仕返しが返ってくる。


 俺は革袋を受け取って中身を確認すると中には何かの幼虫がかなりの量蠢いていた。


 「良し、これだけあれば三日は持つな」


 グロテスクな見た目であってもこの何かの幼虫は貴重な美食だ。


 木の実と並ぶ、俺の食後の楽しみになっている。


 これだけの量をこの短時間で見つけてくるとはさすがだ。


 鼻の利かない俺ではこうはいかない。


 だから俺はお返しに木の実の殻を割って用意をしてやることでギブアンドテイクとしている。


 「いただきます」


 俺は森の恵みと糧になってくれる獲物に感謝の祈りを捧げて食事を始める。


 それに合わせるように同居人も木の器へと口をつけ食べ始める。


 前の世界ではこんなに食事を楽しむなんてことはなかったが、今はどことなく悪い気持ではなかった。


 食事を終え、俺と同居人は泥で壁を固めて隙間風の減った小さな家の中に入って横になる。


 「おやすみ、ラヴィ」


 俺は適当に名付けたウサギの名前を呼んで目を閉じる。


 ラヴィもまた手を枕に眠りについた。





 ◆





 ラヴィは無事に帰ってきた。


 言葉を交わせないため、どうやってあの状態から生還できたのかはわからない。


 しかしあの牡鹿の背中に乗せられて帰ってきた様子から恐らくラヴィはあの牡鹿達と同種の存在なのかもしれない。


 なにより大猿との戦いの際に見せたあの光は、牡鹿達と同じ雰囲気を感じさせたのだ。


 そして森の中の生物とラヴィ、牡鹿、猪は敵対関係にあるようで、稀に牡鹿と猪はおっかなく暴れているのを見たことがある。


 ラヴィはあれ以来、あの不思議な力を少しだけ使えるようになっていた。


 火事場の馬鹿力をみせた大猿戦の時ほどの出力はないものの、それでもその力はゴブリンや小猿達にはかなり有効なようで、ラヴィの戦闘力はかなりのものになっている。


 あまりにあっさりと大量に倒すもので、時折俺にどや顔を見せてくるほどだ。


 悔しくなんてことの全くない俺はそれをスルーし続けている。


 「ラヴィ!樹上に小猿四体!急襲に気を付けろ!」


 木の上から突然姿を現した猿二体をロングソードの二振りで沈め、ラヴィを見た。


 ラヴィは角を輝かせ虚空に一閃。


 その一撃で伸びた光の攻撃が二体を同時に焼き、地面に沈めた。


 ドヤァ。


 口角を上げてこちらを横目で見てくる畜生。


 視線がかち合い俺は咳ばらいを吐く。


 「し、消耗は抑えろよ」


 俺はなんともなしに、涼し気に、なんともなしにそう言った。


 ニヤニヤ。


 横からそんな擬音が聞こえてくる気がしたが俺は努めて無視を決め込む。


 ……くそぅ。


 そのまま敵の蔓延る森の中で戦闘を繰り返し、多くを葬っていく。


 ゴブリンや小猿といったまともに食べられない生物以外は食べられる以上の数をあまり狩りたくないが、ラヴィはそんなことお構いなしに次々と狩っていく。


 牡鹿達も森の中の生物に対してかなり敵対的な様子を見せているし、これはどうにもならないだろう。


 俺は持ち帰れないだけの猪の死体を見て溜息を吐いた。


 これで数が減って食べられなくなったらどうしよう。


 狩猟制限とか設けた方がいいのではないだろうかと心の中で思うも、それを言って聞いてくれるような奴らではない。


 それに新参者は俺の方だ。


 ここは森の先輩達の行いに右に倣えの方が無難だろう。


 俺はそう自分に言い聞かせて新たに突っ込んできた猪の首を落とした。


 日課の訓練兼、周囲のお掃除が終わり満足したのか疲れたためか、ぴょんととんだラヴィが俺の頭に乗る。


 送って帰れとの事らしい。


 まぁなんとも生意気な事ではあるが、仕方ない。


 俺の頭の上で心地良さそうにするラヴィをそのままに拠点に帰ることにした。





 ◆





 帰るとそこには牡鹿と猪の二体が待っていた。


 見た目の雰囲気が他の生物と一線を画する存在の登場に俺は内心ビビっていた。


 牡鹿はともかく猪など俺のトラウマ生産者だ。


 あの時の死への恐怖は正直大猿以上である。


 そんな内心の俺に気付いたのかラヴィが俺に優しく鳴いた。


 その声に不思議と心が落ち着いていく。


 俺は感謝を込めて頭の上のラヴィの背中を撫でたが前足で退け払われた。


 なんだこいつ。


 俺は二体に近寄る。


 ある程度近づいた辺りで二体が方向を変えて歩き始めた。


 着いて来いとでも言っているのだろうか。


 その逆らえない雰囲気に従うように俺は二体の獣の背中を追った。


 道中、当然のようにゴブリンが襲ってくるが、そのどれもが成す術もなく二体の獣によって蹴散らされていた。


 ラヴィも安心しきっているのか、俺の頭の上で寝息まで搔き始めている。


 改めて二体の使う不思議な力を見るが、やはりラヴィ同様、俺やゴブリン達のような森の敵対生物が使う力とは別種の力を操っているようだ。


 しかもその力の強さはあの時のラヴィよりもさらに強いように思えた。


 勢いや猛々しさと言った力の激しさはあの時のラヴィの方が凄かったが、重み、鋭さと言った力の密量ではあの時のラヴィですら足元にも及ばない。


 俺がそんな風に思考をしていてもラヴィは大人しく寝入ったままだ。


 大体こんな風な思考をすると変に目敏いラヴィから怒りの鉄拳(足)が跳んでくるのだがその様子もない。


 それだけこの二体の事を認めているのだろうか。


 俺は試しに邪な考えを巡らせる。


 (どうせだったら相棒はあのどっちかが良かったなー)


 すると寸の間も無く鉄拳(両前足)の衝撃が脳天を貫いた。


 「あだぁっ……冗談です。ごめんなさい」


 俺とラヴィのやり取りを前を歩く二体の獣が顔をこちらに向けて覗いていた。


 もしかしてあの二体も俺の考えが読めるのだろうか。


 プライバシーの無さに泣けそうだ。


 そうこうしていると森が拓けた場所へとたどり着いた。


 外に出た訳ではない。


 しかしその久しぶりの解放感を感じるほどには広々とした空間だった。


 牡鹿が中央の地面をとんとんと叩いている。


 「なにかあるのか?」


 俺は牡鹿の居る場所まで行き、指し示された地面を剣を使って掘り返す。


 カツンと硬質な音が響いた。


 「お?」


 それを不思議に思って土を払いのけるとそこには鉄の扉が隠されていた。


 「扉?もしかして地下?」


 俺は取っ手を握り、引っ張るも想像以上に重たい。


 鍵かなにかあるのだろうかと思い牡鹿を見上げる。


 しかし牡鹿はなにかを伝えてくるわけでもなくじっと見つめるばかり。


 俺は腕に魔力を込めて力づくで扉を引っ張る。


 すると軋みを上げて重たい扉は徐々に持ち上がり、遂に地下への通路が開かれた。


 ぱらぱらと土が落ちる階段を見て、俺はもう一度牡鹿を見上げた。


 牡鹿は首をくいっと動かして奥へと行けとでもいうかのように階段の暗い奥を指し示した。


 俺は、不気味な印象の階段のその先を見つめて、覚悟を決めた。


 ラヴィも早くいけと頭を軽く叩いてきて鬱陶しい。


 俺は恐る恐る足を踏み入れ、階段を下りていく。


 牡鹿達は着いてくる様子はない。


 外の灯り以外に光源のない階段は、降りて行く度に暗くなっていく。


 そして足元が怪しくなってきた辺りで俺の危惧を察してくれたのかラヴィが角を光らせて空間を照らしてくれる。


 「ありがとなラヴィ」


 俺はそう言って体を撫でようとするが手を払いのけられてしまう。


 なんだこいつ。


 そのまま長い階段を進む。


 だんだんと気温が下がってきて外よりも少し涼しくなってきた。


 陽の入り込まないここは外気の温度に左右されないようだ。


 そうしてようやく階段を降り切ったところで俺は別の誰かの気配を感じ取った。


 俺は警戒してロングソードに手を掛けた。


 『このような所に再び人が訪れるとは。聖獣に愛される者よ、さぁこちらへ』


 この森で初めて会った人間は妙齢の女性だった。

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