⑥日向寺玲子
「夏帆、今日はどこ行く?」
「んーどうしよっかな」
「私、夏帆とお出かけ出来るならどこでもいいよ。だって夏帆のこと大好きだもん♪」
「うわぁぁぁぁッ!!!」
飛び起きる。遮光カーテンという神アイテムを手に入れたのにも関わらず最悪な目覚めだった
夢に夏帆が出てきた。彼女と腕を組んで歩いていた
…私はあんな軽い女に惚れない、惚れてない!
食堂に行くと現実の夏帆は玲子さんに楽しそうに話していた。
朝は機嫌が悪いことが多い玲子さんだが、夏帆の雰囲気に取り込まれて微笑を浮かべた
…ムカツク、いやムカつかない、アイツが誰と仲良くしようと全然ムカつかないですよー
「……………」
席に付くと黒瀬さんが無言で水を出してくれた
…珍しいな
「あ、ありがと」
「…別に、ついでに持ってきただけ」
昨日、夏帆が去り際に黒瀬も調べてみろと言っていたことを思い出す
アイツの言う通りにするのは癪だけど折角だからちょっと踏み込んでみるか
「あのさ…黒瀬さんは本が好きなの?」
「他に暇つぶしがないから読んでるだけ」
「そ、そっか」
会話終わったよ!
休憩時間によく本を読んでるし、中庭での一件の時も本を持ってたから会話の糸口になると思ったんだけど、そんなことはなかったよ
私の質問が悪かったのかな?どんな本を読んでるか聞いた方が良かったか?でも読んでる本を聞かれるのってちょっと恥ずかしいよな
綺麗な髪してるからトリートメントなに使ってるの?とかにしとけば良かったか?いや、それはキモいな。ドン引きされるな
「…なにが好きなの?」
「えっ?」
なにが好き?
好きだったコトはある
けどそれは口に出したくない
私は少し考えてから他の回答を出した
「ソシャゲが好きかな。今はスマホ没収されちゃって出来ないけどね」
「…そう」
黒瀬さんは興味を失ったようで、私から目を離して食事に集中した
彼女が会話を続けてくれるとは思わなくてつい素っ頓狂な答えを出してしまった。
いくらなんでも本を読む人にソシャゲの話を振るのはないよな
ソシャゲが好きなのは丸っきりウソと言うわけでもないんだけど…
夏帆を盗み見ると、彼女は藍ちゃんも巻き込んで三人で会話に花を咲かせていた
こんな閉鎖空間でよくそんなに話すネタがあるな。少し彼女を羨ましいと思った。これは本心
所持ポイント:80p
夕食後のテストは得意科目の数学だったので良い点が取れた
てか1位の自信あったんだけどな…多分一位は黒瀬さんだろう
彼女はたまに数学を教えて欲しいと言ってくるが私より進んだ範囲の問題を解いている
…新手のいやがらせ?
就寝時間にはまだちょっと早いが、ベットに横になってスマホを弄る
カーテンの次は何を買おう?
ノートパソコン:500p
やっす!前から思ってたけどポイントの配分おかしいよな
ちょっと遠いけど、パソコンがあれば快適なネットライフを楽しめる
いや、待てよ…
「ネット環境ないじゃん」
部屋にコンセントはあるが、ネットのケーブルを刺せるところは見当たらなかった
私物のスマホを没収してくる施設なんだからそりゃそうか
マウス:30p
LANケーブル:20p
だからネット環境ないんだからLANケーブルも意味ないだろ!
ツッコミながら画面をスクロールさせたが電気製品のカテゴリで欲しいのは特になかった
やっぱ次買うとしたらベットだな
もう少し大きくて寝心地が良さそうなのを買おう
睡眠は人生で一番大事ってよく言うし
次に買うものが決まったことだし、今日は早めに寝るか
いや、待て待て待て
今日はなにも捜査が進展していないぞ、藍ちゃんを調べるって昨日決意したばっかだろ
このまま後回しにし続けていたらダメだ
「ぐぉ~!」
地球に降ってくる隕石を跳ね返すようなパワーを使ってベットから起き上がる
安物のベットで感謝する日が来るとはな
玲子さんの部屋の前に立ってノックする
なぜかと言うと藍ちゃんに近づくには、まず玲子さんと仲良くなる必要があると思ったからだ
なーんかあの二人には妙な主従関係があると思うんだよね
「なっ!?綾世さん?なんの用よ?もう寝るところだったのだけど」
まさか私が訪ねてくるとは思ってなかったらしく、玲子さんは明らかに狼狽している
けど、私の方が驚いた
玲子さんの首にはアイマスクが掛けられていたからだ
「それ、なんで持ってるの?」
「いきなりなに?アイマスクのこと?私が持ってちゃ悪いの!?」
「いつ買ったの?」
「そんなのどうでもいいでしょ。なに?私が盗んだって言いたいワケ?」
「そうじゃない」
「じゃあなんなのよ…」
ドアの前で険悪な雰囲気が流れる
アイマスクを持ってるかと言ってキス犯とは限らない、でも玲子さんの容疑者ポイントが一気に上がったのは確かだ
まさか…藍ちゃんと良い雰囲気になったら怒るのって私が好きだから!?
「立ち話もなんだから入れてくれない?」
「それは訪問者のセリフじゃない!まぁいいわ…丁度貴女に聞きたいことがあったのよ」
玲子さんの部屋に初めて入る
彼女は椅子に私を促してくれた。部屋を見回してみる
イメージ通り、整理整頓された部屋だが、勉強机の上のウサギのぬいぐるみに目を奪われた
なんか流行ってるキャラだったような気がするな。なんて名前だっけ?私って流行に疎いんだよね
「私がぬいぐるみ持ってて悪いかしら?」
「そ、そんなことは言ってませんよ」
玲子さんがぬいぐるみ好きなのは素直に可愛いと思ったが、本題はぬいぐるみじゃなくてアイマスクだ
「それよりさ、アイマスクはいつ買ったの?」
「なんでそれにこだわるのよ…」
「いいから答えて」
「…貴女に答える筋合いはないわ」
んん!?
なんで頑なにアイマスクを買った日を答えてくれないんだろう?
正直、玲子さんは私のこと好きじゃなさそうだしキス犯の候補からほぼ外していたんだけど、このアイマスクの件で一気に怪しくなってきたぞ
この機は逃さない、私は玲子さんを追求する為、初日に何でも叶うチケットを使われ、目隠しをされて、椅子に縛られてからキスをされたことを彼女に話した。
「なっ!な、な、な、ななッ!?」
口を抑えて明らかに動揺しだした玲子さん
こんなにテンパる?これビンゴか?
「怒らないから正直に話して欲しい」
「わ、わたしは違う!」
「じゃあなんでそんな動揺してんの?」
「だ、誰だってこんな疑惑を掛けられれば焦るわよ」
立ち上がって机の上のぬいぐるみを抱く
「玲子ちゃん、良い子だから本当のことを言うウサ♪」
「ウサぴょんはそんな口調じゃない!返しなさいよ」
玲子さんにぬいぐるみを返す。
「次は私の質問に答えなさいよ」
玲子さんは抱きしめたぬいぐるみに顔を埋めた
私の質問に答えてないと思ったが、その姿が可愛いので聞いてあげることにした。
「なに?」
「貴女は…藍のことが好きなの?」
「恋愛的な意味だったら違うよ」
「どうして『恋愛的』な意味で答えたのかしら?普通、女友達のことを好きか聞かれたら『友情的』な意味に捉えると思うけど」
「それは…」
言葉に詰まる
確かになんで私は『恋愛的』な意味だと捉えたんだ
あの夜にキスされてからおかしくなってる?それとも夏帆にあんなことされたから?
「えい!」
「なっ!?」
答えの代わりに玲子さんが首にかけているアイマスクを取った
首の後ろに手をかけた時に彼女の顔が微かに紅潮したのを私は見逃さなかった。
「現場検証しようよ」
「なにをバカなことを…」
彼女の抗議を無視してアイマスクを装着して椅子に座る
うん、やっぱり私が持ってるあのアイマスクと同じ感覚だ
「近づいてきて」
「ふざけるのもいい加減になさい、こんなことをしても意味はないわ」
それはそうかもしれない
キス犯は声を漏らさなかったし、香りもしなかった
でもこの状態で女の子が近づいてきて心臓が高鳴れば私の恋愛対象がかなりはっきりすると思う
「やってくれないと帰らない」
「…仕方ないわね」
根負けした玲子さんが近づいてきてくれる気配がする
近づくだけかと思いきやキスされて「そうよ…犯人は私よ…一目見た時から貴女のことが好きだったのよ///」って言われたらどうしよ?
って…やっぱりドキドキしちゃってるじゃん私
「…どういうこと?」
声の主は私でも玲子さんでもない
慌ててアイマスクを上げると入口に藍ちゃんが立っていた
「あ、藍!?これは違うの!」
「なにがどう違うの!?私は二人きりにならないようにしてたのに!」
それだけ叫ぶと藍ちゃんは走って出て行ってしまった
残されたのは気まずい二人
「…私と藍は付き合っているのよ」
「えっ?えええええッ!?」
はよ言えー!
それ言ってくれれば疑わなかったのに
「藍は私との関係があるから貴女と部屋で二人きりにならなかったのに、私はカノジョを裏切ってしまった…」
「あ、あのさ、私も一緒に藍ちゃんの部屋に行くから説明しようよ」
「貴女が目隠しされてキスされた話を?この状況で信じてくれるとは思えないわ」
難しいのは分かるけど、このままだとアブノーマル目隠しプレイを興じてたことになるんですぞー!
信じてもらえなくても説明はするべきだと思うんだけど
なんとか玲子さんを説得しようとしたが、彼女は頑として首を縦に振らなかった
とぼとぼと自室に帰る
一組の尊いカップルの関係を壊してしまったかもしれない、罪悪感を抱えたままベットに入った。
お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!
ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!