⑤甘いフレーバー
翌日、私は食堂で藍ちゃんに会うなり昨日のことを謝った
カフェオレ(詫びオレ)も渡した
所持ポイント:50p
「え、そんな…綾世さんは悪くないのに」
「いやぁびっくりさせちゃったのは事実だし」
藍ちゃんにお返しのカフェオレを貰ってしまった
お互いに奢りあってんじゃん、まぁこれで元の関係に戻れたかな
それからの数日間は藍ちゃんと過ごした
今日も二人でお喋りしながら共有部の掃除や中庭の花壇の手入れをして過ごす
「それでね。このお花の原産はインドなんだけどヨーロッパに輸入されてからは色々改良されて薬品の原料としても利用されるようになったの」
「へー藍ちゃん物知りだね」
「そ、そんなことないよ…あ、自分のことばかり話しててごめんね」
「全然いいよ。藍ちゃんは私の知らないこといっぱい知ってるから聞いてて楽しい」
「ほんと?面白い話とかは出来ないけど…」
「面白い話なんて無理にしなくて良いって、むしろそっちは任せて!」
しばらく一緒に居て分かったことだが、藍ちゃんは仲良くなるとよく喋ってくれるタイプだ
以前のように恐る恐る話しかけてくるような素振りは無くなってきている
信頼してくれているのかな。近々藍ちゃんの部屋に入れて貰えるんじゃなかろうか
「あっ」
藍ちゃんが少し花の剪定に苦戦しているようだったから枝を抑えてあげようとしたところ、彼女の手に触れてしまった
彼女が小さい声をあげたので思わず顔を覗くと案の定真っ赤になっていた。ただ以前とは違って目を逸らしてはいない
「……………」
数秒間、見つめ合ったままの沈黙
遠くで鳥の囀りが聞こえる
今ならイケるかもしれない…部屋に行ってもいいか聞いてみようか?
「藍!」
突然の呼び声に私達はびっくりして手を離した
声の主は玲子さんであった。この前みたいにキレてるワケではないけど、不機嫌なのは確かだ
「れ、玲子」
有無を言わさず玲子さんは藍ちゃんを引っ張って行った
なんだよ。これじゃあまるで私が藍ちゃんに纏わりつく悪い虫みたいじゃんか
「……………」
独りで残された仕事を片付ける
藍ちゃんに近づくには、玲子さんの信頼を得ることが先決なのかもしれない
でもどうやって?はっきり言って好感度はマイナスだぞ
「意外とこういう色がお好きなんですね。綾世様はもっとシックな色の方が似合うと思いますが」
「宅配業者が客のセンスに口を出すな」
その夜、メイドさんから受け取った荷物を開ける
中身は勿論、遮光カーテンだ
所持ポイント:0p
趣向品を買ったりしてポイントは中々溜まらなかったが、今日のテストと家事でようやく100p溜まって買うことが出来た。就寝時間前に頼めばその日のうちに届けてくれるらしい
玲子さんとどうやって仲良くなるかは思いつかなかったが、こうやって生活の質が良くなってくれば良いアイディアが浮かんでくるだろう
次はなに買おっかな?ソファにしよっかな?いやいや可愛いパジャマも欲しいぞ
浮いた気分でカーテンの設置に取り掛かる
こういうのは届いたその日にしないとどんどん後回しになってしまう
カーテンのレールまで手が届かないので、ベットをどかして椅子の上に立って取り付けにかかる
「ピンクかー中々良いな」
背後から急に声をかけられたので危うく椅子から落ちそうにる
振り向くと夏帆がジュースを二本抱えてこちらをしゃがんで見ていた。
「ノックくらいしてよ」
「手が塞がっててさぁ」
非常識な行為だが、コイツはあのニートメイドと違って私のカーテンを褒めてくれたから許してやるか
仕事が終わったら彼女が持ってきてくれたジュースで一杯やろう
そう思いながら作業に戻る。
「ねぇ、薄いストライプが良いアクセントになってると思わない?」
「んー?薄いストライプ?」
夏帆がカーテンの柄をよく見るつもりなのか背後で近づいてくる気配がする
あまり視力良くないのかな?
「薄いストライプじゃなくて薄いドットに見えるな」
「それ私のパンツ!!」
慌ててスカートを抑えたが時すでに遅し
だからしゃがんでたのかよ変態天パ!!
「……………」
「機嫌直せって~」
夏帆からジュースを貰ったが、そんなんで私の怒りは収まらない
勝手に私のベットに座ってニカッとしてるのもムカツク
同じベットに座るとまた押し倒されるかもしれないので椅子に座ってジュースを飲む
…ぬっる
「…てか何の用で来たの?」
「んー、最近寂しくってさ~」
「はぁ?なんで?」
「綾世は最近ずっと藍にお熱だろ?だから寂しいんだよ~」
「お熱とかじゃないし、てか夏帆が藍ちゃんか黒瀬さんが怪しいって言ったんじゃん。だから藍さんから調べてるんだよ。それだけ」
「ふーん…それなら良いけど」
「どういう意味?」
彼女は勿体ぶってジュースを飲みほしてから答えた
「藍は付き合ったらめんどくさいタイプだと思うよ」
「だからそんなつもりはないって!それに藍さんは優しくて良い子だよ」
「……………」
シリアスな表情でベットから立ち上がった夏帆の様子に少したじろぐ
え、怒らせちゃった?
「…もう一人」
「えっ?」
「そういえばもう一人容疑者がいるよな~」
容疑者ってキス犯のことだよね
まだ私が会ってない6番目の生徒が居るってこと?それとも部外者?それだったら滅茶苦茶怖いんですけど
「もう一人の容疑者は…」
「容疑者は?」
「綾世だよ」
「は?」
あまりにも的外れな指摘過ぎて頭が混乱する
それがいけなかった
「なっ!?」
夏帆は椅子に座っていた私の膝の上に跨ってきた
こ、これじゃあ身動き取れない
体形は同じくらいだから思いっきり押せば突飛ばせるかもしれないけど、それはちょっと憚れる。
「学校に通ってた時さ、女の子に告白されたって言ってボクの気を引こうとした娘が居たんだよね」
「…私の自作自演ってこと?そんな浅はかな女だと思う?バカじゃないの」
睨みつけてやったのに夏帆は左手で私の顎を抑えた
妙に手慣れた手つきなのが癪に障る。コイツ…明るいからなんで学校行ってないんだって思ってたけど、その理由に気づいた気がする。女でやらかし過ぎて退学とかになってんじゃないの!?
「悪いけどボクが食べちゃってもいいかな」
「は、はぅ!?」
夏帆の唇が近づいて来たので思わず目を瞑ってしまう
い、いかん、いかんぞ綾坂綾世
ここで目を瞑ったら受け入れてるみたいになるじゃないか、今は縛られているワケじゃないんだからビンタでもしてやるべきなんだ
…甘い
間に合わなかった
唇に乗った甘いフレーバー、あの日と違って味を感じた
恐る恐る目を開けるとそこには私の唇にジュースの口を当てた夏帆がニカっとした笑顔を見せていた
「くぅ~~~!?」
「アハハハハッ!!綾世ってホント可愛いな」
…また揶揄われた
いや、関節キスじゃん。私基準だと揶揄われたどころじゃないんだけど
「いい加減にしてよ」
ドキドキしてしまったのを悟られないように努めて冷静を装って抗議した
けれども夏帆はニカっとした笑顔を崩さない
「悪い悪い、今日のことも誰にも言わないでくれよ」
「次やったら警察に言うからね」
「女子刑務所も悪くないかもな~」
「いいから早くどいて!」
夏帆はやっと私の膝から降りてくれた
「あ、黒瀬も調べてみなよ。アイツ、結構お前のこと見てるじゃん」
私の部屋からの帰り際、思い出したように夏帆が言う
黒瀬さんか…確かにこの前助けてくれたし、たまに近くに来たりするから嫌われてはないみたい
シャイな彼女は確かにキス犯の容疑者に入る。でも、今一番疑っているのは藍ちゃんだ
とりあえず当初の予定通り藍ちゃんを調べよう
そう決心して、ベットに潜り込んだ
今夜は遮光カーテンがあるしきっとよく寝れるだろう
お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!
ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!