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④古謝藍

翌朝、眠い目を擦りながらドアを開けると目の前にメイドさんが居たから驚いて口から心臓が飛び出た

3秒ルールで戻したから事なき得たけど


「おはようございます。ご注文の品でございます」

「ど、どうも」


荷物を受け取ったことを確認するとメイドさんは優雅な足取りで去って行った

私が出て来るまでドアの前で待機してたのか?こえーよ


「……………」


荷物を確認するとそこにはアイマスクが入っていた

注文したのは昨日の深夜だぞ、アマゾンより速くない?まぁ早く欲しかったから助かるけど…

ポイントで買える商品は施設のどこかに保管されてるのかもしれない


時間がないのでアイマスクをベットの上に放り投げてから食堂に向かう

食堂では夏帆がいつもの調子で話しかけてきた


「綾世~、ボクのトマトいる~?とってもすっぱくて美味しいよ~」

「いらない」

「貴女が苦手だから押し付けようとしているだけでは?」


玲子さんの指摘の通りだと思う

夏帆は苦手なトマトを私に押し付けようとしてきた

それは別にどうでもいい、それはどうでもいいんだけど、昨日の一件があったにも関わず普通に接してきたのは普通にムカツク

あんなに顔が近づいたら普通はちょっと意識するだろ!普通に絡んできてんじゃねぇぇぇッ!!

昨日普通に熟睡してそう!普通って言いすぎ!語彙力ぅ!


苛立った気持ちで朝食を掻っ込む

…今は夏帆のことを考えている場合じゃない、キス犯のことを考えよう

現状の最有力容疑者の古謝藍さんのことを調べよう




「ここはこの公式を…」

「あ、そっか、綾世ちゃんは凄いね」

「い、いやぁ」


自習時間、上手いこと藍さんに近づくことが出来た

彼女は数学が苦手らしく、苦戦していたので教えようかと声を掛けてみたら最初は遠慮したものの結局は受け入れてくれた。


「……………」

「うっ!?」


いつの間にか黒瀬さんが無言で横に立っていた。教えるのに集中していて全然気づかなかった

もしかして昨日みたいにまた群れてんじゃねぇって怒られる?


「…私にも教えて」

「へっ?」

「…迷惑なら別にいいけど」

「そ、そんなことないよ」


黒瀬さんは私の隣に座った

奇しくも昨日、夏帆が提示してくれた容疑者二人に挟まれた形になる

それにしても黒瀬さんはどういうつもりなんだろう?昨日、私たちは敵同士とか言ってたのに…

夏帆が追っかけて行った時になんか上手く言ってくれたのか?


「……………」


教えてほしいと言ったくせに黒瀬さんは一人でスラスラと問題を解いていく

本当にどういうつもり?


「あの…ここなんだけど…」

「ああ、そこはね」


黒瀬さんから目を離して質問してきてくれた藍さんの相手に戻る

黒瀬さんの心変わりの意図は分からないけど、今は最有力容疑者の藍さんに集中するべきだ

しかし、今ここで「初日にキスしてきた?」って聞くワケにはいかない

どこかで二人きりにならないと




チャンスは昼食後に訪れた、寮生たちは思い思いに過ごしており、施設の中庭で花の手入れをしている藍さんを見つけた。おあつらえ向きに一人だ


「藍さん!」

「あ、綾世さん?」


そこまで大きな声をかけていないのだが、藍さんは身体をビクっと震わせて持っていたジョウロを落としそうになった


「驚かせちゃった?ごめんね」

「そ、そんなことないよ」


藍さんが水をやっていた花に目を向ける

この中庭は小さいが様々な花が咲き誇っており、所々に置いてある動物や天使の置物の趣味も良い

今日みたいに心地よい日にベンチで本を読んだらきっと心地よいだろうな。


「花、好きなの?」

「うん、私の家はアパートだからこういうお庭でお花を育てるのに憧れていたんだ」

「藍さんってさ、今もそうだけどこういう仕事を率先してやってて偉いな」


彼女は時間が空くと庭や食堂やロビーといった共有部の掃除をしているようだった。自分の部屋で手一杯だった私とは違う


「えっ?そそそそそんなことない!」


褒められて驚いたのか藍さんはジョウロを持ったままブンブン手を振った

水あんま入ってなくて良かったね


「え、偉くなんてないよ!共有部の家事をしたらポイントが貰えるんだよ。だ、打算でやってるだけ」


確かに家事をしたらポイントが貰えるのは事実、スマホの規則にもそう書いてあった(メイドさんは何やってんだよ)

でも貰えるポイントはカフェオレ一杯分の10pだし彼女の丁寧な仕事振りを見るととても打算でやってるとは思えない


「藍さんは打算で動くような人じゃないでしょ」

「う、うう~」


真っ赤になって俯いてしまった藍さん

疑惑は確信に変わりつつある。ちょっと褒めたくらいでこんなに照れるだろうか?

私にキスしたのはやっぱりキミだ


「あのさ…」


本題に入ろうとしたが途中で口を噤む

遠くで玲子さんの姿が見えたからだ、その少し後ろには黒瀬さんの姿もある


「え?なにかな?」


誰かに聞かれるのはまずい、やっぱり共有部で言うのはダメだ

藍さんがキス犯だと皆にバレるのは流石に可哀そうだ


「良かったら今夜、藍さんの部屋に行っていい?」

「え?え?え?え?え?」


ついに藍さんはジョウロを放り投げてしまった

そんな動揺する!?茹でたタコより赤い顔してるよ


「ふ、二人で!?」

「う、うん…私の部屋でもいいよ」

「二人きりはダメだよぉ!」

「な、なんで?」

「なんで二人きりが良いの!?」


質問を質問で返されてしまった

なんでそんなに『二人きり』に反応するんだ?

好きな人と二人きりだと緊張するから私に目隠しをさせてキスしたのか?

うーん、でもこの反応…好きな人に部屋で二人きりになろうと誘われたら普通は承諾するよね

藍さんがクロかシロか分からなくなってきたよ…


「ご、ごめんなさい!」


私が返答する前に藍さんは辺りをキョロキョロ見回してから逃げ去って行ってしまった


「藍になにをしたの!?」


一息つく間もなく一部始終を見ていたであろう玲子さんに詰め寄られる

凄い剣幕だ、思わず後ずさりしてしまう


「へ、部屋に誘っただけだよ」

「貴女の部屋に?それはなぜ?」

「そ、それは…」


答えに詰まる

藍さんがキス犯じゃないかと聞こうとしていたとは言えない


「…部屋に誘うのは別に規則違反でもなんでもない」


意外な所から助け舟が出てきた

黒瀬さんが玲子さんに声をかけてくれたのだ


「急に出てきて口を挟まないで」

「貴女も急に出てきて綾世さんに詰め寄った」

「…綾世さん」

「は、はい!」


黒瀬さんに急に呼ばれて思わず敬語で返事をする


「しつこく誘った訳ではない?」

「そ、それはそうです。モチロンです。」

「…玲子さん」

「なによ」

「昨日、貴女は私達を仲間同士と言った。なのになぜ輪を乱すの?」

「それとこれとは…」

「貴女が今やるべきことは綾世さんを尋問することじゃなくて藍さんを追うことだと思うけど?」

「くっ」


玲子さんは私と黒瀬さんに冷たい視線を送った後に藍さんが出て行った方向に走り去って行った

た、助かった…


「あ、ありがとう黒瀬さん」

「礼を言われる筋合いはない、私は静かに読書をしたかっただけ」


そう言って黒瀬さんはベンチにハンカチを敷いてから腰かけて文庫本を読み始めた

さっきの喧騒はまるで気にしていないみたい


か、かっこいい


いかんいかんぞ綾坂綾世、昨日は夏帆にドキドキして今は黒瀬さんにドキドキしてるではないか

チョロ過ぎでしょ!いや、私は元来こんなにチョロくないハズだ

私がこんなになったのはキス犯のせいなんだ!絶対に正体を暴いてみせる!

お得意の他責思考が出たところで中庭を後にした。




所持ポイント:60p


今日のテストも苦手科目の歴史だった

自慢じゃないが理数以外はからっきしなのだ

…にしても今回は40p取れた。今回は最下位じゃない

もしかして最下位は藍さんだったんじゃないか?確信は持てないけどテストに集中出来てる感じはなさそうだったし、確率は高いと思う


「悪いことしたなぁ」


いくら女同士とはいえ、いきなり部屋に行ったりするのはマズかったか

中庭での会話で仲良くなったと勘違いしてしまった。キス犯を探ることは大事だけど、他の人に迷惑を掛けてはいけない

藍さんみたな内気な人にはもっと慎重に距離を詰めるべきだった


「明日謝ろう」


消灯時間になったのでベットに潜り込もうとすると、ドアの隙間に紙が差し込まれているのを見つけた

…まさか玲子さんからの果たし状か?恐る恐る開いてみる


綾世さんへ


今日はごめんなさい

また仲良くしてくれたら嬉しいです。


古謝藍


あ、あ、あ、藍ちゃ~ん!

なんて良い子なんだ

私が悪いのにこんな健気な手紙をくれるなんて!

思わず藍ちゃんの部屋に行こうとしたが、思い直した。ここで行ったらまた怖がらせてしまう

私のバカ!そういうとこやぞ!


気分が軽くなった所でベットに入りなおす

あ、そういえばアイマスク買ってたんだ

サイズとか特に選べなかったから今更ながら合うのかちょっと心配になってきた


「!?!?!?」


アイマスクは私の顔にしっくりときた

いや、しっくりとし過ぎている

…そうだ!初日にキスされる前、メイドさんにアイマスク付けられたんだ


と、言うことはキス犯は初日にアイマスクを買ってメイドさんに渡したってこと?

初日にアイマスクを買える人物…


全員じゃん!!ダメじゃん!!

アイマスクは20pだったよね。初日のテストで最下位だった私でも買える。だからテストの順位はアテにならないし、調べる術もない


いや、調べる術はある

部屋にアイマスクがあるかどうか調べれば良いんだ

だとしたら…頑なに部屋に入れることを拒否した藍ちゃんがやっぱり怪しい

うーんでもあれだけ『二人きり』を躊躇った理由はなんだ?そこは分からないけどとにかく藍ちゃんが最有力容疑者なのは間違いない、明日からも調べてみよう

お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!




ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!

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