②全員が容疑者
翌朝7時30分
元不登校児にはキツい時間だが、規則違反を犯したらまたメイドさんに投げ飛ばされて肋骨の本数がマイナスになるかもしれないので頑張って起きた。昨日の一件で全然寝れてないので凄く眠い…
食堂に入ると既に他の寮生は全員席についていた
軽く挨拶してから私も席に着く
朝食は全員で摂ることという規則だが、正直昨日初めて会った連中と食べるのはあまり気が進まない
強豪スポーツ部とかじゃないんだから別々で良いじゃん
「……………」
目玉焼きと生野菜とスープか…
寂れた民宿よりショボい
タダならこんなもんか…
「綾世~、ソース付ける?やっぱソース付けないと始まらないよね」
「え、あ、ありがと」
そ、ソース取ってくれたぁぁぁッ!?
鳴滝夏帆さんだっけ、こ、こいつ私に惚れてね!?昨日私に施設を案内してくれたし絶対惚れてる!
彼女はくせ毛か寝ぐせか分からない髪をフワっと揺らしながらニカっと笑った。
「目玉焼きには醤油じゃないかしら?勝手に決めつけるのはどうかと思うわ」
「あ、アハハ」
しょ、醤油取ってくれたぁぁぁッ!?
日向寺玲子さんだったよね。私もどっちかというと醤油派だよぉぉぉ!
なんで知ってんの?私に惚れてるからか?昨日キスした?
前髪をきっちりと横に分けた委員長タイプの彼女は軽く夏帆さんを睨む。
「あ、あの…私の勘違いかもしれないけど、綾世さん体調悪かったりしないかな?もし食欲ないなら無理しなくても…あ、でもお水は飲んだ方が良いよね」
「あ、ありがと、体調は大丈夫だよ」
み、水出してくれたぁぁぁッ!?
古謝藍さん優しすぎるぅ!惚れてるぅ!さーては昨日キスしたの君だな!
小さなおさげを二つ垂らした気が弱そうな彼女は心配そうに私を見ている。
「んー体調悪いのか~?もうホームシックかな?」
「もう!茶化すようなことを言わないの!」
「ほ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって!」
そう言って私は藍さんから受け取った水を目玉焼きの上にかけた
…どうやら大丈夫じゃなかったらしい
「ほー目玉焼きに水とは斬新だ~今度ボクもやってみるかな」
「な、ワケないでしょ!やっぱりどこかおかしいのよ!」
「わわわ、今日は休んでた方が…」
ちょっとしたパニックになってしまったが、その様子を冷ややかに見つめる視線に気づく
「……………」
無言で見つめてきてるぅぅぅッ!?
たしかキスしてきた犯人ってずっと無言だったよね!
黒瀬琴乃さん!クール気取ってますけど貴女私にベタ惚れですよねぇぇぇ!?
彼女は私と目が合ったことに気づくと、目を伏せて食事に戻る。朝一だというのに長い黒髪は完璧に手入れされており乱れ一つない
全員が私に惚れているという妄想を振り払いながらなんとか二階の自室に戻り、簡素なベットの上にごろんと横になる。
それにしてもこの部屋は殺風景だな
施設の共有部分であるロビーや食堂はアンティーク調の家具や装飾が施されてあり、そういうのに疎い私でも趣味が良いと分かるのだが、自室はそれに反して何もない、あるのは質素な勉強机と椅子、それにパイプベットだけだ。
その理由は察しがついている
私はベットに横たわったままスマホを開いた。昨日、入寮と同時に私物のスマホは没収されてしまったが、代わりにこのスマホが渡された。
施設の関係者にしか連絡出来ないキッズケータイ並の代物、唯一入っているアプリを開く
所持ポイント:20p
画面に表示された持ちポイントを確認した
続けて販売リストを見る
販売リストは日用品や参考書、娯楽品まで多岐に渡る
その中で私は今一番欲しいものを探す。
遮光カーテン:100p
100pかぁ…ちょっと遠いな
私、寝るとき完全に暗くないと寝れないタイプなんだよね…
毎日の小テストの結果によってポイントは支給される。1位は100pで5位は20pらしい
生徒は5人だからつまり昨日のテストは最下位ってワケ
今日のテストで1位か2位を取ればカーテンを買える。昨日は苦手な現国だったけど得意な数学ならイケるかもしれない
でもなぁ…日用品だって色々必要だしなぁ…
今の薄いカーテンで暫く我慢するか
「……………」
いや、ポイントが足りなくてもカーテンを買う手段はある
初回特典:なんでも叶えるチケット(出来る範囲で)
画面に表示されたチケットをじっと見つめる
昨日も説明したが入寮特典らしく、管理者のメイドさんによるとこれを使えば何でも出来る範囲で望みを叶えてくれるらしい
「これでカーテン買うのは勿体ないよな…って、、、」
その時、私は思い出した
昨日のキス犯はこれを使ったんだよね?
…だとしたら思い切りが良すぎないか?私に惚れすぎてない?
なんでも(なんでもとは言ってない)チケットで私とキスすることを選択したんだよ
ベットから起き上がって自室の洗面所に行く
鏡で前髪を止めている銀色のピンを無意識に擦りながら自分の顔をまじまじと見てみる
うーん自分的には悪くはないと思うんだけど、私達は昨日初めて会ったんだよ?出会った瞬間に恋に落ちるような顔はしてないと思う
一目惚れされるとしたら黒瀬さんとかじゃないかなぁ
西洋人形みたいな美しい容姿だし、スタイルもスラっとしていて綺麗…
「いかんいかん、いかんぞ綾坂綾世ぇ…キスされてからおかしくなってるぞ」
クールで美しい黒瀬さんが私にキスする想像を打ち払う
妄想なんてしてる場合じゃないぞ、私は勉強してポイント貯めてカーテンを買うんだ
買いたいのはカーテンだけじゃない、フカフカのベットだって欲しい
良い暮らしをする為、勉学に励むのだ
奮起して勉強机に向かう、夕飯前に行われるテストの範囲は分からない
それでも私は得意な数学にヤマを張って勉強することにした。
コンコン!
「!?!?!?」
そろそろ休憩しようかと思ってたところ、ドアをノックされたのでビクっと身体が跳ねた
ドアの音にめちゃくちゃ敏感になってる!
「綾世、大丈夫かな?」
「な、鳴滝さん」
「鳴滝じゃなくて夏帆って呼んでくれよ。仲間だろ~」
来訪者は鳴滝夏帆だった。
彼女はニカっと笑って私にカフェオレを手渡してくれた。
「ありがと、いいの?」
「いいっていいって、それとも水の方が良かったかな?目玉焼きにかけるくらい好きだもんね」
「い、いやアレは忘れて」
カフェオレって確か10pだったよね
貴重なポイントを私に使ってくれたの?ほ、惚れてる?
夏帆は自分の分のカフェオレを一口飲んでから私の肩に触れた
あ、絶対惚れてる
「なー折角ならロビーでみんなと勉強しないか?5人集まればもんじゃ焼きって言うよね?」
「それを言うなら三人寄れば文殊の知恵でしょ」
…私ってコイツに昨日の現国負けたの?
どちらかと言うと一人で勉強したいタイプだが、カフェオレを奢ってもらった手前、断るのも申し訳ないと思い、夏帆と一緒にロビーに降りた。
ロビーには寮生全員が居た
意外なことに協調性がなさそうな黒瀬さんも居る
一瞬目が合ってすぐに目を逸らす。さっきキスする妄想してしまったからなんとなく気まずい
彼女らの手元にはカフェオレが置いてあった
…もしかして夏帆は全員にカフェオレを奢ったのか?
この施設は不登校の更生施設及び、予備校を兼ねているらしいが、夏帆ってマジで不登校だったの?明るいし人格者だし、とてもそんな風に見えない
自分の為だけにポイントを使おうとしていた私とは月とスッポンだ
「あ、綾世さん、もう大丈夫なの…かな?」
「うん、大丈夫だよ」
自室と違ってフカフカな椅子に座ると、すぐに藍さんが声を掛けてくれた
本当に優しい子だ、この子も不登校だったとは考えずらい
クラスでは目立たないけど、皆には好かれるタイプだと思う。可愛いし…
「綾世さん、苦手な教科はあるかしら?私は英語は得意だからそれだったら役に立てると思うけど」
「ありがと、英語は苦手だから教えてもらえると嬉しい」
玲子さんに英語を教えてもらうことになった
今日は数学を勉強する日と決めていたのだが彼女の厚意を無下にするのもなんだし、予備校と言っても講義とかは特にないから教えてもらえるのは助かる。
「…甘い」
玲子さんに勉強を教えてもらおうと椅子を彼女の近くに寄せた瞬間、今までずっと黙っていた黒瀬さんが口を開いた。
「甘いってどういうことかしら?」
黒瀬さんの非難めいた言葉に玲子さんが噛みつく
あの…喧嘩はやめてもらって
「テストの順位によってポイントが決まる。つまり私達は敵同士ってこと、勉強を教えるなんて愚の骨頂」
あ、コイツ私に惚れてないわ
「私はそうは思わない、全員が満点を取れば全員100p貰えるのよ」
「そんなことは現実的に起こらない」
玲子さんの意見を取り付く島もなく否定してから黒瀬さんは長い髪を翻して席を立った
「おいおい~、ちょっと待ってよ」
夏帆も席を立って自室に戻ろうとしている黒瀬さんを追う
私も立ち上がろうとしたが、玲子さんに袖を掴まれ阻止された
「放っておけばいいのよ」
「で、でも」
「ここは夏帆さんに任せた方が良いわ」
「………うん」
席に座りなおして再び参考書に目を通す。
そういえば黒瀬さんと夏帆は同じ高校だったな
初日に集まった時、同じブレザーの制服を着ていたから分かる。二人で喋っている所はあまり見たことないけど、私達よりは深い関係なのかもしれない
ちなみに玲子さんと藍さんも同じ高校みたい、同じセーラー服を着ていた。
つまりこの施設には3校の生徒が集まっている。黒瀬さんと夏帆が同じ高校で、玲子さんと藍さんも同じ高校、私だけ誰とも違う高校に通っていたからますます何者かにキスされた理由が分からない
お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!
ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!