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⑯好きだったコトと好きなヒト

翌日、夏帆は普通に接してくれた

いや、何もなかったことにしてくれたと言うべきか

彼女は相変わらず寮生の中心だが、時々愁いを帯びた表情を見せることがあった

私はその表情の意味を図り知りえないままその日が来てしまった。




「鳴滝夏帆様はご実家の都合で退寮しました」

「えっ!?」


夏帆にフラれた一週間後の朝

夏帆が現れないなぁと思ってたらメイドさんから衝撃な事実を知らされた


黒瀬さんと目が合う

彼女も珍しく表情を崩して驚いた顔をしていた


どうやら黒瀬さんも知らなかったらしい

本当は夏帆と黒瀬さんが付き合っているんじゃないかと訝しんでいたがどうやら違うらしい

誰にも告げずに居なくなったのか

私のせいだよね…あんなことがあったから居たたまれなくなって出て行った。


全員無言で朝食を食べる

藍ちゃんが玲子さんの近くにあった調味料を手を伸ばして取る。以前なら声を掛けてたのに…

二人はまだ仲直り出来てないらしい

太陽なような夏帆が居なくなったこの施設はどうなってしまうんだろう




朝食後、夏帆の部屋に行く

彼女の部屋にはポイントで買ったダンベルやらバランスボールやらがまだ置いてあった

そっとベットに触れてみる。温もりは感じなかった


「…寂しいよ」

「きも」


バッと入口の方を見ると段ボールを抱えたメイドさんが立っていた

変態にきもいって言われる筋合いはない


「片付けるので出て行って頂けますか?布団の匂いを嗅いでいたのは秘密にしておきますので」

「嗅いでない!触ってただけ!」


私の抗議をよそにメイドさんはひょいっとダンベルを持ち上げ段ボールに入れた

夏帆の持ち物だったものが一つずつ段ボールに入れられるたび彼女との思い出が無くなっていってしまっているようで寂しい


「ねぇ、それどうするの?」

「倉庫に仕舞います。後で嗅ぐおつもりですか?」

「嗅いでねっての」


倉庫と聞いて思い出した

あそこにあった明らかに使われた形跡があるバーベキューセットのことを聞いてない

今となってはどうでもいいことかもしれないけど


「前さ、倉庫に古いバーベキューセットがあったんだけど、もしかして前の寮生が使ったやつ?」

「ええ、そうですね」

「えっ?」


てっきり「お答え出来ません」と言われると思っていたが、以外にもメイドさんはあっさりと認めた。


「じゃあ私達以前に寮生が居たってこと?」

「…前にも言いましたよね。貴女方は一期生だと」

「んん?」


バーベキューセットは前の寮生が使ってたのに私達は一期生?

意味が分からない


頭の上にハテナが浮かんでいる私を無視してメイドさんは萎んだバランスボールを段ボールに入れ、最後に机の引き出しを開けた


そこにはアイマスクとケーブルが3本入っていた


「!?!?!?」


反射的に私は叫ぶ


「ちょっと待って!」


急いでケーブルを腕に当てる。うん、、、あの時の感覚と一緒だ


「…メイドさん」

「はい」

「『なんでも叶えるチケット』を使うよ」


私の願いはメイドさんによると叶えられるかどうか分からないらしく、叶えられるとしても日を要するとのことだった

それでも必死にお願いした。変態に頭を下げた。

そうしたら折れてくれて「やるだけやってみます」と返答を得た。




それからはそわそわした気持ちのまま数日過ごした

メイドさんに時々進捗を聞いてみるが「まだです」とのつれない返事ばかり


そんな私の態度を案じたのか黒瀬さんが話しかけてくれた

意外なことに夏帆が居なくなった後は玲子さんじゃなく、黒瀬さんがみんなのリーダー的存在になっていた。


「貴女大丈夫?」

「え?大丈夫だよ」

「ウソ、平気なら理由もなく中庭をウロウロしない」

「さ、散歩だよ散歩」

「夏帆のことを考えているの?」

「うっっ」


図星だった

玲子さんと藍ちゃんの仲のことや施設に残されたナゾのことも気になるが一番考えてたのは夏帆のことだった。


「…一つ聞いていい?」

「なに?」


口数は少ないが結構直球でモノを言う黒瀬さんにしては珍しく言いにくそうにしている

私は彼女が聞きやすいように笑顔を取り繕ってもう一度聞いた。


「なにかな?」

「絵は好き?」

「……………」


笑顔のまま固まる

黒瀬さんはなんで今、絵について聞いてきたんだろう?

そういえば彼女は上手いか下手かは別として絵を描くのは好きな感じだったっけ

部屋に()()があったしピクニックの時は絵を描いていた。


「今は…あまり好きじゃないかな」

「…そう」


正直に答えた

私はかつて絵を描いていた

最初はもちろんへたっぴだったけど、描いていくうちに上達していってネットに上げてみたら反響を呼んで沢山のファンが付き、いつの間にか『神絵師』と持て囃されるようになった。


そこまでは良かった

けど大量のファンが付けばアンチも付く、アンチの心無い書き込みは私の心に傷をつけたし、過去の発言から学校まで特定されて不登校にまで追いやられてしまった。


それからは絵を描くのを止めた

使っていた液タブは押し入れの奥にしまった。見るのはおろか名前も口に出すのが嫌になってしまった。だから私は液タブを()()と呼んでいた。

黒瀬さんのパソコンに繋がれた液タブを見た時は思わず目を逸らしてしまった。


「どうして聞いたの?」

「…なんとなく」


なんとなく?

本当にそうだろうか

黒瀬さんは私の前で絵を描いたり描いてみるって聞いてきたりして私の過去を知っているように感じる


「…もう一つ聞きたいことがあるの」

「うん?」


私が質問する前に黒瀬さんからまた質問があるらしい

いつになく多弁だな


「……………」


と、思ったら押し黙ってしまった

さっきよりも聞きづらそうだ

固まった笑顔のままでもう一度問う


「聞きたいこと?」

「夏帆のこと…す、好きなの?」

「うん。好き」


私は夏帆みたいにニカっと笑って答えた

さっきまでの作り笑いじゃない


「…そう」


絵のことを答えた時と同じ短い返答だったが、黒瀬さんは微笑んでいた

どこかすっきりしたような表情に見えた


「ここに居ましたか」


振り向くとそこにはメイドさんが居た

私を探してたってことは例の件に決着が付いたんだ


「お生憎ですが…」


メイドさんの最初の一声で理解してしまった

私が『なんでも叶えるチケット』まで使って叶えたかったことはどうやら叶えられなかったらしい

お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!




ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!

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