⑮綾世が悪いんだよ
修羅場
今の状況を辞書で引いたらこの場面が挿絵に使われそう
「ち、違うんだよ玲子さん!」
「…なにが違うのかしら?」
本当に違うのだがなんか自分の言い方が嘘っぽく聞こえる
藍ちゃんも加勢してよ
「本当に違うんだよ。綾世ちゃんは私とお話してただけ」
「じゃあ隠れる必要はなくて?」
ぐっ…
鋭い指摘を受ける
確かにそれはそう
隠れないで堂々としていれば良かったかもしれない
いや、でもなぁ布団被って密着してたからなぁ
「二人でお布団被って話してたからね。玲子に誤解されちゃうと思って綾世ちゃんを隠したんだ」
藍ちゃんは正直に話した
でも玲子さんの怒りは収まらない
「恋人の私を差し置いて布団の上で話すことってなに!?こっちは具合悪いって言ってたのに!!」
き、キレた…
「具合悪いって言うのは嘘だよね!どうしていっつも疑ってくるの!?」
藍ちゃんもキレるんかい
正直こっちがキレるのはどうかと思うよ
キミ、私に結構密着したよね
「どうした~?パーティなら入れてくれよな」
ここで救世主の夏帆が参上
この惨状を抑えてくれよ
私は山上から見守ってるからYO♪
「藍と綾世さんが一緒の布団でよろしくしてたのよ」
「うぇ!?」
玲子さーーーん!
その言い方だとあらぬ疑いがぁ
「綾世…ボクにあんなことしておいて藍ちゃんとも…」
「うぇ!?」
夏帆さーーーん!
救世主じゃなかったのかよ!
修羅場に仲間入りしないでよ
「か、カノジョ面しないでよ!自分だって今まで黒瀬さんの部屋に居たくせに!」
「な、なぜそれを?」
綾世さーーーん!
なに言い返してんだ自分んんん
もう修羅場どころじゃないよ地獄の極だよ
「…いいかげんにして」
機嫌が悪そうな黒瀬さんが入口から顔を覗かせた
寝てたのか眠そうな顔をしている。
「煩くて寝れない、揉めるなら明日にして」
黒瀬さんの剣幕に押されて全員が黙る
とりあえず決着は明日に持ち込まれた
もう人間関係ごちゃごちゃだ
翌日、朝食後
みんなでロビーに集まって昨日の騒動の事を改めて話した
「…要約すると、綾世さんが夏帆を夜這いしたのにも関わらず、藍さんの布団に潜り込んだってことでいい?」
「チギャウ!全然要約出来てない!」
黒瀬さんの纏めに私は毅然と抗議した
普段頭良いくせになんでこんな結論になるの!?
「あのさ、、、黒瀬に聞きたいんだけど…」
夏帆が言いにくそうに切り出した
彼女にしては珍しい態度だ
「なに?」
「なんで黒瀬が綾世の服着てるの?」
「綾世さんが私になりたいって言うから服を交換してあげたの」
「わ、私になりたい?」
夏帆がハイライトが消えた瞳で私を見つめる
絶望フェイス
「そういえば綾世ちゃんって前に玲子のこと目隠ししてたよね」
「藍ちゃん!?それは…」
藍ちゃんはこの当事者の一人であるのにも関わらずこの状況を楽しんでいるようだった
口元を抑えながら微笑んだ彼女は堕天使に見えた
「目隠し!?」
また夏帆が反応する
黒瀬さんは腕を組んで私に冷たい眼差しを送った。
「貴女全員に手出してない?」
「違いますけど!?」
冤罪スケコマシ!
ダメだ、もっと詳細に説明しないと
私は玲子さんと藍ちゃんとの『謎解き部』の活動で夏帆か黒瀬さんを内通者だと疑ってしまい、それを調べる為に二人の服を調べたことを正直に話し、昨日メイドさんの部屋で起こったことも話した。
「…それで急に服を交換しようって言いだしたのね」
「……………」
「ご、ごめん」
私につられて玲子さんと藍ちゃんも二人に謝る
ちょっと流れがマシになってきたかもしれない
夏帆が無言になっちゃったのが気になるけど
「それで、藍の布団に潜り込んだ理由は?」
「チギャウって!」
玲子さんの指摘で再び流れが激流になる
「本当に違うよ。私が綾世ちゃんと内緒話をしたいから誘ったの」
やっと藍ちゃんが助け船を出してくれた
玲子さんの視線が私から藍ちゃんに移る。
「内緒話とはなにかしら?」
「内緒話だから言えないよ」
「…ベットの上でする内緒話ってなにかしらね。藍、もう隠し事はナシにしましょう。怒らないから言って」
「んーでもまだ言えない」
ここにきても私を誘った理由を明かさない藍ちゃん
そういえば話の途中で玲子さんが来たんだっけ
結局なにが言いたかったんだろう
「もういいよ!!」
痴話喧嘩を遮ったのは夏帆だった
彼女のこんな声は聞いたことがない
「…部屋に戻るよ」
そういって夏帆はロビーから出て行ってしまった
私のせいだ
慌てて追おうとしたが黒瀬さんに引き留められる
「…待って、今の貴女が行ってなんて声を掛けるの?」
「それは…」
答えは思いつかなかった
私は自分が思っている以上に大変なことをしてしまったのかもしれない
所持ポイント:40p
夕食後のテストは4位だった
夏帆はテストを休んだから実質私が最下位
でもそんなことはどうでもいい
彼女に掛ける言葉はまだ決まってない
でも行かないといけない、行かないと気が済まない
所持ポイント:20p
詫びのカフェオレ、通称詫びオレを持って夏帆の部屋のドアをノックする
「どうぞ~」
意外なことに少し明るそうな返事が返ってきたので私はちょっとホッとしながら部屋に入った
「ああ、綾世か。昼は悪かったね」
「ううん、私こそごめん」
夏帆に詫びオレを渡してから椅子に座って自分のカフェオレに口を付ける
彼女はベットの上に腰かけながら私の様子をぼんやりと見ている
やっぱり元気ないな
「あの、本当にごめんね。疑ってあんなことして」
「いやいやいや、そんなに謝らなくていいって」
「でも…」
「それよりさ、キス犯の捜査は進んでるのか~?」
夏帆は笑って話題を変えた
いつものニカっとした笑顔じゃないから本調子じゃないのは分かる
「……………」
「どした?」
ここで気づいた
最近は『施設の陰謀』を捜査してからキス犯のことは二の次だった
でもいつの間にか捜査は進んでいた。
頭の中で情報を整理する
メイドさんは百合好きの変態だけど、メイドさんは香水を付けていてキス犯からは香りはしなかった。
黒瀬さんはあの時点でポイントを全て使い切っており、アイマスクとケーブルを買う余裕はない
玲子さんと藍ちゃんの仲は拗れているけど、初日はまだ付き合っていた。玲子さんは『なんでも叶えるチケット』でメイドさんの部屋に入ったからキス犯じゃない
藍ちゃんはまだなにかを隠している感じだけど藍ちゃんの部屋からは何も見つかっていない
全員に決定的なアリバイがあるワケじゃないけど消去法で言えば、目の前に居る彼女が一番怪しいのかもしれない
また疑ってしまう罪悪感に苛まれながら私は口を開いた
「夏帆がキス犯なの?」
「……………」
私の質問には答えず、夏帆は詫びオレを一口飲んだ
そして自嘲気味の笑みを私に向けた。
「だったら綾世はどう思う?」
「私は…」
夏帆がキス犯だったら?
彼女の顔をじっと見つめ、真剣に考える
夏帆の誰にでも分け隔てなく接する性格、ニカっとした屈託のない笑顔
あの日、彼女を調べるために身体を弄っちゃった時の表情
どれも私の心を動かした。
「嬉しいと思う」
「!?」
夏帆は大きく目を見開いた
私は椅子から立ち上がって夏帆の隣に座る
「嬉しいよ」
「あ、綾世?」
横から夏帆を抱きしめる
身体に彼女の体温を感じた。
「今度は演技なんかじゃないから」
「分かってる…」
キス犯の正体が分かったらどうしようかと思っていたが今決めた
お返しをしてやるんだ
「夏帆がキス犯なんでしょ?」
そう言って私は紅潮した夏帆の顔に自分の顔を寄せる
白状した瞬間お返しをしてやる
「私は…」
よっぽど狼狽えているのか一人称がボクから私になっている夏帆
また新たな一面を見れて可愛いと思った
「私は?」
「うう~~~!!!」
「唸ってないで白状せい」
もういいや
口を割る気がないならこっちから攻めてやる
お前が攻めに弱いことは知ってるんだぞ
トンッ!
「!?」
唇が重なる瞬間、夏帆に押し返された
リバなの?ねぇリバなの?と思ったが、そっぽを向いた彼女の一言で違うと分かった
「ごめん、、、今日は帰ってくれない?」
「え?」
「…カフェオレありがとね」
「う、うん」
自分の部屋のベットに倒れこむ
もしかして…勘違いだった?
うわぁ~~~だとしたら恥ずかしすぎるじゃん
「唸ってないで白状せ~い」とか調子のったこと言っておいてフラれたよ!
だってあんな表情されちゃったら私に気があるって思うじゃん!!
夏帆…いや、私のバカぁぁぁッ!!!
中学の時の黒歴史を思い出したように私はベットの上で手足をジタバタした
ちなみに私の黒歴史はナルトに憧れて「だってばよ」を語尾に使っていたことです。
お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!
ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!
 




