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⑬ムササビの舞い

黒瀬さんは私があげた服を着ていた

私の服を着た彼女は珍しく機嫌が良さそうに朝食を食べている


ねぇぇぇ゛!?なんでそっち着てんの!?

ポイントで買ってあげた服着てよ!交換した服着てこないでよ!


「ねぇ、黒瀬さんが着ている服って…綾世ちゃんのだよね?」

「藍、食事中にはしたない話はしない方が良いわ」


一瞬でそっちに想像しちゃう玲子さんの方がはしたないですわ!

藍ちゃんと玲子さんは一応声を落としてヒソヒソしているつもりなのだろうが、全員同じテーブルじゃムリがある


ガツガツガツ!


さっきから一言も喋らないなと思っていたが、夏帆はお茶漬けを猛烈な勢いで喰いついていた

この場面CMで見たことある!


「朝に食べるお茶漬けはトクベツに美味しいな~」


そんなどうでもいいことを言いながら夏帆は食器を下げて、食堂から足早に出て行った


「ねぇ、今の夏帆さんの行動って…黒瀬さんが着ている服を見たくないからだよね?」

「それだけじゃないわ。綾世さんと黒瀬さんが熱い一夜を過ごしたという現実から目を逸らしたくてああいう行動に出たのよ」


玲子さんはなんですぐそういう想像しちゃうの?

てか、黒瀬さんもなんか反論してよ。結構デカいヒソヒソ声だから聞こえてるんでしょ?


「あ、熱い一夜…」


そう呟いた黒瀬さんと目が合ってしまう

彼女は途端に顔を真っ赤にして夏帆の3倍のスピードで食堂から出て行ってしまった

なに想像したかは無視するとして、その反応は本当にそういうことがあったみたいになるんよ…




昼食後、中庭でいつもの『ナゾ解き部』の定例会議が始まる

議題はもちろん調査の進捗…じゃなくて昨日の夜、私と黒瀬さんの間に何があったのかだ


「~ってことだから!勢いで服交換しちゃっただけだから!それだけだから!」

「それだけで黒瀬さんあんな感じになるかなぁ?」

「そこは知らないけど!」


今回は最初から包み隠さずに黒瀬さんをどうやって調べたか説明したのに藍ちゃんはキラキラした瞳で追及してくる。人の恋バナは大好きか!?


「そこまで聞くのはヤボよ」

「いや…ヤボとかじゃなくて本当に何もないんだって」

「フフッ、いいのよ」


よくねぇよ

玲子さんの全部分かってます感がうぜぇ

…今思ったけどコイツら私で遊んでない?


「とにかく、黒瀬さんはシロだよ。内通者は存在しない」

「内通者ではないにせよ。黒瀬さんの様子からしてキス犯の可能性があるから仲間には入れられないわ」

「はいはい、そう言うと思った」

「綾世ちゃんは夏帆さんと黒瀬ちゃんどっちが良いの?」

「恋バナから離れろよ!」


藍ちゃんに人生二度目のツッコミをした所で私は二人の進捗を聞いた


「何も成果はなかったわ!」

「なかったよ!」

「…グーでいい?」


私がキス犯よりも凶悪な夜這い犯になってる間に、この二人は何やってたの?イチャついてたんじゃあるまいな!?


「言ったでしょ。奥の手があるって」

「奥の手?」


回転ラリアットで二人同時に攻撃してやろうと思ったが、玲子さんの言葉で回転を止めた

そういえば奥の手があるとかなんとか言ってたな


「実は言うと綾世さん待ちの状態だったのよ」

「どういうこと?」

「この奥の手は内通者がいない状態でしか使えない、だから夏帆さんと黒瀬さんがなにか隠し持っていないか調べる必要があった」

「勿体ぶらないでその奥の手とやらを教えてよ」

「メイドさんの部屋に入るのよ」


私は盛大にズッコケた

元々それが出来れば苦労はしない、メイドさんの部屋はカギが掛かるし、彼女がカギをかけ忘れるとは思えない


「どうやって入るの?」

「それはまだ秘密、決行は今夜、テスト後に行うわ」

「本当に大丈夫なの?」

「ええ、内通者が居なければ完璧な奇襲になる。必ず作戦は成功するわ」


メイドさんが部屋から出た瞬間に二人で取り押さえて、一人が部屋の中を調べるとか?

あの人、多分特殊部隊上がりだから三人がかりでも勝てないと思うよ




所持ポイント:20


一旦、玲子さんの部屋に集まる。前よりぬいぐるみが増えている

家具よりぬいぐるみが優先なのか、彼女の部屋はベットやカーテンは初期状態のままであった。前に見たアイマスクを探すとテーブルの上に置いてあるのが見えた


「…ぬいぐるみが増えてちゃ悪い?」

「なにも言ってませんけど!」

「ねぇ玲子、そろそろ奥の手を教えてよ」

「大丈夫、私に任せておきなさい」


てっきり藍ちゃんは奥の手について知っているかと思っていたが、彼女も知らないようだった

この作戦、本当に大丈夫?


「ちょっと様子を見て来るわ」


そう言って玲子さんは私達を残して部屋を出て行った

事前の作戦会議がほとんど無いくせに変な所は慎重だな


「ねぇ、玲子が喜ぶことってなにかな?」

「えっ?」


藍ちゃんがベットの上に置いてあったぬいぐるみを抱えながら私に聞いてきた

そういうことは玲子さんのカノジョの藍ちゃんの方が詳しいのでは?

でもそれを言ったら答えにならないので、私は少ないヒントで答えた


「サンリオのぬいぐるみが多いからピュローランドに一緒に行くとか」

「え、サンリオが多いんだ!綾世ちゃんもサンリオ好きなの?」

「好きと言えば好きだけど…」


藍ちゃんって意外とキャラクターとかに興味ないのかな?私もそこまで詳しくないけど…

そんな薄い会話をしていた所、玲子さんが生きて帰ってきた

玲子さんの部屋を出て、メイドさんの部屋のドアの前に着く

今更ながら緊張してきた。本当に大丈夫なんだろうな?今日は延期して一週間くらい全員で筋トレした方が良いと思うよ


トントン!


なにをするかと身構えていたが、玲子さんは普通にノックをした


「日向寺玲子です」

「どうぞ」


拍子抜けするほどあっさりメイドさんの部屋に入れた

もしかして普段からノックすれば入れたの?奥の手ってノック?


メイドさんの部屋はみんなの部屋と違って豪勢な家具で溢れていたが、そんなモノよりも目を引いたのはディスプレイモニターであった。

二台のモニターには一階と二階の間取りが描かれており、黒瀬さんの部屋に赤い点が二つ、そして今私達がいるメイドさんの部屋には赤い点が三つあった。

ポケットに入っている支給されたスマホを触る。なんで今まで気づかなかったんだろう、スマホの位置情報がメイドさんに筒抜けだったのだ


「やっぱり私達を監視してたのね」

「監視とは人聞きが悪いですね。私がしていることは保護ですよ」


秘密がバレたのにも関わらず、メイドさんは悪びれもせず答えた

表情はいつも通りのすまし顔だ


「藍と綾世さんは部屋を調べて」


そう言うと玲子さんはディスプレイの前に座った

私は部屋の端にある大きな書庫を調べることにした

藍ちゃんはベットの布団をひっくり返した。…そこには流石になんもないと思う


「この施設の周辺には文字通り何もありません。外に出て迷子にでもなれば事ですからね。そういった過ちがないように保護として機能しているシステムです」

「私達に黙っていた理由は?」

「位置情報が知れてると分かったら良い気はしないでしょう?配慮ですよ」

「良い気がしないと分かっておきながらすることが配慮?冗談じゃないわ」


玲子さんは憤った様子でマウスを動かす

私も書庫の中のファイルを調べるが、特に目ぼしい情報は見当たらない

藍ちゃんは冷蔵庫を開けた。部屋に冷蔵庫あるのいいなぁ…ってそうじゃない、そこにもなんもないでしょ


「…外部に送信している形跡はないわね」

「そろそろおかえり願いますか?」


どうやら監視しているのは位置情報だけで、映像や音声は記録されていないようだ

とりあえず最大の懸念であった恋愛バラエティショーの可能性はなさそう


「見つけたー!」


タイムリミットかと思われた瞬間、藍ちゃんが電子レンジの中からなにか見つけたらしく、満面の笑みでソレを両手に抱いて持ってきてテーブルに広げた


「なっ!」


こんなに動揺したメイドさんは見たことない

彼女は広げられたソレを隠す為にムササビのように飛び上がってテーブルに覆いかぶさったが、スレンダーなのが災いして、全部は隠しきれなかった。




女の子同士が只ならぬ雰囲気で見つめ合っている表紙の本

百合本じゃん…しかも大量にある


私は冷めた眼差しでメイドさんの脇をくすぐって拷問した


「ひ、ひひっ…や、やめ、ふふっ」

「メイドちゃ~ん?これどういうこと?」

「ま、間違えて買ってしまっひひっ、、、」


玲子さんも反対側に回って加勢してくれる


「一冊ならまだしもこんな大量に間違えるハズないじゃない」

「く、くぅ~っわ、私は目が悪いんでぇへへっ」

「それなら普段メガネをしていないとおかしいわ。こういう趣味があるんじゃない?」

「そ、そんなことぅふふふっ」


流石、元特殊部隊(勝手に決めつけてる)言い訳は苦しいが、口を割る気配がない

藍ちゃんに足もくすぐって貰おうか


「どうも妹に溺愛され過ぎて困ってる姉です」「憧れの『お姉さま』を探す為に100円で女の子に抱かれる部活に入った女の子のお話」「毎日女の子とキスしないと死んじゃう呪いにかかった魔法少女」「異世界転生したので念願の百合ハーレム生活を楽しみます」「女子高なのに先輩と後輩に同時に告白されて困ってます」


「こ、降参!ひひっ降参!全部言いますから!これ以上は!!」


藍ちゃんに百合本のタイトルを読まれて耐えられなくなったメイドさんはあっけなく落ちた

私と玲子さんは拷問を止めたが、メイドさんはそのまま動かない

お腹の下にあるのは相当やばいブツなのか?


「先輩と後輩に告白されちゃうの私も読んだことあるよ。メイドさんはどっち派?」

「こ、後輩ですかね」

「えー私も!気が合うね」


藍ちゃんの質問に死んだ目で答えたメイドさん

かつてこんなに相手がノリ気じゃない同じ趣味の会話を聞いたことがあるだろうか


「藍ちゃん、その話は後にしよう」

「そうね。今は尋問の時間よ」


玲子さんは相変わらずテーブルの上でムササビポーズを取っているメイドさんの前に立った


「単刀直入に聞くわ、貴女は同性愛者をこの施設に集めた?」

「…違います」

「シラを切る気?…藍」

「百戦錬磨のサキュバスですが見習い冒険者に百合【自主規制】されて返り討ちにされちゃいましたテヘ☆ペロ」


玲子さんの合図で、藍ちゃんは百合本のタイトルを読んだ

メイドさんの弱点属性にヒット!陸に上がったトビウオのようにビチビチしてる

お、恐ろしいコンビネーションだ…てか、藍ちゃんに【自主規制】とか言わすな!テヘ☆ペロじゃねーよ


「お二人だけです!」


お二人というのは以前から交際していた玲子さんと藍ちゃんのことだろう


「私達のことはどうやって調べた?」

「それは容易でした。SNSで話題になってましたから」

「……………」


二人は下を向いた

おそらく藍ちゃんが前に言ってた、教室に告発文が張られていた事件を思い出したのだろう


「私達のことは面白半分で呼んだってことかしら?」

「それは違います。ここに来なければお二人はどうなってましたか?近所の目を気にして外に出ることも出来なかったでしょうね。私に百合趣味があるのは今更否定しません。だからこそ貴女たちを救いたかったのです」

「藍…お願い」

「「お姉さま…いけませんわ」「あら?最初に誘ってきたのは貴女じゃない」「さ、誘ってなんていませんわ」「そう?じゃあ私の勘違いだったのかしら?ちょっと調べさせて貰える?」そう言って奈々未は桜子を抱き寄せ、熱い口づけを交わした」

「朗読しないで下さい!」


藍ちゃんの朗読にメイドさんはたまらず声を上げた

…この子拷問の才能あるな

この先が少し気になったが、表紙を見ると口づけだけで終わらなそうだったので、これ以上の展開を想像するのを止めた


「位置情報で百合妄想してましたぁぁぁッ!ごめんなさいぃぃぃッ!!玲子様と藍様が同じ部屋に居た時とか綾世様が夏帆様や黒瀬様の部屋に行っている時とか妄想が捗りましたぁぁぁ!!」


全員でメイドだった変態を蔑むような目で見る

警察って今から呼んだらどれくらいで来るのかな


「で、でも最初にお伝えした施設の目的は本当なんですぅぅぅ!【ニンジン教育】で社会復帰のお手伝いをするという理念は真実なんですぅぅぅッ!皆様はポイントで息抜き出来ますが私には何もないじゃないですかぁぁぁ!ちょっとくらい妄想しても罰は当たらないと思うのですぅぅぅ!」


最後ちょっと開き直ってない?あと一々叫ぶの地味にうぜぇ

とりあえずこの変態をどうするか玲子さんに視線を送った


「…ちょっと気分が悪くなってきたから部屋に戻るわ」

「え、大丈夫?付き添うよ」

「いえ、大丈夫、悪いけど二人はもう少し調べて貰えないかしら?」

「それはいいけど…」


玲子さんは片手で頭を抑えながら部屋から出て行った

モニターを見るとレイコと書いてある赤点が玲子さんの部屋に戻っていくのが見えた


「!!!!!」


ガタッ!


私と藍ちゃんの意識がモニターに移った隙をついて背後のメイドさんが立ち上がった気配を感じた

恐らく一番見られたくないブツは服の中にでも隠したのだろう

でもそんなことは今の私にはどうでもいい、私の意識は各モニターを繋いでいる複数のケーブルに注がれていた

ゆっくりと腕を伸ばしてケーブルを手首に当ててみた


この感覚…間違いない

私はこれで縛られたんだ


「メイドさん?」


ここでようやく私は振り向いた

案の定、彼女は立ち上がっており、幾分か冷静さを取り戻したように見える


「違います」

「まだ何も言ってないけど?」

「私は実際に綾世様を縛ったのですよ。だから貴女様が今お考えになられていることは分かります。私が綾世様をこのケーブルで縛ってキスしたと疑っている」

「違うの?」

「違います。キスしたのは私ではありません」


今のメイドさんはもう拷問から抜け出した状態だ

今の言葉は真実かどうか分からない

それを加味してもどうしても聞きたいことが一つあった


「お腹に隠した本はなに!?」

「答える義務はありません」


違うそっちじゃない、藍ちゃんはそろそろ寝よっか


「メイドさんは生徒の誰かを使って私にキスさせた?」

「その質問にも答える義務はありませんが、少し憤りを感じたので特別にお答えしましょう。私は生徒様を使って綾世様にキスさせていませんし、させる権利もありません。あくまで生徒様の願いに従ったままです」


さっきも言ったように同人誌という人質(本質)がない状態なので真実か否かは分からない

ただ…真実だと思った。どうか真実であってくれ

変態に縛られてキスされたという結末じゃ私が不憫過ぎる

うん、香水の件もあるしメイドさんはキス犯じゃないよね!


「もう就寝時間は過ぎています。いい加減にお帰り下さい」


不機嫌なメイドさんに追い立てられるようにして部屋から出る



「綾世ちゃんはどの本が一番気になった?」

「それ今する話!?玲子さんの様子を見に行こうよ」

「大丈夫だと思うよ。それよりさ…私の部屋に来ない?内緒のお話があるの」

「えっ」


カノジョが体調悪いのに他の女を連れ込むとはけしからんと思ったが、内緒のお話とやらが気になって藍ちゃんの招きを承諾してしまった

おそらく藍ちゃんと玲子さんも何かを隠している。以前、玲子さんを少し突いてみたけど結局うやむやになってしまっていた。もしかしたらそれが聞けるかもしれない

ふぅ…今夜は長い夜になりそうだ

健全な意味でね!!

お読み頂きありがとうございます!感謝感激です!!




ブクマと評価して頂けたら100メートルくらい飛び上がって喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!

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