第1話 入学式
前置きが長くなってしまいました
やっと本編に入ったという感じです
今日は魔法学園の入学式
1年生と保護者だけが学園に登校しています。
ほとんどの保護者は王都内にある程度の屋敷があるので、昨日までにそちらに移動していますが、
あまり裕福では無い、一部の男爵家などは王都に屋敷がないので、普通に宿に泊まります。
そして新入生は昨日のうちに、早い子は数日前から、学園の寮に入寮していました。
これから5年間の学園生活とともに、寮生活が始まります。
在学中は衣食住すべての費用が国から支給されます。
制服はもちろん、必要な文具、生活必需品、そのすべてが支給品
さらに、身分による質の違いもなく、王族から下級貴族、さらにめったにないことですが平民が入学しても
すべての支給品は、全く同じモノが支給されます。
2年生以降は魔法による課外活動があり、魔法による生活のサポートを学びます。
課外活動は、授業時間内のアルバイトのような扱いです。
それなりの収入があり、一度は学園側に入金されますが
それぞれの活躍により、生徒にアルバイト料として分配されます。
一年生はまだお金を稼ぐほど、魔法を使うことができません。
そして、2年生でも十分な収入を得ることはできない生徒がほとんどですが、
上級生の稼いだお金が、下級生に分配される仕組みになっています。
下級生は上級生に助けてもらう形になりますが
自分たちも、上級生になれば、下級生を助ける側に回るのです。
今のところ、生徒からも保護者からも不満が出たことはありません。
生活に必要なモノはすべて支給、ちょっと潤いを持たせるお小遣いは自力で稼ぐ
コレにより、この学園に居る間は、全くお金をかけることなく学ぶことができるのです。
一般教養と魔法理論、魔法法規、そして道徳倫理観の授業だけは全クラス共通ですが
魔法の授業だけは、入学時の魔力測定によるクラス分けで決まります
クラスは全部で4クラス
今年の人数は
Sクラスが10人
Aクラスも9人
Bクラスが10人
Cクラスが16人でした
一般的に高位貴族の方が魔力が強いので、Sクラスは高い身分の令息令嬢が多くなります。
今年は王族が二人、公爵家が三人、侯爵家が二人、伯爵家が二人、そして5年ぶりに子爵家が一人です。
Sクラスに伯爵家以下の者が三人も居るのは今年が初めてだそうです
そして今年は、13年ぶりに平民出身の生徒がいます。
しかも、過去最高のAクラス
平民出身の生徒は、入学と同時に一代限りの騎士爵となり、名字が与えられます。
学校の寮は学園と同じ敷地内、新入生は、全員徒歩で移動します。
寮の部屋は一人一部屋、身の回りのことはすべて自分自身で行います。
コレも、学生の間で身分の差が出ることなく、高位貴族・・・たとえ王族であっても、自分のことは自分自身でする!
そういう経験を積ませるためでもあります。
昨日のうちに王都に来ている両親は、ほとんどの者が馬車で学園に向かいますが、
オリビアも他の生徒と一緒に徒歩で入学式会場へと向かっていました。
因みにこの世界の移動手段は、馬車が主流、引いている馬も地球の馬とほぼ同じような生き物でした。
「やっぱりメアリが居ないと調子狂ううわ」
何か文句を言いながら歩くオリビア
周りから注目を集めていることに全く気がついていません。
「オイあの娘」
「うわ、すっごい綺麗な娘だな」
「綺麗なのも間違いないけど、あの子だよ、クラス分けで記録更新したらしいよ」
「ネエネエ、ほらレイエス家の」
「あ!オリビアさんだ、噂通り妖精みたい」
「あんな顔して、今までの1.5倍の記録出したんだって」
「じゃあ、第一王子の・・・オーウェン殿下の婚約者!」
「う~ん、なんかまだ候補らしいわよ」
「なんで?」
「わかんないけど、レイエス家でしょ、ほらちょっと変わってるから」
色々な意味で噂の的になっているオリビア
気がついていないと言うよりも、常日頃から色々言われなれているので、気にしない習慣がついているようです。
「「オリビア!」」
そんな中、オリビアに声をかける少女がいました。
「アリア、シャーロット、おはよう♪二人とも同じクラスでよかったわ」
声をかけたのは、アリア・サリヴァン公爵令嬢
そして、シャーロット・ラッセル侯爵令嬢の二人でした。
アリア・サリヴァンはこの国には珍しい、つややかな黒髪ストレートの美しい娘です。
美少女と言うよりも、大人の女性らしいご令嬢です。
もう1人のシャーロット・ラッセルは栗色の巻き毛を揺らせるような
可憐な美少女、オリビアとは違うタイプの、護ってあげたい小動物系の女の子です
領地が隣同士の、同じ歳の令嬢
子どもの頃から交流があります。
そして、アリアの父は先妻ソフィアの兄、血は繋がっていませんが、一応2人は従姉妹同士です。
お隣のお屋敷とイッテも、公爵家と侯爵家、それなりの広い領土があります。
飛行具ならば鐘ひとつ分で往復できますが、馬車で移動すると半日はかかります。
前世の感覚だと少し広めの隣の市くらいでしょうか?
移動にそれだけの時間が掛かるので、その後はお泊まりという流れになることがほとんど
レイエス領は両方の領地に隣接しているため、アリアとシャーロットがレイエス家に来ることが多くなっていました。
成り上がり公爵と言われていますが、その分家族全員が気さくなレイエス家
妖精のように美しく、天才と言われるほど賢いオリビアですが
公爵家の令嬢とは思えない姿で、遊び回るオリビアに、2人のご令嬢もすっかりと打ち解けて
貴族の令嬢らしからぬ、子どもらしい遊びをする仲になっていました。
「ココの制服ってかなり好き!ドレスより動きやすいし」
「でもスカートが膝より上って短くない」
「それが良いんじゃない、卒業したらもうこんな丈のスカート履けないよ」
「ナンかオリビアのスカートサラに短くない?」
3人が揃うと子どもの頃のノリそのままになってしまいます。
(ナンか前世のJKみたい・・・まあ、本当は知らないしあくまでもイメージだけどね)
アリアは公爵家、シャーロットは侯爵家のお嬢様です。
当然王太子妃を狙うライバル関係になるはずですが、
子どもの頃から、2人の倍近い魔力を持っていたオリビアに、最初からライバル心を持つことも無く
オマケにめんどくさいから王太子妃、サラに王妃なんてなりたくないと豪語するオリビアに、すっかり感化されてしまった2人
王妃の座をかけて競い合うことも無く、天真爛漫なオリビアといつも仲良くして居ました。
一緒にいる内に、どうやらオリビアだけでは無く、レイエス家がそもそも王家と縁を結ぶことに全く執着しない家だと言うことがはっきりとしてきました。
そのおかげで、入学する年になっても、ごく普通に仲良くして居るのでした。
会場は立派な講堂です。
入った順に、それぞれのクラス位置に分けられた椅子に座ります。
Sクラスは最前列ですので、全体の様子を見回すことが出来ません。
入場もSクラスからなので、他のクラスの様子を見ることは出来ませんでした。
今年の新入生は40人チョットだったはず。
椅子は5列、10人のSクラスとほとんど同じ数のようでした。
着席すると、次々と後ろの席が埋まっていきます。
好奇心の強いオリビアも、あまりキョロキョロすること無くおとなしく座っていることにしました。
クラスは魔力測定の結果で分けられますが
入試の成績は、座学と魔力の両方で順位を付けます。
魔力の高い生徒は、ほとんどが高位貴族の子息令嬢なので、座学の方もきっちろと対策されているため、Sクラスで10傑に入らない者はまずいません。
入学式は、前世とおなじような流れ
そして同じように退屈な物です
学園長の挨拶、国の教育機関のお偉いさんの挨拶
その次は、在校生の挨拶となります。
在校生代表は、通常生徒会長ですが、今年は2年生の副会長オーウェン・アビステル第一王子でした。
(全く、学園では全て平等なのに、ナニ出しゃばってんのよ!)
そんなコトを考えながら、チラリと左右を見ると、Sクラスの女生徒はうっとりとして王子を見つめています。
そして、ふたつ離れたところにいたご令嬢が、一瞬こちらを睨んだ目と、目が合ってしまいました。
(まずいまずい、オルティース公爵家のアビゲイルさんか、あの人も候補だものね、ナンかライバル視しているみたい)
拍手と共に挨拶を終える第一王子
在校生の挨拶の次は新入生の挨拶
当然首席入学者が選ばれます。
「新入生代表、アビゲイル オルティース さん」
「ハイ!」
返事をして立ち上がったのは、先ほど目が有った公爵令嬢
同じ制服姿でも、いかにもお嬢様とイッタ雰囲気の美少女です。
サラリとした金髪、キリッとした容姿、立ち振る舞いも洗礼されています。
「ヤッパリ、オルティースさんが主席か」
隣に座っているアリアが小声で話しかけてきました。
「オリビアじゃなかったのね」
シャーロットもコソコソと話しかけてきます。
「私が得意なのは魔法だけよ、そっかぁ~殿下達より上だったんだ」
小声で答えるオリビアに
「魔法だけじゃないでしょ、数学と自然科学も得意じゃナイ、桁違いに」
サラに話しかけるアリア
「その代わり語学と歴史はさっぱり、地理と社会はある程度なんだけどなぁ~」
「魔法は新記録、数学は先生に教えられるレベルよねぇ~平均すれば全部トップになるのに」
そう言いながら颯爽と歩くアビゲイルさんを目で追っていると、こちらを睨んでいた教師と目が有ってしまいました。
「睨まれてるわよ」
正面を向いて小声で2人に注意するオリビア
アリアもシャーロットも教師に気がつき、ササッと居住まいを正しました。
「やっぱりオーウェン王子ステキだったわね」
チョッピリうっとりとした表情のシャーロット
「そうかしら?それに、同じクラスにも王子はいるじゃない。でも普通は生徒会長でしょ、挨拶って?」
いつも通り、王子に厳しいオリビアです。
「会長が辞退したらしいわよ」
「良く知ってるわね」
「兄が3年生だからね、会長と同じクラスなの」
いかにもしっかりとしたお姉さんのようなアリアは、4人兄弟の末っ子
おっとりとした感じのシャーロットは、3人兄弟の長女です。
生徒会長は3年と4年の中から選ばれます
副会長は2年と3年から、その他メンバーも各学年から1人ずつの5人体制
どちらも成績優秀者に教師から打診されます。
5年生は、課外活動などが忙しくなるので、生徒会からは外れることになっています。
そんな話をしながら、Sクラスの教室に移動するオリビア達
教室に入ると、担任はさっきオリビア達を睨んでいた教師でした。
「よ~し、みんな席に着けぇ~、担任のマテオ・ミューラーだ、Sクラスの魔法実習の担当でもある。今日は今学期の授業の流れと学校内を説明して解散だ、その前に自己紹介をしてもらおうか、まず入試主席のオルティースから」
「ハイ」
担任に紹介されると、新入生代表挨拶をした生徒が立ち上がりました。
「オルティース公爵家が長女、アビゲイル・オルティースです。入試は主席でしたが、魔力測定は3位でした、今年中にどちらも一番になるように頑張りたいと思います」
キリッとした挨拶をすると、座るときにオリビアをチラッと見たようでした。
どうも、かなりライバル視しているようです。
自分でも魔力も一番になりたいと宣言していました。
つまりは、王太子妃の座を狙っていると宣言したようなモノです。
「魔力の伸びはこれからだ、期待しているぞ、え~ルーカス殿下」
指名されると、すらりとした青年が立ち上がりました。
背が高く、12才とは思えないモデルのような美青年です。
「ルーカス・アビステルです。紛らわしいので気軽にルーカスと呼んでください。魔力は王族の中で3番手ですが、在学中に魔力も座学も一番になれるように頑張ります」
(それって王位狙ってるってコトだよね)
ほとんどの生徒がそう思いました。
王妃を狙うアビゲイルよりも、王太子を狙うルーカス王子の方が衝撃が大きかったようです。
「オホン!次レイエス」
ざわついた雰囲気に、少し咳払いをして、次の生徒の名前を呼ぶマテオ先生
「オリビア・レイエスです。魔法の勉強がもの凄く楽しみでした。魔術具は兄の開発に付き合うこともあるので、少しだけ分かります。でも一番は早く飛行具に乗りたいです。後、語学は苦手なので、なんとか克服したいと思います。」
元気いっぱいに挨拶をするオリビア
(なるほど、アレがレイエスの天才妖精姫か、黙って立っていればまさに妖精だけど、かなり元気な娘だな)
(やっぱりオリビアさんて綺麗ねぇ~)
(天才って言うけど主席じゃ無いんだ)
やはり、何となく注目を集めてしまいます。
「そうだな、レイエスはもう少しばらつきを少なくしろ、ついでにもう少し字が綺麗になるように練習しろよ!と言うか、字が汚すぎて×にした答えいくつかあったぞ!アレが無ければ主席だったかもしれないぞ」
オリビアの悪筆を良く知っている、アリアとシャーロットから笑い声が漏れます。
「つぎはぁ~エイブリー殿下」
「ハイ」
立ち上がったのは少しアビゲイルに似た感じの、金髪碧眼の美少女でした。
「エイブリー・アビステルです、弟のルーカスが同じクラスなので、私のこともエイブリーと呼んでください。魔力は2番でしたが座学でルーカスとアビゲイルちゃんに負けたのが悔しいです。学校生活は始まったばかり、これから頑張ります」
オルティース家の奥様は現王妃の妹です、2人は従姉妹になります。
どうやら子どもの頃から仲が良かったようです。
ルーカス王子は側室の子なので、アビゲイルと血縁関係はありません。
「Sクラスの成績は本当に僅差だったんだ、努力次第ですぐに席順は変わるぞ、次、サリヴァン」
「アリア・サリヴァンです。オリビアとシャーロットは幼なじみですが、クラス全員と仲良くなりたいと思っています。後私も早く飛行具に乗れるようになりたいです」
黒髪の大人っぽい美少女アリアも、やはり注目を集めます。
「飛行具は魔力を十分伸ばしてからだぞ、次はジェンキンズだな」
王子ほどでは無いモノの、すらりとしたいかにも好青年という感じの男子が立ち上がりました。
「メイソン・ジェンキンズです。自分より上の男子はルーカス殿下だけなので、卒業までには上位に食い込めるように頑張りたいと思います」
「そうか頑張れよ、さっきも言ったが本当に僅差だからな、次ラッセル」
「シャーロット・ラッセルです。私もオリビアとアリアは幼なじみですけど、みんなと仲良くなりたいです。それと、魔法はなんとかしてオリビアに近づきたいと思っています」
「魔力だけは僅差じゃ無かったが、本格的な伸びはこれからだ、次グティレス」
ルーカス王子やメイソンよりも少し背が低く、細いと言うよりもやせている感じの男子が立ち上がりました。
「ローガン・グティレスです。僕は魔道具に興味があるので、レイエスさんと同じクラスで良かったと思っています。在学中に新しい魔道具を作りたいと思います。」
「魔道具はマダマダこれからの分野だ、レイエスのお兄さんも臨時講師で来ることがある、しっかり学べよ、つぎはマイヤーズ」
呼ばれて立ち上がったのは、正反対のごつい男でした。
「ヘンリー・マイヤーズです。趣味は筋トレです。身体を鍛えることで魔力が上がると思っています。この理論を在学中の魔力の伸びで証明して見せます」
「なかなか斬新な考えだな、だが完全に間違っているわけでは無い。最後はカスバート」
「カミラ・カスバートです。私は子爵家の娘ですが、なんとかSクラスに入ることが出来ました。絶対に卒業までこのクラスにかじりついてイキたいと思っています。皆さん宜しくお願い致します。」
カミラさんはダークブラウンの髪をボブカットにした、キリッとした女の子でした
子爵家の者がSクラスに入るのは5年ぶり
魔力量はほぼ生まれ持った物です。
そして、家族が魔法を教えることは重罪です。
それでも、自分なりの練習で、入学前でも少し伸ばすことは出来ます。
挨拶からしてもかなりの努力家のようです。
因みにSクラスに入った最も爵位の低い貴族は、過去男爵家の令嬢が1人だけ居ました。
Aクラスで入ったのですが、一年間で魔力が驚くほど伸びて、Sクラスに編入したそうです。
魔力が極端に高い男爵家の令嬢
その生徒こそ、オリビアの母親のミラでした。
「ヨシコレで全員だな、最初に言ったとおり、授業は明日からだ、朝はこの教室に集まってホームルームをするが、一般教養は全クラス一緒に受ける、1年の午前中は全て一般教養と倫理の授業になる、午後はクラスごとに魔法の授業だ。この後俺が一通り校舎を案内するから、後はみんなで適当に見て回ってくれ。今日は上級生もいないから、ゆっくり見て回れるぞ」
「「ハイ!」」
全員が返事をして、期待に胸を膨らませて担任の後に付いていくのでした。