第6話 少しだけカミングアウト
「お帰りなさいませお嬢様、殿下はご一緒ではないのですか」
最初に迎えに出てきたのは、執事長のマシューでした
「ただいまマシュー、アア殿下?先に帰ったわ、マッタク王族が工場まで押しかけるってどういう神経なのかしら?」
「それは、公爵家のご令嬢が出入りしている工場だからだと思いますよ。それよりも早くお着替えを、そのお召し物も、とてもお嬢様が着るのにふさわしい物ではないと思います。」
(堅いなぁ~マシューは)
「あ、メアリただいま」
マシューの後ろに控えていたメアリに声を掛けます
「お帰りなさいませ、お嬢様、すぐにお部屋の方に」
マシューに促され屋敷に入るオリビア
「あ!帰ってきた」
中に入ると姉のアメリアも迎えに出てきました
「ノアが送り迎えしたの?」
「アアそうだよ」
飛行具を片付け、オリビアに続けて入ってきたノアが、少しだけ自慢げに姉を見ているようでした。
「今度は私が送ってあげる!」
ノアの態度を見て、名乗り出るアメリア
「姉さんじゃ、2人乗りの飛行具扱えないだろ」
サラに優越感に浸りたたみかけるノア
「私だってそのくらい」
「近距離ならね、ジョンソン商会までだとギリ危ないって」
「あの、姉さん、ノア兄さんに送り迎え頼むの、この休み中が最後だから、学校に入れば、自分で移動できるようになるわ」
「入学した途端にすぐに飛行具扱えるって、無理じゃナイ?」
そう言ったノアですが、
(たぶんすぐに乗れるようになるんだろうなぁ~)
心の中ではそう考えていました。
「オホン!お嬢様方、ノア坊ちゃま、お話は後にして、先にオリビア様のお着替えを」
咳払いをして、着替えを促すマシュー
「そ、そうね、オリビアはナニを着ても可愛いけど、流石にその格好はね」
「そうかしら?似合ってるでしょ」
くるりと回転するオリビア
(((かっわいぃぃ)))
全員がそう思うのでした
何事も無かったように、食卓を囲むレイエス家
春休みのため、今日は兄弟全員が揃っています。
「オーウェン王子、ジョンソン商会の工場にいらっしゃったって?」
一番気になることを、口にする父
「ほんとに鬱陶しいですね、オリビアに婚約なんてマダ早いですよ、12才になったばかりですよ!」
高位貴族の娘なら12才で婚約しているのは、特に珍しいことではありません。
不思議と、オリビアの友人関係には婚約していない者ばかり
兄のノアにも婚約者はいません。
オリビアをかわいがるノアには、マダマダ妹のままでいてほしいのでした。
「それはノアと同じ意見ね、デモもうすぐ入学でしょ、形だけでも強力な婚約者がいた方が虫除けになると思うの」
弟に同意するアメリアがさらに不敬な発言をします。
「王族を虫除けとか言うんじゃ有りません!」
流石に母親がアメリアをたしなめます。
それでも食卓に着いていたほぼ全員が
((そう言う考えも有りだな))
そう思っているのでした。
「ワイアット兄さん、後で相談があるんだけど」
食後のお茶が配られる頃、オリビアが大切な話を切り出しました。
「ナニ、あ~今日の新しい魔法の話だね」
「ええ、かなりむずかしい話になると思うの、魔道具化のことまで相談したいし」
「ああそう言うことね、わかった、食事が終わったら1階の作業場にいるから」
「ありがとう。ごちそうさま」
「それで、今日試した魔法と魔道具化の話だよね」
先に作業場で待っていた、ワイアットは待ちきれない様子で話を振ります。
「エエもちろんそうよ。かなり画期的なこと考えたの、それとその後チョットした道具をジョンとマットに頼んだわ、一週間で作るから来週兄さんにも一緒に見てほしいの」
「なるほど、もちろん行くよ、新しい試みならば、他のどんな用事よりも優先させるよ」
「それでね、今回の魔道具を作ってもらうのに、大事な話をしなければいけないの」
「どういうこと?」
「兄さん魔法ってなんだか分かる?」
「コレは又むずかしいことを聞くね、そうだね、一般的に分かっているのは、この世界にある魔素を利用してエネルギーを得るってコトかな」
「流石ワイアット兄さん、その通りだわ、じゃあ魔素からどんな風にエネルギーになると思う」
「うーん、精神力で魔素に干渉するってことじゃナイのかな?それこそが魔法と言うことだろ」
それ以上もそれ以下もナイよ、そんな顔で答える兄
「半分正解って所かな?」
「半分・・・なんでオリビアがそんなコト断言できるんだい?」
「ねえ兄さん、12才の誕生日から、少しだけ私変わったような気がしない?」
突然違う話をするオリビア
「そうだね、可愛かった妖精が、とても綺麗になったかな」
「そう言うことじゃ無くて」
少しからかうような返事をした兄に、ふくれっ面をするオリビアに
「それと、魔力が強くなった気がするね、あと少しだけしゃべり方が変わったかな」
今度はちゃんと答えます。
「流石兄さん、よく見てるわね、それ、ナンデだと思う?」
「入学が近いことを意識したから?」
少し考え込んだワイアットですが、その位しか思い当たる節がありません。
ゆっくり首を振るオリビア
「あのね、これは誰にも、お父様にもお母様にも言ってないことなんだけど、兄さんに先に話すね」
「へ~なんだか嬉しいね、どんなことだい?」
「お父様でも大丈夫かもしれないけど、ヤッパリ兄さんがこの家で一番理論的な考えをする人だと思うの。
私ね、実は生まれる前の・・・前世の記憶があるの、正確には12才の誕生日に前世の記憶があることを思いだしたの」
「・・・・・」
ぽかんとした顔でオリビアを見つめるワイアット
「きちんと思い出したのは誕生日なんだけど、その前から何となく分かっていたことがあるの、融点と沸点とか3平方の定理とかね。そういうの、みんな前世では普通に知っていることだから」
なんとなく半信半疑の顔をしているワイアット
その様子を見てオリビアは
「そうねぇ~たとえば魔力量だけで言うとね」
そう言うと、そばにあった桶にに水をくむオリビア
作業場の流しには、普通の蛇口のようなモノがあり、手をかざすことにより井戸から水をくみ上げることができます。
「これたぶん、1カンくらいよね」
1カンは旧世界の2.7リットルです。
基本単位の1シック約30cm、この立方体の体積が1カン、ダイタイ2.7リットル、その1/100が1セタになります。
「そうだね、ダイタイその位だと思う」
「兄さん、これどのくらいで沸騰させられる?」
「誕生日に作った振り子時計の振り子2往復くらいかな」
ワイアットは平均的な公爵家の嫡男よりも、少しだけ魔力が弱いのです。
振り子2往復を2秒くらいとすると600馬力相当でしょう
「私がやってみるから見ててね」
水の表面に手をかざすと、オリビアが沸騰させるのに掛かった時間は1秒弱でした
馬力換算で1000馬力近いことになります。
沸騰したお湯を見て目を見張るワイアット
「ええ!僕の倍近く早かったよ、あり得ないでしょ、クラス分け魔力測定の最高って規定時間で20度くらいだろ」
規定時間はダイタイ5秒程度、60馬力くらいになります。
「私がこないだその記録は塗り替えたわ、35度にね、もちろん目一杯手加減してね」
「確かに今の力だと、その10倍はあるね、一体どういうことだい、まさか誰かが魔法を教えたのか?教えた方も教わった子どもも極刑だぞ」
ゆっくりと首を振り話を続けるオリビア
「そんなわけ無いじゃない、それなのにコレがデキル!これを見せたのは私の話を信じてもらう為よ、さっきね前世の記憶があるって言ったじゃない、あれってこの世界の記憶じゃナイの」
「どういうことだ、そうか!オリビアは天使の生まれ変わりってコトだな、なるほど可愛すぎると思ってたんだ」
急に納得するワイアット
「そんなわけナイでしょ、まあ、神様には逢ったことがあるんだけどね。。。私は普通の人間よ、まったくぅ~、一番話が通じそうだと思って兄さんだけに打ち明けてるんだから」
「え、天使じゃないのか?」
あからさまにガッカリするワイアット
兄の言葉は無視することに決めたオリビア、肝心な話を話し始めましてた。
「あのね、夜の空を見ると星が沢山有るでしょ、あれって、遠くにある太陽なのよ、その太陽の周りにはこの星みたいな惑星があるの、それで、ごくまれに生命の生まれる星があって、ものすごぉ~く少ない確率で文明が発生する星があるのよ」
「・・・」
「私の前世は、この星から・・・そうね、この宇宙の・・・ようするに全世界の半分くらいの距離にある星なの」
「ふ~ん」
気の抜けた、曖昧な返事をするワイアット
「分かっているのかしら?まあいいわ、それでね、私はその星で天寿を全うして、神様の力でこの星に生まれ変わったの」
「うん、何となく分かった、神様の力でこの世界に生まれてきた、ヤッパリ天使じゃナイの」
少しばかりうんざりした顔をするオリビア
「そこから離れてね、その時にね、魔法の仕組みを説明されたの」
「分かったのか」
急に目つきが変わるワイアット
「ええ、魔力の元は魔素だって言ったじゃない」
「そこから・・・魔素から精神力でエネルギーを引き出すのが、魔法なんだろ」
「ホボほぼあってるけど、ほんの少しだけ違うの、魔素ってね、ちゃんと質量を持った素粒子なの」
「そりゅうし?」
「物質を限りなく小さくした、これ以上小さく出来ないって物質、そんな風に理解してね」
「それでね、質量のある物質はエネルギーにすることがデキルの、しかも膨大な、限りなく0に近い質量の魔素でも、そうとうなエネルギーにナルってことなの、そして魔素は、特定の人間の精神力で、エネルギー変換しやすい物質ってコト、その特定の人間が魔道士・・・魔法使いなわけ」
「初めて聞く話だけど、妙に理屈が通っているね」
「質量とエネルギーの関係は前の世界の理論、魔素については、この世界の神様から教わったわ」
「理屈が分かっていっていれば、効率良くエネルギー変換できるって言う訳か」
「流石兄さん、私ね、レイエス家で一番の天才は兄さんだと思っているのよ」
「イヤイヤ、そんなわけナイよ、一番はオリビアなんじゃ無いか、そうじゃなくてもエネボを考案したおじいさまか、魔方陣を考えたご先祖じゃナイのかな」
「だから、私の考えは前世では当たり前の考えで、新しい考えじゃ無いのよ、それにね、きちんと説明されたわけじゃ無いんだけど、レイエス家って転生者が出やすい家系なんだって、おそらくおじいさまも5代前のご先祖様も、転生者よ」
(エネポって変な名前って思ってたけど、それも前世の記憶の一部だったのね。記憶がよみがえってから気がついたわ・・・デモだっさ!)
「そうなのか!」
「ええ、間違いないわ、タダきちんとした記憶の継承が出来なくて、中途半端だったようね、魔方陣に関してはそれが良かったみたいだけど・・・元の世界には魔方陣なんて無いしね、デモ発想はそこから来て居ると思うの。それでね、完全に前世の記憶が有るのは、私が初めてらしいのよ」
(あ!そう言えばなんか知識を与えたみたいなこと、神様が言ってたわね、魔方陣もエネポもヒントは神様の知識なのね)
「そうなのか」
「そう!だから前世の記憶って言うインチキ無しにこれだけのことがデキル兄さんは、本当の天才だと思うわ!」
「オリビアにそこまで言われると嬉しいような恥ずかしいような」
少しだけ気持ちの悪いマッドサイエンティストのようなリアクションをする兄
一瞬キモオタを見る目つきになるオリビアですが、すぐに気を取り直して話を続けます。
「でね!今の話をサラに裏付けるのに、今度は兄さんにも魔素のエネルギー変換を意識して魔力を使って見てほしいの・・・チョット待っててね」
そう言うと、沸騰したお湯に両手をかざすオリビア
その途端に、お湯は元の温度、ほとんど室温まで冷えてしまいました。
驚いて目を見張るワイアット
「冷却魔法なんて使えるのか!魔法学校の4年でやっと習う魔法だよ、しかもできない人が続出するのに、それに普通は水の一部を凍らせるだけなんだけどな」
「これも魔法の原理を理解しているからできるのよ。熱エネルギーから、魔素を作り出すイメージにして上げれば、温度を下げることが出来るわ」
「それにしても、これは・・・温度差では無くて熱その物を取り去っているのか、卒業するまでにこれがデキルのは毎年30人程度なんだけどな」
「まあそれもこれも、魔法というモノを正しく理解しているからよ」
「つまり魔法というのは、魔素からエネルギーを得るのでは無く、魔素その物をエネルギー化すると言うことだな」
納得したワイアットに、こくりと頷くオリビア
「あのね、元の世界では、エネルギー=質量×30万×30万、そう言う公式があるの、重さの900億倍ね、ただしココと単位が違うから、きちんと計算できないけど」
「イヤ、それでもイメージがきちんとデキル、魔法というのは、いかに正しくイメージできるか、それと元々の魔力、これで決まるからね」
「兄さんはイメージはいつもはっきりしているから、色々な魔法が使えるし、魔道具の製作も得意でしょ、これにエネルギー変換の正しいイメージが加われば、変換効率が上がって、魔力が高くなるはずだわ」
「正しいイメージか、ヨシ!オリビアが冷やしてくれたこの水を使おう」
桶の上に手を近づけるワイアット
「魔素からエネルギーを得るんじゃ無いわ、魔素その物を熱エネルギーに変えるのよ。私に言わせれば物理法則を理解していないのに、イメージだけでそれができる方が驚きだわ」
「ぶつりほうそく、っていうのが魔素とエネルギーの関係みたいなモノだな」
「ええそうよ、さすが兄さん、理解が早いわ、まあ、魔素とエネルギーの関係は、物理法則の一つに過ぎないんだけどね」
「そういうものか」
「そういうものよ、それを理解した上で魔法を使ってみて、この水を沸騰させてみてよ」
「わかった、魔素そのものをエネルギーに変える感覚だな」
そう言うと桶の上に手をかざし深呼吸をするワイアット
心を落ち着かせて、一気に水に魔力を注ぎます
「おお!やったぁぁ!!いつもの半分くらいの時間になったぞ」
「出来たじゃない兄さん、ヤッパリイメージよね!」
「凄いよ、僕の魔力、一瞬で倍くらいになったよ・・・ところでこれってさ、ダレでも魔力を伸ばすことがデキル大発見だよね」
「まあそうね」
「どうするんだ、一般に公開するのかい」
「いずれはね、でも今は無理でしょ、突然ひらめいたって言っても無理ありすぎ、だから言ったのよ、前世の話からしないと説明できないでしょってね」
「そうだね、学校で習うのは魔素からいかにエネルギーを引き出すか、どんな風にイメージすれば効率的か、そう言うことだからね、魔素がエネルギーになる、そう言う概念はナイから」
「だからこそきちんと把握すれば、ここまで効率が変わるの、あ!それとね、私が前世の記憶の話から説明して、すぐに実践できるのは兄さんくらいだと思うの、ノア兄さんじゃ頭爆発してるから」
「まあそうだろうね、父さんは?」
「お父様はギリかなぁ~、ねえさんも説明には相当苦労すると思う、だからとりあえず兄さんと私だけの秘密ってことにしておいて」
「オリビアと僕だけの秘密ていうのはうれしいね、わかった、魔力が伸びていることはしばらく伏せておくよ、うまく公表することができるようになったら発表することにしよう」
うれしそうにそう言うワイアット
「そのときも、私の前世の記憶は秘密のままでね」
「そうだね、ところでオリビア、その前世の世界ってどんな所だったんだい?」
「魔法はない世界なの、その代わり科学技術が発達した世界だったわ」
「かがくぎじゅつ?」
「さっきみたいな、物理法則を解明したり、後は魔素の代わりに電気ていうモノを使ったいたの」
「でんき・・・やっぱりエネルギーに変換できるものなのかい?」
「ええ、ほんとワイアット兄さんは話が早いわ、電気から熱エネルギー、運動エネルギー、ほぼあらゆるエネルギーに変換できるの」
「なるほど、魔素と同じって訳か」
「ところがね大きな違いがあるのよ、コレはこの世界の神様から聞いたことなんだけど、魔素ってそもそも世界中にいくらでも存在していて、太陽のエネルギーなんかから、自然と増えていくんですって。」
「いくら使ってもなくならないってコトか」
「そうなの、それに比べて電気はね、太陽の光から作ることもできるけど、全然足りなくて、石油や石炭を燃やして作るの」
この世界にも石油や石炭はあります、特に石炭は、暖房やジョンソン商会のような工房では重宝されているモノでした。
「なるほど有限というわけだな」
「それだけじゃないの、う~んこの先を説明するには、火ってナニ?燃焼ってどういうこと?ここから説明する必要があるから大変なのよね」
少し考え込むオリビア
「しかし、すごい知識だね」
難しい顔をするオリビアを見て、話を変えるワイアット
「私のいた世界ではごく普通、それに結構長生きしたから」
「え!オリビアって、前世では何歳まで生きたの」
「86歳だったわ」
「え?ぇぇぇえええ!!!!」
「あ!一年の長さが違うから、ここの年齢に直すと65ちょっとかな?」
「魔力が無いって事は平民だよね、その割に長生きだよね」
ココの平均寿命は60歳弱、今日世界で言う75歳程度です。
但し魔力のある貴族は何故か長生きで、75以上がかなり居ます。
「魔力が無くても医学が発達していたからね、でも男性の平均寿命よりは長かったかな?」
「そうなんだ・・・え?・・・男性の?」
「あ、わたし前世はおじちゃんだったから」
「ぇぇぇえええええええ!!!!!」
「ちょっと兄さんしっかりして」
絶叫すると、ワイアットは気を失ってしまいました。
プランクトンを利用した魔法の電池
エネポって名前にしました
あまりにも安易ですが
ゼンゼン良い考えが出なかったんですよ
仕方が無いので、前世繋がりにしてしまいました




