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異世界転生?・・・してませんよ!  作者: 美都崎 里美
1章 オリビア 前世を思い出す
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第5話 日本の技術を異世界に!

「お邪魔しますよ、オリビア久しぶりだね」

マットの心の準備が出来る余裕も無く、いきなり王子様が作業場に入ってきました。

「ご無沙汰しております、殿下」

オリビアは、全く慌てるそぶりも無く

作業ズボンのポケット辺りを引っ張り、わざとらしくカーテシーのような挨拶をします。

「いきなり来たんだから、そんな挨拶は良いですよ」

「そうですか、しかし殿下、そのような格好では汚れてしまいますよ」

オーウェンのスタイルは飛行具で飛んで来たこともあり

多少はラフなスタイルではある物の、高級な乗馬服のような出で立ちでした。


「そうかもしれませんけど、それにしても君のスタイルは、とても公爵家の令嬢に見えませんね」

オリビアの作業着はジョンやマットの物と同じように

しっかりと使い込まれている様子です。

美しく流れるような銀髪も、雑に後ろで縛られて、頭にはあまり綺麗ではない帽子がかぶられています。


「ジョンソン商会は、うちの身内みたいな者ですから、今回も新しい発明に協力してもらっているんです。私が一緒に作業するときは当然みんなと同じ作業着を着ますよ、工場ではその方が安全です!本来であれば作業場での帽子着用は絶対です!!」

胸を張ってキッパリと言い切るオリビア

そのあまりの堂々とした態度に、これは何を言っても無駄だと思ったオーウェン

「それでオリビアはナニをやっているんですか」

多少あきれた感じは隠さずに、それでも興味津々で質問しました。

「鉄を高温で溶かしてて接合しようとしています。名付けて溶接です!」

よくぞ聞いてくれたとばかり、自慢げに答えます。

「鉄を溶かすほどの高温にすることがデキルのですか?」

「見てください、ここ、ほんの少しだけ成功したんですよ」

さっき魔法の杖を犠牲にして接続したカ所を指さすオリビア

「でもそれは、魔力がある者にしかデキないでしょう、魔道具では魔力が足りないのでは?」

「そんなことはありません、加熱するのはほんのピンポイント、温度の割には魔力は必要ありません、ダイタイ私入学前ですよ、魔道具と同じくらいの魔力しかありませんから。魔力量よりも集中させること。その技術があれば、間違いなく可能ですし魔道具化出来るはずです」

「魔力量はともかく、入学前なのに良くそんな魔力操作ができますね、それで、その『ようせつ』ですか?それがデキルとナニかイイコトがあるんですか」

王子の言葉に、信じられないとイッタ顔をするオリビア、はっきり言って王族に対して不敬な態度です。

「お・・・お嬢あの・・・」

「良いですか!金属の加工と言えば、あぶってたたいてくっつけて形を作る、あるいは溶かして鋳造、後は金ノコやヤスリで手作業!やっと回転して削る旋盤もどきが出来た程度、これに2つの部品を正確に溶接できれば、金属加工の幅が大幅に広がるんですよ!」

あまりのオリビアの態度に、慌てていさめようとするマット、その言葉を皆まで言わせず、サラに王族に対してあるまじき態度でまくし立てます。

「後は正確にカットすることが出来ればな~・・・う~んレーザーかぁ~レーザー光線ってどう作れば良いのかな?あ!それよりもウォータージェットなら可能かも、水なら魔法で動かしやすいし」

王子の存在は完全に頭から抜け落ち、ブツブツと意味不明のことをつぶやきながら考え込むオリビア

「オリビア、僕の言うこと聞いてますか」

だんだんと自分の世界に入っていくオリビアに、思わず声を掛ける王子

「あ!え?・・・もちろんです!上手く言ったら真っ先にご覧に入れます」

一応きちんと受け答えはするものの、すぐに自分の思考の中に沈み込んでいくオリビアでした。


「あ!ジョンニイ、マットにさっきお願いしたんだけど、コンナ物作ってほしいの」

そう言うと、手近にあった木の板にサラサラと簡単な漫画絵を描きはじめました。

「こんな風にトベラの杖の先端にとがった水晶を付けてほしいの、魔力の流れの邪魔になるから、なるべく接着とかしないでねじ込む感じでね」

「え~接着無しでか」

「無しとは言わないわ、圧入するとトベラが保たないでしょ、だから接着はしょうが無いけど、なるべく少なくね♪全然無しじゃなくていいわ、それともうひとつ」

そう言うと、もう一枚の板にもナニか書き付けます

「こんな感じかな?」

『これはナンダイお嬢?』

王子の登場に小さく固まっていた2人ですが

オリビアの新しいアイディアは、もの凄く気になります。

「こんなふうにね、水の入った桶の下に、細いノズルを付けてほしいの、こんな感じで丈夫な直径10ミューくらいの円筒に0.1~0.5ミューくらいの穴を開けてほしいの。材質は金属なら何でも良いけど、真鍮辺りが良いかな?」


因みにこの世界にも真鍮はあります。加工しやすく摩擦が低いので、軸受けなどに利用されています。

そして、この世界の長さの単位、基本となるのは1シック、旧世界の1フィートくらいの長さです。

1ミューはその1/100、メートル法で言えば約3mm

オリビアのお願いは、0.3mmから1.5mmの穴と言うことにないます


「え~この長さでそんな細い穴開けられないよ!」

「出来るところまででイイカラ、アト本当に細いのは先端だけで良いわ、こんな感じでテーパーにして、あんまり一気に細くするのはダメよ、高圧を掛ける予定だから」

ノズルの断面をサラサラと書くオリビア

「う~ん・・・これならどうにかなるかな・・・ヨシ!俺がこのノズル作るから、おまえ水晶研磨しろ!」

マットに指示を出すジョン


「あの、皆さん、どういうことになっているんですか?」

盛り上がっている三人に、すっかり忘れ去られていたオーウェンが声を掛けました。


「申し訳ありません!殿下!!」

話に夢中になり、王族を放置してしまったことに気がつき、真っ青になるジョンとマット

そして、そう言えばマダ居たんだ、と言う顔でオーウェンを見るオリビア

「全く気にしていないから大丈夫ですよ、タダ、皆さん凄く夢中になってる様子ですけど、いつもこうなんですか?」

「お嬢がナニか思いついたことは、なるべく形にしようと思っています。まあ、お嬢に限らずレイエス家の皆さんは、昔から変わった注文ばかりしてきますけどね。一見無茶なことでも、実現できると新しい技術になることがほとんどですから」


「なるほど、レイエス家の発展の原点を見た思いですね。それで、一体ナニを作るんですか?」

本当に感心した様子で感心する王子、そして新しい発明には非常に興味があります。

「1つはさっきお見せした溶接、木の杖だとすぐに燃えてしまうので、先端だけ水晶をはめ込んでもらいます。もうひとつは水の力で材料を切る装置です、名付けてウォータージョット、桶の下に付けたノズルから、出来れば音の速さの3倍くらいのスピードで水を噴射できれば、水で鉄を切ることも出来るはずです。」


「あの、サラッと説明してくれたけど、そんなコト・・・ダイタイ音の速さってなんですか?音に速さなんて有るのかな?」

この世界の人間としては、至極当然のことを言う王子

それに対してサラに、分かってないなこの男は・・・ット言う感じの、失礼極まりない目つきで王族を見るオリビア

「そうですね、例えばカミナリ、あれって、光が見えて少ししてから音が聞こえますよね」

「そうだね」

「それでだんだん近づいてくると、間隔が狭くなるじゃないですか」

「確かにね」

「光は早すぎるので、ゼロと考えれば、遅れてくる音はその距離をある程度の早さで伝わってくると言うことですよ」

「う~ん、言ってることは分かりましたけど、どのくらいの早さなのかは誰も分かりませんよね」

「そう言う感覚だと思ってください」

(本当はマッハなんだけどね、確かウォータージェットってマッハ2~3くらいよね)

「水は魔力で動かしやすいですからね、ノズルに魔力を集中させればできると思いますよ」

(そうだ!細くすればするほど、実際の運動エネルギーはたいした量ではナイ、上手く加速させることが出来れば必ず上手く行く、そしてそれが出来たら、レーザー加工よね)

「あとね、重たい桶なんか持ってられないから、こんな感じでレールの上走らせるようにして、そうすれば真っ直ぐ動くでしょ」


表情をコロコロと変えながら、夢中で説明するオリビア

だいぶ失礼な目つきで見られた気もしますが、それすら、可愛らしいと思えました。

オリビア以外の貴族子女が、こんなにも活発になにかに夢中になるところを、見た記憶がありません。

興味があるのは、ファッション、美容、魔力、そして噂話、スキャンダル・・・

たぶんそんなところだと思います。

魔力に関しても、魔力による序列や、容姿に関することにしか興味が無いように見受けられます。

目の前のご令嬢のように、新しい発想に一喜一憂する

それも、こんなにあからさまに自分の考えを顔に出す貴族はいません!

もちろんココがタダの工場であり、貴族の戦場たる社交の場ではないので、相手に感情を読まれないように気を付ける必要も無い場所。

あえて自分の表情を隠すことをする必要は無いかもしれません。

それでも、貴族令嬢は、常日頃から自分の考えを読まれないように習慣付けているようです。


王族の自分がいる前で、夢中になって新しい発明の話をする美少女

そんなオリビアに、タダの興味が好意に変わっていくのを何となく感じている、オーウェンでした。


「ねえねえ、どのくらいでデキルかな?」

「そうだな、俺たちも興味あるし、一応親父にも話してみるから、一週間くらいでどうにかなると思う」

「お願いね、来週を逃すと、私学校に入学するから、そう簡単に来られないのよ

 それと、魔道具化しないと意味ないから、ワイアット兄さんに相談しておく、出来れば次は一緒に見てほしいし」

「それもそうだな、貴族しか使えない技術じゃ意味ないからな、ヨシ、レイの物の製作はチョット保留、来週の今日と同じ水の日にもう一回テストしよう、ワイアット様の予定は大丈夫なのか?」

「私が頼んで駄目って言うわけ無いから」

どや顔をするオリビアをあきれてみる二人

それでも心の中では

(まあそうなるよな、レイエス家の兄弟メチャクチャお嬢に甘いもんな)


「一週間後の水の日ですね、私ももう一度ここに来ましょう」

「「え?」」

「えぇ~」

予想外の王子の発言に驚く二人、そしてあからさまに迷惑そうな顔をするオリビア

「殿下がコンナ所に頻繁に出入りするなど、あまりイイコトとは思えません、それに工場は危険なところですよ」

「その危険なところに僕の婚約者がいるのですから、護ってあげる必要がありますよね」

にっこりと王子スマイルを貼り付けて、いかにも正論らしいことを言うオーウェン

「婚約者候補・・・あくまでもマダ候補です、学校を卒業するまで分かりませんから、マダ入学もしていないんですよ」


((イヤイヤ、俺らもこんなに魔力の強いご令嬢は見たこと無いから))

平民の二人から見ても、オリビアの魔力は桁違いなのが分かります。

しかも12才になってからは、魔力量、制度、そして発想も桁違いになっているようです。

((そう考えると、お嬢が未来の王妃様なんだよな。俺ら十分に不敬のような気がするけど、今更なぁ~))


自分たちとほぼ同じような作業着姿で、先ほどの説明図に書き込みを入れているオリビア

使い込んだ作業着を着ていても、真剣な表情の横顔はとても綺麗で、どんな格好をしていても御姫様は御姫様だな

そう思う反面、気軽にココに出入りしなくなるのは寂しいな。

そんなコトを考えていました。


「アトこの部分はこんな感じでね、それとできるだけ濃いサングラス用意しといて・・・ん?ナニ見てんの??」

「いや、よく次から次へと考えつく物だなって、感心してただけ、」

無難な、そして実際にそう思ったことを口にするジョン

「デモ、魔道具化のめどが立たなければ、あまり大々的なことは出来ないぜ、ナンだって商売に繋がらなくちゃ!オリビアのお爺さんが最初に依頼したサングラスみたいに、定番商品になればね」


(魔道具化しないと意味ないかぁ~、まあそうだよね、う~ん兄さんには魔法についてきちんと伝えるか・・・でも、そうなると転生のことも説明しないわけにはイカナイし、お父様には・・・兄さんだけで良いわ一番理解しやすい人だし)


鐘の音が聞こえてきました

15の鐘です。

すると、ドアが乱暴に開いて、いかにも乱暴にドアを開けそうな男が入ってきました。

「オリビア、迎えに来たよ、なんか外に護衛がいるんだけど・・・あ!殿下!!」

「やあノア、久しぶり」

再び王子スマイルで、挨拶をするオーウェン

「久しくありませんよ、3日前に学園で会ったじゃないですか・・・っで、ナンデ殿下がコンナむさいところに?」

「もちろん僕の婚約者に会いに来たんですよ。オリビアがいれば、どんなところでも、少しもむさいところでは無くなりますからね」

「マダ候補だって聞いていますよ、そうだよね、オリビア」

「ええ!そうですよノア兄さん」

「マッタク君たち兄弟は・・・オリビアを抜ける物なんて出ないに決まっているじゃナイですか」

「分かりませんよ、それにもしかしたら、殿下が大恋愛すると言う可能性も有りますよ」

マッタク人ごとのように返事をするオリビア

「そんな可能性は有りませんよ」

(大恋愛することが有るとしたら、ヤッパリ君だけどね)

心の中で付け加えるオーウェンでした。


「さあ帰るよ、オリビア」

「チョット待ってください、そう言えば少し疑問だったんですけどオリビアはどうやってここに来たんですか」

「ノア兄さんに送ってもらったんですよ、飛行具で」

「我が家の新製品!2人乗りの飛行具です、魔力ブーストを付けているので、飛行には問題無いんですけどね、燃費が悪いんで近距離専用です。領地内なら問題無いですよ」

「初めて聞きました・・・そうだ、それ貸してもらえませんか、ボクがオリビアを送っていきますよ」

「大事な妹を赤の他人と2人乗りなんてさせられるわけ無いじゃないですか」

王族を前にしても、全く物怖じすること無く、キッパリと言い切るノア


「そう言うことですので、殿下、失礼致します。それじゃぁね、ジョンニイ、マット、製作ヨロシクネ」

「分かった」

「まかせとけ!」

王子に丁寧にお辞儀をすると、さっさと工場を後にするオリビア

すぐにノアの飛行具で飛び去っていきました


「殿下そろそろ戻られないと、日が暮れるまでに王都に付けませんよ」

それまで影のように、一言も言葉を発すること無く立っていた護衛が、王子に進言します。

「分かりました、今日は引き上げましょう。

 レイエス家に派遣した使用人と連絡は取ったか」

「ハイ、子どもに魔法を教えた形跡は全くありませんでした。魔道具に関してはある程度説明しているようです」

「そっちは問題無い、平民でも使えるモノだからな、引き続き目を離さないように」


小声で指示をすると、飛行具に跨がり、すぐに飛び去る王子達。

その後ろ姿を最敬礼で見送りながら

((来週又来るのかよ))

もの凄く迷惑そうにしている、ジョンとマットでした。

飛行具は要するに魔法のほうきにハンドルとサドル、脚をのせる台が付いたような物です

魔法のほうきとオートバイの中間みたいな物ですね。

当然飛行具による競争がありそうですが

その話はいずれ

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