第6話 雪が降ればスキーがしたくなるよね
「ウウさっむうぅ~」
今日も放課後の練習場に集まる1年Sクラスの面々
季節は秋から冬にさしかかっています。
「フライトジャケットはしょうが無いけど、手袋はヒータが入ってるの使っても良いんじゃない?」
「暖まる素材はチョットゴワツクのよね、普通に飛ぶのならそれでもいいんだけど」
この世界、特にこの地方の冬は結構寒さが厳しいのです。
魔力を持つ貴族は、暖めやすい素材の上着にズボン、手袋迄
自分の魔力で暖めながら飛行具に乗っていました。
魔道具が開発されてからは、身につけるだけで暖まる衣類を着用するようになったので、冬場のフライトにも特に困ることはありません。
但し、競技に使うような革製の丈夫で動きやすい物は、比較的均一に暖を取ることが不向きです。
冬用のヒーター付きの衣類は、動きにくい物になって仕舞うので、安全面も考えて、練習中でも、きちんとフライトジャケットを着用するようにしています。
(そう言えば、グリップヒーターの付いたバイクって合ったわよね、かっこ悪いけど、ハンドルカバーを付けると無敵だったハズ)
そんなコトを考えながら飛行具のハンドルを見るオリビア
ハンドルもシート部も、体型に合わせるように簡単に調整出来るようになっています。
(コレ、ハンドルだけ簡単に交換出来るわね。ハンドルを魔道具化してグリップヒーターにして、ハンドルカバーを付けてもらおうかな、そうすればグローブは夏用で大丈夫だし、デモそれって出前のスーパーカブだよね・・・逆に考えれば実用的と言うことか)
「・・・リビア!」
「オリビア!!!」
「え?・・・え、ナニ?」
「寒いから今日はもう上がろうって言ってたの」
気がつくと、みんなオリビアの周りに集まっていました。
「ホントニオリビアは、今度はナニ考えてたの?」
「いつもの事だから今更驚かないけどね」
アリアとシャーロットは、いつも通りの対応です。
「寒くなったねぇ~って考えていたのよ」
いつのまにか木枯らしの吹く練習場、みんな飛行具を片付け出しました。
それから数日後、とうとう雪が降ってきました
今はマダちらついているだけですが
この国は、国全体が豪雪地帯と言って良いお国柄
特に1度降り始めると、一気に積もるのが毎年のことです。
平民の運搬手段、馬車にするのか、ソリに変えるか悩む時期となります。
今日も自習室で魔法の練習をするオリビア達
そして、今日も一人だけ図面を広げているオリビアです
書いているのは、ハンドルヒーターとグリップカバー
簡単な構造なので、自習時間が終わる頃には、ワイアットに送る準備が出来ました。
「後一月で冬休みですね」
そうつぶやいたのは、Aクラスのエマ。
「もうそんな時季ね」
答えたのはアリアです
「皆さん国元に帰るんですよね」
「ええ、マダあまり戦力にならないけど、ある程度は手伝えると思うわ」
冬の貴族の仕事は、除雪作業が基も多くなります。
熱で雪を溶かしたりもしますが、一番大切なのは圧雪です。
特にメインストリートは、スキー場の緩斜面のように綺麗に圧雪する必要があります。
それを見越して、平民は馬車からソリに切り換えるのです。
但しいくら圧雪した雪でも、あまり深いと馬が上手くそりを引けないので、ある程度以上の積雪は、どかしたり溶かしたりするようにしています。
圧雪作業は1年の魔力制御では少し困難、Sクラスでも2年でようやくと言った作業です。
冬休み前の魔法の授業は、除雪に関係したことが多くなります。
実際に作業がデキルのは、Sクラスでも2年以上ですが、圧雪の仕方は1年から練習します。
だいぶ雪が積もってきた校庭
今日は1年Sクラスの野外授業の日です。
上級生がだいぶ圧雪をしてあるので、小さめのかんじきのような靴を履けば、普通に歩く場所では、歩きにくいところはありません。
1年生が集まっているのは、校舎裏の飛行具練習場
冬の間は誰も使わないので雪が積もり放題になっています。
除雪や圧雪をしなくても、特に影響は無いので、低学年の練習用に毎年使われています。
今日は雪のちらつく生憎の天候
全員フード付きの防寒具をまとっています。
校舎内は暖房が行き届いているので、特に厚着をする必要もありません。
サラに、外出する時も真冬用の制服を着ます。
真冬用の制服は一見普通の冬服
女子はタイツをはいているだけで、特に暖かい格好をして居るようには見えません。
しかしこの制服は、魔法で温めやすい素材でできています。
もちろん女生徒のタイツもです。
魔力を調整すれば、そのまま雪の降る街中くらいならば、ほとんど寒さを感じません
でも、今日はきちんと防寒具を着用して居ます!
「よ~しみんな揃ったな、少し寒いが、なるべく自分を暖める魔法も使わないように!
最初は除雪作業に集中する。いいな!」
「「ハイ」」
「まずは出来るところから、目の前の雪を溶かして見ろ」
「「ハイ」」
返事をすると、一斉に自分の前の雪を溶かし始めます。
コレには、それほど苦戦する者もなく、多少の時間差はあるものの、ある程度の範囲の除雪をすることが出来ました。
「次は溶かさずに雪の道を作る、ラッセル作業をやってみるぞ。自分の歩く範囲の雪を左右にどかすように」
そう言うと雪の深い場所で、両手を前に出し普通にスタスタと歩き出します。
すると腰まで積もっていた雪が、ミューラー先生を避けて道を空けるように、左右に避けていきます。
あっと言う間に、両手を広げたよりも広い道が出来てしまいました。
(カッコイイ、モーゼの十戒みたい)
地球の知識があったら誰でもそう思うだろうな、そんなコトを考えながら、早くやってみたくてしょうが無いオリビアです。
サンザン1年としては非常識な魔力量と魔法操作を披露してきたオリビアですが、前世の記憶が完全に戻ってから初めての冬
冬にしか出来ないことを色々とやってみたくて仕方がありません。
「みんな分かったか、授業で木片を動かす要領、飛行具を動かす要領、この辺りとナニも変わらない。それじゃあ始めるぞ、間隔を広く取れ、そうだなその位で良い、目の前の雪を動かして見ろ。」
教師の号令が掛かると一斉に集中するSクラスの面々
初めての除雪作業ですが、一年生といえどさすがはSクラス
じわじわと雪を押しのけています。
そしていつも通り、教師並みとはもちろん行きませんが、それに近い勢いでスタスタと雪の道を作りながら歩き出すオリビア
「チョット待ったぁ~!」
「ナニ?ちょっと待ったコール?」
歩き出したオリビアの防寒着を後ろから引っ張っていたのは、シャーロットでした。
「何だシャーロットか、チョット防寒着引っ張らないでよ」
「なんか何言ってるか分からないけど、やってることはモット分からないよ!」
「そうよ、なんでそんなに簡単に動かせるの?」
いつも通りアリアも宣戦します!
「雪なんて水と同じでしょ、簡単に動くじゃない」
なんでわかんないかなっと、さも当たり前のことのように話すオリビア。
「そりゃ溶ければ水だけど、雪は雪だし、水は水でしょ」
サラに食い下がるシャーロットです。
「でも全く同じ物質、水の固体状態が氷、気体状態が水蒸気、まあ実際は水と氷は少し違うところ有るけどね」
チョッピリ小声で、複雑そうな顔をするオリビア
「そうでしょ!水は流れるし、氷は固まってるし、全然違う物じゃ無い!!」
違うと言った言葉に今度はアリアが食いつきます。
「そう言う意味じゃ無くてさ、氷って固体なのに液体の水に浮くでしょ、アレって化学式が一部違うからなのよね」
「ますますなにってるか・わ・か・ら・な・い!」
完全に逆ギレしてしまったアリアでした。
「兎に角、水と氷は全く同じ物、コレは間違いないんだから、そのコトをはっきりとイメージして。水を動かしたり、水の重さを変えたりはみんなデキルでしょ?」
「水の重さは変えられないけど、水ならかなり自由に動かせる」
シャーロットがそう答えると
「「僕も、私も」」
いつのまにかクラス全員がオリビアの周りに集まっていました。
「それじゃあねぇ~・・・まず私が、目の前の雪を溶かすから、シャーロット、溶けた水を横にどかして見て」
少し考え込んで練習方法を思いつくオリビア
「分かった」
あうんの呼吸で返事をするシャーロットです。
「行くわよ」
そう言って雪の壁に手をかざすと、かなり広範囲の雪が一気に溶け、足下がシャーベット状になりました。
「今よ!水をどかして」
オリビアが声を掛けると、溶けた雪交じりの水を、綺麗に左右にどかすシャーロット
「水になれば簡単に動かせるでしょ」
「それはまあ水だから」
「デモ一瞬前までは雪だったじゃナイ!」
「そ、そうよね」
何となく言いよどむシャーロット
「そのイメージよ!目の前の雪は一瞬で水になるの、だから最初から水だと思って動かして」
「分かった!」
そう言うと手を身体の前にかざし、集中するシャーロット
すると、じわじわと雪が動き出し、そこから一気にシャーロットが通れるくらいの幅ですが、目の前の雪が左右に移動していきました。
「出来たわ!」
喜ぶシャーロット
「凄いじゃナイ」
「これだけ出来れば立派だよ」
クラスメイトが口々にシャーロットを褒めます。
「ホントニたいしたもんだな、」
みんなの後ろで、様子を見ていたミューラーも思わず声が出ます
「あ!先生」
笑顔で振り向くシャーロット
「すぐに実戦出来たラッセルも凄いが、レイエス!おまえ本当に教えるのが上手いな」
「シャーロットは夏に海で遊んでいたんですけど、レイのボディーボードを動かすだけじゃ無くて、海水の動かし方もかなり練習していましたら」
オリビアが補足します。
夏にサーフィンやボディボードで遊んでいたオリビアといつものお友達は、
海から上がった後に、海水を振り払う方法
そして波があまりない時には、ジェットサーフだけでは無く
海水を動かして、波を起こしたりと、いつのまにか高度な魔力操作を練習していました。
教えてくれるのは、同級生のオリビア
確かにオリビアは別格に見られていますし、天才と言われています。
それでもやはり同じ歳の女子、先生や上級生がやってみせるのとは、受け取り方が違います。
無意識下で、同じ歳なんだから私にも出来ないってことは無いんじゃないかな?
そう思って取り組んでいたところがあったのです。
しかもそれが遊びながら、
本人達が全く気がつかないうちに魔力操作が上達していたのでした。
「一緒に研究発表をしたサリヴァン、おまえも出来そうか?」
「やってみます!」
少しだけ考え込むような様子を見せましたが、共同で自由研究の課題を提出したシャーロットが出来たのです。
出来ないはずはない!
そう決心したかのように、少し硬い表情で雪壁の前に立つアリア
「大丈夫よ、最初は私が雪を溶かすから、すぐにそれを動かしてみて」
「分かったわ、いつでも良いわよ」
「いくわよぉ~」
シャーロットの時と同じように広範囲の雪を溶かすオリビア
出来たばかりのシャーベット状の雪をアリアがさっとどかします。
「ココまでは大丈夫ね、それじゃあ同じイメージで、目の前にあるのはタダの水よ、それを意識して」
軽く頷くと、雪の壁に手をかざすアリア。
シャーロットの時よりもサラに簡単に雪の道を作ることが出来ました。
「出来たわ!」
「アリア私よりもスムーズ」
少しばかり不安を漏らすシャーロットですが
やはり一緒に遊んでいた仲間が上手く行ったのは嬉しそうです。
「サリヴァンもたいした物だな、ヨシみんな!俺が雪を溶かすから、水をどかすイメージ、そこから雪かきをするイメージまで進めて見ろ。オルティース、おまえからだ」
「分かりました!」
実はシャーロットとアリアの様子を見て、試して見たく仕方が無かったアビゲイルです。
さっとミューラーの横に並びます
「それとレイエス、おまえ圧雪出来そうか?普通は2年以上で習うんだけどな、なんかおまえなら今すぐ出来そうだ」
「やってみます!」
こちらも、早く圧雪をしてみたかったオリビアです
喜んで少し離れた雪の壁へと向かいました。
その後、順番にラッセル作業の練習をしましたが、夏休みにサンザンオリビアと遊んでいたアリアやシャーロットのようには上手く行きませんでしたが、なんとか雪を動かす所くらいまでは、全員成功しました。
そして、みんなが必死に雪動かしている間
かなり広範囲の場所の雪を、見事な圧雪面に変えていたオリビアです
(スキーがしたいなぁ~)
斜度は全くありませんが、スキー場の緩斜面のように辺り一面が整備されています。
そしてみんながラッセル作業に集中する中、今日も又々1人だけ全く違うことを考えているオリビアです。
屋敷の裏の山、結構良い斜面があるわよね
アソコを整備すればスキー場になるんじゃない?
魔道具でリフトを作る・・・う~ん・・・飛行具で頂上まで行って滑ってくる
そしたら飛行具はどうする?
サーフィンがジェットサーフィンになるんだから
スキー履いたまま魔法で登れば良いんじゃない?
こういう風に一部をきちんと圧雪して、整地した登りラインを作って、魔法で登って非圧雪面を滑る!
絶対に上手く行きそう!
後はアイテムかぁ~
スキー板はスグ出来そうだけど、ブーツとビンディングがなぁ~
スキー板にブーツを縛り付ければとりあえず滑れるけど、
転んだら、絶対に足痛めるよね
きちんと外れてくれるビンディング無くちゃおっかないな
あ!
でも
転びそうになったら、魔法で身体浮かせれば良いか
そうすれば身体に負担が掛からないよね・・・
イヤ、それよりもいっそのことスノボにすれば良いんじゃナイ?
スノボのバインディングなら転んで外れる構造じゃないし、板もレイのボディボードと同じ材質で作って周りにエッジだけ付けてもらえば良いか
そうすれば登りも魔力でスイスイ、街中でも使えるかも?
ヨシ!ジョンソン商会に発注しよう!
「・・・リビア!」
「オリビア!!!」
「え?・・・え、ナニ?」
数日前に見た光景がデジャブします。
「「もう授業終わるわよ」」
そしていつも通り声を掛けるアリアとシャーロット
オリビアの周りはいつのまにか綺麗に圧雪された練習場が広がっていました。
「あ!ごめん、考え事していた」
「まあいつものコトだからね、それで今度はナニ考えてたの?」
「面白いこと!早く依頼しなくちゃ!出来たら真っ先に見せるね♪」
「それは嬉しいけど」
「レイエス」
「あ!先生」
「おまえ相変わらず規格外だな」
辺り一面を見渡しながらあきれるミューラー
「スミマセン、考え事しながら圧雪してたら、何かどんどん進んじゃって」
「片手間でコレかよ!おまえ次の実習は作業しなくて良いぞ」
「なんでですか?」
「おまえに作業されたら、みんながヤル場所無くなっちゃうだろ、教える側に回れ!」
「それ、先生が楽したいだけじゃナイですか!」
不満げに食い下がるオリビア
「おまえみたいな生徒がいるとな、普段の倍は疲れるんだ、その分楽させろ!」
周りを見ると、クラス全員が頷いていました。
読んでくださった方、本当にありがとう御座います。
飛行具レースは終わり、雪の季節になりました。
この世界には無い新しい娯楽
上手く行くのでしょうか?




