第5話 学園祭が終わって
ウイニングランでも、背面飛行を披露して、無事一周してきたオリビア
今度はきちんとスタート地点に着陸します。
「オリビアァ~凄かったよぉ~」
飛行具から降りたオリビアに、抱きつくシャーロット
普段は見かけによらず冷静なシャーロットですが
いまだかつて見せたことがないほど、興奮しています。
「ありがとうシャーロット」
そして、もう一度観客に手を振るオリビア
「「「うおぉぉ~~」」」
大歓声が上がります。
「大損したけど、もうどうでも良い!凄かったぞ~」
「良い物見られたぞ!」
「来年はお嬢様に掛けるからなぁ~」
「オリビア様ぁ~」
「愛してますぅ~」
はっきりとは聞こえませんが、掛けに参加した人のほとんどが大損をしてしまっているのに、声援は全てオリビアを応援する者ばかりのようです。
スタート地点では、参加した選手達が待っていました。
「やられたよ」
「最後のアレは凄かったな」
2位と3位の2人、ジョンソンとワードが声を掛けます。
「すまなかったね、本気で当たりに行って、デモ絶対に負けたくなかったんだ」
そう言ったのは、4位のボブ・ハンナ君
「イエ!逆に特別枠女子で手加減される方が面白くないですから」
キッパリと答えるオリビアです。
「そう言ってもらえると助かるよ。デモよく分かったね」
「私も気がつかなかったんですけど、兄がこういう手もあるって教えてくれたんです。それで、外からのダンプを躱せなければ辞退してもらうって言われて、対抗策を考えました。」
「そうか、流石レイエス先輩」
飛行具に関してだけは、後輩から尊敬されているノアです。
「よけ方も色々考えて、スピードを変えると、立ち上がりで負けちゃうし高低差を変えると逃げ切れない、それなら一瞬でひっくり返っちゃえばって思ったんです」
「凄いなオリビアさんは」
本気で戦ったハンナも、素直にオリビアを賞賛します。
「まあ僕が気がついたから良かったけど、本当にヤルやつがいるとは思わなかったぞ!」
そう言って近づいてきたのは、兄のノアです。
「あ!レイエス先輩。でも本気で戦わなければ、そう思う戦いだったんです」
「そうよ!それに兄さん、兄さんが教えてくれて一緒に練習してくれたから、勝つことが出来たわ」
「そ、そうだよね、だけど最後の乗り方、あれは知らなかったよ、危険すぎるだろ」
一瞬オリビアに褒められたことで、機嫌を良くしたノアですが、水平乗りに関してはもの申したいようです。
「それは僕もノアに同意ですね」
いつのまにかオーウェン殿下が近づいてきていました。
「王族という理由で、僕はレースに出られないんですよ、本来ならば婚約者の君も出られないはずですよ」
「今のところはタダの婚約者候補ですよ、そんなコト言ったら、学園中の女子生徒全員が婚約者候補じゃないですか!」
かなり無茶なことを言い出すオリビアです
「全くミューラー先生も何で推薦なんかしたんだか?」
「何言ってるんですか!優勝するかもしれないと思ったから推薦してくれたんじゃないですか!そして、見事に期待にこたえました!」
どんなもんだと胸を張るオリビアです。
(ヤッパリオリビアが婚約者・・・王妃で良いんじゃ無いかな?最初はオーウェン殿下素敵だと思ったけど、こんな風にゼンゼン動じないのオリビアだけだもの、このくらいの神経でないとダメなんじゃないかな?)
以前はひとつ年上の王太子に、少しだけ憧れがあったシャーロットですが、自分の意見を通して対等に接するオリビアに少しだけ尊敬の念を持つのでした。
「殿下、彼女の強さは本物ですよ」
「僕もそう思います」
オーウェンと同じ2年Sクラス、一緒に戦ったジョンソンとワードが声を上げます。
「レイエスさん、来年は3年のレースに出てくれよ。今度こそ負けないから」
「2年の部のチャンピョンが、来年の2年のレースに出るわけにはイカナイだろ、僕たちからも先生に進言するよ」
「有り難う御座います。是非宜しくお願い致します。」
「2年の部に出るわけにはイカナイなら、ちょうど良いじゃないですか、出場は今年だけで」
そう言うオーウェン、そしてノアも
「オリビア、来年も出るつもりかい?いくら何でもそれは・・・」
「「オリビアァ!」」
ノアの声はかき消され、賑やかな一団がこちらに向かってきました。
1年Sクラスのメンバーです
「凄かったわ」
最初に飛びついてきたのは、すっかり仲良くなったカミラでした。
「凄いわオリビア、でも、オリビアならやると思った!」
こちらも興奮気味のアリアです。
「みんな応援してくれていたの」
「当たり前よ!女子選手の優勝は快挙!女子生徒の誇りだわ!」
いつもは冷静なアビゲイルも興奮気味に拳を握りしめて力説しています。
「兄上、1年の女子がレースに出て優勝するんです、来年は王族の僕もレース参加してもらえるように進言します!」
こちらも、いつになく興奮気味のルーカス王子
「僕も来年は絶対に出るよ、まあ2年のSクラスで出場しないって選択肢は無いからね、優勝してオリビアさんみたいにコース一周したいな」
こちらもすっかり当てられてしまった、メイソンです
「僕も出るよ、魔道具を勉強して飛行具を魔改造してやるぞ!」
「それ普通に違反だからな」
少し見当違いのことを言うローガンに、津込みを入れるメイソン
「俺もやるぞぉ~筋肉を鍛えれば飛行具レースにも有利なことを証明する!」
「体重が増えて加速が落ちると思うわ」
こちらはしっかりとオリビアが突っ込んでおきました。
「2年ならば女子でも推薦してもらう必要無いのよね、私も考えてみる・・・たぶんプリシラとエイミーも同じ考えかも」
真剣に考え込みながら、驚くことを言い出すカミラでした。
昼食を挟んだ午後の部、3年のレースも4年のレースも例年通り盛り上がりましたが。
2年のレ-スで盛り上がりすぎたのか、全体的に静かな観客席でした。
しかも4年は予想通り、ノアが2位以下を半周以上引き離しての優勝
単勝飛行券の売り上げは、過去最低、結果はマダ出て居ませんが、払い戻しは1倍になる可能性があるそうです。
そして、3年の優勝者も、もちろんノアも、オリビアをまねしてウイニングランをしましたが、オリビアほどは盛り上がりませんでした。
但し、仲間内で少しだけ多いに盛り上がったのが、アリアの兄オリバーが、3年の部で2位に入ったことでした。
そんな、少しばかり盛り上がりに欠けている中、4年のレース終了直後に大いに盛り上がるアナウンスがありました。
「午前のレース、単勝12番、払い戻し132倍、1ウル320セン
連勝複式、 1-12 払い戻し557倍 5ウル570セン
となりました」
最後のレースが終わると、2年のレースの払戻金がアナウンスされました。
コンピューターが無いこの世界、集計を出すのは大変な作業です。
この日だけ計算の得意な商店主等からアルバイトを雇い、サラに学園と王城の経理部門に増援を要請して、できるだけ短時間で払い戻しが出来るようにしています。
単勝は日本で言う万馬券
飛行券は最低10セン、大銅貨一枚から買うことが出来ます。
ですから今回の場合は、大銅貨1枚が大銀貨1枚と小銀貨3枚大銅貨2枚に成ると言う結果でした。
連複は何と557倍の5万馬券!
大銅貨2枚、最小単位の飛行券2枚買っておけば、払い戻しが小金貨になる計算です。
もの凄い倍率ですが、それでも単勝が100倍台に収まったのは、オリビアを見た人が、あの娘に掛けたいと買ってくれたことと、
女子選手の飛行券、おそらくは当分買うことは無いので、記念に買っておこう
そう思った人がかなり多かったようでした。
「ヤッタァ~!!」
そして観客席で一番盛り上がっているのは、もちろんこの兄弟
「ジョン兄いくら買ったんだっけ?」
「単勝300センと連複100セン」
「あれ?単勝は200って言ってなかった?」
「昨日お嬢を見かけて、100買い足したんだ。連複も買い足せば良かったな」
当たってから言う台詞ではありますが、兄弟2人とも頷きます。
「僕も連複も買ってもらえば良かったな、だけど単勝100セン買ってもらったから、13ウル200センだ!」
日本円の感覚で13万以上
リロイは10歳、日本の感覚ならば13歳くらい
結果の分からないことに出せるお金は1000円程度が精一杯
それでも!中学1年程度の少年に10万を超す金額は大々金です!
「俺はどっちも100センだから・・・68ウル900センだ!2着にハンナ様が入って居たら大損だったな」
「アアそれは俺も、お嬢から流してSクラスは押さえたけど、Aクラスまでは買えなかったからな。かなりドキドキした」
「もう換金出来るみたいだな、払戻金受け取って帰ろうぜ!」
「今晩何かおいしい物食べに行こうよ!」
「それは良いな、一番もうけたジョン兄の奢りね、大金貨1枚近く儲かったんでしょ」
チャッカリと兄の儲けを計算するマットです
「掛けた金額も一番多いんだよ、連複は400セン掛けてるからね、そうは言っても大もうけだ、今日は良いぜ!」
ジョンも含めて全員まだ飲酒が出来ません、食べ物だけならたいした金額にはならないはずです。
「「さすがジョンニイ!」」
上機嫌で換金所に向かうジョンソン兄弟でした。
そして、レイエス領に帰ってから、留守番をしてきた、エヴァとロッテにたっぷりたかられてしまいました。
学園祭から1ヶ月過ぎました。
放課後の夕食前の時間、Sクラスのメンバーが練習場に集まっています。
一年生の夕食後は、室内の自習室で魔法の練習をすることがほとんどですが
授業が終わってから夕食までの、放課後時間
魔法学園には旧世界のように部活などはないので、夕食までは自由時間です。
普通に買い物に出かけたり、静かに本を読んだり、楽器の練習をする者もいます。
当然、特に用も無く、飛行具でツーリングをしたり。
そして、練習場で飛行具の練習をする者も居ます。
学園祭が終わったばかり、練習場は比較的空いています。
そんな練習場に、このところ1年の生徒で賑わっています。
1年Sクラスの生徒全員、そしてAクラスで自在に飛行具を乗ることがデキル
プリシラ、エイミー、エマ、の3人も一緒です。
そして、ココでも授業や自習室と同じように、オリビアがコーチ役を務めていました。
「まずは普通のコーナリング、ヤッパリ基本が出来てないと次には進めないわ」
女子としては、体重の軽さを生かしたオリビアのコーナリングをまねしたいところですが、
まずはオーソドックスな飛行具レースのコーナリングを練習させるオリビア
もちろん全員飛行具には自在に乗れるのですが、速度をなるべく落とさず、急旋回するなどと言うことは、普通に飛んでいる時にはまずやりません。
「もう一回私がやってみるわね、コーナーマークを意識して、そこに重力を感じるように、それと各コーナー理想のラインは1本しか無いの、それを外すと遅くなってしまうわ、特に男子!イン側の急旋回で理想のラインを飛ぶ他の飛行具に勝つのは無理だと思う!徹底的にオーソドックスな曲がり方を覚えてね」
そう言うと飛行具に跨がり、急発進するオリビア。
練習用のコーナーポストから2モン(約6m)くらいの半径で、高速に旋回して見せます。
飛行具がほとんど水平状態までバンクして居て、限界に近いスピードだと言うことがすぐ分かります。
実際に減速もほんのわずかです。
2本のコーナーポストを数回八の字で飛行すると、みんなの居るところに戻ってくるオリビア
派手にブレーキターンをして、飛行具から飛び降ります。
「ほとんどあの位置を回るのが一番早いんだけど」
何となくチョット考え込むオリビア
「女子の場合は遠心力が少ないから、コーナー中心への重力をもう少し強めに意識すれば、サラに内側を高速で回れるかも?」
ボソッと独り言を言いますが、周りのみんながみんな?顔をしているので、そのコトについては後回しにします。
「それじゃあ順番に、スピードは今の半分くらいから、飛行具のバンクも45°くらいを意識して、徐々に角度もスピードも上げていって・・・ダレからイク?」
「私がやってみる!」
何となく顔を見合わせる中、名乗り出たのはAクラスのプリシラです。
Sクラスの王族と高位貴族に囲まれて、少し小さくなっていたのですが
どうしても、早く試して見たい気持ちが勝ってしまったようです。
それと、夏休みの間、オリビア達と一緒に居ることが多かったので、高位貴族に気後れすることが無くなっているようでした。
「曲がり方のイメージ、出来た?」
「ええ、サーフォンのトップターンの感じと少し似ている気がするの」
「急旋回って意味では、感覚的に似てるかもね。最初は少しスピードを落として、だんだんとスピードを上げて、飛行具を傾けて行ってね」
「分かった!じゃあやってみるわ!」
そう言うと、Sクラスの面々が見ている中、勢いよく飛び出します。
少しだけ減速をすると、かなり思い切ってバンクさせるプリシラ。
かなりのスピードで曲がることが出来ましたが、出口で大きくアウトに膨らんでしまいました。
「最初の内はもう少し減速して、それとモットコーナーマークを意識して!!」
口の横に手を当てて、拡声の魔法に指向性を合わせて、プリシラに声を掛けるオリビア
「アレって指向性の拡声の魔法だろ」
「3年生でも使える人少ないんじゃ無かったっけ?」
プリシラの思い切りの良さにも、少し驚いたクラスメイトですが、
オリビアの使った拡声の魔法、その正確な魔力操作にも驚きが隠せません。
そんなコトは全く気にせず、コーチ役に徹するオリビア
「今のは良いわ、今度は少しだけ速度を上げて、バンク角をモット!そうよ、そんな感じ」
オリビアの指示を受けながら、2本のコーナーポストを8文字に飛ぶプリシラ
10周ほどで、みんなの所に戻ってきました。
「だんだん良くなってるわ」
「ホント!オリビアの指導が適切なんだよ、あとどのくらいスピードが上げられるのかとか、自分じゃわかんないし」
「次は私が・・・「僕がやってみる!」
立候補しかけたシャーロットを押しのけて、前に出るルーカス」
「ルーカス殿下、ヤッパリやるんですか?」
「もちちろん!絶対に許可を得るからね」
そう言うと自分の飛行具をオリビアに渡そうとするルーカス
「何ですか?殿下」
「どうせなら、ちゃんとスタートしてみたいと思って」
「今日初めてでルマン式は気が早いと思うんだけど?」
「る・・・何だって?」
「何でもありません、まあ良いですよ、じゃあ少し離れてください・・・よ~い、スタート!」
オリビアに向かって勢いよく走り出すルーカス、飛行具を受け取り急いで跨がりますが
普通に飛行具に乗った状態からスタートするよりも、遥かにギクシャクしたスタートのなってしまいました。
それでも、魔力の強い王族
比較的綺麗に最初のカーブを曲がります
「良いですよ、最初はその位のスピードで、後2週、その後少しずつスピードを上げて」
オリビアの指示に少しスピードを上げるルーカス、所がスピーオを上げると、アウトに膨らんだり、減速しすぎたりと、綺麗なラインが取れなくなります。
それでも、どうにかある程度のスピードで曲がると戻ってきました。
「む・・・難しいもんだな、普通に曲がるのとは全然違うよ」
「基本的にこれ以上早く曲がれないスピードで曲がるのが、レースのコーナリングですからね。次は?」
「次は私!」
さっきから用意していた、シャーロットが名乗りを上げます
「良いわよ、シャーロットもレースのスタート?」
「最初は普通で、じゃあ行くわよ」
そう言うとかなりの加速で一気にコーナーに迫るシャーロット
大きく減速すると、最初は45°程度のバンクで、理想のラインを綺麗に曲がります。
そして、次第に減速を少なくしてバンク角を大きくするシャーロット
驚くほど綺麗なコーナリングを披露します。
あっと言う間に10周すると、スタートラインに戻ってきました。
「どう?」
「凄いわシャーロット、もの凄くスムーズ」
「プリシラがサーフィンのイメージって言ったけど、伏せた姿勢の分、ボディボードの方が近いと思う。そのイメージで曲がったら上手く言ったわ」
(なるほど、そう言うことか)
その後も順番に飛んでみましたが
やはり比較的綺麗に飛べたのは、アリアでした。
「アリア、シャーロット、2人がイメージしてたって言うの、夏休みの自由研究で発表していた、さ~ふぃん?とか言う、海の上を走る魔道具でしょ」
気になって聞いてくるアビゲイル
「そうよ、私はほとんどボディーボードって伏せて乗るタイプ使ってたんだけど、そっちの方が飛行具のコーナリングに近い気がする」
「そうなんだ、私も来年の夏はレイエス領にお邪魔しようかな?」
「「え!アビーが!!」」
シャーロットだけでは無く、オリビアとアリアも驚きます
「え?どうしたの?迷惑」
「イエ、アビーが水着で海入るイメージが無かったから」
「確実に魔力が伸びて、魔力操作が正確になるのよ、ナニを置いてもやりたくなるじゃない!」
珍しく熱く語るアビゲイル、だいぶオリビア達に影響されてきたようです。
「まあ、アビーが良いなら良いと思うわ。それじゃあ、最後に私が先頭で飛ぶから、みんな同じ早さで付いてきて」
(なんか、飛行具レース部みたいな感じになっちゃったわね。それはそれでいいかな?)
前世の部活動見たいとお思いながら、先頭を切って飛び出すオリビアでした。
読んでくださった方、本当にありがとう御座います
私の中での一番の盛り上がり
飛行具レースが終わってしまいました
次回からウィンターシーズンに入ります




