第9話 海辺の友達は意外とやります!
「え!プリシラ、サーフィンやってみたいの?」
「そっちの方が、なんて言うの?自由度が高そう」
「そうね立って乗る分、色々とデキル技が有るわ、でもボディーボードもスピンやドロップニーなんてことがデキルと、自由度も飛躍的に上がるわよ!」
「すぴん?どろっぷ・・・??」
「横っ腹を進みながら横回転するのがスピン、ボードの上に膝立ちするのがドロップニー」
「このボード今日初めて試したのに、何でそんなコト知ってるの?」
「みんながボードに乗ってるのを見て考えたのよ。名前も雰囲気で付けた!」
もの凄く苦し紛れ、ムチャクチャな言い訳を、それでもキッパリとするオリビアです。
「まあオリビアだからね」
アリアとシャーロットが言いそうなことを、そのまま口にして、納得してしまった様子のプリシラでした。
「じゃあ岸まで一緒に行こう」
そのコトにチョット文句を言いたそうにしますが、突っ込まれるのもめんどくさいので、いつも通りサラッと話をそらすオリビア。
海から上がり、ボディーボード片手のプリシラと一緒に倉庫に向かいます。
「どれでも良いわ、好きなの一枚選んで」
「それじゃあぁ~~これ!」
青いボードを手に取りました。
「じゃあそれ持って戻るわよ」
「うっ、ボディボードよりチョト重いわね」
「魔力で動かしやすい物だから、簡単に軽くできるわよ、ホラ」
そう言ってオリビアがボードに触れると、途端にボードの重さがほぼ無くなりました。
「わ!驚いた」
「こんな感じね、魔法切るわよ」
「わわっ!」
バランスを崩して転びそうになるプリシラ
慌ててもう一度サーフボードを軽くします。
「気を付けてね、コレ!ボディーボードより弱いから、すぐ傷つくよ」
「そ、そうなの、魔法は良いわ、しっかり持つ」
そう言って、サーフボードをきちんと抱えました。
「それじゃあこの辺りでボードの上に腹ばいになって」
「こう?うっ、結構不安定」
「どう?安定した?」
「大丈夫」
「それじゃあ、さっきボディーボード動かした時みたいに、魔法を使ってみて」
「分かった」
そう言うと、意外と綺麗に進み始めます。
「そうそう、そんな感じ」
プリシラのボードを追いかけ横に並ぶオリビア
「だんだんスピードを上げてみて・・・私達なら波に乗るよりも、まずはジェットサーフから始めた方が良いかな?」
後半は独り言を言いながら、少しずつ速度を上げます。
プリシラも、同じように速度を上げていきます。
日本の感覚で自転車くらいのスピードが出たら、立ち上がってみせるオリビア
「良いわ、膝を突いて立ち上がってみて」
まずは自分からゆっくりとボードの上に立ち上がります。
「ボードを手のひらでしっかり押さえて、膝立ちからサラに引きつけるの」
「分かった」
ゆっくりとオリビアのまねをするプリシラ
「わっ!きゃ~」
膝立ちから立ち上がろうとして、見事に転んでしまいました。
「大丈夫?」
「ダイジョブ、ダイジョブ!」
海面に顔を出すと、少し立ち泳ぎの様な姿勢を取り、もう一度ボードによじ登ります。
「オリビアが簡単そうにやってるから、油断した。もう一度やってみる」
(あ、簡単にはへこたれないのね、そうか、泳ぎは得意なんだ)
子どもの頃から、海に親しんでいたプリシラは、かなり泳ぎが得意です。
サーフボードに乗りたいと言ってきたのも、落っこちても溺れる心配がほぼ無いからなのでした。
それから、何回かチャレンジしてようやく立ち上がれるようになりました。
しかし、今度は上手く曲がれません。
「飛行具と同じように、体重移動して、飛行具も曲がる方向に身体を傾けるでしょ」
「分かってはいるんだけど、ヨシ!もう一度」
カーブの練習も、オリビアが手本を見せて、何回も挑戦しているうちに、なんとか出来るようになって来ました。
「ヤッパリコレが普通よね、いきなり乗れるノア兄さん。魔力とバランスに関しては天才的なんだ」
それでも、飛行具での曲がり方
もちろんレースのような極端な体重移動はしない物の、ある程度の事が分かるプリシラです。
オリビア達と一緒に自習をするようになってから、Aクラスでも、Sクラスに迫るレベルで飛行具を使えます。
次第に曲がり方が分かってきました。
波がゆるいうねりの沖合であれば、かなり自由に乗ることが出来るようになっていきます。
「わわ!イケナイ!!」
それでも、チョット油断すると、マダマダすぐに転んでしまいます。
「惜しい、でもダイブできるようになって来たじゃない」
プリシラが転んだ近くで、波待ち姿勢になるオリビア
「大きく曲がる分にはね、オリビアみたいに急旋回するのはムリ!」
今回は比較的スムーズにボードに戻ります。
「半日でここまで出来れば、すぐに出来るようになるわ」
「そうかしら?」
「じゃあみんなの所に戻ろう」
さっきまで、ボディボードで順番に波待ちしていた当たりに戻ってくると、
ちょうどシャーロットがテイクオフするところでした。
波に合わせた綺麗なスタート
ボードは魔法で動かすので、足ひれも無く、とても身軽に波に乗ることが出来ます。
波に押され始めると、魔法とボード操作を上手く使って、グーフィー方向に進んでいきます。
「あれ?いつの間に!」
もちろん、ナニかアクションを起こせるわけではありませんが、波の崩れない方に綺麗に乗っていくシャーロット
なかなか見事な物です。
シャーロットの後ろ姿を見ていると、鐘の音が聞こえてきました。
お昼の鐘です。
「お嬢お昼だよ」
「よ~し!みんな浜に向かってゴー!」
「プリシラはもう一度沖からターンしてきて」
「分かったわ」
そう言うと、沖に向かって腹ばいのママボードを走らせます。
動きが安定してくると、どうにか立ち上がり、ゆっくりと旋回、又岸に向かって進み出しました。
それを見て軽快に沖に出るオリビア
岸に向かうプリシラの脇で急旋回。
速度を合わせて併走します
「そのままできるだけゆっくり、波が来たわ、速度を合わせて」
オリビアがプリシラの横を併走して、スピードを合わせるように促します。
一人では上手く波に合わせられないプリシラも、オリビアに合わせることで、うねりに合わせた速度にすることが出来ました。
「だんだん魔力を弱めて、波が押してくれるからねぇ~」
そう言うと、レギュラー方向に舵を切り、波の横っ腹をアップダウンしながら進んでいくオリビア
プリシラも倒れること無く、真っ直ぐにでは有りますが、どうにか波に乗ることが出来ました。
「で、できたかも!わわ!きゃぁぁ~」
もちろん最後は崩れた波でひっくり返ってしまいましたが。
満足のいくライディングだったようです。
「じゃあみんなお昼にするわよぉ~」
「「ヤッタァ~!」」
元気に返事をするのは、ジョンソン商会の姉妹です。
「その前に、みんなきちんとシャワー浴びてきて」
「「は~い!」」
そう言うと、真っ先に倉庫脇に付けられたシャワースペースに移動します。
順番に水着のママシャワーを浴びます。
「エヴァ、こっちに来て」
そう言うと頭の上から全身を、サラッとなでるようにするオリビア。
髪の毛から水着まで、ある程度脱水されます。
「お嬢有り難う♪」
驚く様子も無く、普通にお礼を言うエヴァ
ロッテも、そして自分自身も、簡単に水分を飛ばします。
ジョンソン姉妹は全く驚いた様子がないのですが
目を丸くして驚いているのはプリシラです
「あの・・・オリビア、それどうやったの?」
「水だけを重くするの、水って動かしやすいでしょ、海水だと塩が残っちゃうけど真水なら大丈夫よ」
「あの・・・意味分からないんだけど」
「「大丈夫、私達も分からないから」」
プリシラの両側で同意する、アリアとシャーロット
「覚えておくと便利よ、海水も全く駄目ってワケじゃないし、汗なら水分だけじゃ無くて、汗として落とすことが出来るわ」
「それを聞くと、覚えなくちゃって思うわね」
意欲を示したのは、以外にもプリシラです。
「出来そうなの?」
「水って一番動かしやすい物でしょ、水を動かすところからイメージしていけば出来そうな気がするの」
「そうよね、私も挑戦してみるわ。デモ、今は無理だから、オリビア、お願い」
オリビアに水分を落としてもらいながら、意欲を示すアリアです。
「そうね、Sクラスとして負けていられないわね」
「でもこの調子なら、2年にはSクラスに編入出来るんじゃない?」
急にシャーロットがそんなコトを言い始めます。
「まさか、私男爵家ですよ」
驚くプリシラですが
「私のお母様も男爵家だったのよ、2年でSクラスに編入になったの、そのお母様でも、最初の休みに飛行具で帰省することは出来なかったらしいわよ」
「そうなんだ、ミラ様って私達低位貴族の中では憧れの存在ですよ」
何となく少し敬語になるプリシラ
「今のプリシラなら、上回ってるんじゃないかな?」
「そうなの?だったら嬉しいな」
そんな話をしていると、オリビアの水着の裾をジョンソン姉妹が引っ張ります。
「お嬢、お話し終わった?おなか空いてるんだけど」
「ハイハイ、すぐ用意しよう」
にっこり微笑むオリビアでした。
浜辺に並べた簡易テーブル、その脇の簡易冷蔵庫から食料を取り出すオリビア
内容はサンドイッチ、焼き肉、オリビアの趣味の焼きそば、冷たいお茶やジュース
かなりボリュームがあります。
この世界、プラスチック容器はありませんが、紙製のわっぱ容器のような物があります。
飲み物は瓶詰めで、紙の蓋、日本の珈琲牛乳のようなイメージです。
プラスチックがない世界ですが、製紙技術が非常に発達しているので、軽い容器には事欠きません。
お皿やコップも紙コップなどがありますが、そこは公爵家
きちんとしたコップとお皿を用意してありました。
「私達も並べるの手伝う!」
そう言って、エヴァとロッテがお料理を並べ始めました。
焼き物類、暖めた方が良い物は、オリビアが魔法で暖めます。
さらに、くんできた水を次々氷にして、金属製のアイスペールに入れていました。
「器用よねぇ~」
「私もまだ、そこまで正確に温度は上げられないなぁ~まして氷作るのはゼンゼン出来ない」
「コレって魔法使いなら誰でも出来るんじゃないんですか?」
アリア達には多少敬語になるエヴァ
「大人ならねぇ~、加熱の調整は2年生くらいなら半分くらい、3年でほぼ全員デキルかな?でも氷は4年でも難しいわよね」
「お嬢は前からやってたよ・・・ましたよ。さっきの水を落とすのも大人にならないと出来ないんですか?」
チョト驚いて素が出てしまうエヴァ
「あれは大人でも難しいと思う」
そして、みんな口をそろえて
「「「まあ、オリビアだからね」」」
今日だけで何回言ったか分からない台詞を、再び口にするアリア達でした。
「ヤッパリ海辺で食事は最高ね!」
いつも通り、テンションが上がるオリビアです。
「今度はココで浜焼きがしたいわね」
こちらは、すっかりなじんでいるプリシラ
「浜焼きは、マット達に手伝ってもらわないと無理ね、でも!そうすればココで焼きそばが作れるわ」
「オリビア、昔から海に来るとそれ食べてるよね」
「海辺の食べ物と言えば、焼きそばとラーメンカレーでしょう!」
(海苔がないから、おにぎりが無いのよねぇ~)
そんなコトを考えながら、力説するオリビアです。
焼きそばもラーメンもカレーも、日本の物にかなり近い物があります。
但し、海苔を食べる習慣が無いため(たぶん消化出来ないのでしょう)米はあるのにおにぎりがない世界なのでした。
「浜焼きって魚介類?」
「ジョンソンの男性陣、魚さばいたりデキルの?」
「ジョンはギリ出来るかな?」
「私もデキルわよ」
意外な発言をしたのはプリシラです。
「「「え~~」」」
一斉に驚く幼なじみズ!
「うちの領は海産物の販売が主力産業でしょ、子どもの頃から魚の水揚げとかその場でさばいている所見てきたからね、父様も釣り趣味だし」
レイエス領側よりも、バーンズ領の海辺は非常に良い漁場です
海産物、そして日持ちするように加工された物などは、海のない領地に販売しています。
男爵家ですが、以外と裕福な領地なのです。
「私は料理全般全部ダメ!」
最初から全くやる気の無いアリア
「貴族令嬢で料理出来る人少ないよね。趣味で作る意外、料理する必要も無いし。でも焼きそばだけは作れるよ」
オリビアも、料理はあまり得意ではありません。
「私はある程度できる、お菓子を作るのは得意、まあ私の趣味でもあるけど」
そう言ったのはシャーロットです。
「でも、魚をさばくとかは、絶対無理!気持ち悪くなるし!」
それでも、原形をとどめている生き物を調理するのは、無理なようでした。
「後は貝とか焼くのイイヨね」
「それなら私にもデキル!」
一番できないと思われたくないので、とっさに名乗り出るアリアです。
「そうね、今度やりましょうか」
因みにこの世界には潮干狩りという習慣は有りません。
この星にも衛星はありますが、火星の衛星程度の大きさです。
旧世界の地球のように、潮の満ち引きを引き起こすほどの、月はありませんでした。
貝は潜って取るのが一般的です。
「エヴァもロッテもおなかいっぱい?マダ冷たいフルーツもあるわよ」
「「わ~い!フルーツ食べる!」」
喜ぶジョンソン姉妹です。
「しかし、よくこれだけ持ってきたわね」
改めて感心するアリア
「絶対におなか空くと思ってたからね。このくらい魔法で重さを調整するから大丈夫よ」
「飛行具やさっきのサーフボードなら魔法で簡単に動かせるけど」
「こういう複雑な物はねぇ~中の物だけ浮いちゃったりするし」
「材質が違うんだから、外側の材質だけを意識すれば大丈夫!」
いつも通り余裕で胸を張るオリビア
「私、2学期はモットオリビアに色々教えてもらって、魔法!使いこなせるようになりたい」
そう宣言するプリシラ
「良いわね、目指せSクラスよ!」
オリビアが励まします。
「私は今のままでも、来年はSクラスなんじゃないかと思う、もしかしたらエミリーもエマも」
比較的キッパリと言い切るシャーロット
「私もそう思うな、追いつかれないように頑張らないと!このボディボードとサーフボード、コレ動かすのかなり魔法の練習になるわよね」
急に真面目な顔をして、そんなコトを言い出すアリアです。
「そうね、飛行具と違って、波に合わせて動かし方を変える必要があるものね」
シャーロットも同意します。
「ねえオリビア、サーフボードって頼んだらいくらくらいなの?」
「これは4枚で大金貨1枚掛かった、もちろん開発費入れてね」
「え!一枚25ウル、結構するわね」
貴族家であればそれほどの金額でもありません。
まして、高位貴族、そうで無くても裕福な男爵家からすれば、かなり微々たる金額です。
但しこの国の方針で、学園での課外活動、自力で自分の費用を稼ぐと言う教育などを通じて、
貴族家でも、市井の生活、実際の街中の金銭感覚は、きちんと把握するように教育されていました。
「次回作るとしたら、10~15ウルくらいでデキルって言ってたわ」
日本円換算で、10~15万くらい、ファンボードとしては高め、少し安めのロングボードくらいの価格です。
「でも魔方陣付与したらモットでしょ、ジョンソン商会、そんな物で遊んでるの?」
「今回はこの板のテストだから、全部うちで持ったわ!でもジョンソン商会ならその位平気よ、貴族並みに財力有るから!」
そう言えばそうだったと、納得する3人です。
「このボディボードは?」
「たしか3~4ウルくらいだったかな?」
ファンボードが10~15万、旧世界のボディボードが2万くらい。
ココでもその比率はほぼ同じでした。
「私自分用のサーフボード頼むわ」
キッパリと言い切るプリシラ
「凄い!やる気になった?」
サーフィン仲間がデキルと、チョット嬉しくなるオリビア
「私はコッチのボディボードをお願いするわ」
今度はシャーロットが、自分用のボードを依頼します。
「え?シャーロットもヤルの」
驚いたのはアリアです。
「魔法の練習になるし、かなり面白い、さっきオリビアの言っていたいろんな技にも挑戦して見る」
「お嬢、おなかいっぱい!海に行こう!!」
早速ボディーボードをひっつかむジョンソン姉妹
「もうチョト休憩してからよ、それに後片付け!」
そう声を掛けますが、ふと見ると何となくお嬢様達もそわそわしています。
「ほら、魔法の練習になるし、」
何となく言い訳をするアリア
「私はコレ気に入ったわ、凄く面白い!」
キッパリと言い切るシャーロット
「私も、又明日も来て良いかな?」
こちらもやる気のプリシラです。
「ボード類は倉庫に置いておく、ジョンソン兄弟が全員1度に使うことないから、いつでも大丈夫よ、でも、明日は間違いなく誰かはいるわよ、後ワイアット兄さんが来るかも?」
「私はゼンゼン気にしないわ」
「最初だけオリビアが居てくれれば大丈夫」
二人とも全く動じていません
「プリシラは15分くらいで来られるけど、シャーロットはどうするの?ラッセル領からここまで1時間以上掛かるよ」
今時の言い方が、すっかり板に付いたオリビアです。
「今晩はオリビアの部屋に泊まっていくわ。いいでしょ?」
「もちろんよ、1年の夏休みは宿題も大して無いし、みんなもう終わってるんでしょ」
「エエもちろん、でも自由研究はコレの乗り方についてに書き換えるわ」
キッパリ言い切るシャーロットです
「私もそうしようかしら。もうチョト乗れたらね」
プリシラも乗ってきます。
「え?二人ともそうするの、じゃあ私ももう一泊、泊めてもらおうかな?」
とうとうアリアもそう言い出しました。
「じゃあ決まりね!」
波乗り文化が一気に広がったことに、一番喜ぶオリビア
(コンナ結果になるとは思わなかった。私も夏休み中にリップがデキルまで頑張るか)
密かに計画を立てるのでした。
読んでくださった方、本当にありがとう御座います。
夏休みはこれでおしまいです
次回から新学期
そして学園祭、飛行具レースが開催されます




