第6話 作る物は沢山有る
作業着からサマードレスに着替えたオリビアが、涼しいリビングに来ると、昨日の朝帰ったばかりのアリアが冷たい物を飲んで涼んでいました。
「いらっしゃいアリア、昨日ぶり」
「おじゃましてるわ、私もこんなにすぐ来ると思ってなかったけど」
冷たい飲み物を、優雅にテーブルに戻すアリア
この世界でも、入れ物は普通にガラスのコップが使われています。
「それで今日は?サリヴァン家の伝令ってところかしら」
チョッピリ悪戯っぽく笑うオリビア
「ヤッパリ分かる?その通りよ、帰って父様に冷房のこと話したら、是非見に行きたいって、しかもなるべく早く!父様暑がりなのよ」
チョットうんざりした顔をするアリアです。
「たぶんいつでもどうぞって言うと思うけど、じゃあ今日はお父様かワイアット兄さんに話を通したらすぐに帰っちゃうの?」
少し残念そうな顔になります
「それがね、レイエス家の都合が悪ければ帰ってこいって!私が今日帰らなかったら、明日の早い内に来るって伝えてくれって」
「それ、明日来るって言ってるようなものだよね」
そう言うと、ケラケラと笑うオリビア
「まあ、私は又オリビアのところに泊まれて嬉しいけどさ、大丈夫なんでしょ?」
「父様は分からないけど、ワイアット兄さんは昼前なら大丈夫、午後は出かけるけどね」
(ジョンソン商会に行くハズだけど、公爵が来てからの方が良いわよね)
「本来は他領の公爵系の当主が来るんだから、きちんとお迎えしなければいけないんだけど・・・」
「そう言うことイイカラって、言われてる。もう冷房にもの凄く興味があって、正式な面会とかどうでも良いって、だからレイエス公爵がいなくても実際に作ったワイアット兄様に会えればそれでいいって」
「うわぁ~公爵家とは思えない大雑把!・・・まあ、相手がウチだし、サリヴァン家とウチは親戚だからね、全く問題無いけどね」
「ところでさ、オリビアもう海に入ったよね!」
突然話を変えるアリア
「え!分かる」
「少しだけだけど、日に焼けてる」
元々少し肌の黒いこの地方の人間、そしてこの世界の太陽光の性質か、あるいはオゾン層の影響なのか、少し旧世界よりも紫外線が弱いようなのです。
又、日焼け止めに関しては、日本の物より上質なのではと思われるほど性能が良く、日焼けしている女性、しかも貴族の女性などほとんどいません。
「急に行ったから、きちんと日焼け止め塗ってなかったのよ」
さすがに、少し恥ずかしそうにするオリビアです。
「全くオリビアは・・・そんなオリビアも可愛いけどね」
悪戯っぽく笑うアリアです
「そうだ!明日一緒に海に行ってみない?」
「え?オリビアと同じ水着着て・・・」
「海に入っても入らなくても、どっちでも良いよ、見せたい物があるだけだから」
「そうなの?」
「でも、出来ればアリアにも使って欲しい気持ちもあるんだけど・・・ノア兄にも使わせてみようと思ってるんだ」
「ノア兄様の前で、アンナ水着着るの絶対に無理!」
「まあ良いわ、もうひとつ面白いアイテム考えてるから、そっちがデキテから一緒にやってみようよ、その時はシャーロット達にも声かけなくちゃ」
「まだ、何か考えてるの?」
「まあね、先にワイアット兄さんのところに行ってみよう、マダ作業場に居るはずだから」
そう言うと、さっさと部屋を出て行こうとするオリビア
「あ、待ってよ」
慌てて後を追うアリアです
「全く、ここレイエス家なんだから、きちんと案内してくれなくちゃ」
「ごめんごめん、勝手知ったるって思っていたわ」
そんな話をしながら作業場に向かいます
「ココに来るの久しぶり」
「本当は部外者立ち入り禁止、レイエス家の機密事項満載の部屋だけどね♪・・・兄さんまだ居る?入るわよ」
ノックをしながら冗談ポク言うオリビアですが、旧世界の感覚からすれば、まさにその通り!
スマホのカメラ部分にシールを貼る必要があります。
実はこの世界には、カメラその物は存在します。
但し、持っているのは、専門の写真屋と、写真が趣味な貴族だけです。
「私が見て何か分かるわけ無いじゃない」
返事を待たずに扉を開けて入っていくオリビア
作業部屋には予想通り、ワイアットがまだ作業をして居ました。
「アレ?オリビア何時入ってきたの?・・・あ!アリアちゃんじゃないか、久しぶり・・・でもないか」
「昨日振りです、ワイアット兄様」
子どもの頃から知っている中、しかもワイアットとアリアは本当の意味で従姉妹同士です
軽く挨拶をするアリア
「アリアちゃんが態々来たと言うことは、サリヴァン公爵が冷房を見に来たいって事だよね」
「そうなんです、しかも明日の昼前だと思います」
「コレは又、ずいぶんと早いね、明日は工場に行かなければいけないけど・・・」
少し困った顔をするワイアット
「それは午後で良いんじゃない、その時は私も一緒に行くから」
「そうなんだ、じゃあそうしよう。アリアちゃんこれから帰るのかい?」
オリビアと同じ事を聞くワイアット
「イエ、私が今日帰ってこなければOKと言うことで、明日来ると言っていました」
ああ、そう言うこと、ット言う顔をするワイアットでした。
「それで、兄さん、今何をしていたの?」
「さっきの金属、色々と調べてる、ヤッパリ鉄とは全く違うね、オリビアの言うとおり磁石もくっつかないし、切断もしにくいな」
それを聞いてパッと明るい顔になるオリビア
「ヤッパリ上手く言ったかも・・・コレは?」
作業台の上で3ミュー(10cm)□くらいの破片が、濡れて光っています。
「塩水を塗ってみた、コレで明日までおいてどうなるかな?」
「鉄なら一晩でうっすらサビが浮いてくるわね、錆びてなければ使えるって事ね」
「そうなんだよ」
「相変わらずね、オリビアは、私には何が面白いのか分からないわ。とりあえずワイアット兄様の返事はもらったし、オリビアの部屋に行こうよ、私まだ飛行用の服のママなのよ」
発明狂の兄と、似たもの同士のオリビアの会話にしびれを切らしたアリア、流石にチョッピリうんざりした様子です。
「そうね、そうだ!マット達に明日渡す図面書いとかなくちゃ、じゃあ兄さん後よろしく!」
「あ、チョットオリビア、私を置いていかないでよ」
慌てて後を追うアリアでした。
翌朝の朝食、今日はレイエス家全員が揃いました。
「おはようアリアさん、よく眠れたかしら」
「ハイ、ミラおばさま、オリビアがズーッとなにか書いてたので、私は早めに寝ることにしましたから」
笑顔でサラッと告げ口をするアリアです。
オリビアが母親にだけには弱いことを良く知っています。
「オリビア・・・」
とがめるようにオリビアを見るミラ
「思いついたときに書いておかないと忘れるでしょ。あ!兄さん昨日の金属片錆が出てた?」
ところが今日は、全くコタエテいません。
「今んところはほとんどそのまま、アレは使えそうだね。ところで書いていた物って今日ジョンソン商会に持っていくって言っていたやつかい?」
こちらも興味津々のワイアット
「それは簡単な物だからスグできたの、それからアリアと話をしていてね、ホラ2学期は学園祭があるじゃない」
「そうねぇ~飛行具レースに出るんでしょ、私もマダ完全に賛成じゃ無いんだけど」
今度は本当に心配そうにする母のミラです。
「僕もそう思ったけど、あれだけ飛べるんじゃねぇ~教師の推薦もあるし、止める理由が無いんだよ」
「飛行具が得意なノアがそう言うのなら、信用するけど・・・女の子でしょぉ~、アンナ荒っぽい競技に態々出なくても」
「特別枠なのよ、母様も喜んでよ、凄いでしょ!」
胸を張るオリビア
今日は母に何を言われても、全くへこたれません。
「担任の先生もノアも良いと言うんじゃ、私も止められないわ」
「しかし、ノアから見ても止める理由が無いのかい?」
やはり父親も心配します。
「そうなんだ、さすがはオリビアだよ。当日は父さんも見に来てよ。それまでにもし危ないと思ったら、僕が止めるから」
「分かった、頼んだよノア」
「ヨーシ僕も1年の特別枠でレースに出るぞ」
やはり早く飛行具に乗りたい入学前のリアムです
「まあ頑張れよ」
「兄さん僕に冷たくない!」
「おまえが入学してすぐオリビアくらい飛べたら、応援してやる」
「ノア兄さんはもう卒業してるから、私が教えて上げるわ」
「ほんと?約束だよ姉さん」
オリビアも弟には少し甘いのでした。
「ところでオリビアが夕べ考えていた事って、飛行具に関することなのかい?」
やはりワイアットは、オリビアの思いついたことが気になります。
「飛行具レースは、学校指定の物を使わなくちゃいけないから。何も出来ないわ。それよりもクラスの催し物をもう少し工夫できないかなぁ~って思ってね」
「昨日学園祭の話をしていたら、オリビアが楽器を工夫したいって言い出して」
「出し物ってもう決まってるの?」
学園祭で各クラスが出し物をするのは4年迄
5年生のオリビアは1年生の催し物に興味があります。
「もちろんマダゼンゼン決まってないわ、ただダイタイ毎年楽器演奏とか寸劇とかじゃない」
「まあそうだね」
「毎年同じようだから、モットばぁ~んと派手な感じのモノを出来ないかなぁ~って思って」
「昨日、ばんど?・・・とか言ってたわよね。」
「そうなの、デモそれをするには、楽器を工夫しなくちゃ」
「それで、何か案があるの?ある程度図面化したんじゃないのかな?」
これは何か前世の面白い知識かな?
この場にいた中で、1人だけ思い当たるワイアットです。
「思いつきを書いたタダの覚え書き、拡声の魔道具ってもう実用品でしょ?」
「平民でも普通に使えるよ、僕らもいちいち拡声の魔法使うよりも、大勢に聞かせたい広いところとかは、便利に使えると思う」
「楽器の音を大きくするって事?」
少し興味が出てきたアリアです
「それに近いけど、リートやベースの弦の振動だけ拾って、格好いい感じの音に出来ればなぁ~って」
リートはギターに近い楽器ですが弦は4本、ベースは名前も形もほぼ同じ、ウッドベースです。
「なるほど、それはやってみる価値がありそうだ、覚え書きって言っても、ある程度の方法は検討してるんだよね」
「そうなの、例えば・・・」
「2人とも、そう言う話は作業場でしてね、今は食事の時間なんだから」
やはり最後に暴走しかけたオリビアを止めるのは母親でした。
「まさか母様まで来ると思わなかったわ」
飛行服に着替え、発着場に向かう間も文句を言い続けるアリアです。
「まあ、デモその流れでうちにもう一晩泊まることになったんだから良いじゃ無い」
朝食の後鐘ひとつ、最近の言い方で言うと、1時間チョットでサリヴァン公爵がやってきました。
しかも奥様と一緒に。
どうも、奥様は冷房に興味を持ちすぎている旦那様を見張りに来たようでした
この世界の世界観は、旧世界で言うと中世のような文明レベル。
女性の地位はそれほど高くないのでは?
ついついそう思ってしまいます。
実際、公爵家と王家には側室が認められている程です!
しかし、この世界は魔法の影響と、大きな戦争が起きていないため化学文明が伸び悩んでいますが、歴史は長く旧世界よりも考え方が熟成している部分もあるのです。
そのひとつが女性の地位
男女はほぼ同様に扱われ、公爵家、あるいは王家であっても、公的に女性が軽視されることはありません。
比較的魔力は男性の方が強めですが、魔力を持った人間は、多少女性の方が多い傾向にあります。
その為、魔力の高い王家、公爵家には側室が認められているのです。
オリビアの母ミラのように、低位貴族でありながら、Sクラスに在籍居ていたような娘は、侍女のようなことをするのは珍しく、最初から高位貴族の側室に収まる方が多かったのです。
結局、一夏持てば良いからと、すぐに冷房を発注しようとしたサリヴァン公爵でしたが。
新しい材質による、長持ちする物が近々完成しそうだと話したところ、
「今依頼しても無駄になります、もう少し待ってください」
奥様の一言で、新素材の完成を待つことになりました。
「でも、本当はチョット助かっちゃった」
「どうして?」
「だって、又大特急で冷房作らされたら、私が頼みたい物作ってもらえないもの」
「学園祭の話する前に書いていたアレね」
「ええ、あ!兄さんお待たせ」
発着場に着くと、そこにはノアとワイアットがすでに待っていました。
飛行具はすでに全員分用意されています。
ノアは2人乗り、ワイアットは配達用の飛行具です。
「兄さんマットが居たら載せてくれるの?」
「ああ、不本意だが、僕が載せていかないとオリビアが載せるって言い出すからね」
「誰かが送ってくれれば、それでいいんだけどね」
「じゃあよろしく、あれ?ねえさん」
玄関から姉のアメリアと弟のリアムが出てきました。
「姉さんも一緒に行くの?」
「オリビアの新しいアイテム、見たい気もするけど、それよりも!ノアのレポート添削しておかないと」
「え・・・そうなの?」
「そうなの?じゃないわよ、誤字もあるし文章もわかりにくいし、直しておくから帰ったら書き直し!それに今日送らないと間に合わないから、明日直接持って行きなさい!提出する前に確認して良かったわ」
「えぇ~~」
「今日はノアが2人乗り用を乗っていかないと、又オリビアがやらかすから、一緒に行って良いわ、その代わり帰ったら徹夜ででも仕上げなさいよね!」
「ハイ!姉さん」
どうしても姉には頭の上がらない弟です。
「ノア兄様、私もお手伝いしましょうか」
サラッとフォローするアリアですが
「アリアちゃん、甘やかさなくてイイカラね、それじゃあ兄さんヨロシクネ」
「分かった、みんな行くよ、オリビア、荷物は僕の飛行具の荷台において」
「いいなぁ~僕も海に行きたかったな」
「2人乗りの飛行具は1台しか無いから、明日一緒に行こうよ、私が載せてって上げる」
「約束だよ」
「分かったわ、それじゃあ行ってきます」
ワイアットを先頭に全員綺麗に飛び立っていきました。
「こんにちは」
勝手知ったるジョンソン商会の工場に入っていく一同
「いらっしゃい、うわ、大人数ですね」
工場ではジョンとマットが待っていました。
「ヤア、2人ともご苦労様、もうほとんど出来たって」
「ええ、後は魔方陣を設置して動くようにするだけです、それ以外は全部仕上がってますよ」
少し自慢げに話すジョンです
「じゃあ少し手が空いた?頼みたい物があるんだけど」
サラッと自分の注文をねじ込むオリビア
「こないだ言っていた簡単なサーフボードのこと?」
それでも、元々興味があったジョンソン兄弟、いやな顔どころか、興味津々です
「そうそれ」
そう言うと、デイパックに突っ込んであった、くるっと巻いた紙の束を取り出します。
「いらっしゃいませ」
オリビアが説明を始めようとしたとき、奥から中年の男性が出てきました。
「やあ、親父サン。毎度急がしてすまないね」
来たのは、ジョンソン兄弟の父親です。
「いつものことですから、それに次々急ぎの物件が出てくるのが、レイエス家の凄いところですよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「え~とそちらのお嬢様は確か・・・」
「アリア・サリヴァンです」
普通に軽く会釈をするような挨拶をするアリア
「そうでした、すっかりお綺麗になられて」
「有り難う御座います」
「サリヴァン家の方がいらっしゃったと言うことは・・・もしかして」
「実は今日頼まれそうになったんだけどね、マダ試作品だから来年まで待ってくれって納得してもらった、それで熱交換器に使う新しい金属を一緒に作って欲しいんだ」
一瞬ホットした様子のジョンソン氏ですが、又かなり忙しくなりそうな話題を振られ、ほんの少しだけげんなりした様子を見せます。
が、そこは商会主、一瞬で気持ちを切り換えます。
「ある程度考えが有るんですか?」
「少しだけ試作品を作ってみた、コレなんだけど」
金属片を出すワイアット
「へ~面白そうですね、妙に光ってる感じですけど、もしかしたら錆びにくい金属ですか」
「流石ジョン、よく分かるね」
「話の流れも有りましたからね、親父、俺ワイアット様とコレの開発させてくれ、マットはお嬢の依頼聞いて上げて」
「そうだな、ジョン頼むよ、その前に冷房のけりつけてしまおう」
「ノア様が一緒に来て居ると言うことは、サーフボードを見せるつもり?」
「そうなの、出来ればジョン兄かマットに魔力無しで乗るところを見せと欲しいんだけど、あら?そう言えばリロイは?」
「ずっとあっちに居る、まあ学校も休みだし、半日だけは仕事手伝わせてるけどね」
12歳以下の平民の子どもには義務教育があります。
授業は午前中だけですが、費用は無料です。
教育内容は読み書きと計算がほとんどですが、地理や歴史、自然科学も多少含まれています。
そのおかげで、この国の識字率はほとんど100%です。
「私の依頼は簡単だから、後で説明するわ。それよりももう出発しよう!今日も良い波が来てると良いな」




