第2話 この世界には魔法があります
この世界のこと
この世界の魔法のこと
説明する話みたいになってしまいました
「お帰りなさい旦那様、やっとみんな揃いましたね」
朝と同じ大広間、食卓には沢山の御馳走が並んでいます。
「ただいまミラ、遅くなってしまったな」
軽く抱き合う二人
40手前の少し渋みが出来てきたイケメン
20代中盤のマダマダ美しい母
(オリビアの前世の年齢に治すと、50手前と三十路を少し過ぎたくらいの二人)
それでもマダマダ絵になります。
「ワイアットもご苦労様。あなたたちまで、ノアみたいに無茶をしないか心配しましたよ。」
「そう言えばノア・・・良く帰ってこられたな」
「僕はこれでも魔力が多いからね、本気で飛ばせばコンナ物だよ、明日も夜明けに出ればちゃんと1限目に間に合うよ」
どや顔をするノア
「夜は移動できないから、明日の朝一番で学校に行くしか無いな、無断欠席は困るけど、ムリはするなよ」
(飛行具の前だけ明るく照らす明かり、オリビアのヒントでもう少しで出来そうなんだけどなぁ~)
そんなコトを考えていると
「そうですよ、ムリして授業中にずっと居眠りとかしないでくださいね」
「やだなぁ~母さんまで、そんなわけ無いじゃない」
「どうだか?」
しかめっ面で、弟を睨む姉
「なに?姉さん」
「昨日帰ってから朝まで寝ていたんでしょ」
「帰りはそんなに飛ばさないから大丈夫だよ」
「あれ、主役は?」
風向きが悪くなってきたので、話を変えるノア
「プレゼントのドレスに着替えているところですよ」
ちょうどその時、広間の扉が開き、メアリに付き添われたオリビアが入ってきました。
真新しい、マーメードラインの薄いブルーのドレス姿、サラリとしたプラチナブロンドと相まって、本当に妖精のようです。
見慣れた家族でさえ、一瞬目を見張ります。
「わぁ~ヤッパリオリビアは綺麗ねぇ~、それにずいぶんと女性らしくなったわね」
いつも通り手放しで賞賛するアメリア
「有り難う姉さん。お父様、お母様有り難う御座います」
「おめでとうオリビア」
オリビアを抱き寄せるミラ
父親も抱きしめようとしましたが、兄弟にじろりと見られて、咳払いをして居住まいを正します。
「僕たちもナニか送りたかったな」
「プレゼントは自分で働くようになってからですよ」
「あ!じゃあ、ワイアット兄さんはナニか用意したの?」
もう学生ではない兄に話を振るノア
「もちろんさ、今渡してしまおうかな、チョット待ってくれ」
ワイアットはいそいそと部屋を出ていきました。
「何かしら?お父様は知ってるの?」
その後ろ姿を見ながら、オリビアは父親に聞いてみました。
「私も分からんが、ず~っとナニかをやっていたみたいだな、このところは部屋に閉じこもりっきりのこともあったようだし」
「でた、兄さんの発明狂」
「たぶんオリビアがナニか面白いネタを提供したんじゃない」
「あ!もしかしたら」
どうやらオリビアには思い当たる節があるようです。
皆がそれぞれ、話をしていると、大事そうに何かを抱えてワイアットが戻ってきました。
持ってきたモノをソーッとテーブルの上に置くと
「誕生日おめでとうオリビア、完成したよ」
そう言うと、上に掛かっていた布を取ります。
「これって、私が相談した」
「そう!振り子式時間計測器!名付けて振り子時計!鐘ひとつを正確に100分割して示してくれる。」
「良く正確に1/100に出来たわね」
「オリビアからヒントをもらってから、みんなに協力してもらって、色々な長さの振り子を試したんだ」
「もしかしたら、鐘ひとつの間、数数えていたとか」
「あっちコッチの人に協力してもらってね、オリビアの誕生日プレゼントにするって言ったら、みんな喜んで引き受けてくれたよ」
「それは何か申し訳ないような」
「ちゃんと手間賃は払ったよ」
「これは色々なことに役に立ちそうだ」
身を乗り出して興味をします父親
「そうですね、魔力測定も温度の方はオリビアのおかげで測りやすくなりましたが、時間の方は、王室の砂時計原器に合わせた物を使ってますよね。それよりもこの方が正確ですね」
「本当はこの針が一回転すると、別の20分割した針が1メモリ動いて、一日中時間が分かるようにしたかったんだけど、間に合わなかった」
「それだと時間管理者の仕事無くなっちゃうんじゃない?」
鐘を鳴らす時間管理者の資格は、国家資格。
かなり憧れの上級職なのです。
「それはないな、色々試したけど、どうしても不正確になることがある、鐘ひとつ分ならほとんど狂いは出ないけど、一日になると少し怪しくなってくるな。その代わり、一日一回鐘の音に合わせれば、いつでも時間が分かるようになるけどね」
「もちろんこれから、そういったことも解決していくよ、それにこの部分の部品が・・・」
発明した装置の話になると、止まらなくなるワイアット
「兄さん話長い!いくらプレゼントの話でも、今日の主役はオリビアですからね」
いつも通りぴしゃりと兄をたしなめるアメリア
「デモ私、魔法も早く使えるようになりたいけど、魔道具も作ってみたいのよね」
オリビアは、サラッとそつなく兄をかばいます。
「だけど、オリビアが兄さんみたいになるののはなぁ~」
「さあ、みんな席に着いて、パーティーを始めるわよ、全員が揃うのは久しぶりですからね」
母親が声を掛けると、給仕係が、グラスに飲み物をつぎ始めました。
公爵家当主である父は、かなり忙しい身の上です。
7歳年上の長男は、すでに学校を卒業して、父の補佐をしています。
前世の年齢であれば24歳程度、当然婚約者はいます。
そろそろきちんと結婚していい年です。
しかし研究好き、発明好きの兄は、いつも婚約者をほったらかしてしまっています。
貴族としての仕事には真面目に取り組む方で
最近では、一人で案件をこなすこともあります。
昨日は二人で、領地の外れの方に出かけていました。
レイエス家は公爵家ですので、治めている土地はかなり広範囲です。
公爵家というと、たいていは王族の血縁関係ですが
レイエス公爵家だけは、王族の血がほとんど入って居ません。
ほんのわずかに、王族に繋がるのは先妻のソフィアと、その子どもの長男長女そして次男だけです。
この世界には魔法という物が存在します。
魔法と言っても、万能というわけではありません。
世界中何処にでも存在する、魔素と言われる素粒子を、精神の力でエネルギーに変換できる能力のことです。
魔素は所謂素粒子、質量があります。
一般的な魔術師で、一度にエネルギーに変換できるのは0.001マイクログラム程度
そして物質のエネルギー化
E=mc^2
この世界で、この公式を知っている人は居ませんが、物理法則はやはり宇宙の法則!
たとえ単位が違っても、エネルギーへの変換率は変わることはありません。
つまりは、普通の魔道士の能力は
20Lの水を10~20秒程度で沸騰させるくらいの力です
馬力に直すと、500~1000馬力程度の力を発揮するコトが出来ます。
高給スポーツカーのエンジン並みのパワーです
エネルギーへの変換は、熱エネルギーに変換することが一番簡単ですが、
直接運動エネルギー変換することも出来ます。
運動エネルギーに変換する場合、水、空気、そしてある種類の木材、これらが一番効率よく動かすことが出来ます。
飛行具に使われているのは、そう言う木材です。
この世界の貴族はほぼ全員が魔術師です。
魔術が使える人間が、人々の生活を豊かにするために
便利に暮らしていけるようにと、
管理できる大きさの領地を、管理するように任されるようになたのが始まりです。
当然魔力が高い貴族の方が広い領地を管理することが出来ます。
貴族は、上から順番に
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
騎士爵
の、6段階
(わかりやすいように、、日本語に当てはめています)
公爵は一般的に、王家の血縁者です
一般的には・・・そう、レイエス家を除けば・・・
そして、貴族の順位は魔力の順位でもあります。
その貴族がどれだけエネルギーをもたらせるのか?
どれだけの土地、領民を魔力で助けることが出来るのか?
それによる爵位と言うことになっています。
そして、魔術の才能はほぼ親から子へと受け継がれます。
ただし、ごくまれに平民でも魔術が使える者が現れたり、
貴族の中にも魔術が使えない物が生まれることがあります。
そして、下位貴族でも高い魔力を持つ者が生まれることもあります。
オリビアの母ミラは、男爵家の娘としては、極めて高い魔力の持ち主です。
前妻のソフィアが、ミラをレイエス家に取り込んだのも、後は任せると言えたのもその為です。
さて、レイエス家は元々は伯爵家
貴族としては平均よりも少し高い程度の魔力の持ち主でした。
ところが、5代前の当主が大変研究熱心な男で
魔力の影響の受けやすい材質で作った色々な道具に魔方陣を書き、魔法を付与すると言う方法をとれば、
魔力が無いと判定された人、主に平民でも、魔素をエネルギー変換して
効率よく仕事が出来るようになると言うことを、発見しました。
もちろん平均的な貴族が使う魔力の1/10以下
貴族の魔力と比べると、乗用車と原付くらいの差があります。
そうは言っても、自転車もない世界に原チャリが出現すれば、その作業効率は爆上がり!
これは、完全なる産業革命でした。
レイエス家は伯爵から侯爵に陞爵、管理する領地も広くなりました。
魔術具の作成技術は、王令で全貴族に公開されましたが、
その製作はかなり困難な作業、開発に挫折して、レイエス家から魔道具を購入する貴族家も少なくありませんでした。
当然、気軽に魔道具を使えるレイエス家は、広くなった領地を、問題無く管理することが出来ます。
そして、レイエス家の研究好きは一代では収まりません。
先代の領主、オリビアのおじいさまに当たる人物は
海中のプランクトンの一種を、魔道具と組み合わせることにより、ほんのわずかではあるものの
魔素をエネルギーに変えられる物が居ることを発見しました。
基本的に人間以外の生物は、魔素を扱うことが出来ません
当然この世界には魔物なんて物は存在しません
所がこのプランクトンは、魔方陣と組み合わせることにより
魔素からのエネルギー変換が出来たのです。
その後、息子である現当主と共に、プランクトンの養殖
品種改良、効率の良い魔方陣の開発
そして、有る一定の容器に特殊な溶液を満たせば、1年ほどその効果を持続できる
つまりは効率の良い電池のようなモノを開発しました。
その効果は、ランプの代わりとなる明るい照明になったり
チョットした暖房用の火気として使われたり
自動で給水できる装置になったり
人間が魔道具を操作して得られる力よりもかなり少ない物の
人間が介在しなくても良い、安定したエネルギー
ランプよりも遥かに明るい照明器具、安定した熱源、動き続けるポンプ
料理など、恒に人が介在する場所に使用するのであれば、魔道具のコンロを恒に発動していれば良いのです。
火力も恒に調整できます。
しかし、寝ている間でも部屋全体は無理でも、寝具だけでも温めてくれる物(まあ電気毛布みたいな物です)
これは非常に重宝されました。
この魔道具が開発される前は、暖炉しかありませんでした。
持続性も耐久性も桁違いです。
人々の暮らしを画期的に変えたこの発明
国も、今回の功績を高く評価し
短期間に2度の陞爵を、良く思わない声もありましたが
とうとうレイエス家は貴族としては最高位の公爵に陞爵しました。
魔道具による領地の発展
そして、他領よりも遥かに裕福な財政
それでも、他の高位貴族に比べると少しばかり魔力が低いレイエス家
影では、成り上がり公爵と揶揄されることもしばしば
まあ実際に成り上がったわけですから
前妻のソフィアは、魔力の高い公爵家の4女
成り上がり公爵に嫁ぐなんて、どうせ魔力の底上げがしたいだけだろ。
そんな声もありましたが、ソフィア自身は、自分たちの力で道を切り開いたレイエス家を大変好ましく思って居ました。
そして、ソフィアから後を任されたミラは、男爵家の娘としては、驚くほど魔力の高い娘です。
その結果、5人の子どもは、公爵家の子どもとして、恥ずかしくない魔力を有するようになりました。
特にオリビアは、王族に匹敵するか、あるいはそれ以上の魔力がありました。
魔力の多い方が貴族としてはとても有利です。
魔力の多さで、この国を作った現在の王家、
そして初代の王は魔力だけではなく、非常に頭の良い人間でした。
魔力のある者は領地を与え貴族にする
魔力による豊かな暮らし
それを支える魔術師
もちろんウソではありません。
デモそれは建前
本当の狙いは、魔術師を野放しにさせたくなかったのです。
現在この国の人口は約530万人
そのうち貴族は82家族
公爵家 4家 前置詞 ド オリビアの場合 オリビア・ド・レイエス となります。
侯爵家 12家 前置詞 ツー
伯爵家 16家 前置詞 ファ
子爵家 22家 前置詞 リ
男爵家 28家 前置詞 ルー
騎士爵 一代限り 平民の魔力持ちに与えられます
子どもに魔力が無ければ元の平民に、魔力があればそのまま、3代目まで魔力があると男爵に陞爵されます
ひとつの家族の人数は、分家筋まで合わせて、一家族平均40人程度
つまり貴族の割合は、全人口の0.1%以下です。
単純に計算すると貴族1人に、平民1600人の割合です・
それでも魔力を持つ物は持たざる物からすれば脅威です。
人間の半分以上は水で出来ています。
そして、この世界の魔力、物質のエネルギー化、熱エネルギーでも運動エネルギーでも、一番簡単に扱えるのは水と空気です。
魔力の制御に長けた物であれば、1度に100人前後の生命を奪うことなど造作も無いことです。
1000人2000人の平民が束になって掛かっても、相手になりません。
魔術師同士だと、お互いの能力が相殺してしまうので、相手に直接攻撃することは出来ません。
そんな魔術師は、平民からすれば脅威でしか有りません。
しかしいくら絶対的な力が合っても、国を作るのは実際に働く平民です。
それをないがしろにしては、国は成り立ちません。
それにいくら絶対的な力が合っても、敵対する方法は沢山有ります。
寝込みを襲う、遠距離から攻撃する、放火する・・・等など
そこで、初代王家は、貴族という称号を与え、土地を管理する役目を与えました。
魔力でより土地を発展させる。
その見返りとして、税収を得る。
魔力を持つ物も、持たざる物も、それなりに不満の無いような政策をとったのです。
さらに、貴族の魔力を把握するためと、魔法の効率化のため、王立の魔法学校が作られました。
費用は全て国持ち!
衣食住、細々としたこと全て、一切お金が掛かりません。
平民の魔力持ちが入学した際には、支度金が支払われます。
そして2年生以上の学生には職業体験(前世のアルバイトのような物)の義務があり
その収入は学園側に支払われ、働きに応じて、そしてマダ働けない1年にも分配されます。
平民の感覚では、1年でも普通に働く大人に近い金額が支払われます。
教育の内容は、効率の良い魔力の使い方はもちろん、
それ以外に、一般教養、マナー、領地経営
そして、徹底的な道徳教育
いかに、魔力を上手に使って領地を裕福にするか
恐怖政治よりも、上手な経営が、いかに自分たちを裕福にさせるのか
そういったことを徹底的に刷り込みます。
そして、本当にごくたまに出る平民の魔力持ち
これを野良魔術師にするわけにはいきません。
非合法な仕事に就いてしまう危険性が高いからです。
そんな危ない橋を渡るよりも
お金をもらいながら、最高の教育が受けられ
卒業すれば、騎士爵として、王家の領地の一部を経営するか
王宮勤めとなり、高級官僚になれる。
影で危ない仕事をするよりも
魔力持ちを名のった方が、遙かに得であることを浸透させました。
この制度は、ココ「アビステル王国」が始めた物ですが、
あっと言う間に周辺諸国に広まり
現在では、全ての国に魔法学校があり、魔術師は国で管理するようになっています。
魔力の測定は、5歳、8歳、そして12歳の入学時に行われます。
内容は、決められた容量の水を(3リットル弱)、一定の時間(5秒程度)でどれだけ温度を上げられるか
それにより、変換できるエネルギー量を調べます。
オリビアは、8歳の時点で、同じ歳の貴族の子どもに比べて一番高い魔力量でした。
12歳の誕生日を迎え、入学前の魔力測定の時期が近づいてきています。
元々魔力の高いオリビア。
前世の記憶を思い出し、水の分子構造、エネルギー変換の仕組みそう言うことが分かれば、当然魔力テストで高い数値を出せるはずです。
「とりあえず試して見ようかな?」
みんなに誕生日を祝われながら、そんなコトを考えていました。
読んでくださった方、有り難う御座います
この世界の魔力というのは、こんな感じでした。
次回はオリビアがどうして前世の記憶を持っているのか
そして、この世界って、実際は何処にあるのか
そのことに触れたいと思います。