第1話 夏休み始まりました
「それではみんな節度を持って、休みだから・暑いからと言って、だらけること無く過ごしてほしい、最もこのクラスはほとんど高位貴族と王族ばかりだから、だらけることもないとは思うがな」
いよいよ明日から夏休みに入ります。
講堂で全生徒が集まるのは、ほんのわずかな時間、すでに暑い時期になっているので、あまり長くは時間を掛けません。
学園長が簡単に挨拶をしてすぐに終了
その後は、各クラスごとに担任から簡単な説明があり、全部で鐘ひとつ分も掛かりません。
「全員飛行許可証は持っているから、飛行具での帰郷となると思う。十分安全に注意して帰るように」
飛行具は学校指定の物を学園から与えられています。
一学期の終わりには、それぞれ、自分の飛行具を選んで自分専用にして居ます。
勉強に必要な全ての物から、生活に必要な物まで学園側から支給される魔法学園
当然飛行具も支給されます。
最初のうちは、飛行具置き場に置いてあるものを使っていましたっが、飛行許可証と一緒に、自分用の飛行具が渡されるのです。
(最初のうちは、結構壊す生徒も多いので、練習用の飛行具を使うことにしています)
カスタマイズされた飛行具を使っているのは、ノアの他には2人だけ
5年生で去年の飛行具レース4年の部チャンピョン、マルコム・スミスと、教職課程のジャック・クルスだけです。
もちろん3人とも使用感のレーポート提出を義務づけられています。
そして、いつもノアだけがレーポートが遅れて、呼び出されているわけです。
「それじゃあね、オリビア、夏休み明けも魔法教えてね」
すっかり親しくなったアビゲイルが声を掛けます
「うん、アビーも気を付けて帰ってね。どのくらい掛かるの?」
「うちの領は王都の隣、ゆっくり飛んでも鐘ひとつで往復できる距離だから」
オルティース公爵家は、現国王家に最も近い公爵家、所謂筆頭公爵家です。当然領地も王都から近い位置にあります。
「そうなんだ、カミラはエイミー達と帰るんでしょ」
「校庭で待ち合わせしてる。プリシラは予定通りよね」
「ええ、プリシラも校庭で待ち合わせているわ。兄さんが連絡しておいてくれたから。うちに寄るのはゼンゼン問題無いわ」
「男性群も気を付けてね」
ザックリと同級生の男子に声を掛けるオリビア
「おい扱いが雑だぞ、このクラスでは僕が一番遠いんだけどな」
メイソンが少しむっとして答えます
「どのくらい掛かるの?」
「休憩入れて一日鐘四つ分飛んで1日半掛かる」
「うわ~遠い、馬車だったら10日近く掛かるんじゃない?」
「僕も丸一日はかかる、でも飛行具で帰れるのはレイエスさんのおかげかな」
そう言ってきたのは、一番最後に飛べるようになったヘンリーです
「僕もかな、魔道具は好きだけど、実際に飛行具動かせるようになるのは苦労したから、レイエスさんの説明わかりやすかったな」
ローガンも同意します
「オリビアはねぇ~伊達に天才妖精姫って言われているわけじゃ無いから」
そう言うアリアに
「天才というのは自然科学と数学、魔力量のことかと思っていたけど、魔法理論も凄いよね、先生ナミだよ」
「ホントよね、私もだいぶ助かったわ」
王族2人もオリビアに感謝します。
「む・・・無駄話してないで早く用意しよう!」
持ち上げられて照れくさくなったオリビアは、さっと話を切り換えます
「そうね、とりあえず着替えて少し部屋を片付けておきましょう」
いつも冷静な、シャーロトでした。
1度寮に戻り、飛行用の服に着替えるオリビア達
最低限の荷物だけを、デイパックのような簡単な背負い袋に入れ、学校の校庭に集まってきました。
制服は学校内のランドリー係が洗濯してくれます。
その他の私服も全て、洗濯希望を明記して、部屋のドアのすぐ内側の籠に全て入れてあります。
魔法学園では、勉強以外のこと、食事、洗濯、あらゆる家事を一切する必要がありません。
但し自室の掃除だけは各自行います。
もちろん、ほとんどが貴族の子息・息女ですから、家事が出来ない者がほとんどです。
今年のように、平民出身の者が居ても、身分に関係なく、全員が同じ扱いをすることになっています。
同じ扱いと言っても、全てが高位貴族を基準にしています。
王族からも、不満が出たことはありません。
また、平民出身であっても、魔法学園に入った時点で、貴族として扱われることになるので、少し貴族らしい生活に慣れる必要があるのです。
約束していた場所に集まると、いつものメンバーの他に、もう1人大変目立つ人物がオリビアを待ていました。
「オーウェン殿下」
露骨に少しうんざりした顔で答えるオリビア
「やあオリビア、これから帰省かい?」
「そうですよ、殿下はナンデコンナところに?」
「君を見送りに来たんだよ、同じ学校に居るのに、一回も僕に会いに来なかったよね」
「そう言えばそうですね、まあ、特に用もありませんでしたから」
(飛行具レースと魔道具のことばかりで、ゼンゼン忘れてた)
「用がなくても、夕食を一緒に取るとか、自習を一緒にするとか、色々あるだろう?飛行具レースの練習ばかりしていたんだってね」
「食事や自習室は、いつも姉さん達が一緒でしたからね。それに殿下は2年ですからマダ自主室で後輩の面倒を見ることが出来ないじゃないですか。レースの方は、だいぶ勝てる見込みが立ってきたんです」
「そんなコト自慢しなくても良いんだけど・・・君の姉兄は反対しなかったのかな?」
「最初は反対しましたよ、でも私の飛び方を見て、納得してもらいました」
「それでも僕は反対だけどね。ダイタイ僕だって王族には危険だからと言う理由で参加できないんだよ」
「「オーウェン殿下」」
オリビア達が話をしていると
アメリアとエアロパーツの付いた派手な飛行具を持ったノアがやってきました。
「どうしたんですか?殿下」
「ゼンゼン僕に会いに来ない婚約者を夏休みの前くらい見送りに来たんだよ」
「それは態々、でも殿下がそこまでする必要は無いと思いますよ。マダ婚約者候補!ですから」
いつも通りオーウェンがオリビアを婚約者扱いするのが気に食わないノアです。
「イイんじゃないですか?殿下もココで挨拶をしておけば、態々レイエス領にいらっしゃること無いでしょうし」
そしていつも通り、サラッと兄に賛同して、王子を牽制しておくことを忘れないオリビアです。
「せっかくの夏休みに、海しか無いレイエス領に殿下がいらっしゃる必要も有りませんよね。みんな揃ったかしら?」
サラにバッサリと打ち切るアメリア
「ねえねえオリビア、殿下にアンナ態度で良いの?」
Aクラス、男爵家の令嬢であるプリシラには、少しばかり信じられない光景です。
王族に対して不敬ではないかと思ってしまいます。
「ああ、ダイジョブ、いつものことだから。姉さん、みんな揃ってるわ。それでは殿下、新学期に又あえる日を楽しみにしてますね」
それとなく、そしてキッパリと来るんじゃ無いオーラを出すオリビア。
「海しか無いレイエス領ですか、夏に出向くに絶好の場所じゃ無いですか。新学期前に逢えると思いますよ」
こちらも、全く引くことの無いオーウェンでした。
「じゃあ行きますよ、ノア!遅いと思ったら先に帰ってなさい!」
「ちゃんとみんなと一緒に行きますよ。僕が最後に飛ぶから、次オリビアね」
次々と綺麗な離陸で、アリアから順番にレイエス領に飛び立っていきました。
「ずいぶんと親しみ有る対応をされてましたね、兄様」
いつのまにかそばに居た、妹のエイブリーと弟のルーカスが声を掛けます。
「2人とも、いつからいたんだい?」
「夏休みの前くらい見送りに来たんだよ・・・辺りからですね」
今度はルーカスが答えました。
「最初からじゃないですか」
うんざりとした顔をするオーウェン
「相変わらずですね、レイエス家は」
「何だアビーも居たのか」
「居ましたよ、オリビアって王太子妃とか全く興味ないって言うか、ほとんどいやがってますよね」
「はっきり言いますね」
少しばかり嫌そうな顔をするオーウェン
「殿下をいやがってるようには見えません。単に王太子妃が面倒みたいなんですよ。私は両親からもレイエス家に勝つように言われていますからね。でも一学期でオリビアに勝つのは無理だって分かっちゃいました」
「僕もそう思うな」
自然とアビゲイルに賛同するルーカス。
「アビーが勝てないって事ですか?」
「それもだけど、王太子妃に興味が無いって事。兎に角変わった娘だけど、ある方面では驚くほどの頭の良さだし、見た目もあんな感じだし・・・それに魔力!おかしいくらいに高いんですよ」
「オリビアのことは入学前から調べていたんですよ。少し魔力が高すぎると思いましてね」
全員の顔に緊張が走ります
「それで、ナニか分かりましたか?」
さっきまでの学生のノリから、一気に王族モードになるルーカス
「なにも」
静かに首を振るオーウェン
「ナニもありませんでした。僕も直接確認しようと思って、オリビアに逢いに行きましたけどね」
「あらお兄様、それはオリビアに逢いたかったという理由もあるのでは無いですか?」
少しばかり緊張がほぐれて、砕けた様子になるエイブリー
「兄様が魔力関係なく、オリビアのこと気に入って居るのは知っていましたからね」
「そうですよ。それで私もかなり悔しい思いもしたんですよ。でも、一学期の間一緒のクラスで居たら、何となくオリビアならって思うようになって来たんです」
エイブリーの話に乗るアビゲイルです
「飛び抜けて綺麗な娘なのに、妙に面白い娘ですよね、なんかヌケテルとことか・・・でも魔法の理論説明、数学、自然科学、この辺りはSクラスの教師が舌を巻くレベル、ホントニ変わっている・・・興味の尽きない娘ですね」
ルーカスも2人の意見に賛同します。
「兄様が直接見に行った感じはどうだったんですか?」
「僕がレイエス家をいきなりたずねていったら、オリビアはレイエス家お抱え商会の工場にいましてね」
「「工場に?」」
全員が驚いて声を上げます。
「ええ、そこで働く人とおなじような格好をして、魔法のテストをしていました」
「職人と同じ格好ですか?公爵家の令嬢が??」
信じられない顔をする、生粋の公爵家令嬢アビゲイル
「そうですよ、それどころか、作業服スタイルじゃ無い僕が入っていったら怒られてしまいましたよ」
「変わってるってレベルじゃ無いですね。それで何をしていたんですか?」
「驚いたことに、魔法で鉄を溶かしてくっつけるテストをしていました」
「ええ!もうその時点で入学前の子どもの魔力を大幅に上回ってますよね!やはり誰かが魔法を教えたんじゃ無いですか」
再び緊張した面持ちになるルーカス
「ところがそうでも無いんですよ。溶かすのはほんの一点、極々狭い範囲でした。どうやらその後、レイエスの長男が魔道具化に成功したようですからね。使った魔力量は、入学前の子どもとしてはごく普通です・・・が、あの魔力制御は子どものものじゃありませんでしたね」
「それではやはり誰かが・・・」
「それはありません、まねしようとした兄のノアが全くできず、ワイアットが魔道具化するのに、制御方法をオリビアに聞いていましたから」
「ヤッパリよく分からないわね」
「サラにその後水で木を切断するテストをしてましたよ」
「ごめんなさい兄さん、ゼンゼン意味が分からないんですけど」
少し困り果てた顔をするルーカス。
「僕にも分からないから説明のしようすが有りませんね。但し一緒に見ていたワイアットには分かったようでした」
「レイエス家は元々異端ですから」
「次々と魔道具を生み出す長男のワイアット、妹と一緒の学校に居たいからと言う理由だけで教職課程の試験を簡単にパスする長女のアメリア、勉強はさっぱりだし、魔法理論も怪しいのに、魔力は学年どころか学園でもトップクラス、飛行具に関しては天才的なノア、まともな人間の方が少ないんですよ」
「言われてみればそうですね。短期間に2度の陞爵をしたレイエス家ですからね、不思議な人材も多いのでしょう」
「変わっているけど優秀な家系、国のために上手く使ってこそ王家というところですか」
そんな噂をされているとは思いも寄らない、オリビア達
ココは王都からレイエス領の中間地点の宿場町
学園の食堂のように一角を陣取り、昼食を兼ねた3回目の休憩を取っています。
時間は12の鐘がもう少しで鳴るくらい、オリビアの前世、日本であれば1時を少し回ったくらいです。
「もう後少しね、みんな疲れていない?」
「「大丈夫ですよ!」」
元気に答えるオリビア、アリア、シャーロット、3人組
「みんな元気ねぇ~プリシラちゃんは?」
「あ!有り難う御座います。ゼンゼン大丈夫です」
「みんな凄いな、僕が1年の時は最初の帰省、決行疲れたもんだよ。もう少し時間も掛けてたし。休みも長く取ったな」
感心するアリアの兄、オリバー
「シャーロットはこの先で別方向ね、兄さんは?」
「マダ時間も早いから一端レイエス家によってから帰るよ、アリアのこともきちんと頼んでおかなければね」
「それじゃあそろそろ出発しましょうか、シャーロットちゃん気を付けてね、道に迷わないようにね」
「大丈夫です、地図でしっかり確認してきました。それにほとんどここからは街道一本道ですから」
会計を済ませ、全員外に出ます。
魔法学園の生徒は、課外活動の収入の一部を、学生に分配しています。
もちろん上級生の方が額が多く、全く働いていない一年生は上級生の半分程度です。
それでも、一般市民の平均収入程度は支払われます。
衣食住全てにお金の掛からない学園生、本当の意味のお小遣いを全員持っているので、
会計は上級生がはらうことも無く、自分の分は自分で支払う習慣が出来ていました。
「それでは出発しますよ。シャーロットちゃん遊びに来てね」
「ハイアメリアお姉様」
「来るときは連絡してね・・・って言っても、自分で来た方が手紙より早いか」
(通信手段が無いからなぁ~・・・う~ん・・・あ!そうだ!)
「オリビア、どうした?出発しないのか?」
「あれ?ああ、今行くわ」
自分の考えに入り込みそうになったところをノアに声を掛けられ、少し慌てて飛び立つオリビア
その様子を見て
((又オリビアが何か思いついたね))
幼なじみ2人にはいつもの事、今更驚きません
「オリビアさんどうかしたんですか?」
唯一状況が分からないプリシラです
「ああ、いつものこと、なんか思いついたみたい、レイエス家に付いたらナニ思いついたか分かると思う」
そう言って、ゴーグルを付け飛び立つアリア、フライトキャップはかぶっていませんが
目だけはむき出しというわけには行きません。
「そう言えば、この飛行用のメガネもレイエス家で使われ始めたんですよね、凄いですよね」
独り言のようにそう言うと、みんなの後について飛び立っていきました。




