第6話 ハングオンかモンキーターンか
「え!オリビアが飛行具レースに出たいって!」
いつも通り食堂の入口でオリビア達を待っていたノアと合流し、食後のお茶を飲んでいる時間に話を切り出すオリビア
「それで、練習場を使いたいんだけど、姉さんかノア兄さんが一緒なら使って良いって・・・先生が」
「絶対にダメ!推薦枠というのは知ってたけど、今までそれで出た生徒は1人も居ないんだよ、(僕も1年の時は出られなかったし)それに女生徒で出場したのも過去2人だけ!2年生の比較的大柄な娘だったはずだよ。3年になると男女差で体格が全然違うから出場した女生徒はいないんだ」
「体重の軽い私だから意味があるのよ、みんなとは違う飛び方を見せることができるわ」
キラキラ顔で説明するオリビアに困り果てたノア
「姉さんはナンデ止めなかったの?」
姉のアメリアに助けを求めます。
「私も賛成しているわけじゃ無いんだけど、こんな感じのオリビア・・・止められないでしょ、だからコースを飛ぶところ、1度ノアに見てほしいのよ」
「姉さんから見て、オリビアの飛行技術ってどんな感じ?」
「ミューラー先生が推薦するだけの事はあるわ、現時点の1年では桁外れね、普通に飛ぶ分には私と大差ないんじゃないかしら」
姉の肯定感のある説明に全力で乗るオリビア。
「お願い、どうしても試して見たいことがあるの」
うるうるした瞳でそう言われると、どうにも逆らえないノアです。
「分かった、兎に角一回見るだけ、僕が危ないと思ったら、出場を辞退すること、イイね!」
「有り難うノア兄さん、絶対に認めてみせるから」
「あのさぁオリビア、有り難うって抱きついてほっぺたにキスしても良いんだよ♪」
「そんなコトするわけ無いじゃない」
うるうるとした目から、一瞬にしてゴミを見るような目でノアを見るオリビア。
「ノア兄様最低です」
一番味方になってくれるはずのアリアにも冷たい視線を向けられ、気がつけば周りの女子全員から冷たい視線を向けられていました。
「み、みんなこの後も魔法の練習するだろう。ボクが又見てあげるから」
「そうですね、付き添ってもらえるのはありがたいですよ。教えてるのはほとんどオリビアですけどね」
せっかく話を変えようといたノアですが、シャーロットにとどめを刺されてしまいました。
そして翌日、無事にノアを引き連れて練習コースに現れたオリビアです。
練習場はいつも飛行の授業に使っている校庭の反対側、
校舎の裏手にあります。
広さは校庭の半分ほど、スピードはあまり出さずに、急旋回急降下急上昇、そしてスタートの練習をする場所です。
レースはマダだいぶ先ですが、すでに5~6人ほど練習している生徒がいました。
革の上下とフライトキャップにブーツをきちんと着用したレイエス兄妹
そして興味本位で付いてきた、制服姿のアリアとシャーロット
男ばかりの飛行練習場では、かなり目立ってしまいます。
練習していた1人がこちらにやってきました。
派手に減速をすると、ホバリングしている状態の飛行具から飛び降り、片手で飛行具をつかむと、反対の手でゴーグルを跳ね上げました。
「こんにちはレイエス先輩、どうしたんですか?女性軍引き連れて」
「え~と君は」
「2年Sクラスのリック、リック・ジョンソンです」
「アア君か、今年の2年には結構早いやつがいるって話だよな」
「ありがとう御座います。で、そちらの飛ぶ気満々の女生徒は?」
「妹のオリビアだ、1年の女子だけど教師の推薦枠で2年のレースに出場する・・・予定だ」
「え!コンナ華奢な娘が?君大丈夫、かなり荒っぽい競技だよ、危ないよ」
「危なくないように飛ぶつもりですから大丈夫ですよ」
にっこりと微笑むオリビア
(か、かわいいぃ~、そう言えばレイエス先輩の妹って妖精姫とか呼ばれているって、ウン納得だね)
ピッタリとした革の上下でにっこりと微笑むオリビアに、ついつい見とれるリック君
「おまえ、なんかいやらしい目で妹を見てないか?」
「そ、そんなことありませんよ、えっと、そちらのお二人は?」
睨むノアに少し怯んで、慌てて話を変えるリック君
「シャーロット・ラッセルです。オリビアが危ない事しないかどうか見張りに来ました」
「アリア・サリヴァンです、私も、それとノア兄様の練習風景を見に来ました」
きちんとアピールをするアリアです
「まあ今日はほとんど、オリビアの飛行ぶりを見ているつもりだけどね」
「そうなんですか?ノア兄様が格好良く飛ぶところを見たかったんですけど」
「後半余裕があればね。じゃあオリビア、自由に練習して良いぞ、今は人が少ないから他に飛んでいる人が居ないところで曲がる練習をするように、それがきちんと出来ないようでは、先生が許可しても飛行具レースに出すわけにはイカナイよ」
「分かったわ、まずは急旋回からね」
そう言うと颯爽と飛行具に乗るオリビア
レースに使う飛行具はもちろん学校指定の物です。
まずは普通に曲がってみよう。
飛行具レースのコーナリングは、オフロードのバンクを引っかけるみたいな曲がり方をするのよね。
みんながやっているように恒に空気抵抗を減らす伏せた姿勢で、コーナーの中心に重力を感じるようにして。
何カ所か有るコーナーをそれなりのスピードで綺麗に曲がるオリビア
「流石だな、コレは教師が推薦するわけだ」
(少しでもスムーズじゃなかったら、オリビアがなんと言っても絶対に止めるつもりだったけど)
数回同じようにコーナーを曲がると、サラに加減速を強くして、ライン取りをアウトインアウトで曲がってみます。
(ヤッパリこのラインの方が早いけど、競ってるときには使えないわね、インからはじかれそう、それにこの姿勢は前が見にくいのよね)
コーナリング時のイン側からの体当たり、肩から当たる分には違反ではありません。
「サラにスピードを上げたか、やるな!だけどだいぶ曲がり方が荒くなったな。綺麗に弧を描かないとスピードは落ちるんだよ」
オリビアのコーナリングを見ながら、何となく解説するノア
飛行に関することだけは、論理的な考えが出来ます。
そんな風に見られている事には全く気づかず、次の曲がり方を試します。
(次はもう少しロードバイクに近いコーナリングで)
コーナーに突っ込むと、大きく身体を内側に倒し、膝をイン側に突き出して曲がるオリビア
「うわっと」
飛行具ごと大きく内側に傾き転びそうになります。
(危ない危ない、地面との摩擦が無いんだからハングオンは意味ないのね、伏せている姿勢よりも前は見やすいけど)
「せっかく上手く曲がっていると思ったのに、危ないなぁ~、あいつ何がしたいんだ?」
ハラハラとしながら見守るノア
(それじゃあ、今度は摩擦の少ないオフロードのコーナリングで)
ハングオンで曲がることは1度であきらめ、一端体勢を立て直すと、再びスピードを上げるオリビア
伏せた体制から、コーナーに入る手前で完全に起き上がり、イン側の脚を前に出し、アウトの膝で飛行具を押さえつけます。
今度もだいぶアウトに流れてしまいましたが、バランス良く立ち上がることが出来ました。
(ヤッパリコレよ、減速時に上体が空気抵抗になるし、バランスが取りやすい、それにコーナーの出口がしっかり見えるわ、でもコレじゃあマダ普通に曲がるよりゼンゼン遅いわ!モットコーナーの中心に全体を引っ張る感じで!)
同じ体制のコーナリングを何度も繰り返します。
少しずつですが、アウトに流れなくなっていきます。
(なんとか様になってきたかな?本当はモット摩擦の少ないボートレースのモンキーターンみたいに乗れれば良いんだけど、流石にやったことないし、オマケに燃料タンクがないからニーグリップできないのよねぇ~)
そんなコトを考えながら何通りかラインを変えて、オフロード風のリーンアウトターンでコーナリングを繰り返し、一端みんなのところに戻ってきました。
「ハアハア・・・ど、どう?兄さん?」
ゴーグルを跳ね上げ、荒く息をつき、得意そうに兄を見るオリビア。
「うん、変わった曲がり方だけど、なかなか早くてスムーズだ。ずいぶんと普通の曲がり方とコースが違うようだが」
「言ったじゃない、危なくないように飛ぶつもりだって。おなじようなところを飛んで内側から当てられたら、体重の軽い私なんか一貫の終わり、それなら逆に体重の軽さを生かして一気に減速してから高速でスルドク曲がる、そこから一気に加速、この方が有利なはずよ、高低差で逃げる手もあるけど、タイムロスが出るし、高さ制限があるところも多いでしょ」
「スピードを落とさないで大きく曲がるのが普通の曲がり方だから、インに入れる可能性は十分に有る。いい目の付け所だけど、相当身体を大きく動かしているから、その性で魔力の扱いが難しくなっているだろう、それに加減速が大きすぎてタイムロスも大きいし、どうしても外に流れるから下手したらコーナーの出口で内側に入られて跳ね飛ばされる」
ノアの指摘通り、何回やってもどうしても目標よりもアウトに流れてしまっていました。
体制を変えるとき、魔力制御が散漫になりやすく、コーナーの中心に引っ張る力が少し途切れるときがあるようなのです。
「それに身体を大きく動かしている分、体力的にも厳しいように見えるよ」
「今日初めてやってみたのよ、これからこれから」
「そうだね、初めてでこれだけデキルのは凄いよ。マダマダ合格は出せないけど、不合格じゃ無いな。しばらく練習を続けてみようか、次は僕も一緒に飛ぶからね」
一緒に飛ぶと行ってくれたノアを見ると、良い考えが浮かびました。
「ねえ兄さん、アリアとシャーロットがいるから、飛行具持ってもらって普通にスタートしてみない?」
「なるほど、それは良いな、アリアちゃんシャーロットちゃん、手伝ってもらって良いかな?」
「もちろん良いわ、ノア兄様。出来れば本番でも私が手伝いたいけど」
最後は小声になってしまうアリア
「私も良いですよ、オリビア、飛行具貸して」
「ハイ、シャーロット、ヨロシクネ♪」
飛行具をそれぞれのパートナーに手渡し、少し離れた場所に立ちます。
「それっじゃあ、さっきからオリビアが八の字で飛んでいるコースを10周だけね」
スタートラインに立ち、ゴーグルを付けながら指示を出すノア
「分かったわ」
オリビアももう一度ゴーグルを付け直します。
(しかし、この世界の飛行具レースのスタートがルマン式だったとはねぇ~去年は前世の記憶がよみがえる前だったから、何となくカッコイイスタート程度の見方だったんだけど)
そうなのです、何とこの世界の飛行具レースのスタートは耐久レースのルマン式
ただし、レースその物はスプリントなので、飛行具は同じクラスの女子生徒が持って居ます。
予選はないので、くじ引きで決めた位置に横一線、そこに少し離れた位置からスタートと共に走り出し、飛行具を受け取り飛び立ちます。
飛行具を持つ女生徒に向かって走り出す様は、観客にも手渡す女生徒にも大変人気があります。
かなり人気のあるノアは、飛行具を持つ役の争奪戦がデキルほどでした。
「じゃあ僕がスタートの合図を出しますよ」
ずっと一緒に居たリック君がスタート役を買ってでました。
「用意良いですか」
うなずく2人
「ヨーイ、スタート」
勢いよく上げていた手を下ろします。
飛行具に向かってダッシュするレイエス兄妹
当然のことながら、先に飛行具に跨がったのは兄のノア
しかも跨がってから発進するまでの動作がとてもスムーズ、時間も最短と言って良いでしょう。
「流石レイエス先輩、スタート上手いな」
オリビアも女子としては足が早い方です、それでも数歩送れて飛行具を受け取り、すぐに発進しますが、兄のように無駄なくスムーズに発進することは出来ません
さらに後れを取ってしまいました。
「流石兄さん」
一瞬兄に目が行くと、あっと言う間に1コーナーが迫ります。
慌てて急減速をするオリビア
ノアは余裕でコーナーの少し外側を、飛行具を傾かせ、ジェットコースターのように綺麗に旋回します。
オリビアは、コーナーマークのポールを中心に急旋回しようとしましたが、大きく外に流れてしまいました。
しかも流れた内側を簡単にノアに指されてしまいます。
流れすぎて校舎の壁際まで来てしまったオリビア、校舎の壁を蹴って急加速します。
(コレじゃあガードレールキックターンだわ、やってもちっとも早くないって言う)
きちんと体制を立て直しさらに加速をするオリビア。
オリビアを待って、速度を落として飛んでいるノアに追いつきそうになりますが、あっと言う間に次のコーナーが迫ります。
今度は十分に減速して、コーナーマークから離れないように回ります。
ところが大外を高速で回るノアが、簡単に前に出てしまいます。
しかも加速しようとした頭を押さえられてしまいました。
慌てれば外側に流れ、減速を十分に取ると、出口の加速で負けてしまいます。
それを繰り返している内に、あっと言う間に10周がが終わってしまいました。
「あ~悔しい、ゼンゼン歯が立たない」
飛行具を握りしめて悔しがるオリビア
「オイオイ、一応去年一昨年、僕が一番だったんだよ、今日始めたばかりの妹に抜かれるわけにはイカナイよ」
「でも兄さんストレートでスピード落として、コーナーだけで勝負してたじゃない?」
「オリビアのコーナリングがどんな感じなのかじっくり見たかったし、実際の速度がどのくらいなのか比べてみたかったからね」
「っで、どうなの?」
ゴーグルをフライトキャップのおでこまで上げると、興味津々で聞いてくるオリビア
「速度を上げれば流れちゃうし、減速しすぎると前に出られない、でもあの急加速に急減速は僕の体重じゃあ無理!普通の曲がり方の要素をもう少し取り入れれば、内側を指せるかもしれないね」
「そうかな!」
「ああ、だから明日からももう少し練習してみよう。それでもレースの日までに僕がOK出さなかったら辞退してもらうからね」
「エエ!望むもところよ!全力で飛ぶ兄さんを抜かしてみせるわ」
「それでも、無理だけはしないように、最初は兎に角小回りを意識して、アウトに膨らまない、そうすれば他の飛行具とと接触することも無いし、校舎にぶつかりそうになるなんて危険なこともないだろう」
「ハハ!見てたんだ」
「面白いことしてますね」
いつのまにか増えた観戦者、その中の1人が声を掛けてきました。
「君は?」
「リックと同じ、2年Sクラスのジェフ・ワードです」
「君がジェフ・ワード君か、噂は聞いているよ、あの曲がり方どう思う?」
「内側を押さえて最短距離で曲がるつもりみたいですね。面白いけどアレでサラにターンスピード上げるって、難しいんじゃないですか?」
「そうだね、普通ならね、でもオリビアならデキルかもしれない」
そう言いながらオリビアに目をやると、リックもジェフもつられてオリビアを見ます。
自分に注目が集まっていることはゼンゼン気にしないオリビア、ゴーグルと一緒にフライトキャップを勢いよく脱ぎ捨てました。
フワッと広がった銀髪が、夕日に当たりキラキラと輝いています。
「ジョンソン先輩、ワード先輩、私絶対に負けませんから」
フライトキャップを握りしめ、にっこり微笑みながら、ライバル宣言をするオリビア
「ああ」
「僕も負けないよ」
((それにしても綺麗な娘だな、まさに妖精姫だね))
いつのまにかファンを増やしてしまったオリビアでした。
名前を考えるのが苦手です
飛行具レースは、スーパークロスみたいな感じ
それならば、往年のチャンピョン名前にしてしまいましょう
っと言うわけです




