第4話 いよいよ飛行具!オリビア行きまぁ~す
入学してから2ヶ月
物を動かす魔法を習い始めて1月半が立ちました。
今日は全員が校庭に集まっています。
全員ピッタリとした皮の上下、頭にもやはり革製のフライトキャップをかぶっています。
フライトキャップの大きさからして、中に何らかの緩衝材が入っているようです。
そして足下は革のブーツ
片手には学園指定の飛行具が握られています。
魔力の高いSクラスの皆さん、容姿も皆並以上ですので、非常に身替えのする一団ができあがりました。
そうです、今日は待ちに待った飛行具による野外飛行の授業です。
全員が木片を自由に空中で動かせるようになってから、実際の飛行具を使った授業が行われてきました。
まずは人の乗っていない状態で飛行具を浮かばせること。
コレには、魔素のエネルギー化から、運動エネルギー、そして位置エネルギーへと魔力を制御する必要があります。
練習用の木片と同じハズなのですが、1キン(約27g)くらいしかナイ木片と1オンチョット(1オンは2.7kg、飛行具は3キロチョイ有ります)も有る飛行具では扱う魔力量が違います。
運動エネルギー化により飛行具を持ち上げ、位置エネルギーを固定するイメージが作れるオリビアには、この工程はもの凄く容易なことでした。
授業後の自習室でアリアとシャーロット、そしていつのまにか仲良くなった、カミラとAクラスのプリシア、エマ、エミリーもほとんど一緒に練習をしていました。
当然、上級生組は姉のアメリア、兄ノア、そしてエミリーの兄イーサンも一緒です。
新学期からしばらくして、生徒会の仕事も落ち着いてきたのか、最近はアリアの兄オリバーが同行することもあります。
教師役はアメリア、補佐するのがノアのハズですが、実際はオリビアがほとんど説明しています。
物理法則を理解しているオリビアの説明は、肝心の所をぼかして説明しても非常にわかりやすく、友人5人も驚くほど魔力の扱いが上手くなっていきました。
特にAクラス3人の伸びは素晴らしく、Sクラスの生徒と同じくらい簡単に飛行具を浮かばせることができるようになりました。
自習室での練習は、飛行具を浮かばせるだけ。
実施に乗ることも、空の飛行具を飛ばすことも、危険なので禁止されていますが、人間が乗ったことを仮想した、飛行具に乗せるウエイトは用意されています。
そして実際の授業では、リーシュのような物を付けた飛行具の上に実際に乗って、有る程度の高さに浮かばせる事をひたすら練習させられました。
もちろん男子の制服はそのままですが、女子はスカートの代わりに、キュロットのようなボトムを履いています。
「イイカ!上に動かすイメージを作れば飛ぶことはデキル!それなのにナンデタダ浮かぶ必要があるのか、それはコレができなければ安全に着陸することができないからだ。」
その通りです、飛行機と違って翼も無く、滑走路を走る車輪もありません。
当然垂直離着陸のように、ホバリングをする必要があります。
つまりは一端浮き上がって、高度を保ちそこから発進する形になります。
そして着陸時も、一端空中で停止して、ゆっくりと高度を下げる必要があるのです。
教室内では、一端一定の高さで浮かべるようななった物から、軽く前後に飛行具を動かす練習をしました。
ほとんどの者が、動かそうとした瞬間に、高度が維持できなくなってしまいます。
もちろんオリビアはそんなことはありません。
位置エネルギーの保持、そのまま運動エネルギーを加える
入学してからサラに魔力が高くなり、魔力の扱いもより繊細に出来るようになったオリビア
効率よく魔素から得た力で、魔道具を少し浮かしたり、軽く前後に揺らすなど、実に簡単なことでした。
クラスメートがせっかく浮かした飛行具をほんの少し動かそうとしただけで、すぐに落ちてしまう・・・
それを繰り返す中、一人でリーシュの届く範囲内で、ゆらゆら揺らしたり、回転させたりして時間を潰していました。
飛行具の上でゆらゆらしている姿は、端から見ても暇つぶしにしか見えません。
全員が真剣な顔で取り組んでいる中、一人だけまるで遊んでいるような様子でした。
「レイエス、ずいぶんと暇そうだな」
「イエ、そんなことはありません」
「嘘をつけ!さっきからほとんど遊んでいるじゃないか!」
担任の教師ミューラーが見た時は、ちょうど浮かせた飛行具の上で、寝ることが出来ないか試しているところでした。
もちろんその前から、タダ揺らすだけでは面白くないので、ウイリーやジャックナイフをやってみていたのですが。
「おまえ前に出てみんなにやり方を説明してみろ」
1人だけ遊んでいるような様子の生徒がいるのは、あまり感心できません。
「分かりました・・・けど先生、なんだか私に説明させること多くないですか?」
(暇だったからちょうど良いけどね)
教壇に上がるオリビア、黒板の前に立ちます
(この世界の黒板もチョークも、ほとんど日本と同じなのよね、考えることは一緒ってコトかしら?)
「まずこんな風に飛行具に跨がった状態で、全体が上に進むように魔力を込めます。浮かせると言うよりも、この時点では上に動かすをイメージします。出来れば自分自身も浮かすイメージを加えてください」
教壇の脇に置いてあった教師用の飛行具に跨がって説明をし出すオリビア
「それで少し浮いた状態で、今度は浮いているという状態をそのまま維持する、高さが失われないようにイメージします」
そう言いながら一端飛行具から降りると、黒板に簡単な飛行具の絵を描き、浮かぶ様子イメージの矢印などを書き加えていきます。
「飛行具は魔力を流しやすいので、1度高さを失わないイメージをすれば、比較的安定します。大きさが大きくなっただけで、基本は練習用の木片と変わりませんが、重くなった分沢山魔力が必要です。自分の体重も含めると2千倍の魔力がいることになります。
最初に見たように、私たちの周りには満遍なく魔素があります。練習用の木片を動かす時は、指先に触れているくらい。飛行具を動かす時は、身体全体に触れている魔素をから魔力をもらう、そんなイメージに置き換えれば良いんです。」
飛行具に跨がってみたり、飛行具の動きを図入りで黒板に書くオリビア
教師用の飛行具にはリーシュが付いていませんが、オリビアのレベルならば全く問題無いと見られているようでした。
「こうして高さを固定したら、この状態で今度は動かしたい方向に魔力を込めます。練習用の木片と全く同じですけど、軽い木片はすぐ動かすことが出来ますが、人が乗った状態の飛行具は、高さの固定イメージが一番大事です」
普通に教師のようにすらすらと説明するオリビア
「レイエス、おまえ説明だけじゃ無くて、こうやって図解するのも上手いんだな」
その様子に、担任のミューラーが感心します。
「そうですか?」
「ああチョット驚いた」
「私もアメリア姉さんみたいに教職に進んだ方が良いかしら?」
オリビアが少し嬉しそうにそう言うと、ミューラーはフット鼻息を履いて下を向いてしまいました。
「それは無理だな。説明や図解は良いんだけど、おまえもう少し字を綺麗に書け!半分何が書いてあるのか分からんぞ!」
オリビアの説明を、半ば尊敬すら込めて聞いていたクラスメイトが全員吹き出しました。
「黒板に字を書くのって、ノートに書くより難しいんですよ」
反論するオリビアですが
「オリビアのノート半分ナニ書いてあるか分からないわよ」
アリアにとどめを刺されてしまいました。
「オリビアは見た目の半分くらいでも字が綺麗だったら良いのにね♪」
そしてサラに追い打ちを掛けるシャーロット
クラスは爆笑の渦に包まれてしまいました。
(まあ何となく和んだからイイカ)
少し目立ちすぎていると思っていたオリビア、これはこれで良かったかも?
そんな風に考えていました。
((まあ、なんでオリビアの字が汚いか、私たちは知ってるけどね))
オリビアをチャカしていたアリアとシャーロットですが、
チョッピリ同情の目で、オリビアを見ていました。
それでも、オリビアのわかりやすい説明も功を奏したのか、予定より少し早い時期に、飛行具の実習が出来るようになりました。
学校で習う色々な魔法、魔素を視覚化して、魔力を高め、杖を使って魔力を集中させる。
(但し、杖を使うのは2年になってからです)
どれも魅力的な内容です。
その中でもやはり、一番人気があるのは、飛行具による飛行実習です。
やはりどの世界でも、空を飛ぶと言うことには憧れがあるようです。
特に魔法学園に入りたての年齢、日本で言えば高校生くらい、
自由に空を飛ぶことに憧れない少年少女はいないと言って良いでしょう。
「いいか!教室内での実習をよく思い出せ、命綱が付いていないから一歩間違えれば飛びすぎたり高度が上がりすぎたりする。飛行具を実際に飛ばす高さから落ちれば、良くて大けが最悪命を落とす。昔大けがをしてその恐怖から2度と飛行具に乗れなくなったやつもいた。細心の注意を払って心を魔法に集中させろ」
「「ハイ」」
「ヨシ!全員飛行具に跨がれ」
「「ハイ!」」
「そのまま1シック(約30cm)だけ浮き上がれ」
「「ハイ」」
返事をすると、全員飛行具に跨がり慎重に浮遊魔法を行使します。
教室内ではリーシュが付いていたこともあり、安定して飛行具を浮かべ、ある程度動かせるようになっていたはずです。
所が天井のない空の下、どうしても同じようにイメージすることが出来ません。
それでもさすがはSクラス、最後まで悪戦苦闘していた一番体重のあるヘンリーもなんとか姿勢を安定させることが出来ました。
「ヨシ!全員安定したな、次はあの目印の位置までゆっくり前進」
飛行具の練習場には、あっちコッチに目印があります。
そこには金属の筒状の物が打ち込まれています。
最初の練習には使いませんが、この場所にポールを立てたり、ゲートを作って高さを規制したり、色々なコースを作れるようになっています。
「よーし、止まれ」
ブレーキが付いているわけではありません、しかも空中に浮いているほぼ摩擦0の状態では、動かすイメージを止めても飛行具が流れていまいます。
止まるには、反対方向に魔力で飛行具を引っ張る必要があります。
何事もないようにスッと綺麗に停止するオリビアと違って、ほぼ全員ズルズルと行き過ぎたり、飛行具が地面に付いてしまったりしています。
「もう一度、向きを変えて元の位置に戻る。レイエス、おまえもう少しスピード上げて止まってみろ」
「ハイ」
全員1度飛行具を降りてUターンさせると、元の位置まで低空飛行、もう一度制動を掛けます。
止まり方は少しましになりましたが、今度は高度を保てない者が増えてしまいました。
「グティレス!マイヤーズ!高さを維持するイーメージを忘れるな。もう一度」
みんなの倍くらいのスピードで飛行具を操り、急制動でもあまり負担を掛けずにスーッと止まるオリビア。
どうしても目立ってしまいます。
「レイエス、おまえどういうイメージなのか説明してみろ」
「え~又ですか」
「黒板はないから、口頭だけだ、おまえの字を披露する必要は無いぞ」
再び全員から笑いが漏れます。
「分かりました、えっと、前に飛ぶときに少し上に力を意識すると、浮遊魔法が切れても飛べちゃうんです。」
言いながら足下に落ちていた小石を拾うと、軽く投げます。
「浮遊していなくても物は飛びます。ただしこんな風に放物線を描いて、真っ直ぐは飛べません。当然浮遊してない無い状態で制動を掛ければ高度が落ちちゃいます。ですから恒にきちんと最初に持ち上げた高さを意識して、真っ直ぐ移動する感じです。後、飛行具だけじゃ無くて自分自身の高さも維持していれば、何かあっても地面に落っこちたりしませんから」
「その通りだ、安全面から見ても高さを維持するのはもの凄く大事なことだぞ、もう一度目印の位置まで飛行!」
全員もう一度飛行具に跨がります。
みんなの所に戻って、飛行具に跨がろうとしていたオリビアに、先生が声を掛けました。
「レイエス、チョットこっちに来い」
そう言うと、練習場の端に置いてあったポールを印のあった位置2カ所に指します。
2本のポールの間隔は5モンほど(1モンは約3m、15m程になります)
「俺がまず飛んでみるから、その後同じように飛んでみろ」
そう言うとミューラーは飛行具に跨がり、スーッとさっき立てたポールに近づきました。
そのまま2本のポールを回り込み、八の字を描きます。
「こんな感じだ、出来そうか?」
「やってみます」
そう言うともう一度飛行具に跨がり、教師並みのなめらかさでポールに向かって飛んでいきます。
最初のポールで向きを変えようとしたオリビア、予想以上に大きく横にずれてしまいました。
(あれ?以外と難しい)
ゆっくりと向きを変えると、もう一度ポールの右側からもう一本のポールの左に進み、右に旋回・・・
今度もだいぶ飛行具が外側に膨らんでしまいました。
(単制動の次は八の字って、ほとんど自動二輪の教習よね、でも地面にグリップしないからバイクと同じイメージだと流れちゃうのね)
「やはりレイエスでもいきなりは難しいか?」
「大丈夫です、もう一度やってみます」
(普通にリーンウィズで曲がる感じで、ポールに重力が有るイメージで、それと目線は恒に進行方向に!)
飛行具を浮かせると、もう一度反対側のポールを睨むオリビア
「ヨーシ!オリビア、行きま~す」
スムーズに発進させると、ポール手前で綺麗に減速
(飛行具を傾けて、ポールに落ち続ける様なイメージで、半分まで回ったら反対側のポールを見る!)
綺麗にくるりと回ると、体勢を立て直して加速、先ほどと同じ事を戻ってきたポールの位置で繰り返します。
最初はゆっくりと、少しづつ直線のスピードを上げ、減速、旋回を繰り返します。
サラにほんの少しずつですが、バンク角を増やし、コーナリング速度を上げていきます。
(こんな感じかな?うんコレでイケル)
最初のギクシャクとした飛び方から、短期間でスムーズに八の字飛行が出来るようになりました。
「ほ~たいしたもんだな。初日でここまで飛べたやつは見たこと無いぞ」
いつのまにかひたすら単制動の練習を居ていたクラスメイトも、八の字飛行を繰り返すオリビアの周りに集まってきてしまいました。
「ヨシ、レイエス、そこまでだ」
コーナーから立ち上がるときに声を掛けられたオリビア、そのままブレーキターンのように、飛行具を横向きにして急制動を掛けました。
「どうです先生」
「俺が飛んで見せただけでほとんど説明していないのに、よく綺麗に曲がれるな」
「私の家に特別に作った2人乗りの飛行具があるんです、それで、兄の後ろによく乗せてもらってましたから、曲がり方とか、身体で覚えていたんだと思います」
「なるほどな、乗せてもらった兄って、4年のノア・レイエスだよな」
「そうですよ」
「あいつは本能で飛ぶやつだから、まあそれでも流石に基本は出来ているってことか、さっきの止まり方もあいつがよく格好付けてやってたよな」
オリビアの八の字飛行を見に集まってきたクラスメイトに
「おまえら見るだけだとサラに差が付くぞ」
発破を掛けようとする担任
「私、綺麗に止まれるようになりました」
「私もです、さっきのオリビアの説明で、何となく分かってきました。先生ちゃんと見ててくださいよ」
幼なじみ2人が、声を上げます。
「そうか、すまんな。ヨシ!もう一度全員ここからスタートしてあの印で止まってみろ」
「「ハイ」」
全員一斉に飛行具をスタートさせます
最初の頃とは格段の違いで、ほぼ全員高度を落とすことも無く、止まることが出来るようになっていました。
中でもアリアとシャーロットの動きが一番スムーズです。
「良い感じじゃ無いかそこからゆっくりと浮いたまま旋回。サリヴァン・ラッセル、もう少しスピード上げて見ろ」
「「ハイ」」
元気よく返事した2人も、加減速はスムーズに出来るようになりましたが、旋回はすぐに上手くは行きません。
それでもコーナーを曲がると言うより、ゆっくりその場ターンをするレベルならば、だんだんと出来るようになっていきます。
「回転する中心に恒に向かうようにするの。目線は進行方向、絶対に下を見ちゃダメよ」
八の字飛行を止めて、みんなの所に戻ったオリビア
2人にアドバイスをします
さっきのオリビアの飛行を見てからアドバイスをされた2人は、少しだけコーナリングも出来るようになって来ました。
その様子を見ていたクラスメイトも、次第にコーナリングが出来るようになっていきます。
(ほんとうにレイエスはたいしたもんだな。魔力量と制御だけじゃ無く、理論の組み立てもしっかりしている。天才妖精姫は伊達じゃ無いか)
ミューラーがそんなコトを考えながらみんなの様子を見守る中
しばらく旋回の練習を続け、全員がゆっくりと旋回するところまで練習は進み、午後の授業を終了しました。
「今日の授業はここまで、全員飛行具を片付けて解散、あ・・・レイエスチョットこっちに来い」
飛行具を片付けようとしていたレイエスを呼び止めます
「ナンですか先生」
「おまえ今年の飛行具レース、2年のクラスに特別枠で出てみないか?」
いよいよ飛行具レースの話が出てきました
文化祭は2学期ですから、まだ先の話ですけど




