7話
「こらあああああ!どこに行くんですか!?今日こそは逃しません!」
軽快に屋敷内を走っていくのはこの家の令嬢であるルナリア・スターリア。
そして追いかけるのはお馴染み、私の専属メイドであるアリス。
転生から2年。
奇跡という名のゴリ押し聖魔法を使い、呪いのターゲットを人形に移したルナリアはこうして走り回れるほど回復していた。
「ふふぅん!翼を得た美少女は止まることを知らないわ!」
「何自分で言ってやがるんですか、全力で走ってる姿はブスですよ」
「そんなはずないもんね!」
2年前は肩口ほどで切り揃えられた髪が今では肩甲骨まで伸び、その美しい髪を靡かせる彼女は深窓の令嬢。
「私のフェロモンを嗅いでいきなさい!」
発言は令嬢どころか頭の痛いやつなわけだが、屋敷にいる他の使用人たちは微笑ましく彼女を見送る。
「捕まえてください!まだ座学の途中です!」
病気が完治してから私は本来あるべき道へと進むことになった。
それは私が決めれることではないので言う通りに行動はしようと思っていたが…さすがにもう知っている座学を受講するのは退屈すぎて時間の無駄だった。
それに貴族学校への入学試験がもうすぐ控えている身ではあるが、受講はするけれど入学するつもりは毛頭なかった。
「私は冒険者になるんだぁぁ……ぁ………ぁ?」
走っているのに一向に屋敷の風景は変わらない。
それに足が空中に浮いている。
「…とうとう飛べるように…」
「さぁルナリア。我儘を言ってないで部屋に戻りなさい」
首根っこを掴んでいるのはこの家の主人である当主。
「お父様…」
「さぁお部屋に戻りましょうね?お転婆姫?」
にっこりと笑うアリスは私をお姫様抱っこする。
「えっ……そんな…恥ずかしぃ…!」
「はいはい、早く戻りますよー」
「私の……王子様…!」
「はぃはぃ、こんなクソガキ姫はお断りです」
「むぅぅ…普通、王子様は束縛から救ってくれるものでしょ?なんで捕まえに来たの」
「これも形の違う愛の一つですよ」
「えー、じゃあ愛してるなら一緒に冒険「それはだめです」……っち」
私はこの大陸を見てまわりたいだけなのに…
前世とは違う場所…行ったことのない秘境。
絶対に綺麗だし楽しいのに。
というかこのままだと敷かれたレールの上を走らなければいけなくなる。
それは絶対に嫌だ。
男児のいないこの家で私がすることなんて家督を継ぐか良いとこの貴族に嫁に出されるかどっちかしかない。
両親は私のことをちゃんと大切にしてくれているから良い相手を選んではくれるだろうけど…愛のない結婚など嫌だ。
あわよくば勘当されたらなとか思い、この2年自由に生活してきたが私の可愛さが広まっていくだけ。
(まぁ…?チヤホヤもっとしてくれても良いんだけど?)
もっと私を敬い、可愛いを連呼し、お菓子とお紅茶を差し出しなさい!
動けないのは嫌だけど、自堕落な生活を想像すれば私の頬は勝手に緩んでいく。
それを間近で見ているアリスは何を思っているのか。
だらしない顔をしてうへぇへぇと変な声をあげるルナリア。
アリスはルナリアをお姫様抱っこしてから終始鼻の奥がむずむずしていた。
少し上を向き、垂れてこないように微調整をする。
絶対に腕の中にいる天使に悟られてはいけない。
たらしてはいけない。
しかし……
お嬢様は無意識なのか、私の腕に頬を当ててムニムニとくっつけてくるではないか。
そんな至福をされたらたまったものではなく、動悸は早まり、赤いスプラッシュがお嬢様に炸裂した。
プシャアアアァァ!
「何してんの!?ってか大丈夫!?」
やってしまった…。
そう思った次の瞬間、
「えいっ」
お嬢様が腕を人薙した。
すると周囲に散らばった血も、お嬢様にかかったものも全て一瞬で消えた。
さらには私の鼻奥ですらもう垂れてくる気配はない。
お嬢様には不思議な力がある。
アリスはこの2年で嫌というほどそれを見てきた。
ありえない奇跡の行使。
おそらく自らの病気ですらその奇跡を使って治した…天才美少女ルナリア。
(一生ついていきます)
このお方は今後、絶対に何かをやらか……すごく大きな偉業を成し遂げる。
私はそれを特等席で見ていたいから。
ドヤ顔で何かを言って欲しそうなお嬢様に私は…
「ありがとうございます。今日も可愛いでちゅね♡ あとでお紅茶とお菓子を用意しますね」
一瞬で雲行きが怪しくなったルナリアの表情は飴によって瞬時に笑顔に戻る。
(…ちょろすぎてかわいすぎる…)
反則級に可愛いお嬢様は今日もいつも通り元気です。
「はぁ…学校やだなぁ」
「ご令嬢なのですから義務です。たった2年ではありませんか」
「2年って言葉嫌ーい。地獄じゃないといいなぁ…」
「…?学校は楽しいですよ?」
「だといいね……よしっ!」
「少しはやる気が出ましたか?」
「うんっ!悪役令嬢の勉強でもしよっか!」
「はい、却下」
「けちんぼ」
拗ねたお嬢様は世界一可愛いです。
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