6話
「で…できた…」
「ほんと!?」
彼女の手に握られているのはお世辞にも綺麗などとは言えないお人形。
全身に綻びが見え、血の滲みもあるけれど、それでも彼女が一生懸命に作ってくれたもの。
「ぶ…不格好ですみません…」
「大丈夫!これでアリスへの罰は終わりね」
手もあれだけ痛々しくなっているのだ。もう十分すぎるほどだろう。
「それで…これの用途は…」
「ふっふっふ…よくぞ聞いてくれた!助手一号!」
「……はい?」
もう十分だ。
ベッドでの休養も心の整理もこれから何をしたいのかも決めた。
これ以上自堕落な生活は罪悪感が生まれるし楽しくない。
やっぱり私は動くのが性に合ってる。
「今から奇跡を起こすよ!」
「……医者に来る時間早めてもらいますか?」
「何この子頭おかしいの?って目で見ないでくれる?」
「おかしいではありませんか。大丈夫ですか?その人形に呪われでもしましたか?」
「う〜ん…貴方の愛情たっぷりの人形からは温かいものしか感じないかな」
「そ…そういうのは…面と向かって言わないで…くださぃ…」
プシューと音が出そうなほど照れ照れしているアリスはとても愛おしい。
「あとでお姉ちゃんがハグしてあげる」
前世20で亡くなり…今世に生まれた私は成人してから四年が経つ。
かわってアリスは大人びた性格と雰囲気ではあるがまだ16で成人したてだというのだ。
(マイシスター!お姉ちゃんが一生守ってあげる)
「は?お嬢様が姉?………ぷっ」
心外な反応をされた。
「これだからクソガキは…」
「やれやれって顔するな」
(こんな生意気な従者、普通なら首が吹っ飛ぶわよ?)
だけれどそれがアリスの魅力である。
美少女の放つ毒舌、飴と鞭は最高の破壊力で人を沼らせる。
もはや兵器。
「ねぇアリス?ちょっとツンツンしてそのあと可愛こぶって?」
「お夕食はトメトのフルコースでよろしいですか?」
「ごめん。ちょっと調子乗っただけ」
「ふふっ、それより早くこれの用途を教えてください」
急かすアリスに今度はちゃんと伝えることにした。
「これはね、身代わりとして使おうと思ってるの」
「…身代わり?」
まぁ何を言っているのかわからないのは仕方のないこと。
【呪われている】などと言っても混乱するだけだからそれを伝えることは一生ないだろう。もう魔臓銃は完治しているけど、あくまでそれの治療という名目でこれを使う。
「こっちに来て」
アリスは何も言わずに静かに私の隣へと進んだ。
「座っていいよ。今から私の髪の毛を一本抜いてくれる?」
「…それは、必要なことなのですか?」
「うん。抜きたてほやほやじゃないとだめ」
「下品に聞こえますよ」
「誰も脱ぎたてなんて言ってないじゃん」
アリスは小櫛で綺麗に髪をといていってくれる。
私はこの時間が好きだ。
頭皮に当たらないようちゃんと気を遣ってくれるし癖が無くなるようにもしてくれる。
「ちくっとしますよ」
「うんっ」
色褪せない金色の一本の髪の毛
いつ見てもすごく綺麗だった。
それを私は魔素視覚というスキルを使って聖魔力がしっかり行き渡っているかを見る。
「よしっ、じゃぁそれをお人形さんに貼り付けてくれる?」
「…はい」
彼女は私が何をしたいのか一切わからない。
でも、あとちょっとでそれも終わる。
「ねぇアリス?君は私に生きててほしい?」
ルナリアはできるだけ真面目な表情でアリスに質問をした。
前世で、私は断罪された。
親しい人はそれなりにいた。
しかし誰も味方をする人はいなかった。
「聖女を殺せ」
今でもその言葉は私の心に深く根付いてしまっている。
一生消えることのない、言葉の烙印。
事実どうのではなく、世界の流れからしたら私が罪人なのだ。
生きていちゃいけないんだと思う時は何度もあった。
聖魔法を封じられ、拷問をされたあの2年は本当に地獄のような日々だった。
私はーーー誰かに必要とされたい。
誰でもいい。
昔みたいに大勢じゃなくていい。
私の隣で笑ってくれる人がいるでけで…私は満たされる。
「…どうしたの?」
アリスは顔を近づけ、正面から私の瞳を見た。
沈黙が続く中、何かを言いたそうにしている彼女をただひたすら待った。
数分が経過しただろうか。
そこまでくれば私にも心の余裕ができる。
彼女の耳は今までにないほど赤くなっていた。
顔を近づけているだけでそこまで照れるものなのかと思うが…アリスは別のことで照れていた。
今から言う宣言。
それは彼女の覚悟でもあるし、愛おしいこの主人を1人にはさせないと言う意思の表れ。
ーーーー伝えたい
私の気持ちを。
でもどう伝えたらいいかわからない。
どうしたらおふざけじゃないと、真面目だと受け取ってもらえるかわからない。
どれくらい経過したのかもわからなかった。
ただお嬢様の綺麗な瞳を見つめ、頭の中がパニックになっていく。
でも、ここまで来たらもう言うしかない。
生きててほしい?
当たり前だ。
どれだけ…私が病気のことを調べたと…。
魔臓銃という今の時代では致死性が100パーの病気を…どれだけ調べたか。
しかし知れば知るほどそれは希望を潰してきた。
5年前…いや、聖女様が活動していた7年前ならまだ助かっていたかも知れない。
しかし、今はもういないのだ。
私には…どうしようもない。
徐々に弱っていく彼女に、寄り添うことしかしてあげられない。
だけど……1人には絶対させない。
勇気を出して拳をぐっと握る。
ちゃんとお嬢様の顔を見て、言葉で伝える。
すぅ………はぁ………
ーーーー私は、生涯、お嬢様の隣にいますーーーー
破裂しそうな心臓。
思考の定まらない脳。
いましがた自分が何を言ったのかもパニックで覚えていないアリスだが…この日、この時のルナリア様の表情は一生……死んでも忘れないだろうと思う。
満開の花が咲いている幻覚すら見える。
・・・・ーー最高に幸せそうな満面の笑み
「はいっ♪」
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