5話
私は毛布に蹲りたかった。
というのもあの日、
婚約者の美的センスがどうのなどと思った自分が心底恥ずかしかった。
母様が持ってきてくれた鏡には白塗りの化け物が映っていたのだから。
「私の方が美的センス完全に皆無なやつじゃんかぁぁぁ!」
絶対にヤバいやつだと思われてるし!
穴があったら入りたい。
あっても動けないから入れないけど!
ごめんよ。ユーゴリラ君。
君は間違っていない。
あれはブスだ。
とびきりのブスだ。
あんなのと婚約とか絶対に無理な気持ちもわかる。
どうやって愛するの?
毎日朝あの顔を見るの?
家に帰るの憂鬱でしょ。
夜とか勃つの?
ほんとごめんね。
それもこれも母様とアリスのせいだ。
2人はあのあとこっぴどく父様にお叱りを受けていた。
それはそうだ。
あの一件でこの家が少し傾いたのだから。
お叱りだけで済んだのは父様が家族に優しいから。
ここにきてそんなに経ってない私でもわかるほどに…あの人は慈愛に満ちている。
私の婚約の話だって家と私のためにもってきてくれたものだ。
「…顔もいいしああいう人が勇者だったらなぁ」
「どうしましたか?」
「んー?アリスの罰何にしようかなぁって」
今回の騒動、アリスへの罰は私が決めることとなった。
毎日何にしようか考えているけれど特段これといったものが浮かばない。
「ぁっ……どんなことでも…する覚悟はあります」
あれからアリスは少ししおらしくなったというか、いつもみたいに毒舌じゃなくなった。
それぐらい反省しているのでしょうけれど……うーん
「ねぇ、アリス?どんなことでも?」
「はいっ!!」
綺麗な瞳に長いまつ毛、均整のとれたお顔にモデルのようなスタイル。
(本当に綺麗だなぁ)
決めた。
前世でできなかったことをしよう。
旅ばかりで、一ヶ所にとどまることなんてなかった。
みんな私を聖女様と敬い、跪いた。
心を許せていたのは憎き勇者のみ。
もう同じ過ちは繰り返したくない。
繰り返さないようにしたい。
だからこれがセカンドライフの一歩目。
ーーーアリス、私とお友達になって?
面と向かって言うのはこれが初めてだし、ちょっと照れ臭いけれど、この子とずっと一緒にいるのも楽しそう…というか絶対に楽しい。
だから、これが貴方への罰。
さぁ、早く承諾の言葉を聞かせて?
「…!?む…」
「む?」
「む、むりです…!!」
「なんで…?」
私の初めてはこうしてアリスに完膚なきまでにおられた。
(つら)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うぅ……傷物にされた…」
チラチラっ
ルナリアは瞳だけでアリスへと悲しいアピールをする。
しかしそれに反応することはないアリス。
縫い物をする手に集中しているようだった。
「ねぇ?友達は本当にダメ?」
びくっ
肩を少し跳ねさせたアリスは縫う手を止めて体をこちらに向け、真剣な表情で断言した。
「だめです。私はお嬢様に仕える身です。友達など恐れ多く…私では務まりません」
私はその言葉にニタニタ顔をして反応した。
おそらく…これが精一杯の返答なのだろう。
友達はだめでも仕えてはくれるらしい。
(ふふっ!アリスはかわいいなぁ)
あまり表情を出さない孤高のメイドって感じのアリスだが、最近少しだけ感情の変化がわかるようになってきた。
彼女はエルフではないけれど、嬉しい時、耳が少しだけ動く。
それに恥ずかしい時は耳がほんのりと赤くもなる。
落ち込んでいる時は気丈に振る舞おうとしているのか、いつもよりも背筋が伸びる。
怒っているのはまだ見たことがないから少しだけ楽しみ。
徐々に彼女のことを知っていくのがルナリアは楽しかった。
元々、人付き合いは好きなのだ。
嫌いなら聖女なんてやってないし、助けたりもしない。
「楽しいね」
「……はいッ!」
アリスはなぜか感極まっているようだが、その理由は特に気になることでもなくスルーした。
それより、一生懸命縫ってくれているものの方が大切。
彼女が縫っているのは、簡単な人形のぬいぐるみ。
私の罰を断った彼女に新しい罰のようなものを与えた。
それが人形のぬいぐるみの作成。
当初はそんなことは罰ではないと言われたけれど彼女は家事全般で唯一縫い物が壊滅的らしく、ちょうどいいと思って依頼をしたのだ。
(手先は不器用なんだなぁ)
震える指には絆創膏が何枚もまかれていた。
見ているだけでヒヤヒヤもので危なっかしすぎて助けてあげたいけど今は何もできないから我慢するしかない。
「次のお医者さんっていつだっけ?それまでにお人形作れそう?」
「次は4日後ですね。たぶん……いや、間に合わせます!ぃたッ!」
「大丈夫!?」
今すぐ駆け寄って聖魔法をかけてあげたい。
女の子の手に傷があるのは…よくないから。
「大丈夫です。心配せずそこにハウスしてなさい」
「……もうしてるしー。動けないしー?」
悪態というか煽ってくる元気があるのなら問題はない。
(動けるようになったら覚えてなよ!すぐにその手をすべすべの瑞々しい手に戻してやるんだから!オーホッホッホッ!!)
「………明日は金髪縦ロールにしますか」
「絶対やめて」
この夜、子爵家の屋敷には高飛車な令嬢が発するような笑い声が聞こえたと言う。
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