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1話

 



 アルカディア大陸

 王都【ローグ】


 そこでは世界で唯一の聖女が手足に枷を嵌められ、断罪機を前に跪いていた。


 その身なりからはとてもではないが勇者とともに魔王を打ち滅ぼしたとは思えず、綺麗だった金色の髪はくすみ、整った顔は傷だらけになっていた。


 彼女は目前にある血のこびりついた地面を見ても、もう何も思わなかった。


「その薄汚い悪魔を殺せー!」


 周囲は観衆で溢れ、断罪を今か今かと待っていた。


 どれも見知った顔。


 私の生まれ育った街。


 大好きだった人たち。


 心の底から幸せを願い、必死に、必死に……助けてきた人々。


 殴られすぎてほとんど視力がなくなった両の瞳で周囲に目を向ける。


 感じるは負の感情。


 怒り、憎しみ、恨み、嫉妬、悲しみ…それと攻撃性。



(……醜い)


 私が何をしたというのか。


 いや、何もしていない。


 それを知るのは私と、勇者だけ。


 その件の勇者は王族の隣でふんぞり返っていた。


 見えない視界でもわかる。


 どうせ醜悪な笑みを浮かべてこの場を楽しんでいるのだろう。


 最も信頼していた勇者は、闇へと堕ちた。


 倒した魔王を復活させ、世界をまた混沌で覆い尽くそうとしている。


 なぜ、誰も気づかない?


 きみたちの目は節穴だ。

 何を見てきたんだ。

 いつだって助けていたのは私だったのに、どうして勇者を信じる?



 ーーーそれに私もだ


 見る目がなかった。


 もう助けようなどと思わない。

 祝福など与えない。

 救済なんてしてあげない。


 君たちは、蟻だ。


 もし、次の人生があるのなら、私は私だけのために生きる。


 もう世界平和などまっぴらごめんだ。


「こい」


 騎士に一言そう言われ、髪を乱暴に掴まれて歩かされる。

 しかし足にも枷があるため途中で倒れてしまうが…無惨に引き摺られて処刑台へと投げられた。


「自らの行いを神に懺悔し赦しを乞え」


 それは、この場では全く必要のないこと。

 罪人なのだから早く処刑すればいいのに。

 ケタケタと周囲が笑っているのがわかる。


 ーーー本当に醜い




「………」


「一言もなしか、…醜い悪魔め。刑を執行する」


 盛り上がる観衆だが、ギロチンはまだ2mほど先にある。


 他の刑でも執行するのかと思いきや…騎士はニタリと笑い、首で合図を送ってきた。



 ーーーそこに自ら行け



「…!?」


 人をなんだと思っているんだ。


 もう何も残っていない。

 死ぬ直前の人間に慈悲も尊厳も与えられない。



(……ああ)


 彼女は真理に目覚めた。



 ーーーこの世界は腐ってるんだ



 私は這いずりながら答えにいきついたが、どうしても恨むことはできなかった。


 私が必死に生きた世界なんだ。


 素晴らしいところもいっぱい知ってる。

 醜いだけじゃないことを知っている。


 だから、


 今世は諦めよう。



「死ね!」


 ガコンッと何かが外れた音が聞こえる。

 しかし、彼女は、全身全霊で祈りを捧げた。



(…女神よ。転生って言葉知ってますか?)



 私の助けた人々の数、救った命、救った大地、魔王討伐、それにこの理不尽な仕打ち!

 報われない!慈悲をください!人権を!尊厳を!私に生を!綺麗な顔を髪を四肢を!絶壁じゃないおっぱっ!!



 首が落ちる直前、タガの外れたルナリアは祈りを捲し立て、齢20にしてこの世を去った。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 暖かく優しい光。

 瞼を閉じていても感じるほどの光。


 それに背中に伝わる柔らかい感触。

 2年、牢に囚われていても忘れるはずがない。


 これは太陽の光とベッドの温もりだ。


 小躍りしたい気持ちを抑え、徐々に、恐る恐る目を開ける。


 パチパチ


 瞬きを繰り返す視界に映るのは見知らぬ部屋の天井と……人が三人。


(ふ、震えが…っ…)


 あの悪意に晒されて、初対面の人を信用などできようはずもなかった。

 それに少なからずトラウマにもなっている。


 心の問題だからいずれは克服しなければいけないが、今はとりあえず状況の把握を優先する。


「ル、ルナリア!!目が覚めたのか!!」


「よかった…!本当によかった…!」


 喜び、涙を滲ませているのは見た目、若い男女だった。

 しかし、本能が、この体が答えを囁く。



「…父様…母様…?」


「そうだよ…、体は大丈夫かい?意識ははっきりとしているかい?」


 この状況を確かめようとするが、どういうわけか体が動かない。

 手も足も、頭ですら少しも動かすことができなかった。


「父様…?体が動きません。それに…ここは…」


 何もわからない。


 私は断罪され、死んだはず。

 なぜ生きているのか、ここはどこなのか、知りたいことがたくさんある。


「ルナリアは…重たい病気にかかっていたんだよ。でも…神様が…助けてくれた!こうして…目を覚ましてくれた…!奇跡が起こったんだ」


「そうね…本当に奇跡だわ…!」


 喜ぶ2人を見て、元聖女のルナリアは大事な質問をした。


「その病名は…?」


 ルナリアはありとあらゆる病気を知っている。

 これを聞くだけでもしかしたら現状がわかるかも知れなかった。

 そして放たれた病名は…



「魔臓銃という病気だよ」


 ルナリアは理解した。

 そのたった一つの情報で少しだけ知識を得た。


 魔臓銃は私の知っている病気。

 つまりここは、この世界はアルカディア大陸のどこか。

 そして魔臓銃というのは魔臓という器官に穴が空き、生きる上で必要な魔素を取り込めなくなる病気なのだ。つまり、



 私は


 ーーーー転生したんだーーーー



呼んでいただいてありがとうございます!

☆☆☆☆☆→★★★★★

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