地上へ?
アルマとドラグニルは初めてアルマがドラグニルを見た広間、というよりは格納庫に足を運んだ。
人の形をナノマシンで形成していたドラグニルはそれを解体して本体である龍の体に取り込むが、アルマはそれを残念そうに見ていた。
「ん〜? どうしたアルマ、何か言いたげだなあ」
「いや、なんで消しちゃうのかなと。スゲェ好みなんだよドラグニルの作ったあのお姉さん」
「まあ今は待て、マテリアルモデルを維持したままで色々演算するのは難儀なのだ」
「演算? 何を?」
「これよ」
黒いドラグニルの体に赤い幾何学模様のラインが光った。
四つ脚で立ち、翼を広げては格納庫の天井を仰ぎ見るドラグニルの視線の先、天井が左右に開いていく。
何層あるのか分からないが、幾重にも扉が重なっていたのだ。
したして扉は全て開いたようだが、先は真っ暗でアルマの目には何も見えない。夜なのかと思うほどには本当に何も見えなかったが、ドラグニルには違うようだった。
「やはり埋まってるか。まあ仕方あるまいて。ではアルマ少し離れておれ、上に覆い被さっている地面を消し飛ばす」
「ああ分かった。…………待って、なんて?」
アルマの問いに応える事なくドラグニルは上を向いたまま大きく口を開けた。
その口の先に赤黒い丸い球体が現れ、膨張していく。
そんな球体の様子と、球体から放たれる熱量にアルマは「あ、これはヤバいヤツだ」と察して隣の部屋まで走り出す。
そして、アルマが部屋にたどり着くのと同時にドラグニルはその球体を圧縮すると、上方への圧力だけを解放した。
轟音と解き放たれたエネルギーの奔流が極太のビームになって天井を焼く。
「おいドラグニル! やり過ぎだろ⁉︎」
「とは言うがなあ。この体が外に出る為にはこのハッチしか無いしなあ」
「うわ。天井無くなっちゃてんじゃん。これ上に誰かいたら——」
「うむ。消し飛んでるじゃろうな!」
無表情な機械の龍の筈だが、何故かアルマはその龍が得意満面、晴れやか笑顔で言ってるんだろうなと思えて肩を落とした。
そんなアルマにドラグニルは「さあ乗れ」と屈んで言うが、アルマは馬にすら乗った事が無い。
尻込みしていたアルマだったが、目の前に六角形の金属板が重なって出来上がった階段が現れたので登っていくと、ドラグニルの首元に辿り着いた。
そこにはアルマが転生前に乗っていた物とは違うがバイクのハンドルのような物とシートがあった。
「急ごしらえだが、作ってみた。座り心地はどうだ?」
元バイク乗りとしては興味が尽きず、アルマは無警戒にシートに座り、前屈みになってハンドルを握る。
「お、悪く無い乗り心地だぞ? いや寧ろ良いな、座りやすいぜ?」
「そうかそうか。後ろから抱き付かれとるみたいでちょいとむず痒いが。まあ問題は無い。よし行くぞアルマ! しっかり捕まっておれよ⁉︎」
アルマを背に乗せたまま四つ脚で立ち上がったドラグニルが前脚だけ曲げた。それに合わせてシートが動き、出来るだけ地面と平行を保とうとするが、アルマはその後に聞こえてきたキィーンという飛行機が飛び立つ前の吸気音にも似た音に顔を青くした。
「あの、ドラグニルさん⁉︎ つかぬ事を聞くけど、壁をよじ登ったりは⁉︎」
「はっはっは! するわけあるまい! 地上までひとっ飛びよ!」
「まあ待て、落ち着こう。シートベルトもキャノピーも無いのにそんな——」
世の中は無常である。
アルマの叫びはドラグニルの吸気音に掻き消され、翼を六角推に変形させるとそれをロケットよろしく下に向けた。
そして先程上に向けて放ったビームほどでは無いが、翼からエネルギーを放出、アルマを乗せたドラグニルは地上に向けて地下から飛び立った。
「父さん、母さん、ごめん。俺は、逝くよ」
「阿呆、逝かせるかよ。考え無しに人を乗せて飛ぶわけなかろう?」
体に伝わってくる筈のGを覚悟して目を閉じていたアルマの耳にドラグニルの声が響いた。
なんだ、ドッキリだったのかよ、全く冗談キツいわー、と目を開くアルマだったが、そこは果てし無く広がっていると思える青い空の中、更に言えば雲の上だった。
「おい! 死んでんじゃねえか⁉︎」
「死んどらんわ戯け! 物理的に高い場所におるだけよ」
「空気は⁉︎ どの道死ぬじゃん!」
「周囲に空気ごと取り込んだバリアを張ってるから大丈夫じゃ、まったく新しい主人はうるさい奴よ。とりあえず降りるぞ」
「主人ってなん、あぁぁああ!!」
登ったら降りる。それは階段だろうが、エレベーターだろうが、登山だろうが、飛行機だろうが、機械で出来た龍だろうが同様なのである。




