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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おいしいらーめん

作者: 夏城燎





「今時さ。ネットに情報無いって珍しいと思わない?」

「確かにぃ……思うけど。こんな安直な名前でよく売れてるな」


 と、二人の学生が行列の先にある一件の店を見ながら不思議そうにつぶやいた。


 ――【おいしいらーめん】と言う店を知っているだろうか?


 東京のとある場所に存在し、それも行列が出来るほどの名店。に見えるのだが。

 不思議な事に、【おいしいらーめん】などでネット検索したり、その名前をラーメンマニアなどに聞いても特に名前があがったりしない。このインターネット社会で、ネットに情報が無いなんて逆に珍しいのだ。


「ま、大丈夫っしょ」


 きっと穴場なのだろう。【おいしいらーめん】と言う店は。と、自分なりに女は納得した。


「どんなラーメンなんだろうね」

「さぁな。どうせ薄い汁なんだろーな」

「何よ、最初から期待してないの?」

「期待してて駄目だった時の悲しさ、分かるか?」


 そう言われ「確かに」と、半笑いで返す女。

 学生の二人、別に付き合っている訳でもないが。恋人の一個手前の関係の二人だった。


 男女の男の方が、スマホの画面を見ながら。


「本当に大丈夫なのかよ……俺ラーメンって口コミサイトの評価が高い奴しか食わないんだけど」

「ウチだってそうだけどさ。どこの口コミサイトにも無くって、調べても何もヒットしないなんてさ。逆に気になんない?」

「分かるけどさ……何食わされるかわかんねーの、なんか怖くね?」

「……まぁ大丈夫っしょ」


 二人は、その長い行列の中で互いにスマホを眺めていた。

 少し肌寒くなってきたからか、二人は芯が凍えそうな感覚になりながら立っていた。列には意外と色んな人が並んでいた。

 老人から会社員、作業服の人やホームレスっぽい人が並んでいた。

 色んな層に人気なラーメンなのだろうかと、二人は少しだけ期待した。


「お次の方どうぞ」


 二人の順番が来た。

 意外とすぐに順番が来て、何だかラッキーと女は感じた。

 店に入ると、2人は景色に驚いた。


「うっわ。めっちゃ人いるじゃん……」


 満席だろうか。

 全ての椅子、全ての座敷が埋まっていた。

 家族客もいればやはり老人から作業服など様々な客層だった。


「家族客が居るって事は、美味いんじゃね?」

「なら良いんだがな。俺はラーメンに関しては厳しいぞ?」

「そんなのずっと一緒に過ごしてれば分かるが」

「流石、親友だな」


 二人は他愛のない会話をしながら開いている二つの席へ座った。

 そして目の前にあるメニューが掛かれた板を覗くと――。


「え、一個しかない」


 その板に書かれていたのは。たった一品。

 ――おいしいらーめん 400円。

 おいしいらーめんと言う店名と同じ品名で、何なら400円と言うラーメンにしては激安な値段が書かれていた。そこで少し違和感を感じた。


「……どうする?食べる?」

「当たり前だろ。俺様が見定めてやるよ」


 女は少し嫌な予感に近い何かを感じたが、男は愚かにもそのラーメンを注文した。

 その際、女も男と一緒に注文し。


「らーめん。はいりまぁーす」


 というやる気のない店員のセリフにより。厨房に立っていた目が虚ろな、細身のおじさんが無言でラーメンを作り始めた。

 何だか女はその光景に、強い違和感と薄気味悪さを感じ。


「少しトイレ行ってくるわ」

「おう。麺が伸びる前には帰って来いよ」


 女は逃げるように店のトイレへ駆け込み、その違和感に自問自答を始めた。

 と言っても、違和感以外は普通だった。

 普通のラーメン屋で客足もある。何を疑問の思うのかと思った。


「………」


 でも、女は気が付いた。

 確かに客足もあり。繁盛している様に見えたのだが。

 女はゆっくりとトイレの扉を開け、店内をジーと見回すと。――店内のラーメンを食べている客が、何も喋っていない事に気が付いた。

 そう、店内にはラーメンを作る音だけが響き、それ以外の音は何も響いていなかったのだ。それもよく見れば、ラーメンを啜っている客の目は店主と同じように虚ろだった。

 それに気が付いた瞬間、女は身の毛のよだつ程の嫌な予感を感じ取った。今まで普通だと思っていた光景が、一気に変わってしまったのだ。“おかしい”と強く認識し、でもここから逃げる方法なんてないような気がした。


「…………」


 とにかく男を連れ出さなきゃと強く覚悟した。

 そして女はトイレの扉を開き、その一変した気持ち悪い世界を歩いて。


「ねぇ、やっぱ帰ろ?」

「………」


 男は、黙って麺を啜っていた。


「……ねえ。ねぇってば」

「――――――」


 男は、黙って麺を啜っていた。


「■■?」

「――――――――」


 男は、虚ろな目をしていた。

 そして。


「おいしい」

「え?」

「おいしい、おいしい……」

「……何、言ってるの?」

「おいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしい――」

「え? は? あ……」


 女は男の明らかな異常に気が付いた。

 いつからだろうか、男はもう女の事には見抜きもせず、ひたすらラーメンを食べていた。

 やっと口を開いたかと思いきや、連呼する謎の言葉に女は戸惑うしかなかった。

 そして――。


「――ひっ」


 女は周りの、麺を食べていた筈の全ての客が。

 明らかな敵意を感じる視線を自分に向けている事に気が付いた。


「いやああああああ――!!」


 女は走り出した。店の外に出て、走り出した。

 あたりはなぜかすっかり夜になっていた。入った時はまだ太陽が出ていたのに、なぜか今は夜だった。

 陰鬱な雰囲気の街を走り、女は助けを叫んでいた。

 でも不思議な事に、人が一人も歩いていなかったのだ。


 走っている時、女の頭にはとある男の顔がずっとちらついていた。

 厨房でラーメンを作っていて、細身のおじさんの顔だ。あの顔がずっと頭に入り込んで、住み着いて。気持ち悪くって仕方がなかった。普通の顔なのに、知ってしまったからかそれが異質に思えてしまった。そしてずっと、誰かに見られている感覚があった。

 だから走った。助けを求めて走った。

 でも助けなんていなかった。

 まるでこの世界は現実世界と違う、異なる世界のような静寂だった。


「――――」


 そして女は力尽きた。

 地面に倒れると、すぐにそれに気が付いた。そして戦慄した。


「おまエェ?みたァ?」


 女の背後には、一緒に来ていた男が信じられない程おぞましい形相で立っていた。

 それを見て女は呼吸を乱し。息が出来なくなるまで取り乱してから。


「おいしいヨ」


 女は男に、口に何か入れられ。その瞬間。女は黙った。

 程なくして、女は呟いた。


「――おいしい」



――――。





 ――【おいしいらーめん】と言う店を知っているだろうか?





 ぼろい家に作られたラーメン屋であり。入った者はたちまち壊れてしまう怪異が起こる場所だ。

 そのラーメン屋で出された【おいしいらーめん】を一口でも口にしてしまうと。


 あまりの美味しさから出る『おいしい』ではなく――とにかく頭に『おいしい』と言う単語しか出て来なくなる。

 そのラーメンを知ったり飲んだりしたら最後、全ての思考能力が失われ、ただひたすら『おいしい』しか感じない廃人となってしまうのだ。

 それを知ったり飲んだりした人達の中に、

 その呪縛から逃れた者は、

 一人もいない。


















 あ、いた。
















█████████████████████


   ■■■■■■■■■■■

  ■■■あああああああ■■■

 ■■あああああああああああ■■

 ■あああああああああああああ■

■■あマ■■マあああマ■■マあ■■

 ミああ▓▓ああハああ▓▓ああミ

 ミああ■■あハハハあ■■ああミ

  ああああああナああああああ

   あああああああああああ

    あ▃▂▁▁▂▃あ

      あああああ


███████████████████



  【おまエェ?みたァ、ナ?】












――――――――

――――――

――――


おいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいしなせておいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいここはどこおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいたすけておいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいころしておいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいたすけておいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいころしておいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいしにたいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいくるしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいままたすけておいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしい







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