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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

デッドエンド トゥルース

作者: 紫央

毒を吐き出したくて書き散らしました。

お目汚しではありますが、昏い気分を楽しみたい時にご覧ください。


5/12 後見人について少々修正をいたしました。

 よく来たなクズども。

 ここは人間と言う種から零れ落ちた、どうしようもない、生きる価値すら認められん愚か者がたどり着く最果ての地だ。

 ここで息をしているということは、死んだほうがマシなカスだということだ。

 いいか。お前たちに生きる価値などない、空気と食料品を無駄に消費して糞を垂れるだけのゴミだ。

 私は、価値のない無駄な命を1つでも多く刈り取ることを至上の命題として派遣されている。つまりだ、お前たちを殺すことこそが仕事なのだ。

 だが、仕事と言うのは楽ではない。

 ただ殺すだけならば今すぐ、それこそ息1つ分吐く間に済ませられる簡単な行為だ。

 だが、それはすぐにはできない。

 なぜなら、私が自身に課せられた使命を全うするためには、条件を満たさなければならないからだ。

 条件とは何か、だと?

 なるほどそれが1番気になるだろう。お前たちはその条件を満たした途端、確実にその肉体を使用不可にされるからな。

 だが心配するな。

 たとえ物言わぬ物体となり果てても、有機物である以上利用できる。いや、そうなって初めてお前たちには価値が出るのだ。

 それを思えば、条件を満たすのは決して悪いことではないだろう。

 何より、そうなればキチンと人間に戻れるぞ。弔いは正式な資格を持った僧侶によって、年に1度まとめて行われるからな。

 慌てるな。

 まだお前たちは条件を満たしていないが、そういきり立つなら今すぐにでも条件完了として扱ってもいいんだぞ。

 ――おい、そこのお前、口枷だって使えば洗浄しなきゃならんのだ、余計な手間をかけるなら、今すぐ私は仕事をするぞ。

 ああ、静かになったな、よし、そのままでいろよ。

 では、条件に付いて教えてやろう。正直時間の無駄としか思えんが仕方ない。

 これも私に課せられた仕事だからな、まったく。毎年この過程を端折ってもいいかと申請するんだが、認めてもらえん。実に遺憾だ。

 まぁ簡単なことだ。

 これからお前たち1匹1匹と面談をする。そこでお前たちが人間社会でやらかした愚行を改めて確認して、有機物にするか動く道具にするかを審査する。

 すなわちその面談こそが条件だ。

 なに、裁判なら済んだ、だと?

 馬鹿を言うな、あれは人間社会での取り扱いを決定しただけだ。

 一応お前たちは女の腹から生まれて、人のカタチをしているからな。どれだけ汚かろうが、その時点では人間扱いをせざるを得ん。

 だがその裁判とやらでここへ送られる決定がされたのだから、最早人間として扱う必要はないと判断されたのだ。

 それだけのことをしたという自覚はあるのだろう。

 は、よく吠えるな。

 覚えておけ、お前たちにはすでに国民としての登録すらない。

 よしんばここから逃げ出したとして――まぁあり得んが――どこへ行ってもまともな生活などできんだろうよ。

 仕事も、住む場所も、関わろうとする人間すらいないだろう。

 金を稼げる手段などない。

 あるとすれば、またもや犯罪を犯すくらいだ。そして、死刑台へ直行するか、またここへ戻されるかだ。


 どちらも行きつく先は腐り果てる有機物だな。


 うるさいぞ、泣くなら声を出さずに泣け。

 ああ、先に言っておこう。

 面談が終わったらお前たちには喋る権利もなくなる。意思を言葉で伝えるのは人間だけだ。声を出すことまではいいが、意味のある会話は一切禁じる。

 だからなにを騒ごうと、通じると思ってはいけない。怒鳴ろうががなり立てようが、ただの獣の吠え声と同じだ。

 何度も言わせるな、お前たちはもう人間として扱われることはないのだ。

 面談で殺さないと判断されても、人に戻れるわけではないと肝に命じておけ。

 私としてはさっさと殺処分したいのだがな、これも決まりだ仕方がない。

 面談の内容は、公的書類に記載される。それがお前たちの最後の記録だ。


 では諸君、人間をやめる前に言っておきたいことをまとめておくように。


No.29515(某研究所・元名誉主任  懲戒解雇済)

 ああ、どうしてワシがこんな目に合わねばならんのだ。

 ワシは何も悪くない、当然のことを主張しただけだ。

 そうだろうが、ワシは誰よりも年齢も経験も上だったんだぞ。もっと尊重されてしかるべきだ。

 だからあいつはワシに成果を盗まれたなどと騒ぐべきではなかったんだ。むしろワシの名誉に貢献できたと喜ぶべきだった。

 どうせあいつの名前で出したところで、大して注目など集められん。ワシが、このワシが世間に出したからこそ有益性が認められたんだ。

 だのに、人を泥棒扱いしおってからに。

 ああ、不具合が出たら、だと。

 そんなもの、ワシの研究にあるわけなかろうが!万が一発生したなら、実際に制作したモンが悪いに決まっとる。

 さらなる改良?応用を利かせた新開発?

 知るかそんなもの。

 ワシが施す以上のモノなどあるはずがない。

 大体だな、あんなうだつの上がらない若造が、世間に通用するものか。

 ワシの言うことを黙って聞いていればいいものを、自分の権利がどうのこうのとエラそうにのたまうから悪いのだ。

 目上の者を敬うという当然の姿勢がない者など、生きている資格がない!才能があろうがなかろうが、そんなものワシの役に立たなければ意味ないだろうが。

 あ、過去に出したワシの研究成果?

 もちろん偉大なものばかりだ。

 知らない訳がないだろうが、――とか――とかだ。――など一世を風靡して、多大な利益をもたらしたんだぞ。

 ああ、――など市長から表彰されて…なに、なにを言ってる!?

 そんな訳がないだろうが!もはや陳腐だなど、どの口が言うのだ!

 はっ、アレか。あんなものは無能が辻褄合わせで作った欠陥品にすぎん、ワシの完璧な研究結果に基づいた物とは大違いで――。

 いい加減にしろ、ワシがそんな卑小な人間に見えるのか!

 だから言っているだろうが、あの愚かな若造の研究など、ワシがいなければただのガラクタだ。それなのに身の程知らずにも、盗用の証拠があるなどとほざくから…。

 わ、ワシは悪くない、悪くないんだ。

 あいつがワシを尊敬せんから、あの愚か者がワシを陥れようとするから…だから。


 殺して当然だろうが。


 どいつもこいつも、ワシのおかげで生きているというのに、どうして…どうしてそんな…。

 ワシは、尊重されなくちゃいけないんだ、もっとワシを大事にしないか、もっとワシを、ワシを、ワシを――!

 助けてくれ…。


 №29515

 罪状 :盗用・詐欺・公文書偽造・殺人

処分内容:強制労働2級

過労により****年**月**日死亡

生前成果は全て時代遅れ、改良の余地なしとして廃棄処分



№29688(元○○大学付属小・中学校教諭 生活指導担当  懲戒解雇済)

 ですからね、わたしがどうして責められならなきゃならないの?

 違うでしょう、わたしは悪いことをしたおバカな子供たちを助けていただけよ

 6歳から15歳の子供たちなんて、自分のやっていることがどんなに下らないかわかってないんだから、大人がキチンと指導してあげなくちゃダメなのよ。

 え?じゃあどうしてって、決まっているじゃない、いくら愛情をもって教え導いたって、当人の性根が腐りきってたら手に負えないわ。そんな連中は退学にしなきゃダメでしょう。

 そうでないと、他の真面目な生徒たちが迷惑するわ。

 大体、学校ってところは正しい教えを授けてもらえる神聖な場所なんですからね。不真面目な態度で来られちゃ迷惑なのよ。

 制服だって髪型だって、学校側が1番良いものをわざわざ考えて指定してるんだから、気に入る入らないで改造なんてしちゃダメじゃない。

 え、ああそりゃね、成長期の子供はあっという間にサイズが合わなくなることもありますよ。なら、ちゃんと合った物を買い直せば済むことでしょうが。

 髪も爪も勝手に伸びる?

 だから何だって言うんですか、毎日身嗜みをちゃんとするのは人として当然のことでしょう。特に女子、巻いたり染めたりみっともないと思わないのかしら?似合わない髪飾りなんてくっつけてたら授業の邪魔ですよ、まったく。

 だからそんなことが出来ないように、全部刈り取ってやったんです。

 どうせ勝手に伸びてくるんですもんね。

 ええ、ハンカチを忘れた生徒に平手打ちしたことは認めますよ。

 だけどそれこそ当然の指導でしょう。トイレに入って濡れた手で出てくるなんて、ああ、気持ち悪い。

 そりゃそうですよ、教師の前でだけいい子の顔をしてる子供ほど、裏ではとんでもないことをしてるんですから。

 だからこれはって感じた生徒の所には、頻繁に家庭訪問をしてたんです。

 ええ、大体お金持ちの子女が多かったですよ。

 なまじいい家の子供なんて、分不相応な小遣いをもらってロクでもない遊びをするんです。また、親がねぇ、そういう不品行を揉み消そうとするもんですから、こっちだって苦労するんですよ。

 え?なに言ってるんですか、あれは余分な労働に対する報酬ですよ。

 子供の学校生活を盾に親から金品をたかっただなんて、そんな教師にあるまじきこと私がするわけないでしょう。

 表沙汰になったら困るだろうってことをわざわざ事前に忠告して、何とかしてあげましょうって、云わば救いの手を差し伸べてるんじゃありませんか。

 どうせお金にあかせて不味いことを隠そうとするんですから、その分をわたしに回してもらっただけですよ。

 ――え、なんですって?

 そんなはずないですよ、あんたたちもだまされてるんです。あの子たちは裏でロクでもないことをやってた不良ですよ。酒や煙草だって…。

 そんな、捏造なんて。

 何にもしてない訳ないじゃない、このわたしがそうだって判断したんだから。

 自殺騒ぎ?それこそわたしに何の関係があるっていうのよ。

 え、ああ、あの小娘?

 あの娘は1番気に入らなかったわ。

 ちょっと若くて綺麗だからって、いい気になって男子生徒ばかりか教師まで手なずけて。

 色々面倒を見てやった後輩までほだされて。

 あんなアバズレがわたしの学校にいるなんて我慢ならなかったのよ。だから、さっさと結婚でも何でもしていなくなればいいって。

 わたしはただ、あの娘みたいなのが好みだっていう男にクラス写真を見せてやっただけよ。その後あの男が何をしたかなんて知ったこっちゃないわ!

 え、わたしが退学にした生徒たちが、なんですって?

 な、なにを言ってるんだか、自分たちが悪いんじゃない。

 わたしが、わたしが、ただ自分の権力欲を満たすためだけに、無実の生徒に言い掛かりをつけてたって言いたいんですか?!

 そんなことあるわけないわ。

 ええ、裁判でもそんなことを言われましたけどね、あり得ないですよ、わたしはいつだって生徒のことを大事に指導してた、理想的な教師なんです。

 あんな世間のことを何にも知らないガキどもが――。

 そうでしょうとも、社会の底辺に堕ちて当然だわ。――わたしに嵌められたせいで堕ちたですって?そいつらがここにも大勢いるって…な、なによ、だからどうだって言うのよ。

 なんですって?

 そんな、バカな。

 わたしが退学にしたあの不良が、あのバカな生徒が、司法のエリートですって?まさか、そんなはずは…。

 え?わたしの勤続年数?20…何年でしたっけ。

 そりゃ、わかってますよ。

 子供が大人になるなんて、当たり前のことは。

 え?え?まさか、貴方…。

 本人に嘘は通用しないって、いえ、だから。

 わ、わたしは、わたしは、教師として間違ったことなんて…。

 生徒を虐めて楽しんだり、親を脅して金品をたかったりなんてしてないわ。退学になった生徒をほくそ笑んで見送ってたなんて、誰がそんな出鱈目を。

 裏社会の人間との関りなんてある訳ないじゃない、そんな人たちに気に入らない生徒を陥れる手伝いなんて頼んでない!

 まして、親が訴えてきたからって。


 家に火をつけて家族ごと殺したなんてあるわけないわ。

 

 みんなみんな自業自得で堕ちていったのよ。

 わたしのせいなんかじゃない!


№29688

 罪状:名誉棄損・暴行教唆・罪過捏造・傷害・恐喝・放火・殺人

強制労働3級 作業時不手際により****年××月〇〇日死亡

生前執行した処分は全て不当処置として、公的機関の全経歴修正が執行。




№29785(就職歴無し 最終学歴・##大学中退)

 ねぇ、早く姉さんを呼んでよ、いつになったら来るのよ。

 言ったじゃない、あたしは悪くないんだって。

 悪いのはみんなみんな姉さんなんだから、罰なら姉さんに下してよ。

 違うわよ。姉さんはね、この世に生まれてきたこと自体が間違いなのよ。だから何もかも姉さんのせいなの。

 はぁ、なんでわかんないのよ。

 ったく、あんたもあの裁判官とおんなじこと言うのね。

 あたしと姉さんを比べりゃわかるでしょう、どっちが綺麗でどっちがいい女か。

 あんなのあたしのおまけよ。

 父さんだって母さんだって言ってるわ。あの娘のモノは、みんなあたしのモノだって。

 そりゃね。

 血は半分しかつながってないわよ。姉さんを産んだのは、父さんの先妻なんでしょ。

 その人が早死にしたから、母さんと再婚してあたしが生まれたんでしょう。だったらやっぱりあたしはあの家の娘なんじゃない。

 死んだ女との間に生まれた娘なんてさっさと手離しときゃ良かったのに、父さんも母さんも優しいから

お情けで育ててやってたのよ。

 あの家も、南向きのかわいい部屋も、服だってアクセサリーだって、みんなみんなあたしにこそ似合ってるの。姉さんに相応しいモノなんて何にもないんだから。

 それこそこの世であたし以上のものを望むなんて間違ってるわ。

 だから婚約者だって姉さんじゃなくてあたしに惹かれたんじゃない。あんな地味でつまらない女、結婚しようなんて思わないわよね、普通。

 現にあたしがちょっと愛想よくしたら、あっさりなびいてきたわ。

 そうよ、彼はあの大企業の御曹司なんだから、好きな女を選んでいいはずでしょう。

 そりゃここしばらくで株価?だか何だかが落ちて、彼のお父様が責任を取らされるとか言われてたけど、だからって息子の結婚や恋愛にまで口を出す権利なんてないんじゃない。

 だから彼は姉さんなんて、あっさり捨てたのよ。

 母さんも喜んでたわ。

 あんな地味でくだらない娘なんて、もう家に置いとくのも忌々しいからさっさと追い出したいけど、ただで使える家政婦だと思えば節約になるから置いてやってるんだって。

 結婚なんてされたら、好きにこき使えないものね。本当、恩知らずもいいところよ。

 だからね、悪いのは姉さんなの。罰は姉さんが受けるべきよ、だからさっさと姉さんを呼んできなさいってば。

 昔っからそうだったもの。

 窓ガラスが割れたのも、父さんの車に傷がついたのだって、あたしじゃないわ、姉さんのせい。

 先生に叱られたのだって、元を糺せば姉さんが悪いのよ。ちゃんと宿題やっておけって言ったのに、全然違う問題集をやってたんだから。

 ――何言ってんのよ、字がちょっとくらい違ってたって構わないでしょう。あたしの宿題なんだから、あたしが出せばそれでOKじゃない。

 まぁね、その度に母さんが激怒して折檻してたのは確かよ。ボロボロになってく姉さんを見るのはスッキリしたわ。

 いつだったかな、真冬の雪が降ってる夜に庭先に叩き出した時なんて最高だったわね。テレビ番組が終わったんで外を見たら、物置の陰でくたびれた犬みたいに震えてうずくまってたの。雪が積もってて、そりゃもう庭の置物としちゃなかなかのモノだったわ。

 すごく面白かったんだけど、なんでかな?もうするなって父さんに言われちゃって。

 知らないわよ、とにかく外に出すのはダメだって言い張るんだもの。もっとやりたかったけど、仕方ないからあきらめたわ。


 ――は?どう言うことよ

 そんなはずないじゃない、あの女はあたしの姉さんよ。腹違いの出来損ない女だけど、そこは間違いないわよ。

 ――血はつながってない?そんなはずないじゃない。

 姉さんの父親?あたしの父さんでしょう――違う、違うってどういうこと?

 し、知らないわよそんなこと。

 じゃあなに、父さんと姉さんは実の親子じゃないってこと、なら、あたしだけが父さんの娘なんじゃない。やっぱり姉さん――いえ、あの女はただの居候だったのね。

 図々しい。孤児のくせに、あたしたちの家に寄生して。

 は?

 逆?逆って何よ。

 あの家と財産は、姉さんの父親のモノ?

 父さんは姉さんと血がつながってないって言うのはわかるけど、一応親が結婚してるんだから義理の娘でしょう?

 違うってどういうことよ?

 は?――父さんはただの親戚で、後見人に選ばれただけって…。

 え、勝手に名乗り出て、姉さんの家に乗り込んだ?それってつまりどういうことなの。

 後見人に必要な手続き?なにそれ、あたしが知るわけないじゃない。

 父さんが、それをしてないって言うの。だからなによ、実際に父さんは姉さんを世話してたんだから、どうでもいいじゃないそんなの。

 あの家は姉さんのですって?嘘よそんな…あたしたちには何の権利もないなんて、そんなはずないじゃない!

 お金は?あたしたちが使ってたお金はどこから出てたって言うのよ。父さんが稼いでたんでしょう。

 そりゃ、働いてるところを見たことはないけど。

 でも、あちこちに会社があるって、そこから利益が出てるからって、毎日買い物して、おいしいもの食べて、それで…。

 姉さんの養育費?

 銀行預金や株式の利息だけで、あんなにたくさんのお金があったってことなの、噓でしょ。

 でもそれなら何の問題もないじゃない。姉さんのお金ならあたしたちのお金でしょう。

 なんですって、侮辱するのもいい加減にして!

 寄生虫って誰のことよ。父親じゃなくても、後見人なんでしょう、だったら財産の管理は当然の権利じゃない。あたしたち一家が正当な取り分をもらってなにが悪いって言うのよ。

 は?

 そんな、正当な手続きをしていない後見人には報酬がないなんて、そんなはず…。

 もしかしてここ1年くらいお小遣いが減ったのって、姉さんのせい?

 去年くらいから、家事に手を抜くようになったのよね。しょっちゅう出かけてたし。

 そう、姉さんが成人したあたりから…。

 そうよ、姉さんが悪いのよ。

 陰険で地味でなんの取り柄もないブスなんだから、あたしの役に立つんじゃなきゃ生きてる資格なんてないわよ。

 財産だって寄こすべきだわ。どうせ有効活用なんて出来やしないんだから、あたしたちがうまく使ってあげるわよ。

 どうして無理なのよ。

 なに?なにを忘れてるって言うの。

 は、1年前なにがあったかって?

 え、その日は姉さんの誕生日で、なんかキツキツのスーツを着た男が来て…それから。

 あたしたち親子に、家を出ていけって。

 じゃあどこに住めばいいのよって言ったら、廃屋寸前の貸家に連れてかれた。

 こんな所に住めないって騒いだら、それならちゃんと賃貸料を払って自分たちで探せって言われたわ。

 だからそうしましょうって父さんにいったら、無理だって泣きそうな顔で言ってた。

 父さんは姉さんのお金で暮らしてたから、仕事なんてしてなくて。あたしたちの手元には、もうお金なんて無いって。

 そんなバカなことってある?

 その内服やバッグやアクセサリーを売れって言われて、全力で拒否したわ。当たり前じゃない、あれはあたしのよ、どうしてそんなことしなきゃならないのよ。

 それで父さんと喧嘩してたら、なんか怖い人たちが来て…紙を広げて、父さんと母さんを連れてった。

 それから会ってないわ。ねぇ、あたしの両親はどこに行ったの?

 ――横領罪ですって、有罪判決が出てるってことなの?ふざけないでよっ!

 姉さんを早く呼んでよ!でもって、父さんたちの訴えを取り下げて、あたしたちを家に戻してよ!

 罪があるって言うなら代わりにあの女が服役してればいいじゃない。家もお金もあたしたちがちゃぁんと有効に使ってあげるんだから。

 え?

 婚約者?婚約者がどうしたって言うの?

 ああ、姉さんを捨ててあたしに鞍替えしようとしたあの男ね。

 あんなのとっくに捨てたわよ。

 父親が社長を解任されて…それがあたしのせいだって責めるんだから。

 父親が、姉さんから補填のお金を引き出す目的で婚約を勧めたなんて、そんなこと知るわけないじゃない。

 え、そうなんだ。あの元社長、そんなに部下から嫌われてたのね。――そうよね 一文無しの役立たずなんて失礼なことを言うような人だもの。

 あの男だってそうよ。

 化粧とブランド服に騙されたなんて、このあたしに向かって言うんだから、許せるわけないでしょう。

 あたしが姉さん以下だなんて、絶対にないのよ。

 だのに、貧乏な不細工は消えろなんて言うから。改めて姉さんに婚約を申し込むからなんて、そんな許せないことをほざくから。

 

 殺してやったんじゃない。


 ね、あたしは悪くないでしょう。

 いきなり住む家も服や食べ物を買うお金も無くなって、父さんと母さんに恋人までいなくなった。どうしてあたしがこんな目に合わなきゃならないのよ。

 やっぱり姉さんのせいじゃない!

 台所の片隅でうずくまってた陰気女のくせに、あたしが使ってたお金を――ううん、それ以上のモノを持つなんて、分不相応もいいところだわ。

 だからあたしや両親じゃなくて、姉さんに罪を償わせてよ。

 当然のことでしょう。

 

 ねぇ、早く姉さんを呼んでよ。


 №29785  罪状:財産横領 虐待 傷害致傷 殺人

鑑定にて、精神に異常をきたしたことを確認。健忘症の一種にて、幼少時より居住していた家屋から立ち退いて以降の記憶を定期的に失う。

 その都度自らの罪状記憶も喪失するため、状況を受け入れかねて錯乱。

 強制労働4級以降は不可能と診断。

****年〇〇月--日、極寒の夜間に外を徘徊して凍死。

  なお、別件にて逮捕・有罪とされた両親は、刑期満了後行方不明。




№29986(元----社 営業部企画課 自主退職済)

 俺が悪いんですかねぇ。

 確かにあいつに惚れて口説き倒したのは俺自身ですけど、ありもしないマボロシに惑わされただけの大馬鹿野郎だった訳で。

 そうですよね、そこから説明しなきゃわからないでしょう。

 幼馴染って奴ですよ。

 あいつとあの女とは近所で生まれ育って、中学までずーっと一緒の学校。高校は別の学校だったが、近所住まいだったから付き合いはあったんですね。で、あのマボロシも続いてたと。

 信じられませんか?

 好意を向けた相手や気に入った物を魅力的に見せちまう特異体質、まぁ確かに都合が良さそうな特技に聞こえるでしょうな。

 しかしね、そんないいもんじゃありませんよ。

 ま、これが自分自身に対して周囲を魅了するって形なら随分得な力だったんでしょうが、あいにくそんな便利なもんじゃありませんでね。

 つまりあの女が好意を抱くと、その相手に妙な魅力と言うか、輝きが宿るんですよ。

 俺が惚れ込んだのはあの女の幼馴染。ずーっと仲良しだった女でした。

 とにかくね、もうこの女は特別だ、この世に2人といない女神みたいな存在だって、無条件で思っちまうんです。この女を逃したら、俺の人生お先真っ暗。まともな結婚どころか、人生の全てが灰色になっちまうって…。

 今にして思えば、なんだってそんな頓珍漢なことを思ったんだかわからないんですけどね。

 あいつと2人きりの時に早々と気づいてりゃもうちょっと違う結果になったんでしょうかね。しかし若かったですからねぇ、2人きりになったらそんな落ち着いてなんていられなくて、ええ、つい長々とマボロシを引っ張っちまったんですよ。

 初めて出会ったのは高校生の時。それから同じ大学へ行って、社会人になると同時に結婚して、いつの間にか10年以上一緒にいました。

 当然、あの女と深い友達付き合いをしながらの日々でしたよ。

 幸せなマボロシでしたねぇ。

 もっともそりゃ俺だけで、周りはとんでもないことになってたんですがね。

 考えてみてくださいよ、そんな女が、恋愛感情を絡めて誰かを見ればどうなるか。

 高校生にもなりゃ、恋愛経験だって普通に始まる。当然あの女の通ってた学校でも、同様のマボロシが撒き散らされてたわけです。そんな特異体質を持ってるなんて自覚のしようがありませんからねぇ、仕方ないっちゃ仕方ないんですが、随分罪作りですよ。

 あの女が通ってた高校や予備校、社会人になってからの就職先なんかでは色々騒ぎが起きたみたいです。

 あの女にちょっとでも“いいな”って思われたら、そっからもう怒涛のモテ期到来。それまで恋愛とは無縁だったダサ男が、大勢の女たちにキャーキャー言われるんですぜ。そりゃ勘違いコースまっしぐらですわ。

 で、いい気になってイタい言動を重ねて、あの女に見損なわれて――ドボン。

 昨日まで『ステキぃ、大好き』とか言ってた女たちから、『寄らないでよ、キモイ』ですよ。そりゃ、傷つくなんてもんじゃないでしょう。

 ええ、あの女は元々モテてた奴にはあんまり興味を持たなかったんですよ。

 その辺個人の好みなんですかね。サッカー部のフォワードよりゴールキーパー、野球部のピッチャーよりキャッチャー、そんな派手でないポジションの男に惹かれるんだそうで。

 確かにいい趣味してますよ。あんな体質じゃなきゃ、文句なしに“いい女”だったんでしょうね。

 とにかく、華やかなヒーローじゃなくてサブ的な奴に好意を持つもんだから、被害が酷いのなんの。大抵はまぁ一過性の気の迷いで済むんですが…中には深刻なのもいました。

 俺こそがその最たるもんですね、恥ずかしい話ですよ。

 いや、あいつはねぇ…。

 確かにそうなんですが、他の女友達と違って、あの女が持ってるものを奪い取ろうなんてしなかったんです。

 あの女の、なんて言うんですかね、アレは?――まぁお気に入りに魅力を重ね掛けする特技は人間だけじゃなくて物にも及ぶ。

 そうすると、あの女の持つ道具や服なんかも、なんだかとてつもなく良いモノに見える――って言うか良さげに感じるんですな。

 大人になって、自分で(あがな)えるようになればいいんですが、子供の内はそんなことできやしない。だから親にねだる。

 あの女の持っているアレが欲しい、アレは自分が持っているモノとは違うんだ。

 ところがそんな感覚はあの女を知らない親にはわからない。だからもう持っているでしょうとか、お前には必要ないでしょうとか言われて買ってもらえないことの方が多い。

 で、取り上げるんですよ。頼み込んだり、無理やり奪い取ったり、果てはこっそり盗んだりと様々でしたが。

 それがバレて怒られると、ただの消しゴムや定規が、とんでもない宝物のように輝いて見えて、どうしても欲しかった――正気でそんなことを言って泣くんだそうで。

 もちろん手に入れた途端にただの物になり果てるんですけどね。

 大人になってからよくよく周りを見てみれば、あの女の周りでは、服とかバッグとか、とにかく真似をしたがる奴が多かった。

 安物で有名な店の商品でも、とにかくあの女と同じものを買いたがるんですよ。それまでは6桁のブランド品がデフォだった連中がですよ。

 だけどそれはあの女が身に着けてた“個体”とは違う。自宅でじっくり見てたら、ただの安物だってすぐ気づくんです。

 だから目が覚めるのも早い。『なんでこんなの欲しがったのかなぁ?』なんて、よく聞いたセリフです。

 当然、男もその内ですよ。あの女と仲良くなった野郎を、まぁちょっと口にできないやり方で奪い取るんですが、数日もすれば『貴方の何が良かったのかわからない』で、終わり。

 ね、罪作りでしょう。

 だけど幼馴染のあいつだけはそんなことをしなかったんだそうです。

 持ち物も、服も、そして男も。

 あの女が大事にしたり、好いているモノを自分のモノにしようとはしなかった。

 だから友情が続いて、あの女からの好意も消えなかったんですよ。

 そのおかげで、俺の人生は終わっちまいました。

 どうしてそうなったかって?

 いくら親友ったって、一生一緒にいられるわけじゃない。

 当たり前のことなんですよ。

 いつかは来たはずの運命だった。だけど、その時が来るまでそんなことはわからない。そして、実際にその時が来てみれば、もう後戻りなんてできなかった。

 俺の惚れ込んだ相手はいなくなりました。


 あの女が先に死んじまった以上、もう残りカスしかなかったんです。


 俺は妻を殺したんじゃない、愛した女の抜け殻を処理したんですよ。


 死刑なんて怖くはなかったです。

 ですがね、希望がなかったから死ぬのも嫌でした。

 だってそうでしょう。単に先立たれただけなら、死ねばまたあの世とやらで愛しい相手に会えるかもしれない。だけど、俺の最愛の女とは、もうどこの世界に行っても会えないんですからね。

 俺が死んじまったら、あいつは永遠に消え失せるんです。

 だから。

 俺はもう人間をやめて生きるしかないんです。


№29986 罪状:殺人 死体損壊(未許可でのエンバーミング措置)

 第1級強制労働  病死 死亡日時・不明



 報告書No.19587388

 殺処分対象者、全工程完了。

 使用可能臓器、摘出及びサンプル採取。(別紙参照)

 ――以下略。


 

 以上が今期の殺処分対象者の面談状況です。

 質の悪い殺人を犯しながらも、初犯の為に死刑判決の出なかった犯罪者の対処としては妥当かと思われますが、世間一般への発表は未だ尚早と判断いたします。

 死亡診断書、及び火葬許可書は即時発行されておりますので、検察庁・裁判所への報告を早急に行うことによって、マスコミへの対処と隠蔽を行うことが可能です。

 特殊刑罰執行官の増員は慎重に選抜されることを進言いたします。


   以上報告いたします。


               ――終――

 

ダークな作品としてはまだまだ甘いかもしれませんが、最期までお読みくださり、ありがとうございました。

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