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突然の訪問


 コンコンコン。

「子狐ではないのだが……」

「意味分からん」

 玉座の間から瞬間移動(テレポーテーション)し、女勇者が一人住む大草原の小さな狭い小屋をノックした。大草原とはいえ、今は雪が降り積もり吹雪いている。

 魔王様ったら考えたら直ぐ行動に移すから……周りはいい迷惑だ。


「こんばんは」

「あら、魔王様とデュラハン。こんな寒い日にどうしたの」

 小屋の扉が少し開き、ひょこっと女勇者が顔を出す。

「ちょっと魔法を使い過ぎて……帰れなくなったから、一晩泊めてもらっていいかなあ」

「――!」

 無限の魔力はどうしたのとか、絶対に聞かれるでしょ。さらには一泊ってなに? 聞いてないぞ――!

「……いい……わよ」

 頬が赤いのが、なぜだかヤバさを感じる。本当にいいのだろうか。


 小屋の中は外より寒くないが、隙間風が外よりも寒く感じさせる。

「ゆっくりしててね。先にお風呂に入ってくるわ」

「ホラ――!」

「?」

 女勇者が奥のカーテンの裏へ姿を隠すと、魔王様の耳に顔を近付け小声で言う。

「本当に大丈夫なんですか! こっちよりあっちが無防備でしっちゃかめっちゃかですけれど」

「予は丸腰ぞよ」

「シャラップ!」


 本当に私と魔王様は今日、ここで朽ち果てることになるのではないだろうか。


「こ、こ、小屋の中にお風呂なんかあるのか」

「あるわよ。ドラム缶だけど」

 カーテンの向こう側から声が聞こえる。恐らくはもう脱いでいる。水を掛け流す音だけが小屋に響き渡る。

「あーいい気持ち」

 ドラム缶風呂か……。誰しもが憧れるが、実際に入った経験者は極少なやつだ。

「やばいですよ魔王様」

 ――女勇者に人気を全部持っていかれますよ!

「大丈夫だ。ここは予に任せておけ」

 魔王様、ガッツポーズしながら目を輝かさないで。キャラがいつもと違うから――。


「予も入ろう」

「やだ、魔王様のエッチ! アハハ」

 魔王様の顔が真っ赤になった。なんかすっごい笑顔なのだが――。

「ダメダメだ! 一緒に入るなんて一言も言ってないだろ!」

 魔王様と女勇者がドラム缶の風呂に一緒に入ってどうする――! なんか、裏切られて泣きそうな気分だぞ――!

「魔王様の身に何かあってはならない。魔王様とは私が入るのだ!」

 背中を流して差し上げます。両手のシルバーガントレットで。

「あー、ひょっとして、ボーイズラブ?」

「違う!」

 なぜそうなるのだ。


「だが、どうやってお湯を沸かしたのだ」

 小屋には煙筒などは見当たらなかった。小屋の外にマキも積んでない。魔王様なら炎の魔法とかでどうにでもできそうだが。今日は魔力が尽きた嘘をつき通さなければならない。

「お風呂を沸かす魔法でも身に付けたのか」

 勇者だから魔法が少しくらい使えても不思議ではない。

「え? 水よ」

 ……。

「……水……か」

 外に降る雪をドラム缶で溶かしたのだろう……。

「水の入ったドラム缶をお風呂と呼んではいけません」

 このクソ寒い日にドラム缶の水に浸かるのって……。

 ――ガチで死ぬぞ。足の指先を浸けただけで心臓までキューっと縮むぞ。

 小屋の中は外と同じくらい寒いのだ。風が無いだけマシな程度なのだ。


 寒さは玉座の間とどっこいどっこいなのかもしれない。



 三人が水風呂を入り終えると、寝袋に入って横になり、ランプの明かりでトランプをした。

ウノも持ってこればよかった。


「そろそろ予は寝るぞよ」

 子供みたいに目を擦る魔王様。演技ではなさそうだ。

「おやすみなさいませ」

「おやすみなさーい」


 さて、女勇者はどんな行動に出るのだろう。――楽しみだ。


 ――もし魔王様に剣を向けるようなことがあれば、一瞬でそれを食い止める自信がある。さらには、私の勝ちだ。魔王様の負けだ。

 本来、勇者は魔王様を討伐することを第一に考えていなくてはならない。裏切りなど、そうそうあってはならぬのだ……。


 私もそっと目を閉じて眠ったフリをする。


「ねえ、デュラハン。まだ起きている」

 ……。小声でそうささやいてくる。

「当たり前だ」

 危なかった。ついウトウトしていたが目が覚めた。

 よくよく考えたら、顔が無いから目を閉じていても開いていても分からない筈だ。


「魔王様ってさあ、デュラハンの持っている『白金の剣』でしか切れないんでしょ」

 なぜそれを知っている――。

「そうだ」

 女勇者よ、願ってもないチャンス到来なのだ。

 寝る時は私も白金の剣を枕元に置いているから……。その気になればそれを取り魔王様に突き付けるチャンスはいくらでもある。

 寝首を取れるのだ。


「がんばってね」


 ――ワッツ! カタカナ英語が出てしまったぞ!


 魔王様が眠っている。魔王様は白金の剣でしか切れない。さらに魔王様自身が裏切りは必要だとおっしゃっていた。ひょっとして、女勇者は私が裏切るのを期待しているのだろうか――。大どんでん返しを期待しているのだろうか――。


「それと、わたしなら……いつでもいいわよ」

「――! ムグムグムグ」

 なんじゃそりゃあ!  ――なにがいつでもいいのだ! 叫びそうになったのを手で口を抑え必死に我慢した。

 シリアス展開なのに、急に頬を赤くするな!

「キャッ、言っちゃった。おやすみなさーい」

 慌てて毛布を顔まで被って寝たふりをする。――ひょっとして今のは、悪魔のささやき~!


 勇者のくせに、悪魔のささやきだと~!

 いったい、俺はどうすればいいのだ――! 返り討ちに遭っている感、ハンパねー。


読んでいただきありがとうございます!


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