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一頭身スライム


 玉座の間の大扉を開いて廊下へと出る。金属製のドアノブは冷たいから触るのすら嫌になる。

「卿は全身金属じゃん」

「仰せのままに」

 さっさと扉を閉めた。


 魔王城の廊下が玉座の間よりも温かいのは何故だろう。魔王様が魔力で床下暖房を効かせているのだろうか。

 魔王城内にはレベル1のスライムがウロチョロしている。魔王様の考案された最弱の魔族を一番安全なところで保護作戦だ。

 おかげで城内に緊迫したムードはなく、休み時間の保育園のような状態だ。


 廊下を歩いているだけでスライム達が集まって来る。四天王の一人である私はモンスター達の憧れの的なのだ。

「ちょうどいい。スライム達よ、お前達は魔王様を裏切ったりしないだろうな」

「どうしたんだよデュラハン」

 四天王に対して生意気な口を利くが、レベル1のスライムなら致し方無い。呼び捨てにされるのも、もう慣れた。むしろ呼び捨てにしてほしい。いや、本当は様を付けて呼んでほしいな。

「話を省略し過ぎるとリアリティーがなくなるぞ」

「……」

 リアリティーとかを剣と魔法の世界で求めるな――と言いたいぞ。

 そもそも、スライムにリアリティーなどある筈がないではないか。可哀想だから言わないけど。

「首から上がないデュラハンに言われてもなあ……」

「――!」

 めっちゃくちゃ傷ついたぞ。9999のダメージを受けたぞ。夜に布団で泣けるぞ……。


 私には首から上が無いが、お前達なんて……首から下が無いのと同じではないか――!


「一頭身の分際で」

 さらりと皮肉ってやる。歯ぎしりしているのは内緒だ。どうせ首から上は無いのだ。グヌヌヌヌ。

「僕達が一頭身なら、デュラハンは∞頭身だね」

「∞頭身――! 頭が無いから分母がゼロ説!」

 初めて言われたぞ、∞頭身――!

「キモ」

「キモって言うな。これでも四天王なんだぜ」

「これでもとはなんだ! 四天王であっても、ピエーンと泣くぞ!」

 見た目以上にメンタルは弱めなのだぞ――! 「これ」扱いされたら誰だって悲しむぞ――!

「やーい、デュラハンのバーカ!」

 スライム達が面白がって逃げていく。

「バカって言う方がバーカ!」

 言い返してやったぞ! レベル1のスライムに少々大人気ないが、……少しスッキリしたぞ。

「デュラハンの∞頭身!」

 え、それって、悪口なの? 褒め言葉にはならないの~!

「デュラハンの顔無し!」

「顔無しって言うな!」

 たしかに首から上はないのだが、「顔無し」って聞くと、みんなアレを思い出すから~――。


 っていうか、逃げたらアンケート取るのが面倒くさくなるじゃないか!


 ……まあいいか。適当で。

 魔食堂で大量のアンケート用紙に代筆で○×を記入していった。魔王様には絶対にバレない自信がある。

 私はいつだって間違っていない。



 すべてのアンケート用紙に記入が終ったのは、8時間後だった。窓の外がすでに暗くなっている。

 今日もよく働いたと自負したい。


 玉座の間に戻ると何かしら違和感があった。

「……ひょっとして、魔王様の他に誰かいましたか」

「誰もおらぬぞよ」

 気のせいか。

「幻聴でも聞こえたのなら、はよ寝ろ。月曜から夜更かしし過ぎ」

「おやめください」

 私が夜更ししているのはやらなくてはならない仕事が多過ぎるせいです。男風呂の掃除とか、魔王様の分厚いローブの洗濯とか、壊れた洗濯バサミの修理とか……。縫い物や編み物。

 そして、アンケートや署名活動の代筆って……。

「そもそも、魔王軍四天王である私がやるような仕事ではない筈です」

 平和ボケ甚だしいです。

「フッフッフ。嫌な作業をやってこそ、次のスポットが待っておるのだ」

「――次のスポット!」

 四天王の次のスポットって……。

「まさか、――魔王!」

「呼び捨てにするでないわい! あほ!」

「――!」

 あほって酷過ぎるぞ! ストレートにパワハラ発言だぞ!


「他の者がやりたがらない仕事を進んでやってこそ、他の者よりも高く評価されるのだ。予は他の四天王よりもデュラハンに一目を置いておる」

 髭を触りながらそうおっしゃる魔王様……年齢不詳だぞ――。そもそも、今まで髭なんか生えていただろうか……。

「その鼻の下のちょび髭は偽物ですね」

「やめーて! せめて顎の下って言って! 鼻の下に髭生やした魔王って……聞いただけでギャグキャラにしかならないから~!」

「申し訳ございません。お似合いでございます」

 いい大人が偽物の付け髭で遊ぶなと言いたい。やれやれだ。それに、魔王様は……普通にギャグキャラだろう。

 付け髭をピッと引っ張り取って差し上げた。

「痛いん! デュラハンの意地悪」

「御冗談を。嬉しいくせに」

 違和感の原因はこれだったのか。


読んでいただきありがとうございます!


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