裏切りと嘘と魔遠足
「デュラハンも小さい頃、嘘や裏切り成長してきたのではないか」
疑いの目を向けてくる魔王様の表情は冷徹でお美しいのだが、ため息が出る。
ひょっとして、魔王様は裏切り者を逆に弁護するおつもりか。
「ございません。私は嘘や裏切りが大嫌いなのです」
私の一族はジェントルマンなのです。
「頭痛くないのに頭痛いと言ったり……」
「首から上はございません」
痛くなる頭がございません。
「熱が無いのにあると言ったり……」
「言いません。魔小学校もズル休みなど、したことはありません」
「逆に熱があるのに、無いと嘘をついたり……」
「そんな嘘をついて何のメリットがあるのですか」
熱がある時は素直に申し出るべきです。
「魔遠足に行けるではないか」
――魔遠足! ――魔族の遠足!
想像しただけでニヤニヤしてしまうくらい楽しみだった――。
「ずっと楽しみにしていた魔遠足当日、熱を測ったら37.5℃だったらどうする」
37.5℃――! 絶対にあかん熱量! 楽しみに買ったおやつを家で食べる試練――。
「熱があるのを内緒にして魔遠足に行くであろう」
玉座に座り勝ち誇った顔を見せる魔王様が……僅かながら、イラっとする。
「……グヌヌヌヌ」
魔遠足……行きたい。熱があるのを内緒にしてでも……行きたい。魔修学旅行ならなおさらだ。
「……誰にも……おでこを触らせません」
たとえバスに酔って吐いたとしても。元気ですと言い通します。……グフッ、負けた。
「おでこって……卿には顔ないやん」
「そうでした」
さらには全身金属製鎧の私に……発熱ってあるのだろうか。触ると冷たい。キンキンに冷えてやがる。
「アンデットめ」
「それはやめて――!」
アンデットと呼ばないで――!
百歩譲って「精霊」と呼んで――!
「プププ。精霊は無理があり過ぎぞよ。その顔で」
「――!」
その顔でって、おやめください。首から上は無いのですから。
「嘘はともかく、裏切り者を許してしまえば全軍の士気に関わります」
裏切ったモンスターを許してしまえば、次々と魔族からモンスターが裏切るかもしれません。魔王様なんてチョロいと勘違いされてしまいます。
「安心するがよい。魔族の中で予を裏切ろうと思っている者など一人もおらぬ。いや、一匹もおらぬ。裏切っているように見えても最後には予の前に跪くであろうて」
深く玉座に座り直す魔王様には緊迫感の欠片もない。一匹もおらぬって、本当かなあ……。ひょっとすると半々くらいじゃないのかと言いたくなる。
「さらには、自信過剰めと言いたくなる。言わないけど」
「わざと言っとるだろ!」
ちょっと唾が飛んできたが、嬉しいとは思わない。
「それもこれも魔王様のため……」
強い魔王軍を作るためでございます。
モンスターであれ人であれ、放置すれば甘い誘いや楽な方へずるずると引きずり込まれてしまうのです。
寒い冬はやっぱり気力も弱くなるのです。温かい電気モーフに包まれて眠りたい……みたいな。
「電気モーフ、夜に電源を入れようと思っていたら朝から切らずにそのままだったなんてこと、しょっちゅうぞよ」
「なんの話でございますか」
「電気モーフぞよ」
「おやめください。剣と魔法の世界に『電気モーフ』はございません」
冷や汗が出る。強にして寝ると寝汗もかくし、布団を全部蹴っとる。
「では、デュラハンよ。早急に魔族アンケートを取るがよい。予を裏切ろうとしているかどうか」
「えー!」
聞くだけで面倒臭さがヨダレのように溢れ出るぞ。いったい何枚必要なのだろうか。
「魔族アンケートでございますか」
ガクガクと顎が震える。絶対に嫌な仕事だ。
「さよう。そして裏切り者には名前を書かせて厳しく指導してくるのだ」
「名前を書いてはアンケートになりません。さらには厳しく指導されるのなら誰も本音を書かないでしょう」
「それが狙いぞよ」
悪い顔を見せる。魔王様本来の顔だ。
「……微妙」
よくあるパワハラアンケートではないか。ストレスチェックとかエンゲージメント調査とか……。さらには、怒られる方も怒る方も得るものが少なく時間の無駄……。
「はよいけ」
「ドイヒー」
いつもながらつまらない仕事だが……ここで跪いて魔王様の話を聞いているよりはマシなのかもしれない。言えないけれど。
「よっこいしょういち」
冷えた床から立ち上がった。
「……」
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