魔王様、裏切り者を許してはなりませぬ
「なぜだ!」
冷蔵庫のチルド室のようにキンキンに冷えた広い玉座の間に――魔王様のキンキン声が響き渡る――。
一見、絢爛豪華に見える四階建ての魔王城。しかし、その外壁は断熱材が少なく、冬はキンキンに冷える。
大理石の床に跪き魔王様と話をするのも嫌になるくらいだ。膝ぼんが冷える。
「貴様、裏切ったなデュラハン」
「冒頭から『裏切ったな』とかおっしゃるのは、やめてくれださい。むしろ真逆でございます」
タイトルと被っているようでややこしいです。つまり、魔王様です。
「予はややこしくなどないわい! 失敬だぞプンプン」
プンプン言わないでほしいぞ。
「私が言いたいのは、裏切り者を許してはならないということです」
「なんで!」
え、怒るところ?
「なんでって……」
説明する必要がおありなのでしょうか。
「やれやれ」
「それは私のセリフです! やれやれです」
先に言わないでください。
「最近では人間共の勇者パーティーが仲間になったモンスターと冒険しているのを見かけます」
スライムとかピエールとかゲレゲレとか。冷や汗が出る、古過ぎて。
「あー、敵のモンスターを仲間にして育てるRPGとかだな」
いや、RPGとかって言わないでほしいぞ。せめて「剣と魔法の世界」くらいで止めてほしいぞ。
「まあ、別に総称してRPGでもいいんですけどね。でも魔王様、どう考えてもそんな裏切り、あってはいけないでしょ」
とくに全軍を率いる魔王様であれば、裏切る魔族など許してはおけないでしょう。
「流行りならいいじゃん」
まさかの流行過多~。
「いいじゃんとか言わないでください」
お気は確かか。他人事甚だしいぞ。あんた、裏切られるんよ?
「スライムを倒した。スライムが起き上がり仲間になりたがっている――ぞよ」
「そうそう、それです」
戦闘が終わったと思ったら、倒した筈の敵が起き上がるってやつ。宝箱を落とすよりも珍しいやつ。
「悲しそうな瞳で勇者達をじっと見つめ続けるスライム……」
チワワや小動物のような潤んだ瞳。星がいっぱい入って瞳孔が開き気味の二次元的な瞳……ぢゃないやつ!
汚れを知らない本当の澄んだ瞳!
「スライムのつぶらな瞳で見つめられたら、人間でもキュンとして情が移るであろう」
キュンとするかどうかは知ったことではない。
「いいえ。私が勇者なら敵であれ裏切り者は絶対に許しません」
情など移ってなるものですか。
「……」
「魔王様のために戦っているのですから、魔王様、魔王軍のために死ぬ覚悟が必要です」
敵に命乞いをするなど、言語道断――。魔族の恥――。戦士の恥――。
「ふっる。デュラハンは頭が硬いぞよ」
ふっるって……。
「首から上は無いのですが、お褒め頂き光栄です」
他の皆からもよく言われます。
「……」
「さらには一度倒されたのに迂闊に起き上がれば、まだ息の根があると勘違いされます」
倒したはずの敵に背後からやられるのは、勇者としても最低最悪の結末です。
「勘違いとな? ひょっとして、仲間になりたがっているアイコンタクトの失敗――?」
表情だけで勇者がスライムの気持ちを悟れる筈がないのです。人間なのだから。
「勇者の攻撃、――ベシッ! 魔王様を裏切ろうとしたスライムは9999のダメージを受けた。魔王様を裏切ろうとしたスライムは本当にやられた」
「――!」
「シクシクご臨終。でございます」
経験値と有り金をすべて持っていかれるのでございます。それが戦でございます。戦争でございます。
「魔王様を裏切ろうとした罪は万死に値し、その魂ですら、人間からも魔族からも永久追放され彷徨うのです」
「怖いぞよ! たとえ敵とはいえ仲間になりたがっているスライムに追い打ちをかける勇者など、勇者の風上にもおけぬぞよ!」
勇者の風上など、どこ吹く風です。
「裏切り者の末路にございます。そもそも、魔王様を裏切るスライムなど、言語道断でございます」
「……」
敵を簡単に信じてはいけないのです。
「それに、一度でも味方を裏切る癖がつけば、何度でも裏切ることでしょう。つまり、仲間を裏切るような輩は信用できないのでございます――」
――裏切り者を許してはなりませぬ――。
「しかし、予を裏切らねば命を落とすのであれば、裏切って長生きしてほしいぞよ」
あー言えばこー。こー言えばあーめ!
「魔王様は蜂蜜!」
遠回しに甘いと言いたいのだ。言わないけれど。
「そればっかりは、言わなくても分かるぞよ。ぜんぜん遠回しになっておらぬ」
魔王様が片方の眉毛だけをピクピク動かしている。たぶん怒っとる。
「多少の嘘や裏切りくらい、よいではないか」
多少ですと? せめて少はよくても多は駄目だろう。
「よくないです」
魔王様を裏切って勇者と共に旅をして、最後には勇者と共に魔王様に攻撃してくる者の気が知れません。
それを許すって……お気は確かですか。
「恩を仇で返すことこの上なしです」
もし命が惜しくて裏切ったのなら、魔王様とだけは戦わずにひっそりと村や町で余生を過ごせと言いたい。
いや、裏切り者なら言いたくない。
もし、勇者パーティーと一緒に裏切ったモンスターが魔王城に入ってきたのなら……。
魔王城にいるモンスター全員から小石を投げられるに決まっている――!
っていうか、俺も投げる。
久しぶりの投稿になります。魔王様シリーズを読んでいただきありがとうございます!
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