10-6 真実とエトセトラ
白い国 10-6 真実とエトセトラ
「館長、急いでいるので手短にお願いしたいので早速ですが、本題に入らさせて頂きます。」
ローレンスは、耳をそばだてるにように、耳に手を当てる老人の耳介あたりに集中的に声を集め、鼓膜への振動を活発化させるように注力する。
すると、理解が進んだようで、こくりと老人は首を縦に振ると、脂肪で膨らんだ腹部を、サスペンダーで引き留めている、スラックスをグリグリと引き上げ、腹回りを調整しては用意を整えている様に思える。
ようやく準備が整った老人を見てローレンスは、言葉を切って、俗耳にも入りやすい平易な言葉を用いて話す。
「それで、ですね、この美術館では、アルバースの美術品を、国外展示する予定が、ありましたよね!」
その言葉に一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、何やら数秒の遅れを持って回路が繋がったらしく、うんうんと頷きを返す。
「その展示会は、次は、ディビィティアで、開催される予定で、その為に、一時的にディビィティア大使館に、美術品を、運び込んだんじゃないですか?」
「は?」
その返答に若干の苛つきを覚えたローレンスは、語気を強める。
「ですから!ディビィティア大使館に!運び入れた美術品が!ありますよね!その目録なり!運送履歴を見せてくれませんか!」
「はぁ。」
と首を傾げているばかりで、老人は何ら反応がない。むしろ起きているのかと、疑いたくなるほどだ。
そのやり取りを見ていた周囲からクスクスと、笑い声が漏れ聞こえる。
これでは埒が明かないと、先程の学芸員を呼びつけては、事の次第を説明する。
すると、学芸員は何やら難しそうな顔を浮かべては、事務所に行って何やら他の事務員と話し込み始める。
そこですかさず、テレスは我慢していた質問を投げかける。
「先生、何で事件と関係ない、美術品の目録や運送履歴が気になるんですか?」
すると、そんな事も分からないのか。君はまだまだだな。と言いたげに、こちらを見下しては、薄ら笑いを浮かべて返答する。
「いやはや、やはりそこから説明する必要があるのかね。困ったものだよ。君の推理力の無さには。まあ、いい。少し時間がある様だし説明しよう。テレス君。君の常識を問おう。君は爆発物というものどんなものか知っているかね?」
「そりゃ、爆発物って言えば、ダイナマイトの火薬に代表されるものから、ニトログリセリンの様な化学薬品などでしょう?そんな事聞いてどうするんですか?」
「いいだろう。しかしそんな爆発物は、普段どうやって管理されていると思うかね?」
周囲を歩きながら話すローレンスは、何かを早く言いたくて仕方のない、うずうずしている子供の様にも見える。
「そりゃ、厳重に管理されていますよ。危ないですからね。」
「そう!危ないのさ!まさに危険な物しかしそんな物がどうして警備が厳重な大使館に、何の警戒もされずに大量に配置できたのかな?」
ニヤリと笑うローレンスの言いたい事をテレスは指を弾いてようやく理解した。
「そうか!つまり、カモフラージュだ!美術品とすり替えて、爆発物を運び込んでいたんだ!美術品なら慎重に扱われるし、中身の確認は、ごく一部の人だけに限るから、その人だけ騙せれば、何とかなる!」
「そういう事。つまりこの爆破事件は実は大使館だけが現場じゃないんだ。爆発物は実はここを経由して大使館に運ばれてきた。そうして犯人達はまんまと、大量の爆発物を運び入れる事に成功したのさ。」
「しかしそうなると、大胆な話ですよね。誰か手引きしてくれる人でも、いない限り無理なんじゃ‥て、もしかして?」
「そうさ、その手引きした人物を当てようと、さっきから探りを入れていたのさ、もしかしてそれも気づいていなかったのか君は?」
その嫌味な言い方には無論腹も立つが、それ以上にローレンスの弁が立つので、ここでの反論はしない事と決め込んだ、テレスは口を真一文字に結んで黙り込む。
「はぁ。全く我ながら大層な若者を助手にしてしまったよ。まぁ、いい。藪を突けば蛇が出るさ。そのうちね。」
しかし、しばらく待っても全く事態が動く気配を見せない。
足を小刻みに揺らしては、次第に表面化して来た苛つきに変わると、ローレンスは痺れを切らして、事務室へと職員の制止を振り切って入って行く。
すると驚いた事に、先客がいた。
次回お楽しみに!
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