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17-13 終わりへの鐘

白い国 17-13 終わりへの鐘


「いや‥それはどうだろう。何をしでかすか分からないのを放置するのは得策とは言えないと思うが。」


「ああ。俺もローレンスに賛成だ。真実の目の噂は聞いているが、あんな胡散臭い組織、信じられない。それに‥って言っているそばから、何か来たな。」


 ジャックが言葉の途中で急いで窓のカーテンを閉めて、扉の横に身を構える。手に銃を持ち、その視線は扉のノブに集中している。外でカツカツと、革靴の靴音がし、その音が丁度宿の前で止まる。


 思わず息を呑んだテレスは、慣れない手つきながらも、胸元に隠した銃を確認する。


 ドアノブが、ゆっくりと動くと、扉が開く。すると扉からは、銀髪の男、見覚えのある姿が現す。


「どうも。皆さんお揃いのようでなにより。」


 軽く会釈したその男こそ、忘れもしない。テレスを獄中生活へと追いやった張本人、一生の天敵、憎きダニエル・ハーディングだった。あの牢獄の苦しみ、まさに塗炭の苦しみ、艱難辛苦であったことを思えば、今でも沸々と怒りと憎しみが湧き上がってくる。


「あっ!!貴方は!あの時の検察官!!」


 思わず声を上げて、指を差すテレス。


「覚えていてくれましたか。光栄ですよ。スチュアート・テレスさん。以前は大変お世話になりましたね。美術館でお会いした時以来ですかね?おお、こちらにいましたか、ローレンスさん。よかった、よかった。これでどうにか目的は果たせそうだ。」


「ハーディング君、お疲れ様。紹介するよ、私の協力者ダニエル・ハーディング、またの名前を、ケニー・アルベルト大佐だ。」


 その紹介にテレスがポカンとしていると、ローレンスが補足説明を加える。


「彼は、ここアルバースで10年近く潜入を続ける、変装名人集団のケニー・アルベルトの中でも、エリート中のエリートだ。」


「ふーん。」


 ちなみにレイは何も理解出来ていない。


「ちょ、ちょっと待ってくださいね。以前何か聞いたな。ケニー・アルベルトは偽名というかコードネームみたいなもので、たくさんいるんでしたよね。」


「そうだ。君のようなスカスカ、カッスカッスの脳内記憶でも、その事は覚えていたのだな。感心、感心。」


 その言葉にムッとしたテレスだが、例によってスルーする。


「まあ、いいです。その仮称ケニー・アルベルトさんハーディングverの方がどうしてここに?何か重要な情報でも持って来てくれたんですか?」


「さすがですね。察しが良い。ローレンスさん。差出人は不明ですが、伝言です。おそらく真実の目からかと。」


 差し出された二つ折りの紙切れをローレンスは受け取ると、その紙切れを開く。


「なるほど、真実の目、グランドロッジの所在地だな。ここは。」


「どうゆう事です?相手からの挑戦状って事ですか?」


 気になって覗き込むテレスに、紙切れを渡すローレンス。しげしげと見つめて見るが、特に変哲のない、紙切れに打刻された住所が書いてあるだけだ。この最後のF.Pの意味がよくわからないが。普通に考えるなら差出人の名前だろうか。


「おそらくそうでしょうね。ここに来るまでに真実の目と思しき集団に尾行されましてね、きっちり届けないと、命はない。と言われましてね。それでここまで届けに来たというわけです。」


「それはご苦労様。ちなみにもう一つの方も見せて貰えるかな?」


 もう一つの紙切れを仕舞おうとしたハーディングの手元を見逃さなかったローレンスは、手を出して要求する。


「ハハ、めざといですね。いいですよ。こっちは単なる脅迫文ですけどね。」


 手渡された紙切れをざっと一瞥すると、ローレンスは「なるほど‥。」と呟くと、顎を触り思案している。


「F.I.Nか‥」


「何か心当たりでも?」


「いや‥ないよ。別にね。単なるまやかしだろう。特に意味はないんだと思うよ。ただ何か引っかかってね。」


「まあ、どちらにせよ、ここにローレンスさんに行って貰わなくては、おそらく私が最初に殺されるんでしょうね。この感じなら。」


「ああ。次は我々だな。」


「おいおい、勝手に民間人を巻き込むな。レイも俺も、まあ、テレスはいいとして、善良な市民を殺すなよ。」


 いやジャックさんのどこが善良な市民なんだろう。むしろ全悪って感じだろうに。そして、何でテレスはいいんですか!私も保護して!


 心で叫ぶテレス。


「ハハ、そうだな。彼らに民間人とそうでないのを区別する良識が有れば、助かるかもな。」


 冗談めかした口調で、答えるローレンスは、全く顔は笑っていない。先程から硬い表情のままだ。


「じゃあこれで。私はもう任務も果たしましたし、予定通り、国外へと逃げますけど、いいですよね?」


「ああ。問題ない。」


 そう言って立ち上がったローレンスは、ハーディングの耳元で呟く。


「もちろん、アルバースの二人ももちろん始末してくれたんだろ?」


 その言葉に、フッと微笑すると、小さく首肯するハーディング。


「なら、問題ない。さっ!別れの時だ。またどこかで会おう!」


 ハーディングの体躯をぐるっと入口の扉へと向けると、背中をポンと押す。


「ええ。では、また。」


 押し出されたハーディングは肩越しで、こちらを一瞥すると片手を上げて、扉を開くと、そのままこちらを向く事はなく、出て行ってしまう。


 両手を腰に当てて見送ったローレンスは、そのまま立ち尽くしている。


「どうしたものか。これでこちらから出向く羽目になったな。ローレンス。正面から堂々と行くつもりか?」


 ジャックが開いた扉をきっちりと閉めると、扉の隙間から流れていた空気が止まる。


「ああ、そのつもりさ。因縁を断ち切りにね。」


「なら、私達も行きますよ!!」


 威勢よく言うレイに、本音ではついて行きたくないテレスが、存在感を小さくさせる。


「ありがとう。その気持ちは受け取っておくよ。しかし、今回は任せて欲しい。」


 その言葉に内心ホッとするテレス。しかしここで彼を小心者と責めるのはお門違いだ。テレスは元軍人でもなく、武術のエキスパートでもなく、唯の学生助手なのだから。彼を責めるの可哀想でもある。


「いやぁ、先生。名誉ある英断ですよ。いやぁ、尊敬します。先生。先生の事は一生忘れません。」


 涙ぐむふりをして腕で顔を擦るテレス。三文芝居と言われるだろうが、このくらいで丁度いいのだ。どうせローレンスには通用しないのだから、見透かされるぐらいが丁度いい。


「何を言っているんだい?君は来るんだよ。テレス君。」


「はっ?いやいや、また冗談上手いなぁ。だって任せて欲しいって‥。」


「いやだから、我々レンブランド人二人に任せて欲しいって言ったんだよ。彼らはアルバース人、我々の国の問題にこれ以上首を突っ込ませるわけには行かない。わかるだろ?それに前に言っただろう。君はいざとなったら私の盾となり、橋となり、道となり、床面になることを固く誓っていたじゃないか。」


 真剣(マジ)な顔で何言っているんだ。こいつ。最後のほう、ほぼ踏まれてしかいねぇじゃねぇか。踏みつけること前提じゃねぇか!が正直な感想である。


「あ‥あの、先生。正直今先生の言った言葉が衝撃すぎて耳に入りませんでした。でもパワハラですよね。これって凄い言葉の暴力ですよね。アワワ。あ、今から船のチケット取るので、先に帰国していいですか?」


「ダメ。」


 満面の笑みを浮かべての、その一言で一刀両断されたテレスは、その首元をぐいっと掴まれる。


「さあ、行こう。すぐ行こう。敵は待っている。いざ行かん!レンブランドの為に!」


 意気揚々とローレンスは、テレスを引っ張ると、玄関を出ていく。


「お、おい!本当にいいのか?俺達の助けなしで?」


 ジャックが玄関を飛び出て二人の背中に声をかける。


「ああ、大丈夫。おそらく目的は私だ。だから危害は加えないよ。テレス君は‥念のためだ。持っていく。」


 その返答に苦笑したジャックは、頭を抱えた。




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