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17-9 終わりへの鐘


白い国 17-9 終わりへの鐘


 アルバース首相官邸前には、寝ぼけ目のファイブスは小型四輪駆動車に乗ってチャールズの動向を窺っていた。


 作戦内容としては、時計塔に向かうチャールズ首相を追尾し、アルカヌムカンパニュラと、サンクトゥスコロナの両方を奪取するタイミングを伝達する事。この奪取作戦の行程の中では、ファイブスの役割は大きくはないが、小さくもない。と言ったところだろうか。最悪居なくても成り立つレベルなので、大きいとは言えないだろう。


 肝心の奪取作戦を実行する役目はドックと、ドクターの両名が担う事となり、あぶれた二人は見張り番のような役割を拝命したわけである。


 それ故に著しくモチベーションを落としたファイブスは腑抜けた顔で、ハンドルを枕にうとうととしている始末。その横では、あいも変わらずベーコン、ピクルス、トマト、レタスに肉汁溢れるパティをバンズで挟んだ、特製スペシャルベーコンサンドを頬張るステラ。


「ふ(う)まい!ふ(う)まい!」


と、片手で1個ずつ計二個を交互に同時食いするステラは、途中で、オレンジジュースを挟んで水分を補給する。ちなみにまだ、あと二つ残っている。無論完食する予定である。横にいるファイブスに一個あげようかなぁ。とか思ったりもしたが、やはりお腹が空いては、戦はできぬ。という事で、自ら完食する事を心に固く決めているステラであった。


「ふぁぁあ。あー眠い。作戦を徹夜で考えたのに、却下された挙句に、お嬢様のおもりとか最悪だ。うわーこれはもう、出世レースから外された感じだなぁ。これってやっぱり期待値ゼロだもんなぁ。掛け値無しで、戦力外だもんな。転職活動しようかな‥。」


 気怠そうにぼやくファイブスは、横目で、ステラを見る。すると、意外にも食い意地だけは張っているが、視線は常に首相官邸の通用門を凝視している。一応仕事だけは真面目にやる気はあるらしい。


 口に頬張りながら話すステラは口元を押さえては、一応のマナーを守ろうという気持ちも多少なりともあるらしい。らしい。らしい。の気持ちはそんなぞんざいな感じだ。


「そんな落ち込んでいてもしょうがないです!出世は諦めても、目の前の仕事は諦めたらダメです!ほら、よく言うじゃないですか!目の前の肉を食わずして、死ねるか!焼きならレアで、蒸すならウェルダンって!」


「いや、なんの名言だよ!完全に自作の迷言だろ!肉の調理方法なんて知らねぇよ!」


「ほほう?ファイブス君は、料理の見聞なし!っとメモメモ!」


「いいよ!余計な事メモしなくて!てか、何でそんな意欲高いんだよ。そっちの方が不思議だよ。」


「え?仕事はきっちり、経費で食べた分は仕事しないと。と思って。」


 何食わぬ顔で、経費の無駄遣いを告白したが、もはやそれすらもファイブスにとってはどうでもいい。


「はぁ。まあいいや。とりあえず動きがあったら言ってくれる?自分は少し寝る‥」


 ガクっと頭が下がると、微かに寝息をたて始めるファイブス。


「おやおや、寝落ちまでが早いですね。寝る子は育つ。って言いますからね。あれ?でもあれって成長期の青少年だけでしたっけ?大人も成長するんでしょうか?でも大人になっても身長が伸び続けてしまったら巨大人間になってしまいますね。ギネスに載ってしまいます。あれ?でも人間っていつ成長って止まるんですかね?身長は止まっても人間的な成長はいつまでもする。みたいな哲学的な言葉もありますし、ああ。あんまり考えると、ああ、糖分が不足してきたあああああ。」


 「ああああああああああ」とバグが発生した機械のように、奇声を上げ続けるステラ。


「おい!寝られないだろうが!それとも嫌がらせか!」


「はい、嫌がらせです。一人で寝るのはよくないです!不平等です!不平等条約です!条約改正運動です!」


「ならどうしろって言うんだよ。」


「交互に寝るか、一緒に‥寝る?」


 何故か含羞を含んだ顔で、「一緒に」を強調するステラ。一種の嬌態(きょうたい)を見せるのは冗談でもやめてほしい。逆セクハラで訴えるぞ。いや普通にセクハラか?


「いや、一緒に寝るは一番意味ないだろ!間を取って‥いや、普通に交互に寝るでいいな?だからとりあえず自分が寝る番で、5時間後くらいに起こしてくれれば、いいよ。その後5時間寝かせてやる。いや、好きなだけ寝かせてやる。なんなら永眠も可だ。」


「ええ!5時間後ってもう、任務終わっていますよ!まあ、いっか。」


 何故か不平等条約改正を目論んだはずが、結果そのまま引き下がる結果となったのは何故だろう。結論から言えばさっきの状況と変わっていない。彼女は損得勘定が恐ろしくザルなのかもしれない。


「ふ(う)ーまい!ふ(う)ーまい!」


に微妙に変化した独り言にもめげずにハンドルに顔を伏せたファイブスは、微睡む意識の中で、

ずっと「ふーまい‥ふーまい。ふーまい。」という謎の言葉へと変化した単語がエンドレスリピートされていた。


 しばらくうとうとしていると、ファイブスの体躯を揺する者がいる。というか、無論ステラだ。


「あのぉ!起きてください!!車!出発していますよ!」


 寝ぼけた意識で、前を向くと、通用門から車両が3台出て行く。それは間違いなく首相の乗る車両だった。


「うわ!まずい!まずい!えっと、えっと、エンジンつけて、サイドブレーキおろして、ギア入れて、ヨシ!行くか!」


「レッツゴー!!」


 無駄にテンションが高いステラを横に、追尾を始める二人。


「えっと、ドックさんと、ドクターは、もう時計塔にいるんですよね?」


「え?ああ。今日一日、二人は秘宝の動きを逐一チェックしているからな。無線で連絡をとったら、どうやらアルカヌカンパニュラと、サンクトゥスコロナの両方は、時計塔に既に運び入れられているらしい。マークしていた二人からの情報だからまず間違いないな。それで、後は満を辞して首相が時計塔に乗り込めば、儀式が始まるらしい。つっても儀式の内容は不明だから密かに乗り込んで様子を窺うらしいけど。まっ、中の事は二人に任せるとして、自分達は、首相が時計塔に無事入るかをマークして、後は二人の逃走を補助すれば、今日の仕事は終わり!無事、奪取できれば、ここアルバースでの任務ともおさらば!ってわけさ。」


「んーん。なかなか楽しい任務でしたけどね。終わると思うと名残惜しい気もしますね。」


「え?そうか?ステラさんは、あんまり任務こなした事ないからそうかもしれないけど、自分としたら、また一つの任務終わったな。くらいで、何も特別な感情はないなぁ。」


「ファイブス君は薄情ですね。」


 薄目で睨むステラに、気まずいファイブスは愛想笑いを浮かべて話題を変える。


「あ!そうだ、この任務が終わると、ステラさんは、アルバースでの大使館勤務も終わるわけですかね?」


「いや、どうでしょう?大使館の任期って一年単位ですから、もう少し残るんじゃないかと。はーぁあ。また、あのつまらない内勤生活に逆戻りかぁ。」


「まあ、いいじゃないですか。平和が一番ですよ。レンブランドと、アルバースみたいに戦争状態に近いのが続くんじゃ気も休まらないですからね。」


 他愛のない話をしながら、前方二車両先の、首相の車を追尾するファイブス。


 無論自分達が尾行されていないかフロントミラーでも確認する。


「もうすぐ、トリノヴァントゥム橋ですね。無線の用意して貰っていいですか?」


 丁度食べ終えたステラは、指についたソースを口にしつつ、グローブボックスに入れられた通信機をオンにする。


「よし!問題ないですよ!なんて打電します?」


「ターゲット現着でいいですよ。」


「えー。もっとオシャレにいきましょうよ。星降る夜の雲は、君色に染まる。とか!」


「いや‥全然意味分かんなくて相手が困惑しますから絶対やめましょう。普通でいいですよ。普通で。暗号通信じゃないから短く、要点だけ伝えるんです。バレバレの通信チャンネルなんですから。」


「はぁーい。」


 不満を隠さないステラは、器用に通信機を使い、打電していく。


「ヨシ。これでOKっと。で?私達はどこに待機ですか?」


「このままトリノヴァントゥム橋を渡った後、時計塔が見えるところで、待機です。時期を見て二人をフォローしに行きましょう。それまでは、また待機。って言っているこっちが嫌になる‥。」


 深い溜息をつくファイブスは、時計塔の下にある駐車場に3台の車両が停まるのを横目で確認すると、そのまま素通りして、川沿いの工業地帯に車を進める。


 時計塔の時計が見える絶好の位置にポジション取りすると、車を道の脇に寄せて停めると、車から降りて、双眼鏡を持ち出す。


「ねぇ!今度は私が休む番だよね?」


「え?ああ。どうぞご勝手に!」


 車の窓から身を乗り出すステラの言葉を軽くあしらうと、ファイブスは、双眼鏡で、時計塔頂上付近にしきりに目を凝らす。


 まだ、チャールズが入ったばかりの時計塔は何も変化はない。


 

 


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