16-18 思い出の足跡
白い国 16-18 思い出の足跡
工場から飛び出たステラは、飛び交う銃弾を避けつつ、三人の下へと向かった。
激しい銃撃戦はもう、行われていないが、散発的に銃弾が飛び交いお互いの睨み合い、様子見が続いている局面のようだった。
そこに滑り込むようにステラが合流すると、開口一番に、言い放つ。
「工場!爆発します!一旦距離を!」
三人にはそれだけ、その言葉だけで十分だった。車両の陰に隠れながらの銃撃戦だったが、ステラの一言で、工場から距離を取る為に四人は移動する。
その間僅か十数秒。素早い状況理解と、的確な状況判断。そして危機管理の高さが窺える。
工場とは少し距離があり、向かい合う形に位置する倉庫の陰に隠れると、相手の銃撃も一旦収まる。
「どうゆう事だ?爆発?爆薬はまだ仕掛けてないだろ?それとも先行して爆破するつもりなのか?」
近寄ってきたステラに、事情を尋ねるドックは、その間にも弾丸の装填をするなど、ぬかりはない。
「いいや、どうも第三極の相手がいたらしくてぇ、その人達の置き土産ですよ。まったく余計な事をしてくれますよね。第三の道といってもいいですね。止揚ですね。アウフヘーベンですね。」
はあ、面倒。と肩をすくめるステラ。途中から意味のない言葉の羅列のようで、実は繋がっているというエスプリを見せる余裕はまだまだあるようだ。
「おい!そいつらまさか、逃したんじゃないだろうな!?正体不明のやつなら、拘束するとかして尋問する必要があるだろうに!」
ファイブスが敵を窺いつつ、首をこちらに向ける。
「えーっ。そんな事言われても、敵は3人もいたんですよ!それに民間人の民家人だって言っていたんで、どうせ調べればすぐに出てきますよ!あっ、あと、善良なタイプの民間人とも言っていたなぁ。」
いや、民間人の民家人ってなんだよっ!そもそも民間人の範囲にどれだけの人が該当するか分かってんのか?それに善良なタイプの民間人って、どんなやつだよ。ゴミ拾いとか頻繁にするタイプとかか?と小言を呟くが、ステラには聞こえていない。
「まあ、いいでしょう。後でそちらと調査するとして、国家ぐるみで武器の製造、密輸している証拠は手に入れましたか?」
「あっ!それはもちろん!丁度良いタイミングで、そいつらが帳簿とか持っていたみたいで、サクッと盗んでおきましたよ!ほら!」
どこから取り出したのか、分からないが、突如手品のように書類の束が出てくると、それをドックに手渡すステラ。
「どうですか?アルバースが国家ぐるみでやっている証拠ありましたか?」
ドックが、そのちょっとしたサプライズにも眉一つ動かす事なく、懐中電灯を片手に書類をペラペラと捲るところに、ギュッと顔を寄せて書類を覗き込むステラ。
「んーん。なるほど。SIAですか。アルバース秘密諜報局の人間が資金の送金やら、生産管理をしていたみたいですね。顧客は大小様々、そのバックグラウンドまで多様ですね。テロ組織から、宗教団体、もちろん国家から、犯罪集団まで、幅広く売っている。なかなか悪どい商売ですよ。違法な入国者とかの労働力を使って安く生産しては、廉価な商品として売り捌く。その利益はSIAの活動資金、もしくは、トップの人間の懐に入っていった訳ですか。」
「おっ!それなら、この情報を公開すれば、一気に政権転覆も可能ですね!その混乱に乗じて、アルカヌムカンパニュラを奪取しようって魂胆なんですかね?あのキャプテンさんは。」
「どうですかね。キャプテンの胸三寸は予想できませんからね。何を考えてこの任務を命令したのか、私にもまだ計りかねるところがありますからね。まっ、どうちらにせよ、有力な外交手段を手に入れた。という事ですよ。」
「有効な外交手段といえば、なんですが、最終的解決方法である、武力行使の締めにまだ使い切っていない、手榴弾をありったけ投げるってのはいかがですか?」
手元に持った手榴弾をまるでピエロのジャグリングのように華麗に扱うドクターは、先程の銃撃戦の中でも、汗一つかいておらず、いたって涼しい顔で微笑を浮かべている。
「まあ、なんでもいいですよ。ただし、爆発があるので、それまでは様子見で‥」
ドンッ!!!!!
ドックの言葉を遮るように地響きと、爆発音が周囲を襲う。頭を下げて飛来する建物の破片に注意しつつ、あたりを見回す。
ステラが先程までいた工場の屋根が傾き、白い煙を吐いて崩壊寸前の状態になっている。
「あっと‥あれですね。随分と中途半端な崩壊の仕方ですね‥」
「んーん。これは失敗したっぽいですね。何せ頼りなさそうな。ドジっ子そうな人が爆弾仕掛けたって言っていましたからね。大方爆弾の設置場所を間違えたんでしょうね。どうします?中途半端に残すのもアレだから、いっそのことドクターさんが持っている手榴弾とか投げて壊してみますか?」
ステラが、ドクターの持つ手榴弾を受け取ると、肩を回して、投擲の準備をする。
「あ!それなら自分にやらせてくださいよ!実は肩には自信があるんですよね。ベースボールの試合であまりの強肩振りで名がしれていたくらいです。」
意気揚々と、負けじと肩を回しては、首を左右に捻って準備するファイブス。




