16-13 思い出の足跡
白い国 16-13 思い出の足跡
急加速するトラックは、包囲網まで、一直線に、辿り着くと、急ハンドルをきって、横付けすると、トラックを遮蔽物として、銃撃戦を展開し始める。
機先を制する形となった上に、屋根の上からの狙撃。という援護もあり、序盤戦はかなり優位な展開と言えよう。
トラックの荷台から飛び降りた、二人は、自動小銃で敵を順調に殲滅していく。ドックも、銃弾の飛び交う中を素早い身のこなしで、トラックの陰に隠れると、荷台に載せてあった、自動小銃を手に取る。
撃ち合いに必死なファイブスが、敵の銃撃を避けるためにトラックの陰に隠れていると、休憩がてらに近くにいたドックに小言を言う。
「あの、こんな事言いたかないんですが、忌憚のない意見として受け入れてくださいね。トラックを突っ込ませたのは、失策だと思います。これじゃ、敵が近すぎて、荷台に載っけた武器弾薬が取りづらいです!」
弾薬を取るたびに、敵の銃撃に身を竦めるようにするファイブスは割と本気で、上官相手でも語気を強める。
「ああ、それは今気づいた。申し訳ないな。しかし、そのおかげで、相手は、こちらに集中的に、銃撃してきているお陰で、狙撃にも気づかずに、ステラは順調に数を減らしてくれている。直に相手の方が後退するだろう。」
その読みは当たっていた。スナイパーとしての腕は本物のステラの狙撃は順調そのもので、姿を晒した相手は、皆、倒れていく。
「さあ、何人倒せるかな。これって何人倒せば勲章とか貰えるんだっけ?ちゃんと人数数えておかないとな。後で申請する時に困るんだよね。よし、今ので、10人目。目標は20人は行きたいよね。」
そんな暗視スコープを覗きながら、粛々と射撃と装填を繰り返すステラが、こんな独り言を呟いているとは、ついぞ知らない三人は、反撃が少なくなってきた頃合いを見て、工場へと足を向けようかと思案していた。
そうやって交戦状態の村だったが、そのおかげで、命拾いした男がいる。
ジャックだ。
ここでしばし時間を巻き戻す。ジャックが、工場に忍び込んだ、その時からだ。
忍び足で、工場まで走り、その周囲を窺う。
しかし、周囲には人の気配を感じない。不自然なほどに静かで、昼間との差から寥々とした感じさえした。
工場の中を窺っても、中には明かり一つ、ついていないし、静まり返った金属の機械達が眠りこけている。
工場の通用口の鍵をやや、乱暴ながらも、銃で撃ち壊す。金属の弾ける音、僅かな金属同士がぶつかり合って火花が飛ぶ。それは静穏な世界に響く異物であったが、どうやら敵は気付いていないらしい。
工場内に侵入すると、まずは、重油の保管場所へと向かう。いくらなんでもこの装備の火力では、機械全てを破壊するには火力が足りな過ぎる。故にこの機械を動かす燃料に頼ろう。という算段なのだ。
銃を胸元近くで構えつつも、変わらぬ忍び足で、工場の隅へと足を運ぶ。工場の隅、機械が工場中央に鎮座しているのに対し、燃料である重油は、通用口から見て右手の手前に纏めて置いてある。
おそらく、ここが、搬入口からの導線で、最も近くかつ邪魔にならない、そんな最適な置き場所なのだろう。
深緑色の円筒形のドラム缶に、満載された重油は、最近入れ替えられたばかりらしく、その重量はなかなかのものである。
上手く配置して、射撃の衝撃で、誘爆させようかと考えていたジャックとしては、なかなか悩みどころだ。
ではどうしようかと、思案していると、何やら外が騒がしい。
一瞬にして、外から眩しい光源が現れる。そして、窓から工場内へと強い光が差し込む。
その眩しさに、両腕で、光源を遮るものの、ほんの刹那目が眩んだが、目を閉じて、徐々に慣らしていけば、問題はない。
むしろ大きな問題は外にあった。
拡声器で伝聞される、その文言に耳を傾けたが、およそ聞き入れられるような内容ではない。
このままおめおめと、出て行って蜂の巣になるくらいなら、このまま爆破と共に身を投げうった方が毛程かマシだ。
それでも、一応外の様子を窺うべきかと、考えた、ジャックは、敵のいる搬入口側の窓にそっと背をつけて、外を盗み見る。
重武装の敵が、50名以上取り囲んでいる。昼間見た時よりも遥かに多いその数も去ることながら、その装備が、そもそも工場を破壊するには事欠かないラインナップだ。
万事休す。とはこの事か。とジャックは思ったが、事態の深刻さの割には、思いの外冷静に今の状況を分析出来ている自分がいる。
テレス達にも言ったが、いざとなれば、逃げの一択しかないのだから、元々この武装レベルの相手に、一矢報いてやろうなんて、反骨精神は持ち合わせていない。
淡々と、飄々と、相手に柔軟に合わせて、作戦を変更していく。それがジャックの長年の経験から出せる最適解なのだから。作戦目標が決まれば後は行動に移すだけ。搬入口側の壁から離れると、準備を始める。
忙しなく工場内で一人準備をしていると、二度目の警告をし始めた、外の敵が、急に慌ただしくなってきた。というよりも、もう既に銃撃戦が始まっていた。激しい爆発音と、おそらくロケットランチャーか何かの砲弾が着弾したような破裂音が交互に押し寄せる。




